銀行・生保・損保など金融の大型合併が大きく騒がれています。しかし、金融の統合は、色々問題があると考えています。国外でも金融の統合化は図られていますが、単純に純資産が肥大化しただけの金融グループは、その運用難に喘いでいます。相互補完機能やチャネルの多様化、基盤ユーザーの拡大、大胆な機構改革などが実現できるのでない限り、意味を成しません。専ら製造業で起きているダイナミックな統合の動きの方が重要かも知れません。
■ 自前主義の限界
これまでの製造業は、自前主義に拘っていたと感じています。ヘッドとなる大企業の下に、子会社・孫会社・関係会社がぶら下がるピラミッド経営です。その代表格が自動車産業や電機産業、少し意味は違いますがゼネコンや総合商社でしょうか。また原料調達・粗加工・製品加工・物流・販売までを自前で確立するスタイルも多々見られます。川上から川下までの一貫経営とありますが、余程のスケールが無いと意味が無く、また製品のバリエーションが豊富で無いと景気のブレを吸収できません。
こうした自前主義が中心であった最大の原因は、グループ(系列)経営という思想だと思います。資材や人員の調達、資金の融通などをグループ企業間で行うことによる純血主義といった考え方、専ら資金の出し手であった銀行の思想が色濃く出る場合もあったようです。「一番良いモノを一番安いところから買い、大変に素晴らしいモノを一番高く売れるところに売り、なおかつ最も多くの商品を末永く売れるよう努力する」、これは製造業の基本でしょう。グループ経営は、この基本に大きく反していました。
確かに自前主義は通りが良いです。川上から川下まで、多層構造にすればするほどマージンが取れ、全体として得られる利益が大きくなるメリットがあります。しかしモノを作れば売れた時代には適していても、素晴らしいモノしか売れない時代では、どの層でもマージンを削る必要を生じ、これまで不効率な部門でも支えられた体制が支えられなく成りつつあります。つまり、自前主義の限界であります。
■ 自前主義の返上
日本を代表する企業グループは多いですが、やはり旧財閥系の結束が強く、比較的効率的でした。中でも旧三菱財閥系の評価が高いのですが、このところリコール問題などで内部への甘さが露見してしまいました。一頃までは旧三井財閥系の評価も高かったのですが、さくら銀行が司令塔としての機能を喪失してからは、連邦化しているとも聞いています。さらに住友=さくらの合併によって、住友=三井グループとは成り得ないとの世評も耳にするようになりました。
戦後ずっと、日本企業は銀行からの間接金融に依存してきました。高度成長期には一本調子で資金供給を続けてくれた銀行との間に親密度が増し、また財務面や人材面、あるいは取引先紹介での厚い支援があった関係で、株式持ち合いやグループ形成などが進んできたと思います。しかしバブル以降の銀行の乱脈融資は、銀行=企業の信頼関係を損ない、あるいは銀行による企業支配を印象づけました。賢い企業は、複数の金融機関から資金を調達したり、社債等の直接金融の道を探りもしました。
資金調達手段が多様化し、特定の銀行による影響力を排除できるようになると、従来は有り難かったグループ体制が煩わしく成ります。取引先を独自に開拓し、よりフリーな経営スタイルを確保する経営を指向するように変わっています。グループの枠組みを越えて資材を調達し、製品を動かし、販売する。ときには競合他社と共同で原材料を入手し、製品の融通や生産調整を行い、販売チャネルを共有する。そういう大胆な動きも目立つように成っています。つまり、自前主義の返上であります。
■ 返上のためのキーワード
おそらく自前主義の返上は、これから一層加速するはずです。鉄鋼や化工など先行した企業が相次いで成功を収めてくるでしょうから、これまでの単純合併や事業交換だけではなく、また形式ばかりの業務提携でない、大胆な主義返上が進むと思います。どう返上するかのキーワードは、再掲しますと、相互補完機能・チャネルの多様化・基盤ユーザーの拡大・大胆な機構改革にあります。
相互補完機能は、互いに欠如している要素を持っており、その要素を補い合うことを指します。一方の苦手分野が他方の得意分野であり、他方の赤字部門が一方の黒字部門である場合。一方で過剰生産気味でも他方で不足気味であり、品質が同等でOEMなどの融通が可能である場合。互いの取引先(エリア、ジャンル、系列など)に重複が少ない場合。その他、ノウハウ共有のメリットなどもあります。
チャネルの多様化は、調達・開発・製造・物流・販売などあらゆる局面で求められます。これら全てを自前で賄うことは、あまりに無謀かつ無意味です。苦手とするチャネルは他社と統合するか、あるいは部門ごと有力なアウトサイダーに売却しアウトソーシングに徹するべきです。得意なチャネルでは、他人のチャネルを代行することも当然に必要で、ときには部門を共有・買収しましょう。自前のチャネルは、常に一定の太さを維持する必要があり負担です。他人のチャネルを必要な時に必要なだけ使えるのなら、自前に拘らず他人のモノを利用するべきです。結果的にスケールメリットもあり、コストも削減でき、自らの資本を効率的に回すことが可能です。
基盤ユーザーの拡大は、言うまでもなく顧客の増加です。自らの製品や役務(サービス)を積極的に販売するためには、コスト削減や品質向上も当然ながら、需要の掘り起こしも欠かせません。一番に簡単な方法は顧客を増やすことです。顧客の重複が無いならば、提携により一気に新規顧客を増やすことが可能です。また提携先の商品や役務を自らの顧客にも回すことで、顧客との扱い高や親密度を増し、コストも削減できます。結果的に自社の商品や役務が旧来の顧客により一層活用して貰える可能性もあります。
大胆な機構改革は、以上の結果として実現可能です。相互補完機能やチャネルの多様化を行うことで、重複部門の整理や事業再編成、資源の適正配分などが実現可能です。互いの機構の利点を共有することで、拠点の統廃合や本社機能の集約・スリム化なども可能です。基盤ユーザーの拡大によっては、採算の合う製造拠点や営業拠点も増すでしょうし、新規市場の開拓も見込まれるでしょう。
■ むすび
ある程度のスケールメリットが得られる代償としての、組織硬直化が心配されます。硬直化を避けるには、積極的な権限委譲を進めることが必要です。それが良い刺激となって、企業内が活性化することでしょう。最終的に、提携先と持株会社方式でのコンチェルン化の道を選択することも可能かも知れません。また同業他社に対しての提携の範囲を広げ、あるいは未開拓の市場に進出することで、一層事業を拡大することも可能でしょう。
しかし、こうした自前主義を返上する思想は、製造業などよりもまず金融業に必要であると思います。金融がグループを支配するのでなく、金融もまた企業群の一つであり、資金の調整弁として機能するのであれば、今日のグループ経営も今少し発展型へ向かうのではないでしょうか。そのための純粋持株会社解禁をはじめとする、商法改正の流れであると思うのですが・・。
00.10.29
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