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経済の研究No.140
リクルートを売るべからず

 第139回鳥羽ダイエーの正念場」で、ダイエーグループの大胆な債務圧縮は可能であると書きました。実現できれば、金融機関によるリクルート売却の圧力は交わせます。しかし時間がないかも知れませんね。鳥羽社長、こんなビジョンではいかがでしょう?

■ ダイエーの強み
 ダイエーの強みは、全国展開・ネットワーク・金融・情報です。これらを結合させてコアビジネスに育てることは、ダイエーの将来に必要なものです。できれば強みを残したままで債務圧縮に取り組みたいところです。
 まず全国展開です。スーパー最大手のイトーヨーカ堂は関東中心で全国展開にはまだまだの観があります。ジャスコも全国展開を急ピッチで進め、手薄だった東北地域への進出や、独自展開を許していた地方系列の連携強化、地域同業との関係強化を図っていますが、そのハイピッチによる傷みと歪みが心配です。ダイエーは比較的東西にバランスを持ち、要所要所を押さえています。現状では、メリットとして活かせていませんし、最近はテコ入れも断念してクローズを早めていますが、これからは巻き返しも期待できるでしょうか。
 次にネットワークです。コンビニ業態では初めて全都道府県へ進出したローソンは、その端末ロッピーやインテリジェント・レジスターを活かした全国ネットとして生きています。不幸なことに赤字を垂れ流すグループ事業の財布として使われたことから上場が遅れ、資金調達に不利を招いています。しかし多くの事業を損切りしてDHCへ売却したことから、これからは上場を目指して資本蓄積に熱を上げています。
 また金融です。その中核はダイエーOMCです。業界首位のクレディセゾンはもはや流通系とは言えず、ジャスコ系のイオンクレジットも急拡大中、イトーヨーカ堂は長年流通特化をコンセプトに金融は避けていました。ダイエーOMCは2,000億円を超える不良債権を抱えましたが本業は堅調で、今期で処理に目処を付けて来期から攻勢に出ます。大型案件として傘下のディックファイナンスを売却したことは惜しまれます。中堅ながら消費者金融はこれからの金融ビジネスに欠かせない存在でしたから。同じ轍は踏めません。

■ 情報はコアビジネス
 そして情報です。これまでグループとは独立して行動してきたリクルートが、昨今のネットビジネスなどのキーを握り、流通界のみ成らず、日本でも有数の情報発信企業として注目されています。不幸にもリクルートコスモスほかで巨額の有利子負債を抱えていましたが、年間800億円近い経常利益の強みを活かして、5年後の株式上場へ目処を付けました。現在でも企業価値は1兆円以上で、現在の情報産業の高株価からすれば上場した場合の時価総額は5兆円とも試算されています。
 リクルートはイサイズという新サービスを立ち上げており、情報の上流から下流までを一本化しつつあります。すでに手を拡げている多くの分野の情報を、リアルタイムにかつ無料で提供することを目的としています。長年培ってきたニュースソースとのパイプを活かすとともに、情報をより有機的に構築してトップランナーの強みを活かしつつあります。これはネット財閥と称されるソフトバンクでも太刀打ちできていません。
 これまでダイエーが大株主ではありましたが、全くダイエーとは独立した自由な経営スタイルを維持したため、中立なスタンスが評価されて幅広い提携先企業を持っています。情報を金に換算することは容易ではありませんが、いま巨額の経常利益を計上し続けている現実と、これからのネットビジネスの拡大を見れば、5兆円の呼び声も空事ではありません。

■ なぜ売却なのか?
 ダイエーグループの有利子負債は、2兆4,000億円を超えています。これを1兆円削減する計画がありますが、現状では計画通り進んでいません。また本業の低迷で銀行もさらなる改革と資産売却を要求せざるを得ないようです。
 ようやく金の卵を生みそうなリクルートを手放せとは、銀行も横暴です。鳥羽社長の提示した売却額は2,000億円程度と言われますが、あまりに安い感じです。ダイエーの保有株は35%ですから、1兆円価値でも3,500億円、5兆円価値なら1兆7,500億円(DHCグループを除く債務だけなら、全額返せます)です。
 たしかに1992年にダイエーがリクルートの株式を引き受けたのは450億円という安値でした。しかしグループで2兆円近い債務を抱えた企業の株式なら高すぎるほどです。幸いにも好業績が続いて、リクルートの1999年3月期債務は8,350億円にまで圧縮されましたが、その果実を得る権利はダイエーにあります。現在の経常利益を全額注ぎ込んだとして12年程度で完済できる計算です。

