音楽座が解散してから、「音楽座を上演する会」としてリメーク作品を上演し続けた、ヒューマンデザイン。「音楽座ミュージカル」と名を変えて、5年ぶりの新作を発表し、いつの間にか「音楽座」に看板を掛け戻しました。一応、復活なのです。
浅田次郎作品
浅田次郎作品といえば、「鉄道員(ぽっぽや)」を手始めに、「日輪の遺産」「地下鉄に乗って」「プリズンホテル」「きんぴか」「極道放浪記」「初等ヤクザの犯罪教室」「活動写真の女」などがあります。作品群は、人気の高い情緒系と、ヤクザ・コメディ系に大別できると思います。同じ作家かと疑いたくなるほどに、全く異なるカラーです。
ポン太は、これらの作品群を3年前に読み尽くしました(ポン太の小説コラム「今週のこの小説第9回」を参照)。中でもお気に入りは、「日輪の遺産」。次いで「地下鉄に乗って」「鉄道員」「極道放浪記」と成ります。
鉄道員は、ご存じのように高倉健、広末涼子の好演で大ヒットした映画作品でもあります。近頃は、藤田まこと主演で舞台芝居化もされました。しかし、浅田作品のミュージカル化は難しいと感じていました。とくに「地下鉄に乗って」は・・。
どんなストーリーか。
かなり良い出来でしたので、これから観に行かれる方が増えるでしょう。したがって、ネタを開かすのは、ほどほど遠慮しましょう。
戦後の闇市からのし上がり、世界に一大コンチェルンを築き上げた立志伝中の人物を描きます。彼は傲慢で独裁的な父親として家族に君臨していましたが、長男を鉄道事故で失い、次男は母親を連れて飛び出し、頼りない三男を手元に残しています。しかし、ついにフィクサーとしての政商疑惑が明るみに出て、生死を彷徨う重態に・・。
次男坊は、20数年ぶりの同窓会の帰り、長兄が鉄道事故で亡くなった当日にタイムスリップした。ただメトロの出口を出ただけなのに、東京オリンピックで沸く時代に現れてしまう。そこで長兄を発見し、自宅まで送り届け、お抱え運転手に保護を頼んだ。元の世界に戻っても、長兄は事故死していたが、次男坊らしき人物を運転手が憶えていた。夢ではなく、現実。
そして、再びタイムスリップ。愛人である会社の女性と、共に。そこには闇市で幅を利かす男に出会う。アムールと呼ばれる彼は、実は・・。また愛人として親近感を持ってきた彼女は・・。
音楽座の成功
偏見を交えますが、戦後の混乱期をミュージカル化するのは、かなり難しいです。何作品かを見比べてみても、どうしてもダンスが浮いてしまいますし、歌も嘆き節か夢語りになり、ストレートプレイ向きに仕上がってしまいます。音楽座は、むしろそういうシーンに、派手なダンスナンバーを押し込んで、シリアスなシーンとのコントラストを付けています。コーラスナンバーは、やはり沈んでいますが・・。
また原作では、次男坊は少し狂気の混じった人物として書かれます。傲岸な父に、優しい兄を奪われたというトラウマ・・。そしてよりアク強く書かれるアムールとのやりとり・・。こうした要素をすっきり描き、いささか強引でもすんなり過去と未来を繋いでみせる演出が映え、何よりも客演俳優達の熱意が伝わってくる素晴らしい作品でした。
これで音楽座、完全復活と成りますでしょうか。ただ惜しまれることは、解散前以来の音楽座プロパーは脇を固め、客演がメインを占めたことです。今後は劇団公演でなく、プロデュース公演で行くそうですが、それだけに公演サイクルが長くなるのは避けられず・・。
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