老演出家 の 苦悩

 舞台は、多くのスタッフとキャストが揃ってこそ、成り立つ商売です。少人数で何もかも担当するのは、大変でしょう。最近でも、脚本・演出・作詞・作曲・振付・構成・主演を、一人が兼ねていた作品に出会いましたが、やはりボロボロです。「スーパーマン」は多くない、と言うことでしょう。

人一倍の「勘と経験」

スタッフにもキャストにも、「勘と経験」の豊富さが求められます。学生芝居なら仕方がありませんが、商業劇となれば別です。専業か兼業かはともかく、プロフェッショナルである必要があります。なかでも演出家は、作品のイメージ全体を決めかねないので、その能力の高さが要求されます。もちろん、人一倍に「勘と経験」が豊富であり、かつ他のメンバーに信頼感を与える必要があります。

とある老演出家の話。昔は、脚本や振付も手がけていたけど、もう限界。歳を取るほどに、観客との精神的な距離が拡がってしまう、と。キャストに対しても同様で、手慣れた手法では、通用しないと感じる機会が多いそうです。脚本も、振付も、音楽も、若いスタッフに任せた方が、佳い結果を生むとも言っていました。演出だけは「勘と経験」が必要だから、手放せないとか。

馴染み客からは「マンネリ」と言われ、一見の客からは「時代遅れ」と言われる。馴染み客で座席は埋まっても、キャストが揃わなくなるそうです。別の演出家から、「演出を含めて全部を若手に任せたら、馴染み客にも好評で驚いた」という話も聞きました。もちろん監修者として手綱は握ったそうですが。。。よい冒険をしたものだと思います。

演出家の引退、劇団の解散?

若い演出家も、結構あります。学生芝居をやっていて、そのままプロに成った人も多くあります。しかし、余程のユニークな才能を無しには、その成功を聞きません。一本や二本のヒットを出しても、それで終いという例が多いです。何よりも、よほど有名にならないと、演出だけで喰えない問題もあります。ベテラン演出家の補佐などをして、有名な作品にも関係して、独り立ちする演出家が多いようです。

しかし、後進の演出家が育つのは、中堅・大手での話です。小劇場系では、演出家が劇団代表を兼ねるケースも多く、演出家が一人で全部仕切りがちです。結果として、自分に代われる人材を得がたく、演出家を引退できないという問題もあるようです。小劇場系では、演出家のカラーが人気の源泉であったりしますので、外部から演出家を呼んでくるのも大変です。「演出家の引退 = 劇団の解散」という危険があります。

このところ、二十年以上も活動を続けてきた劇団が、相次いで解散しています。客入りの減少が表向きですが、演出家の限界が理由と見られます。脚本家を兼ねていた人もありましたが、実質的に演出に徹したケースでも無理だったようです。以前にも、演出家の病死と同時に解散に至った劇団がありましたが、近頃ちょっと、傾向が違うようです。

 こうした悲劇を避ける努力をされる劇団もあります。まだ演出家が若いうちに、才能のある別のスタッフやキャストに、演出をさせることがあります。見様見真似でも佳い作品を作ることがあり、後進を育てています。
 早いウチからの世代交代、スムーズな継承、新しいカラーへの挑戦。それが老いた演出家の苦悩を軽くし、劇団の未来を明るくする手がかりでしょう。