■ 銀行は本気なのか?
 銀行は、本気でダイエーのことを考えているのか疑問です。ダイエー本体が赤字を脱却できないため返済を迫るのは理解できますが、リクルートやローソンなどの株式上場によるキャピタルゲインで資金返済させることに合意していたはずです。返済を急がせるのは違う意図が見え隠れしています。
 リクルートにせよ、ローソンにせよ、できれば未上場のうちに売却させれば、キャピタルゲインはダイエーでない他社に入ります。ダイエーが得る場合は融資返済という見返り以上に成りませんが、自ら仲介して他社にゲインを運んでやれば、巨額の見返りが得られると言う皮算用が働いているようです。
 そのため、両社を売らなくては行けないように、ダイエーを追い込んでいるようです。果実にありつけるのは一部の銀行ですが、メインバンクの多いダイエーのことですから、複数から有形無形の圧力が加えられているのでしょう。
 以前から何度も売却の噂が出たのは、それだけ売って欲しいというアピールが強いわけです。今回も売却を決定したと言うだけで、今期中に売却だの、候補は○○だのと噂ばかりが踊っています。バックにある企業集団が、銀行を介して糸を引いているわけですね。

■ リクルートは反対!
 渦中のリクルートは、売却に反対しているそうです。ダイエーは過半数の株式を抑えているのでなく、あくまで第一位株主に過ぎません。経営に関与しないことも株式譲渡の条件だっただけに、会長に就任した中内氏は「君臨すれども統治せず」だったと言います。それ故に上述の中立性を活かした幅広い事業展開が可能だったのです。
 しかし売却先候補は、いずれも財閥系なり新興系なりクセのある企業ばかりです。資金不足のため複数企業のジョイントもあるようです。売却の後、中立性が維持される可能性は低いでしょう。そうなればリクルートの長所を潰してしまう、というのがリクルート側の意見です。その過程で社風の変化を嫌う人材が多数流出する危険があります。良質のブレーン集団と言われた長銀総研で同じ現象がありました。
 それならば選択肢1。ダイエーにはそのまま持たせて、幅広い第三者割当増資を実施し、そのまま中立性を維持する。同時に増減資を実施するなどしてグループの懸案を処理して債務も圧縮できます。相対的にダイエーの持株価値は小さくなるかも知れませんが、少なくとも売れと言う圧力は少なくなります。
 選択肢2。ダイエーに第三者割当増資をして子会社に成る。過半数の株式を押さえてローソンとでも合併し、情報&ネットワークの怪物になり早期株式上場を目指すのはどうでしょう。銀行は首を縦に振らないでしょうが、別の債務圧縮案と抱き合わせなら可能です。幸いにもリクルートはダイエーに好意的です。
 選択肢3。手続上は不可能でないのですが、ダイエーとリクルートを合併し、新リクルートとして分社化することです。合併比率の算定が難しいですが、発表しただけでダイエー株価の急騰は間違いないです。リクルートの残る65%株主は不満を露わにするので、現実的でありませんが。

■ 切り札はNASDAQに株式公開
 選択肢4。国内での株式上場は諦めて、NASDAQに株式公開する。たぶんこれが一番現実的です。将来性が大きいことと、株式公開までの期間が短いことを活かしてさっさと株式公開をすることです。米国の株式市場の動向次第ですが、来春でも難しくありません。
 現在の債務は返済の目途が付きましたし、これまでの圧縮実績を織り込んだ高株価は間違いないでしょう。日本市場とは違い、ダイエーとの連想で安く叩かれる心配も少ないとも思います。高株価が期待できるなら公募株を時価発行して、債務圧縮の原資に回せます。仮に市場評価が1兆円として、10%の公募株なら900億円近い金がリクルートに入ります。
 株式公開と宣言するだけでもダイエーグループ全体へのインパクトは大きいはずです。グループのイメージがポジティブに変われば、持合株式の含み損は縮小し経営不安スパイラルからも抜け出せるでしょう。

■ むすび
 ともかく、何が何でもリクルート株式の売却はいけません。ポン太としては、明日にでもNASDAQ公開をすると鳥羽社長に宣言して欲しいところです。

99.09.12

補足1
 多額の負債があっても、成長性さえ確実なら資金調達できるNASDAQ市場は魅力的です。国内では株式未公開の企業がNASDAQでの株式公開に踏み切って成功した事例については第132回ナスダックがやってくる」を参照して下さい。

99.09.12

補足2
 ローソンは全国展開を優先し、セブンイレブンはドミナントによるエリア制覇を優先しています。短期的な収益ではエリア制覇の方が優位ですが、市場開拓という点とこれから収益は改善する点では全国展開の方が有利です。吉野屋ほかも全国展開を優先して収益を向上させています。これからの動向が期待されます。もっともローソンが潤沢な資金を調達し続けることが必要なのですが・・・。

