伝記ものミュージカル

またも勝手なネーミングです。2000年の後半は、実在の人物をテーマにした作品を、たくさん観たような気がします。見回してみると、伝記ものは増えているようですよね。

ミュージカルは、理解を助ける

伝記小説とか記録映画とか、いろいろ実在人物を紹介する手段があります。しかし、実在人物の実話というのは、得てして単調で詰まらないモノです。何らかの業績を残した人物にスポットを当てるわけですが、伝記となれば生い立ちや晩年も書くわけです。実話通りに書こうとすると、難しいですね。

ミュージカルは娯楽性が高いのが特徴です。シリアスなテーマであっても、ダンスやソングで上手にアクセントを付ければ、あまり無理をしないで理解できます。登場人物に感情移入できれば、その人物をもっと知りたいと思うわけで、興味を持てばその人の伝記小説でも読んでみようかと考えますよね。あまり有名でない人物の伝記でも読む気にさせる魅力が、ミュージカルにあります。

ミュージカルが、作りやすい

たぶん・・だと断っておきます。実在人物を取り上げる作品は、作りやすいのだと思います。オリジナルミュージカルでは、その背景を組み立てるのが難しいです。どういう流れで、どういうシナリオにするのか。フィクションがフィクションであるほどに、背景の構築には苦労しますし、後々修正を加えるのも難しいです。何よりエピソードも作りにくいです。

その点、伝記であれば、その人の生涯は分かっているので、数々のエピソードも揃っています。素材は多すぎるほどあるわけで、それに解釈を加えつつ取捨選択するとストーリーができあがります。実話に基づくため、突飛な展開には成りませんし、考証・考察も比較的易しいと思います。

また主役のイメージがあって、そのイメージに合う人物を主人公に据えれば良いという理由もあるでしょう。ストーリーが先にあってしまうと、それに合う主人公を見つけてくるのは・・難しいですね。劇団の看板俳優があれば、その俳優を主人公の型に押し込むよりも、俳優のイメージに合う主人公を持ってくるのが簡単です。

でも、フィクションなのです

これは芝居の宿命ですが、やはりフィクションなのです。小説であれば、誌面さえ割くことで、ノン・フィクションに近づけることができます。記録映画なら、人物像をそのまま伝えることができます。しかし、芝居で見せるには制約が大きすぎます。いくつかのシーンをピックアップし、それにメリハリを付け、それなりに話を膨らませる必要があります。

さらにミュージカルでは、それが娯楽性を有する必要もあって、デフォルメも必要ですし、架空のエピソードを加えるなどもしないとバランスが悪くなります。ダンスやソングはイメージを優先しますから、やはり現実とは違えざるを得ません。結果として、フィクション性が高くなります。また、主人公をある程度ですが・・美化することにも成ります。面白くて感動できる作品であるほどに、実話との乖離が大きくなるでしょう。

有名人を主人公に据えていると、それを客寄せに使う好材料になるメリットもあります。あの有名な○○を取り上げた作品、と宣伝を打つわけですね。でも、裏切られることも多いので、ほどほどにして欲しいと思います。とくに歴史上の有名人物について、脚本家や演出家の自己解釈を押しつけられると、非常に苦痛です。

可能であるのなら、やはり国内で無名な人物にスポットを当てつつ、その人物の良さを知らせ、その存在を讃え、なおかつ訴えかける何かが観客に伝わると良いと思います。