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経済の研究No.139
鳥羽ダイエーの正念場

 鳥羽社長に実質的な実権が移ったダイエーが、リクルート株の売却を決めたらしいです。これまで何度も売却の噂を否定してきたのですが、銀行に押し切られそうです。
 ポン太が中内会長(当時は社長も兼務)に多数の改善提案の手紙を送り続けたのは、もう2年も前です。すでに危ない時期だったのでしょうが、不良債権を圧縮するためのいくつかの提案を致しました。詳細は別コーナーダイエーの研究というコラムを参照して下さい。
 その柱は、未上場企業と上場企業の合併、関連企業への人材供与による人員削減、グループ統括会社の設立と企業数整理、不動産売却による債務圧縮、ファミリービジネスと本業の分離などです。しかし、ほとんど着手されないまま中内氏は社長を辞めてしまいました。
 ここで言いましょう。他のグループ会社を整理してでもリクルートを売ってはいけません、鳥羽社長!

■ 百貨店は要らない
 キャピタルゲインを得るために上場を計画しているプランタン銀座。百貨店を持ちたいという中内会長の夢を実現し、一店舗のみ成功を収めた親孝行店舗です。しかし上場して多額のゲインが稼げるかどうかは疑問です。
 先に店頭公開したダイエーフォトは、健全企業で大きく成長が見込まれるため初値は800円以上との呼び声でしたが、売出価格を大きく下回ったばかりか、241円の安値を付けました。現在こそ実力相応の800円まで値上がりしましたが、プランタンでも同様の動きはあるでしょう。
 またもしプランタンの時価総額が膨らんだとしても、戦略上手放せる株数は限定的です。結局は担保額が膨らんでも債務圧縮効果は少ないはずです。また、長引く不況で業績が低迷する危険も去っていません。ここは手順を変えて、外資流通に売却するのです。外資となら今後も商品供給で提携の余地があり、しかもプランタン銀座の借入金を肩代わりする必要もなくなって、大きく債務圧縮を実現できます。
 中内会長の夢は捨てていただいて、シナジー効果の薄い百貨店事業は処分してしまいましょう。同じことは十字屋にも言えます。ようやくOPA形態で収益を産み始めていますが、唯一ダイエーになびいた既存百貨店ながら、長い間負の遺産を引きずってきただけの十字屋も処分してしまいましょう。十字屋全体での売却は無理でもOPA個店での売却なら売却益の得られる店舗は多いはずです。

■ 食品スーパーは緩やかな提携へ
 マルエツは関東を基盤とする食品スーパーです。本業は健全ながら、保有するグループ株の含み損に喘いでいます。このところグループ株の株価が上昇してきたこともあって楽には成っていると思いますが、今期は15%もの自社株を消却します。
 当初は浮動株を吸収してダイエー色を強めるのかと思われましたが、ローソンが持ち株売却に応じたため、どうなるのか見えません。しかし、これを機会にしてマルエツの株価は好転するはずですから、上手に売却して売却益とキャッシュを確保してしまいましょう。
 共同仕入れなどコスト面の救いはあるかも知れませんが、それは最低限の業務提携で済むところです。過半数もの株式をグループで保有する現状を改めて、お互いに身軽になるべきでしょう。その際、本体に吸収して持て余している旧忠実屋店舗をマルエツへ譲渡してしまうべきです。ダイエーは総合スーパーに特化するべきで、戦略の異なる食品主体の小規模店舗は整理の対象とするよりも、商圏の重なるマルエツに引き取って貰うべきです。
 またヤオハンから大量の店舗を引き受けたセイフーも、食品スーパー形態は売却し、残りを負債ごと本体へ吸収する大胆な再編戦略も有効でしょう。これだけでかなりのキャッシュを確保できるはずです。

■ コウズを売るなら、今のうち
 次々に店舗数を増やして業績急上昇のコウズ。中内会長のファーストネームを音読みしたホールセール(会員制)業態は、競合他社が少ないこともあって大当たりしています。ダイエーの数ある業態でも抜群の売上げ・収益力ですが、売却するのは今のうちです。
 これから電子商取引の時代です。これまでは物流コストの高さから、消耗品や食料品の販売では競争力の無かった通販も、インターネットと物流ネットの普及により、充分な競争力を持ち始めています。すでに文具や玩具、書籍で流通破壊が進んでいます。「まとめ買いをすればお買い得」というホールセール方式がネット方式に置き換わるのも時間の問題です。
 遅くとも5年後には店舗販売は無用の長物になるでしょう。このままでは店舗の減価償却が終わらないうちに閉鎖の憂き目に合うでしょう。今なら日本への進出を狙っている外資流通に売却できます。彼らは進出の足がかりが欲しいだけなので、ホールセールで儲からなくなっても業態転換で対応するでしょうし、ダメなら撤退です。今なら高値で買ってくれるでしょう。
 競争力が維持できず子会社へ移管となるハイパーマートも、日本には適合できていませんが、外資流通の好む業態です。抱き合わせで売るも良し、競合他社へ売るも良しです。高値で買ってくれる相手を捜しましょう。