99.09.12

補足3
 一応誤解を避けるために、会見での鳥羽社長のコメントを引用しておきます。「有利子負債削減を前倒しで進めるため、リクルート株を今期中に売却する意向であり、既に申し入れが来ている。本業強化を狙い外部のコンサルタントも導入したい」とのことです。あくまでも意向に留まっていることと、申し入れ企業名は証していないことがポイントです。

99.09.14

補足4
 リクルートの有利子負債は1994年3月期がピークで1兆4,540億円。子会社のリクルートコスモス社の不良債権などを丸々肩代わりしたことにより発生したものです。残る8,000億円近い負債ものれん代(長銀事件に関する記事で書いたように、経常利益の10倍程度が相場であります)でほぼ相殺できますから、NASDAQ上場なら何の心配も不要です。
 ところで週刊ダイヤモンド9月25日号の特集記事によれば、ローソンが調達してグループ企業に融資している1,200億円強の貸付金が「グループ内の不透明取引」とみなされてローソン上場に危うさが残っていることを指摘しています。ローソン上場が危ういとリクルート売却しかカードは残りませんが・・・。
 ローソンとダイエーを合併し、ローソンを100%子会社に再編するのはどうなんでしょうか。あるいは株式交換制度を使って、ダイエーがローソンを完全子会社化するという選択肢もあるでしょう。その場合、グループで持ち合っているローソン株はダイエー株に転換されて一部は売却の必要を生じますが・・・財務的にはダイエーに大きく貢献するような気もします。その場合、貸付金の問題も解消すると思いますが、いかがなものでしょう。

99.09.21

補足5
 米国の流通グループであるベネター社では従業員をピーク時の半分、売上高もピーク時の60%まで縮減して経営再建を目指しています。不採算事業からの撤退、成長分野での経営資源集中というありきたりの手法ですが、これを流通で導入したことに注目されます。
 かつてはダウ工業株30種平均にランクインしていましたが、1997年に外されました。また1998年末にはS&P500種からも脱落しています。それは、国内外で4,000店舗にも及ぶ不採算店舗の閉鎖を断行したことで、本業の「FWウールワース」を400店全店閉鎖して見せたためです。現在スポーツ用品に特化していますが、残念ながら収益拡大には繋がっていないようです。
 しかしダイエーで言えば、ダイエーを全店閉鎖してローソン・OMC・リクルートで新戦略を展開するようなものです。先達があるだけに、コペルニクス的転回に期待しています。

99.10.08

補足6
 リクルートの売却が見送られる公算が強まりそうです。ローソンの藤原社長が強い反対を示していることが最大の要因だと報じられています。ローソンとしては、リクルートとの提携による相乗効果は図り知れず、本体の不調によって他社グループに買収することは避けたいとの背景があるようです。とするならば、ローソンによるリクルート買収か、ローソンとリクルートの合併という期待も持たれます。
 外部環境としては、ダイエーホークスの優勝セールでダイエーグループに若干の回復力が得られそうであることが大きいです。また、リクルート買収に名乗りを上げていた角川書店が外資との提携に踏み切って離脱したことが大きいです。CSKは東京電力を巻き込んで資金面での不利を補うようですが、現状ではアスキー以下の傘下企業のテコ入れを優先する方にメリットがあるように思いますので、どこまで本気を見せてくるのか疑問を感じます。
 リクルートの社長は、河野栄子氏。コスト削減と収益力回復に2年間取り組んできた辣腕であるそうです。内外で評価は分かれるところですが、今後新ビジネスをどう立ち上げていくかが期待されているとのことです。やはり自由な社風を守っていくことはリクルートに必要で、そのためにはダイエーグループの存在は欠かせないのではないでしょうか。関連会社に留まる分けですし、いろいろ提携関係を強めることで、相乗効果を生みだしてくれると思うのですが。

99.11.01

補足7
 リクルート株式は、リクルートグループで引き受けることで落ち着きそうです。15日の朝刊で日本経済新聞がスクープ(日経新聞は本当に産業界をリードするつもりがあるのでしょうか)したことが引き金で、ダイエーはリクルートへの株式譲渡を渋々認めました。朝方は否定したものの、午後に入って正式に認めさせられる形に成りました。
 リクルート本体では自社株を保有できないため、傘下の関連会社他で引き受ける模様です。金額は1,000〜1,200億円と報道されていますが、これは情報をリークしたリクルート側の希望価格というところでしょうか。市場の引き合いよりも安い価格は問題ですが、リクルート側が譲渡制限を楯に迫ったと言うことです。
 ダイエーグループとしては、一部株式は継続して保有し、中内会長を引き続き戴く方向だということです。リクルートとしては中内氏との盟邦関係を維持しつつ、独立性を守り抜く選択をしたということです。ダイエーは記者会見に応じましたが、詳細の煮詰まらない段階での発表を強制されたため、これから巻き返しもあるかも知れません。しかし、思ったよりも安値売りで、残念です。金の卵なのに・・・。

