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政治の研究No.180
バ グ ダ ッ ド 陥 落

 イラクの首都バグダッドが陥落しました。市街地の一部では、共和国防衛隊や民兵による散発的な抵抗も見られるようですが、宮殿や政庁も制圧され、米英連合軍による制圧は、ほぼ完了しています。3月20日の開戦から1か月足らずで制圧できたことになります。南部地域では激しい抵抗を続けている都市もあり、北部地域でも残存勢力による抵抗があると報じられていますが、組織的な抵抗が難しい現状では、各個撃破されていくでしょう。

 実際のところ、バグダッドを「守りの要」とすると言われていたため、連合軍も戦争の長期化を覚悟していましたが、首都の抵抗が弱すぎた感があります。一つには、空爆やピンポイント攻撃によって、早期に首都機能が停止に追い込まれたこと。二つには、電気や水道などのライフラインが崩壊したこと。三つには、食糧など物資不足が発生して市民の士気が低下したこと。四つには、圧倒的な軍事力を見せつけられ、直接対決を諦めたこと。五つには、国際空港を早々と奪われて補給線を狙う戦術が使えなくなったこと。六つには、アラブ諸国の参戦が期待できなかったこと。こうした要因から、フセイン大統領ほか首脳部が継戦の意志を放棄したようです。
 ただ、完全に白旗を掲げた訳でもなさそうです。相当数の部隊が「消えて」いること、大統領や側近の死亡説も流れる中で「消えて」いること、依然として連合軍は面的な支配ができないこと、など反攻を受けるリスクが残っています。ライフラインを失った大人口のバグダッドを抱え込み、内部崩壊することを避けたとすれば、高等戦術です。イラク国内では、依然として「解放軍」を歓迎しておらず、独裁政権の崩壊と、物資支援の充実とを歓迎しているのみです。シーア派との関係や、クルド人の扱いにも課題を残しています。

 現在のところ、合衆国が大義名分に掲げた「大量破壊兵器」は発見されていません。従軍記者の先走り報道があったものの、米軍首脳が事実関係を否定するなどし、現在も「兵器」は見つかっていません。これからの捜索で「発見」される可能性はあるものの、アフガニスタン戦役でのアルカイダとテロの関係が明らかになっていないのと同様に、誤魔化される可能性が高いです。とくに今回の「イラク戦争」(と呼ばれるのは良いのだろうか?)は、米英とイラクの少数国間紛争でした。国際的な大義名分を欠いたままで放置されるのは、危険です。
 かなりヒートアップしていたアラブ諸国も、圧倒的な米軍兵器には脱帽のようです。多くの武器を輸入に頼る彼らは、一国で米軍に対決する愚を悟ったのでしょう。非難の声を上げるに留まっています。しかし、イラク国内で大規模な武装蜂起が起きれば、また米軍による大量殺戮が発生すれば、フセイン一党がヨルダンなど周辺国を味方に引き入れれば、アラブ諸国がどう出るか分かりません。集団としても影響力は無視できませんし、英・西など同盟国の動きも読めません。
 幸いにして、イラク与党のバース党は宗教色が薄く、イスラム教全体を敵に回すリスクを回避できました。多くの内応者や潜入者を活用して、効率的に中枢を叩けました。しかし、他のアラブ諸国で同じ手が通用する保証はありません。アフガニスタン戦役で苦労したことが、繰り返される懸念もあります。

 これで、サウジアラビア、クウェートに次いで、イラクの親米化が実現するでしょう(UAE、オマーンなども親米国です)。その次のターゲットは、イランともヨルダン、シリアとも囁かれます。とりあえずは、北朝鮮が優先されるかも知れません。しかし、次々にタイマン勝負を仕掛ける米国は、かなり危険な存在になってきました。しばらく、米国問題を集中的に取り上げたいと思います。

03.04.13

補足1
 米国は、次なる標的にシリアを指名しました。シリアが化学兵器を保有し、その実験を繰り返しているとの容疑です。この容疑で「ならず者国家である」と宣告すると同時に、「悪の枢軸」に加えました。また新たに、シリアがイラク高官数名を匿っているとも非難し、早期に国外追放するよう勧告したようです。
 シリアは化学兵器の問題を「事実無根」と否定するとともに、イラク高官の入国も否定しました。米国は、力づくでも化学兵器の廃棄をさせるとの意向で、イラク戦争と同様に、「無いものは、無い!」と言い張るならば、即刻の武力行使もあり得ると警告した模様です。それにしても、有ることを立証するのは簡単ですが、無いことを立証するのは難題です。さて、哀れな子羊は・・どうやって米国の怒りを解くことができるのでしょうか・・?

