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経済の研究No.185
サービスのユーザーインターフェース

 商業サービス(B2C)の基本が、対面である限りにおいては、ユーザーインターフェース(UI)云々を議論する必要はありませんでした。サービスの出し手の人柄と、受け手の人柄とがあって、その相性を個々に見れば良かっただけですから。しかし、サービスの出し手が機械に変わるのであれば、どの受け手にも満足してもらえるUIを確立する必要があるはずです。

■ 自動券売機
 早い時期に人から機械に置き換わったものに、鉄道切符などの自動券売機が挙げられます。鉄道の輸送力が増強され、都市部の駅では一日数万人の乗降客がある時代に、一枚ずつ対面で切符を売っているのでは、大変です。人件費もバカになりません。このため、切符の発券を自動化するための自動券売機が導入されました。行き先別のボタンが表示された近距離切符に限定され、対面で遠距離切符を扱うのが一般的ですが、最近では特急券や座席指定券まで売るモノが出ています。
 鉄道切符の自動券売機は、乗降客の少ない駅でも省人化に役立つとして導入が進んでいますが、近頃では自動改札機の導入、プリペイドカードの普及により、一層の省力化・省人化が実現しています。さらに安食堂などでも自動券売機が導入され、パチンコ屋の出玉機にも応用されています。
 必要な金額を入れ、必要な手順で項目を選択し、必要なサービスを得る。あるいは、必要サービスを受けるためのチケットを入手する。そういうシンプルな機能であるために、自動券売機は社会に受け入れられ普及するに至っています。券売機を導入するにあたって、音声ガイダンス機能や、ヘルプ機能を備えるなどUI向上には努力が払われています。点字表記や英語案内板なども同様です。
 自動券売機の安心感は、最悪の場合に駅員がやって来ることで、何時間も券売機の前で待たされないのがメリットであると感じます。

■ 現金自動預け払い機
 銀行の現金自動預け払い機(対訳に相応しくありませんが以下、ATM)も、社会的認知度の高くなった商業サービス機械です。もともとカウンターに列を成す小口客対策として導入されたもので、当初は引き出しのみの機能でした。キャッシュカードの導入、預け入れ機能の追加、送金機能の追加・・と高機能化が進み、今では定期預金やローンの申し込みや、パスワード変更などの機能もあります。
 ATMは当初から試行錯誤な開発が多く、端末トラブルや通信エラーなど課題の多いシステムです。しかし、素人を相手にするには高機能であり、それを使いこなせるようになった我々ユーザーも、随分と慣らされたものです。さらなる高機能化が求められる一方で、UI向上も至上命題であり、今後も益々の改善が必要であるようです。
 各種金融機関のUIを見比べると、それぞれのコンセプトが見えてきます。そのUIには、ATMの開発業者の性格が色濃く出ているのですが、金融機関の開発担当者がどれだけUIに配慮しているかによって、出来不出来がはっきりと分かれています。一つの目安は、目的の業務を利用し終えるまでに何ステップの画面が現れて、何回ボタン等を選択するかが目安に成ります。

 信組・信金系ではカタカナ表示が残っていたり、照会時間を多大に要したり、キャッシュカードが機内に詰まったりのトラブルが多いです。機能もシンプルなものが多いので、操作に慣れるのは比較的簡単です。都銀では、三和銀行と住友銀行に一日の長があり、画面数が少なく操作テンポも速いシステムを導入しています。さくら銀行のコンビニATMも良い機械が入っていますが、こちらは振込機能などで無用に画面が多く選択項目が多いことや、パスワードだけテンキー入力であるなどの不便を感じます。他の普通銀行や地方銀行は、ATMの更改サイクルが長く、最新鋭機と古参機の機能的なギャップが目立ちます。
 比較的優れているのが、郵便局ATM。機種更改の度に新機能を盛り込み、タッチパネル、手元ボタン、両脇ボタンで共通の動作を実現するなど、素人の直感操作に適しています。あまり金融機関で差の出ないのが、残高照会と引き出し専用のCDです。しかし、提携金融機関の多いCDは使い勝手が悪く、とくに消費者金融系のCDが分かりにくい操作性で、不便を感じることが多いです。

