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経済の研究No.184 |
経済成長率の指標を棄てる |
日本の産業は発達していますが、日本の経済は成長していないと感じませんか? 日本の経済成長率を示す指標に、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)、国民所得(GNI)などがあります。これらの指標がどういう基準で算定され、相互にどういう関係にあるかは専門書を参照してください。今回は、経済成長率をテーマに取り上げたいと思います。
■ 経済成長の幻想
「日本経済は、恒に成長し続けなくてはならない」という強迫観念を、我々は持っているようです。戦後復興・高度成長・バブルなど、インフレを伴う著しい経済成長の時代を受け、このデフレ懸念の時代にさえ、この考え方が支配的です。しかし、物価が安定し、豊かでなくとも国民が等しく幸福を得られるのであれば、敢えて経済成長を続ける必要は無いのではないでしょうか? 経済が成長すると、さまざまな社会弊害も働くからです。
また、大きな誤解があると思われることは、GNPやGDPあるいはNIが成長することが、実質的に経済の成長に繋がっていないという、経済成長の幻想があります。これら指標群は、あくまで金銭ベースの数字でしかなく、その数字が水膨れしているだけでは、経済は進化でなく退化しているのであって、また停滞や衰退へ向かっているかも知れないのです。数字の規模ではなく、数字の中身が大事であるという認識が、おそらく我々には欠けていたのだと思います(実質値を求めるために、デフレーターという思想があります)。
最近、GNPの算定方法がおかしいという指摘が、国内外からありました。国際経済の比較指標ともなるGNPが、日本ローカルな算出方法を採用しているために、使えないという話でした。不透明な算定基準、時代に合わなくなった尺度、暗に働く政治的要因・・今後はGNPの算定方法も改善されていくのでしょうか。GNPほかの経済成長の指標は、政治家や官僚の成績指標でもあります。経済指標がマイナスとなれば、政治家や官僚の成績評価もマイナスに成ります。政治家や官僚が、経済指標の変動に一喜一憂する気持ちも分からないでもありませんが・・。
■ 政治判断のミスマッチ
バブル崩壊以降の日本政府は、経済の落ち込みを取り繕うのに必死でありました。そもそもバブルが異常であっただけで、その揺り戻しがあってしかるべきところを、公共事業の急拡大などで下支えに躍起であったようです。バブル期に大膨張した土建人口は、バブル崩壊によって減少するのが市場原理ですが、不思議なことにバブル崩壊後も増加を続けています。公共事業に対する公金バラマキで不況脱出を図ろうとしたのでしょうが、構造的な不況には全く意味のない金を使ってしまったものです。
そもそもバブル崩壊後に、経済実態に見合う規模まで土建事業が縮小し、そこに従事する人間を別産業で吸収したなら、現在の大手ゼネコン以下の建設不況が今頃顕在化したりしていません。このソフトウェア産業主流の時代に、未だハードウェア産業が多数の余剰人口を抱えているのは、政治的判断の誤認以外に原因を見いだせません。バブル崩壊直後に土建業界の整理が進んでいれば、かなりの労働人口を成長産業であったIT事業に振り向けられたでしょう。
こうした余波は、金融業界にも及んでいます。土建業界の負債を早期に整理してあれば、その資金や人材を他業種に振り向けることができたでしょうし、今のように体力が失われた中で、さらなる土建事業整理の負担を強いられることもなかったでしょう。これもまた政治的判断のミスマッチが原因であり、現在の構造不況の元凶であります。
構造不況に対しては、産業構造の大胆な変革が欠かせません。現在の金融不況にも大胆な改革が必要であり、それにまず必要な、ペイオフの導入が大幅に見送られたことで、一層変革が立ち後れています。土建業界にしても、大手ゼネコンの救済策が一巡するなどしているものの、借金棒引き以上の大胆な改革は見えてきていません。公共事業における入札制度の見直し、ゼネコンの事業丸投げ・下請け叩きなどの悪弊の廃止、ゴルフ場やホテル経営など本業外事業からの撤退、体力温存のための積極的合併や事業整理による縮小均衡、取り組むべき課題は政官業いずれにもあるはずです。
金融業界も土建業界も、大胆な変革が行えなかった理由に、経済成長率への遠慮が働いたと考えています。両業界を積極的に整理すれば、周辺事業を含めたかなりの産業が打撃を受けることに成ります。バブル以前の負債を一掃し国際競争力を回復することが可能であっても、不況期間を圧縮するのであっても、目先の経済混乱が受け入れられなかったのでしょう。いや、現状でさえも受け入れられないのでしょう。
■ 背伸びをしても始まらない
日本人は、統計が好きなようです。とくに計数に明るい官僚は、同じデータを色々な方向から眺めたり、弄ったりするのが好きであるようです。統計は、魔物です。全く同じ数字であるのに、それを悲観的にも楽観的にも説明することができます。座標軸を対数軸にしてみたり、タイムスパンを大きくしてみたり、相関関係にないパラメータと対比してみたり、データを無意識に歪めてしまうこともママあります。自分の望んだ結果が得られない場合は、統計を自分の望んだ方向に曲げてしまうのです。
しかし、統計の結果を曲げるのにも限度があります。曲げきれない場合は、それを説明する言い訳が必要になります。なぜ、自分の望んだ結果とは違うのか、とくとくと説明する習性を、官僚は持ちます。それ以上に、政治家も言い訳が大好きです。政治家には、「将来何がどうなるのか予測できる能力」と「なぜその予測通りの事態が訪れなかったのか説明できる能力」の2つの能力が必要だと揶揄されます。彼らも言い訳はしたく無いのですが、予測はバラ色の方が好まれるので、どうしても言い訳をしなくてはダメな局面が多いのです。