 さて、賢者諸君。「本当のならず者」は、果たして誰か?

03.04.19

補足2
 米国のラムズフェルド国防長官は、「イラク人の情報提供者が得られない限り、自力での生物・化学兵器の発見は困難」と発言したそうです。イラクが大量破壊兵器を保有している明確な証拠を握っていたはずが・・・全くのデタラメであることを認めたも同然です。バグダッド南方の農業施設で発見されたドラム缶は強力殺虫剤、CNNが移動式の化学兵器製造施設と報じたものは全くの無関係、数千人の兵士を投入しての大捜索も空振り、米軍化学部隊による専門家チームも匙を投げたようです。。。
 してみると、石油利権と復興利権を独占するために、イラクを焦土と化した訳であり、大義名分も何もありません。

 しかし一方で、国連管理になっているイラクの石油利権を米国側が管理すべく制裁解除を要望したそうです。また、米軍が徹底的に破壊したインフラの再建事業を、不透明な意志決定により815億円相当(3460万ドル)を米国の総合建設大手のベクテルグループに発注しました。なぜ一括である必要があるのか、なぜベクテルグループなのかはコメントせず、一般の国際入札では時間が掛かりすぎるとのみ回答しました。同社は、チェイニー副大統領との関係が深く、シュルツ元国務大臣が取締役を務めているそうです。
 また、仏・露・日などが保有するイラク向け債権の一部免除または返済の繰り延べも要望しています。米国は元々多くの債権を持っておらず、他人の腹を相当に宛てにしています。これとは別枠で、同盟国や大国にイラク復興費用を負担させる考えで、虫が良すぎるのにも呆れます。それでも、小泉首相は補正予算などで費用手当する考えを示し、前向きに検討するそうです。。。

03.04.19

補足3
 米国のイラクの対外債務削減要請に合わせて、主要債権国会議(パリクラブ)が開催されました。単独では、クウェートの170億ドル、露の120億ドルが突出し、仏・日の40億ドル強などであるそうです。また、湾岸諸国で300億ドル(クウェートを除く)とのことで、これも見過ごせません。
 米国自身は政府・政府系機関による対イラク債権を持たず、強気の攻めの構えで、債権国との対立を深めています。また、米国財務長官の「独裁政権による債務の重荷をイラク市民に負わせてはいけない」という一方的な論理に対しても、反発を強めています。米国としては、イラク原油輸出で上がる年150〜180億ドルの輸出収入から債務返済に回ることによって、諸外国の干渉を受けることを懸念しているとされ、石油事業の独占を狙う上でも債務は大幅に圧縮したい意向です。
 日本政府は繰り延べに応じる考えを示し、露政府は横並びでの削減には応じる可能性があると述べたそうです。

03.04.26

補足4
 米英は、フセイン大統領死亡説を流布するのに必死です。5月早々に勝利宣言を出す見込みです。しかし、フセイン大統領がイラク国内に潜伏している場合、この前提が崩れかねず、復興への支障にもなります。繰り返し死亡説を流すことで、フセイン大統領が声明等を出せば儲けもので、無反応であれば死亡宣告をしてケリを付けたい考えでしょう。

 イラク国内では、シーア派が200万人規模の宗教集会を開催し、反米を明確に打ち出しました。戦時中は融和策も出されていましたが、首脳部による米国批判の声も高いようです。国内では治安不安が続きます。(米国の管理ミスと思われる)イラク軍からの押収武器の大規模爆発事故、占領した軍事基地の恒久的米軍基地化発言など、イラク国民の感情を逆撫でる懸案が次々に吹き出しています。
 とくに基地化問題は、ニューヨークタイムズが政府高官の話として報道し、すぐさまイラク国内にもフィードバックされたことで波紋を呼びました。米国国防長官が慌てて否定表明を出すことになるなど、戦勝国らしからぬ不手際が目立ちます。復興を急ぐ余りに、様々な火種を残さないことを望みます。

03.04.26
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