■ インターネットの時代
 インターネットが普及したことで、個人でも商業サイトを立ち上げて、仮想店舗を設けることが可能になりました。それを実現するのは、ブラウザベースでのHTML/CGI言語などであり、多くはUIを自作して対応しています。問合わせや注文にはメールを使うことになり、電話やファクシミリも用いられますが、本質的な部分では、システムがユーザーにサービスを提供しています。
 どんなに使い勝手の悪いUIでも、唯一無二のサービスを提供している間は、比較的利用されます。しかし同種のサービスが進出し、相互にサービスを競うようになると、最終的にはUIの良いサイトが残ります。オマケ等ではユーザーを繋ぎ止めることは難しく、ユーザーは価格のみに関心を持っているわけでないのがよく分かります。むしろ手間と時間を惜しむため、UIが強く意識されていると見えます。

 数あるサービスの中で、上述の現象が顕著であるのが、書店系のサイトです。原則として値引きが許されず、提供商品も横並びである中で、どれだけUIに優れているか、が囲い込めるユーザー数に影響しています。検索の容易さ・情報の豊富さ・対応の迅速さ、そういった要素が恒にユーザー評価を受けています。単価が安いだけに利用頻度が高く、それだけUIが注目されるのでしょう。
 メールや電話・ファクシミリにしても、対面でないだけで、人間は必要であります。一部はシステム化・自動化で省人化が図れるにしても、それを人間でサポートしつつ、UIを維持するのは大変な作業です。このUIが悪ければ、コンテンツがどれほど優れていても、ユーザーの支持を受けられません。

■ むすび
 商品の質が第一と言っていた「頑固職人風」では、ユーザーは離れていきます。サービスのボーダーレス化現象は、そのままユーザーによるサービスの選別へと繋がっていきます。地縁などのしがらみでユーザーを囲い込める時代では無くなり、良いUIを提供できるかどうかに絞られつつあります。
 今は決済手段が脆弱ですが、多様な決済手段が充実してくれば、よりUIの出来不出来がサービスの善し悪しに繋がり、ユーザー評価へと影響していくでしょう。より良いUIを確立する近道は、広く多くのユーザの声を集めること(特定ユーザに頼ると変な声に成ります)、他社サービスのUIを恒に研究し、良いモノを取り入れる努力を欠かさないことです。
 金融機関ATMの開発担当者は、自社システムや他社システムを研究しながら使っているのでしょうか・・?

01.01.21

補足1
 ユーザーインターフェースは、元々コンピューター用語でした。コンピューターと、それを使う人間との間に立って、人間の指示をコンピューターに伝達し、その結果を人間に伝達するためのソフトウェア&ハードウェアの総称でした。
 その後、ビジネスの分野でも消費者をユーザーと捉える風潮が進み、企業とユーザーの間をつなぐソフトウェアを、ユーザーインターフェースと呼ぶ傾向にあります。この場合のソフトウェアは、コンピュータソフトウェアだけでなく、顧客サービス全般を指します。
 近頃流行の「B2C」は、「Business to Consumer」の略号で「企業と消費者をつなぐ」という意味で使われています。企業がモノを作れば、消費者が勝手に消費してくれる時代は終わり、「つなぐ(to)」の重要性が語られるように成ったのですね。これが、ビジネスにおけるユーザーインターフェースであります。

01.01.21

補足2
 ATMの正式名称は、Automated-teller Machineであります。つまり自動化された金銭出納係(窓口係)の機械であります。確かにサービスメニューは増えていますが、まだ現状の現金自動預け払い機のレベルでATMと称するのは、気が早いようです。対訳として相応しいのは、Automatic Depositor(自動預金機)+αでしょうか。

01.01.21
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