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政治の研究No.181
お子さまメンタリティ

 かつて米国は、「カウボーイの国」と揶揄されました。「知恵のない荒くれ者」というイメージかと思います。過去の話だと思っていましたが、今回のイラク戦争では、その傾向が強く見られました。米国民の全てがそうではないですが、戦争を主導した首脳部は、カウボーイ時代を引きずっているように見えます。国際協調も、敵対国との対話もなく、一方的な正義を振りかざして暴れまくりました。

 公共事業に投資すれば経済が好転するというジンクスを信じる日本国政府首脳が多いのと同様に、戦争をすれば経済が好転するというジンクスを信じる米国政府首脳が多いようです。基本的に、豊富な資源と、巨大な生産力を有する米国では、大量の物資を消費するとともに、市場拡大に繋がる戦争は大歓迎なのです。何よりも自国内での戦争でない限り、自分の躰は痛みませんから。長期戦となれば支障も出てきますし、戦後不況が厳しいところですけれど・・短期戦であれば良いこと尽くめです。
 このジンクスが最初に生きたのが、第一次世界大戦。初めての世界大戦で疲弊した欧州に代わって、世界の覇権を掴みました。大量に抱えていた対外債務が帳消しになり、有り余る対外資産を獲得したのも、この時期です。第二次世界大戦でも、真珠湾攻撃という絶好の機会を利用して、当時の物余り不況を一掃したことは、周知のことです。これに続く朝鮮戦争・ベトナム戦争では、戦争当事者として人的な被害も著しくありましたが、国内経済にはプラスに働きました。朝鮮戦争では、戦後復興中の日本も余禄に預かりました。
 そして、湾岸戦争では、大量の新兵器を使いまくり、そのツケを同盟国に負わせることで、利益を得ました。国際正義を振りかざし、多くの同盟国を引き連れるメリットを実感したのは、この戦いからです。アフガニスタン戦役では、テロ撲滅をキーワードに派手な戦争をしました。今回のイラク戦争も、その再来を狙ってみたものの・・・国際世論を敵に回す結果になりました。

 しかし本当に、戦争によって米国経済は好転するのでしょうか? ブッシュ大統領の支持母体とされる、石油業界や兵器産業は潤うでしょうが、国内市場は冷え込んだようです。国際紛争は、貿易や観光に打撃を与えましたし、先行き不安から金融も厳しい状況です。ITバブルの後遺症も残り、株式市場も低迷しています。イラク戦争の戦後処理が終わったとしても、一過性でない経済再生ビジョンが見えてきません。おそらく軍事関連の支出が今後も拡大すると見られ、大量消費のみで生産を伴わない戦争によって、国富喪失が顕著になると思われます。
 大きく疵を付けた国際関係も課題でしょう。今回は、仏・独・露と敵対をし、EUや国連をも敵に回しました。イラク戦争に当たっての同盟軍は44カ国と豪語したものの、軍隊を派遣したのは米・英の二カ国でした。艦艇や特殊部隊を限定的に提供したり、空港や港湾を無償供与したり、声援のみであったりした弱小国が多くを占めます。英国のメジャー首相は、敵対した諸国との調整で懸命に働いていますが、米国の外交筋は意に介していません。近頃では、米国の暴走を留めるために、仕方なくメジャー首相が協力したという見方も強まっています。

 云ってみれば、米国は、悪ガキ大将です。自分よりも強い相手が居ないので、威張っていられます。自分に従わない者や、自分に不利益を与える者には、正義の鉄槌を与えます。それによって、他の悪ガキ達が何を考え、どう行動するかは予想もしません。仏国や独国が手を出そうとすると、ありったけの悪知恵を働かせて妨害しました。仲間で話し合いになり、議論で負けそうになると・・捨て台詞を吐いて飛び出しました。強い恫喝を加えたり、激しいウソを吹聴したり、道理をねじ曲げたり、色々としました。
 ようやっとイラクという悪ガキをねじ伏せましたが、それを好意的に評価してくれる仲間は少数です。追従を述べる仲間はいますが、本音は偽っています。他人の価値観を否定し、自分の理屈を押しつけました。戦後処理では、一層この傾向が強まるでしょう。かろうじて、英国が保護者として付き添っています。ガキ大将の子分格に過ぎませんが、カウボーイの暴走を牽制する保安官ぐらいは努めるかも知れません。
 他国に土足で上がり込んで嘯く不遜さ、自分の願望を正義と呼び代える傲慢さ、要求が通らないと暴れる我が儘さ、忠告を利敵行為と決めつける盲目さ、民間人や他国報道陣を死傷させながら開き直る横柄さ、どれをとっても米国のメンタリティは、お子さまレベルです。

 今回も米国のジンクスが実現すれば、三匹目や四匹目の泥鰌を狙って、また戦争を繰り広げるでしょう。国内世論も戦勝によって、ブッシュ大統領支持に大きく傾いています。昔から、「米国の戦争は世界正義」と信じるお国柄です。強い大統領を好み、強い軍隊を好みます。図らずも、無知のイラクを懲罰したという程度の認識に留まり、その過程で多くの民間人や軍人が死んだことに、何の痛痒も感じないでしょう。せめて、米国の経済や治安が一層混迷を極めれば、国民の意識も変わるでしょうが・・それはできない相談です。
 このお子さま並みのメンタリティしか持たない大国が・・・世界のリーダーとして君臨するとなると、大きな問題です。諸外国の忠告に耳を貸さなかったことも、将来にシコリを残します。何ら理論的な裏付けもなく米国支持を打ち出した日本は、今後どう立ち回れば良いのでしょうか? メジャー首相は、国民向けに分かりやすく丁寧に英国参戦の理由を説明したそうですが・・・小泉首相からは何もありません。

 悪ガキ大将が倒れれば、腰巾着が叩かれるのは道理です。その道理に気づかない日本が、一番に「お子さまメンタリティ」の持ち主かも知れませんね。

03.04.13

補足1
 米国は、国連監視検証査察委員会(UNMOVIC)によるイラクの再査察を拒否する方針を示しています。表向きの理由は、再査察の結果を待っての制裁解除では、イラク復興が遅すぎるというものです。しかし本音は、再査察によって米国が隠蔽しようとするイラクの被害状況や、ボッタクリで多額の復興費を費やすための目論見がばれることを懸念しているようです。
 開戦前には、UNMOVICの信頼を失わせようと、米国側が誹謗中傷を加えたと指摘し、ニジェールからのウラン輸入疑惑については素人でも分かる偽情報を大仰に発表したことなど「当てにならない不確実な情報」を機密情報と称したなどと、ブリクス委員長が指弾しているようです。
 本格的にUNMOVICによる再査察が行われると、現在までの虚構の大部分が白日に曝され、また大量破壊兵器について「実在していることを我々は知っている」として開戦に及んだ嘘が糾弾される可能性が高まります。入り口に立って、イヤイヤを続ける米国は、やはりお子さまなのでしょうか・・?

 ちなみに米国ブッシュ大統領は、大量破壊兵器が「開戦前に廃棄されていた可能性や発見できない可能性もある」とコメントしました。現在、イラク旧政府の要人を次々に逮捕し、強硬な取り調べを行っているそうです。彼らの証言だけをつなぎ合わせて、状況証拠で手を打つ可能性も残っています。

03.04.26
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