■ 外食企業も不要
 ダイエーは傘下にフォルクス・ビッグボーイ・らんぷ亭・りきしゃまん・ドムドム・ウェンディーズなど多種多様な外食企業を抱えています。ビーフを有効に活かす戦略が根幹にありますが、シナジー効果と言うよりは中内会長の夢の実現に過ぎません。思い切った整理が求められても良いでしょう。
 フォルクスは唯一上場ですが、ダイエー関連という連想で株価が一時465円まで半減しました。ステーキハウス首位という地位も、不況ではむしろ逆風で現在無配です。しかし買い手はあるでしょう。外資にでも売却できれば、1株当たり679円という厚い株主資本をバックにして売却益を確保できるはずです。現在グループで過半を抑えていますから、売却で得られるキャッシュは莫大です。
 残る業態は売却できるかどうか難しいです。企業規模がいずれも小さいため株式公開によるキャピタルゲインは難しいところです。個別に同業他社へ引き取って貰うのが良いのではないでしょうか。売れる店だけ売り、残りは赤字覚悟で閉鎖して撤退するのも一考でしょう。とくにドムドム(主にグループ店舗内に展開)やウェンディーズ(ほとんど個店で展開)は、売却できなくともマクドナルドに転換するのも手です。エリアフランチャイズも良し、一括売却も良し、独自ブランドに拘る必要性はないでしょう。

■ DHCとは決別を!
 球団ダイエーは今年優勝するかも知れません。そうなれば買い手が見つかるかも知れません。業績拡大中の企業なら球場とセットで買ってくれるかもしれませんし、球場から出ていかないことを条件に、球団だけ売却するのも良いでしょう。売却益は得られなくとも、これ以上球団を維持する必要がないほど知名度は上がっている以上、無用です。
 思い切って外資企業に売るのもどうなのでしょうか。メリルリンチ辺りは高値で買ってくれるかも知れません。売却が無理なら共同スポンサーを募っても良いでしょう。またレジャー施設も不要です。各地に散らばる遊園地も無用の長物ですし、シナジー効果は現在も生んでいません。
 また、DHCを本体と完全分離することも必要です。どちらかといえば中内家のファミリー企業に近いDHCを切り離し、債務保証があるのなら一定の資金譲渡と引き替えに資本関係を解消しましょう。そうすればDHCグループの債務は消滅しますから、ダイエー本体は身軽になれます。球団もレジャーもDHCに付随していますから懸案は解消します。
 分離後のDHCですが、中内会長の威光が残っているうちに不採算事業を整理し、必要が有れば債務放棄なども要請して頑張れるはずです。依然としてグループ企業のもち株数は多く、とくに傘下上場企業の持ち株を市場売却したりダイエー本体に肩代わりして貰うことで、まずまずの借入金を返済できるでしょう。これまで高配当を受けてきたファミリー企業のことですから、不動産投資でダメージを受けていても、それなりの資産が残っているはずです。あとはダイエーの業績回復で持ち株価値が上昇するのを待てば何とかなるでしょう。ダイエーを身軽にして競争力を回復し、それによる株高で負の遺産を一掃する、銀行の理解も得られるはずですよ。

■ むすび
 以上のように、コアビジネス以外の売却により多額のキャッシュを手にし、それにより債務を圧縮すれば、リクルートの売却は迫られないはずです。本業の小売り事業もこれからは無理な店舗展開を止めて、改装や増床などで質の向上を重視していけば、少しずつ営業力も回復して収支も改善するのでしょう。
 これを実現できるかどうかは、まさにオーナーたる中内一族の一存に掛かっています。ここでリクルートやローソンを手放して、一小売り企業に逆戻りするか、それともコアビジネスを拡大して未来あるグループに再生させるか、今が決断の時です。

99.09.12

補足1
 今回はグループ企業について適当なことを書いていますが、即時性を重視するために調査を犠牲にしました。グループ各社の動きは出ており、いろいろ環境が代わってきていると思いますが、ともかくコアビジネスを残すために、売れるものは沢山あると申し上げたいのです。

