欧米では、「投資家が演劇作品に出資する」制度があると、何度か触れました。通称バッカス・システムと呼ばれますが、今回整理してみます。
酒と豊穣の神・バッカス
バッカーともバッカーズとも呼ばれますが、英語名Bacchusに近いのはバッカスでしょう。ギリシャ神話に登場する神様の名前ですが、ディオニュソスという別名の方が知名度がありますでしょうか。古代マケドニアで信仰された「狂乱の神」から、ヘレニズム文化では「酒と豊穣を司る神」に位置づけられたそうです。その根拠は、人々にブドウの栽培を教えたからだと云われます。
ギリシャ演劇は、現代演劇の源流の一つです。その発祥は、ディオニュソスに捧げる神への祈りにあり、熱狂的なダンスを交えた躍動的な演劇であったそうです。ひいては、ミュージカルの原形ということでしょうか。それに因んで、バッカス・システムと呼ばれるようです。
バッカス・システムとは
欧米において演劇に対する寄付は、文化事業支援ということで、減税または免税を受けることができます。したがって、富豪が演劇に出資する制度は古くからありました。いわゆるメセナ活動というもので、日本のスポンサーが企業名を冠して行うメセナ公演とは異質のものです。
これとは別に、演劇に対する投資という思想があります。リスクに見合うリターンが得られる対象には、とくに米国では何でも投資のネタになります。一人で投資することもありますが、リスク分散の意味合いから複数で投資することが多いです。あるいは投資組合(エンジェル)を造るケースもあります。
バッカス・システムとは、アイデアを持ったプロデューサーが企画書を作成し、個人や投資組合に送付したり説明会を開いたりし、出資を募る制度です。投資家の側から作品を公募するケースもあり、高名な投資家には毎日多くの売り込みがあるそうです。発祥は、ブロードウェイが冷え込み始めた第一次世界大戦後であったと聞いています。
日本でも導入を!
日本では、企業が宣伝のために出資するケースが多く、純粋に作品で利益を出すという発想に欠けるようです。その理由に、出資者が作品の善し悪しを評価できないこと。また観客も海外の名作を好み、国産作品の善し悪しを評価できないからだとも云われます。これに加え、一定の利潤を論理的に説明できるプロデューサーが不在であることも理由でしょう。
また税制の問題があります。演劇作品への寄付行為について税制上の優遇を整備するのは当然として、出資に見合う配当がない(つまり赤字)であった場合に、他の利益と相殺できる総合課税の導入が必要でしょう。これに加え、文化事業支援の観点から、利益に対する課税面での優遇も必要です。
公益法人などが助成金をバラまくのも結構ですが、基本的には多くの投資家を呼び込む環境が好ましいです。演劇素人が助成金先の審査をするには限界がありますし、助成金の正しい使い方でも無いと思われます。日本でもバッカス・システムが導入されることを望みます。
とはいえ、収支トントンか赤字の公演が多いのも事実です。どんどん黒字を稼ぐにはロングラン公演が打てることも重要です。以前に書いた、ロングラン=システムの導入も合わせて実現すべきでしょう。
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