学力の足りない子供が、カンニングをしてまで良い成績を取ろうとします。カンニングの結果と知らずに、親は成績を褒め、さらなる努力を要求します。子供は、さらにカンニングに精を出しますが、いずれボロが出て破局が訪れます。子供としても、自分の能力に見合った期待をしてくれれば、それなりの努力をして見合う結果を出すのでしょう。しかし、親の期待が大きいばかりに、実のないカンニングをして自滅するのです。
「良い成績」を経済成長の指標と見るのなら、点数を稼ごうとするのは官僚。それに発破を掛ける親が政治家。カンニングとは、建設国債の名の下に乱発された赤字国債であり、特殊法人の浪費に供される財政投融資であります。今年もプラス成長、来年もプラス成長・・そういう言い続けるためだけに、国債が乱発され無駄な出費を行い、結果的に経済を成長させるどころか衰退させています。まず政治家が過大な期待を止め、官僚による国力に見合った政策遂行を実現させ、短期的には不成績でも長期的には好成績を生むような変革が必要なのでしょう。
■ むすび
まず必要なことは、経済成長率という指標を棄てることです。国際的には提示する必要がある数字なので算出するにしても、国内向けには一切の評価指標とせず、少なくとも短期的に一喜一憂しないことです。そもそも、これだけボーダーレス経済の時代に成っているのに、未だに単独の数値指標で経済の成長性を判断しようとするのが誤りであり、その誤りのために、意味のない経済政策が打ち出されることは避けるべきです。
衰退が著しい一次産業は、そこに資金を投入しても短期的に実績が上がらないため、放置されてきました。結果的に、一次産業は国際競争力を失い、日本国全体での産業構造改革を遅らせる要因と成っています。政治的理由で過保護にされ、補助金漬けを続けた農業は、もはやドラスティックな改革無しでは、消えるしか途が無くなりつつあります。
実質的な経済の成長度合いを測るためには、長期的な視野で費用対効果を見据えたような、政策評価の指標が必要なのであって、カンニングをすれば簡単に成績が誤魔化せる指標であっては、ダメなのだと考えるのです。
01.01.21
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補足1
いささか強引と言われるにしても、米国政府は努力をしています。内国産業を保護するために、GATT違反のダンピング課税を連発したり、GATT遵守を盾に他国への市場開放を要求したり、と派手な攻勢を仕掛けてきています。やり過ぎ、我が儘という批判はあるものの、自国産業の拡大のために、政府が強力なバックアップをする姿勢は評価できます。
対する日本政府は、自国産業保護には消極的であるのが現実で、とくに米国からの市場開放要求には押されっぱなしです。規制緩和を行うにしても、米国の指図を丸飲みするような弱腰では困ります。だからといって、アジアへ強硬な姿勢で臨んでも始まりませんが、どの国に対しても分け隔てなく、自国産業の売り込みに邁進して欲しいものです。
もちろんながら、政府調達事業などでさらなる透明性を担保する事は必須です。自国が不透明な手続きを残しつつ、他国に透明な手続きを要求するのでは、嘲弄を受けるだけです。官製談合など解決するべき課題は沢山ありますが、真面目に取り組んで欲しいものです。談合体質を温存しても、国益には全く貢献しないでしょうから。
01.01.21
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補足2
経済成長率ほかについて、個人サイトながら詳細な指標データを掲載されているページがありました。雑誌でも優良サイトとして紹介されています。「GDP・景気・経済SITE」()を是非是非ご参照下さい。
01.02.17
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補足3
国民所得統計の2000年12月発表分(7-9月期)から、GNPが削られているそうです。経済の実態をより正確に表現するGDPに主役を奪われたためであるそうで、変わってGNIが用いられるようです。海外企業が日本で生産した金額を含まず、日本企業が海外で生産した金額を含む不公正な数値であるため、GNPは落ちたようです。
日本でのGNPの発祥は、1948年。経済企画庁の前身である経済企画本部が公表したことが最初であるそうです。1993年からは経済企画庁のGDPに軸足を移して来ましたが、いろいろ問題も指摘されてきました。現在の国際標準は、国民経済計算体系(93SNA、国連制定)というものに決まっているそうですので。。
本補足は、読売新聞2000/12/09朝刊記事を参照しました
01.02.17
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補足4
#N10-12月期のGDPが発表されました。大幅な設備投資に後押しされて、年率3.2%のプラス成長と騒がれましたが、大店法絡みの駆け込み需要が中心とのことで、一過性と解説されています。公的需要の息切れも目立ち、個人消費のマイナスも響いているようです。円安は良いものの、輸出が振るわず、全体的に暗い印象が目立っているようです。
01.03.31
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補足5
本文中に記載した土建人口に関する補足です。
バブル崩壊を挟んでも、これまでは土建労働者の賃金は、高水準で推移してきました(政治の研究第25回「土建事業では国難を救えない」の補足4を参照)。建設業協会の調べによれば、建設業協会の会員数は1998年以降から減少に転じ、33,000から31,400へと減少しているそうです(会員数には、本社ばかりでなく、支社・営業所が含まれる場合もあるようです)。これに合わせて、建設業就業者数は650万人(2000年末)まで急減しているようです。ちなみに、1991年末の610万人から1997年の680万人まで一貫して就業者数は増加してきました。土建人口全体でも、同様の傾向を示していると見られますが、ようやく余剰感が出てきており、賃金や待遇の調整も行われるようです。
02.01.13
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