99.11.15

補足8
 リクルート株の行方はまだ流動的であるようです。しかしローソン株で新しい動きが出ました。ダイエーは、ローソン株を担保にして特定目的会社(SPC)を設立し、SPCがローソン株転換権つき私募債を販売するとのことです。
 この私募債は、来るべき株式上場の際に、ローソン株の売出価格に応じた株数に転換する権利が付けられるもので、ダイエーとしては私募債の売出と同時に、売却益を手にできることになる。一方で、ローソンとの提携関係を深めたい企業は今から一定のローソン株を予約できるわけで、上場前から提携を勧めていくことも可能になるようです。
 現在、三菱商事を核とする三菱グループと、丸紅・日立製作所のジョイントが、私募債の取得を表明しており、それぞれローソン株20%を2,000億円で交渉しているとのことです。しかしこれでは、ローソンの企業価値は1兆円。いささか安値売り、という印象です。
 ダイエー関連の情報は、それらしい数字が公表される機会が多いですが、本当に2,000億円での交渉が進んでいるのか疑問ですね。

99.12.07

補足9
 リクルート株は大半をリクルートの関連会社に、ローソン株は20%を三菱商事に、それぞれ売却先が確定したようです。これによりダイエー主導によるネットビジネス展開はご破算に成りました。
 リクルート株は中内会長の留任と引き替えにかなりの安値売却に成るようで、ダイエーにとっては良い面の皮です。日経ビジネス2000/01/31号は、ダイエー側がリクルートにマザーズ上場を打診したと紹介されていますが、それなら第1号を目指すべきでありまして、今さら飲める話でも無いでしょう。ダイエーとの連想で売り叩かれる可能性も高く、やはりNASDAQ公開だったと思います。
 リクルートは関連会社に引き取った株式を使って、有力企業との提携を模索できることになりました。より有利なパートナーに有利な条件で売却し、より良い情報戦略を構築できることに成ります。ただし、思惑通りに主導権を握れるかどうかは微妙ですが・・・フリーにはフリーなりのリスクがあります。
 ローソンはダイエーがキャピタルゲインを得る可能性を大きく削りましたが、三菱グループというバックが付いたことで、インフラ整備ほかで直接的なメリットを受けるほか、間接的に信用補完も期待できるでしょう。仮にダイエーが破綻してもローソンは三菱商事傘下で生き残る途が作られました。

00.02.13

補足10
 ダイエーグループは、ローソン株式を丸紅フーズ・インベストメントにも5%相当売却し、さらにメーン4行にも約0.5%ずつ売却しました。今夏には上場の見込みが着いたようであり、銀行にも少しアメを配ることで、これ以上の優良企業売却にストップを掛けたい意向のようです。三菱商事の20%、任天堂の3%と合わせてもグループ外に放出したのは30%となり、まだまだ影響力は行使できると判断しているようです。
 三菱商事、丸紅、任天堂はダイエー・ローソンの信用補完を行う上で有望であり、短期的にはキャピタルゲインの減少を招くものの、今のダイエーグループに取っては良い風が吹くことになりそうです。
 ローソンと新規株主にとっては、上場と同時に新株発行もしたいところでしょうが、ダイエーとしては持ち株売却とどちらが有利でしょうか。流通株式数との兼ね合いもあることですから、調整が難しそうです。またローソンの魅力を一層高める努力が必要なようです。最近は話題性づくりに熱心でないようなので、少し心配です。

00.04.08

補足11
 昨年に株式上場を果たしたローソンですが、本家ダイエーの不振が直結したものか、売出価格(公募価格7,200円)を上回れない低迷状態が続いています。
 1月27日、ダイエーは三菱商事にローソン株を追加で売却し、筆頭株主から下りることを表明しました。追加で売却されるのは、発行株式数の8%相当とのことです。これにより、三菱商事の持株比率は28%、ダイエーグループは25%になります。三菱商事主導での梃子入れで、結果的に含み益拡大に期待するか、思い切って全株売却するか、全ては高木新社長の下での再建次第でしょう。

 すでに傘下の食品スーパーのマルエツ株式を丸紅に譲渡し、マルエツの筆頭株主からも下りる予定です(丸紅はダイエーにも追加出資する)。今後も連携していくのか、ローソンやマルエツとは資本関係を解消していくのか、よく分かりません。すでにダイエー店舗のウチ、小型店舗をマルエツ他に譲渡する旨も明らかにしており、先行き不明です。
 しかし「(ローソンも小売りだが)客層が異なり、相乗効果はない」などと発言したダイエー幹部の発言は、あまりにもお粗末でしょう。成長分野を切ってしまって、今後の再建をどうするのでしょうか・・?

01.01.27
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