99.09.12

補足2
 ダイエーは、子会社ダイエーフォトの持ち株のうち、140万株(23.97%)を富士写真、ノーリツ鋼機、コニカに譲渡すると発表しました。これによりフォトに対する持ち株比率は36.03%に低下し。関係会社に成りますが、三社の出資によってフォトの経営は安定するものと期待されます。
 もともとフォトはダイエー内店舗の展開が中心でしたが、このところ個店展開に重点を移しており、当面1,000店舗の展開を実現するにはグループ外からの資金調達も必要と言われていました。フジとコニカという日本を代表するブランドの後ろ盾を得ることで、事業展開が円滑に進むとともに企業価値も高まることでしょう。
 ただしダイエーの譲渡益は10億円程度に留まる見込みで、キャッシュは入りますがあまり債務圧縮には貢献しないようです。譲渡後の各社の持ち株比率は富士写真11.12%、ノーリツ鋼求刀Aコニカ8.55%です。

99.09.17

補足3
 DHCは、傘下外食企業の大胆な整理を発表しました。まず、2000年3月に「ヴィクトリアステーション(ステーキ)」と「ミルキーウェイ」の営業権を「ビッグボーイジャパン(ファミレス)」に譲渡し、関連事業を統合するそうです。
 加えて2000年1月に「蔵椀(和食)」「ディーシーアイ(中華・イタリア料理)」および「スバーロジャパン(パスタ料理)」の三子会社を清算するそうです。なかでも「ディーシーアイ」は、近々撤退する浜松町の東京本部に2店舗あり、残る2店舗では採算が立たなくなることも影響しています。
 外食事業が全体的に低迷している上に、事業展開に先行きが見えないことから、遅蒔きながら事業整理に乗り出しました。同時にDHCの不採算事業整理と債務圧縮の動きですね。都合5社が整理されますが、整理損はローソンの上場益と不動産売却益で補填する見込みです。
 当HPではダイエーの研究第16回でフォルクスを核にした外食事業統合を提案していましたが、今回はそこまで大胆では無かったですね。

99.11.29

補足4
 ダイエーの本社関連の話題は第66回ダイエーの選択」で書きましたが、東京・浜松町にある東京本社機構を、同じく東京のダイエー成増店へ移転すると発表しました。成増店の上層階売場を改装するものですが、一時は品川に本社ビルを持とうかとした企業が、いきなり一事業拠点へ引っ越すのは、かなり意表をつきます。
 コスト削減効果は移転費用ほかで減殺される見込みのようですが、銀行へのPRと、社員への意識改革という副次的効果を狙っているようです。しかし無事に業績を立て直して、いつか本社機構を東京の中心部へ戻せる時代がやってくるのかどうか、正念場はまだまだ続きそうです。

99.12.07

補足5
 ダイエーグループは、神戸オリエンタルホテルなど7ホテル(オリエンタル系5ホテル、セントラーザ系2ホテル)をゴールドマン・サックスに一括売却する方向で調整しているそうです。オリエンタルホテルは、神戸の老舗ブランドであったものをダイエーが買収したものです。そのブランド名を冠したホテル相次いで建設したものの、過当競争で稼働率が低迷して資金力を圧迫していました。またオリエンタルホテル本館が震災で倒壊するなど打撃もありました。
 一括して売却することで有利子負債の圧縮と本業回帰を進める模様で、700億円前後という予想価格は、妥当な線かも知れません。

00.04.08

補足6
 ダイエーグループが待望のローソン上場が実現しました。公募価格7,200円に対して、7月26日の初値は6,000円でした。時価総額は6,800億円ですが、セブンイレブンの4兆円に及ぶべくもありません。ただし、ダイエー本体の2,300億円よりは3倍近く大きい規模になり、早くも親を追い抜いてしまった格好です。
 ダイエーは上場時の株式放出で経営再建の原資にする予定でしたが、見込みよりも1,000億円強の不足になったと伝えられています。DHCが保有する店舗用地や建物を赤字覚悟で売却したり証券化したりして負債圧縮にアクセルを踏むこととなり、干天の慈雨も長くは持ちそうにありません。まずはグループ全体での信用回復ということに成りますか・・・。

00.06.30

補足7
 6月1日より大規模小売店舗立地法が改正になりました。都道府県や政令指定都市が運用主体に変わるため、今後の新規出店はかなり厳しくなるとされています。これまでは業界挙げての駆け込み出店申請などが行われた模様ですが、ダイエーは逆でした。専ら不採算店の閉鎖に奔走し、2000年も新規に10店舗以上の閉鎖計画を打ち出しています。とくにハイパーマート形態の閉鎖が目立ちます。一方で既存店打ち上げ増大を図って、全店21時閉店を実行した上にほぼ年中無休とするようです。この場合、店舗の改装などに十分な資金を手当てする必要がありますが・・十分でしょうか?

00.06.30
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