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経済の研究No.177
内国資本に意味はあるか?

 資料整理が進みませんが、3カ月近くも更新がないので、一本書くことにします。今回のテーマは、内国資本と外国資本です。千代田と協栄の2中堅クラス生命保険(以下、中堅生保)が、相次いで破綻しました。とくに千代田の破綻のインパクトは大きく、一層内国生保の経営は苦しくなるようです。中堅とはいえ、内国生保は市場への資金の出し手であり、銀行と並んで、内国資本の要たる存在です。

■ 内国資本とは何か
 内国とは、その国のうち、つまり日本国内ということです。内国会社は、日本国内で日本の法令に準拠して設立された会社です。対する外国会社は、日本国外で外国の法令に準拠して設立され、日本で継続的に取引を行う場合は日本の法令の規制を受ける会社です。
 商法上の資本は、株式会社(または有限会社)の営業のために株主(または社員)が出資した基金の全部または重要部分であって、登記または貸借対照表によって公示される金額です。その資本が、内国人(つまり日本国籍を持つ人)によって出されるなら内国資本、外国人によって出されるなら外国資本となります。
 一般的に、外資系企業という言い方をしていますが、その会社の資本の大部分が外国資本であるという意味で使われていると思います。日本にも数多くの外国会社の子会社が存在します。しかし、全てが外国資本であるはずもなく、株式公開している企業の中には、過半数の株式を内国資本が占めている場合もあります。こうした場合、外国資本側が経営権を抑えているというのが、外資系企業の定義になるかも知れません。
 反対に外国資本に過半数近くを抑えられているソニーを、外資系企業と呼ばないようです。企業の成立が内国であること、経営権を内国人が握っていること、などが理由でしょうか。実際の話として、多国籍企業に内国か外国かの定義を当てはめることに意味はなく、相対的に内国資本が一番多いという解釈しかなさそうです。法律家はなんと説明してくれるか分かりませんが、我々の言う外資系の定義は明確でないようです。

■ 内国資本は、日本のために
 それでも、内国資本か外国資本かの問題は重要です。一般論として、会社は株主に利益還元することを至上命題としています。株主が内国資本であれば、その還元相手は内国人であり、内国で暴利を貪ることは許されません。自ずと内国のためになる事業を展開し、その見返りとしての利益を内国人に配分します。そこに存在意義があると見るべきでしょう。
 内国資本を得ていながら、内国人のためにならない経営を行う企業があります。そうした企業は、いずれ内国での経営が立ち行かなくなり、市場から消去されるでしょう。また株主たる内国人に、正しく利益配分を行わない企業についても同様です。たとえ特定の資本家のためであっても、内国人のために活動しない内国企業は無用だと言えましょう。
 対する外国資本です。外国会社は当然に、株主たる外国人のために活動します。原則論から言えば、日本国や日本人のために何もする必要が無く、日本においては暴利を貪って構わないことに成ります。しかし、あまりに荒稼ぎをするようであれば、当然ながら日本での経営が上手くいかなくなります。日本法人を作り、日本人を雇い、日本で慈善活動などを行うのは、その意味もあると思います。

 少し冷静に考えると、外国会社でさえも日本のためになる経営をしている一方で、日本のためにならない経営をしている内国会社があります。昨今問題化している、流通系企業や金融系企業です。いずれも経営の本質を踏み外し莫大な損失を計上し、中には破綻したものもあります。多くは経営の私物化の結果と説明されますが、そもそも私物化を許したのは何故か、それ以前の経営者の責任がなぜ問われないのか、後始末になぜ国税を使うのか、を議論する必要があります。
 内国資本を受ける資格が無いにも関わらず、内国会社の代表格のような顔をし、なおかつ内国資本に多大な打撃を加え、さらに内国のためにならない税金の使い方を強いています。背後には、政と財の癒着もあるのでしょうが、困った話ですね。

■ 銀行や生保に、内国資本の資格はない?
 どうも日本経済は、不調であります。バブルによる負の遺産を片づければ回復するはずでした。しかし、負の遺産を片づけもしないで、火遊びしていた経営者のいかに多いことか。早くに責任を自覚し、適切な処置を行っていれば、もう少し傷口は抑えられたはずです。近年の一連の破綻は、景気回復という政治的見解をあざ笑う存在です。まだまだ大きな破綻予備軍が控えているようです。
 都銀は相次いで合併を繰り返し、その資本力の大きさを誇示しています。彼らが生きながらえているのは、今世紀最大の無策となるゼロ金利政策のお陰です。市場金利が実体経済にリンクしていたならば、いくつの都銀が吹き飛んだか分かりません。彼らは、内国資本の強化が内国経済の発展をもたらすと言いたい様子ですが、これまでどれ程に貢献したと言うのでしょうか? 低すぎる運用収益不効率で無意味なグループ経営大きすぎて回らない事業未だトップに巣くう魑魅魍魎(ちみもうりょう:得体の知れない化け物の集合体)・・。
 長銀・日債銀を始め、相次ぐ地方銀行や中堅生保の破綻は、図らずも内国資本の実態をさらけ出しました。ゼロ金利政策によって体力を回復するはずの銀行は、依然として不良債権を処理できないばかりか、自らの投資判断の誤りで株式や金融債に巨額の含み損を抱えています。時価会計制度に伴う問題も大きいままです。ペイオフ問題も棚上げです。いくら巨大な内国資本が誕生しても、大きいまま破綻したのでは、目も当てられません。
 銀行や生保には、内国資本を束ねる役割があり、それを効率的に運用して内国経済を発展させる義務があります。彼らが肥え太り惰眠を貪るために、内国人が資金を預けるのでは、存在意義を問われるでしょう。ある意味で、生保は銀行のために痛めつけられたと言えなくも無いです。銀行救済のゼロ金利が、逆ざやとして彼らの体力を奪ったのですから。しかし生保には銀行を買収してでも、効率経営させるだけの底力があったはずです。結局、惰眠を貪った責任は同じです。

■ 外国資本は、悪者でない
 破綻企業の救済に、相次いで外国資本が名乗りを上げています。多額の内国人の税金をつぎ込んだ新生銀行では、たしかにやり放題がまかり通っていますが、存外に内国銀行ほどではないかも知れません。投資会社がバック故に大稼ぎを狙っていますが、その経営手腕は内国経済にプラスをもたらそうとしています。
 かつてクレディ=スイスなど阿漕な外国資本もありましたが、あれも内国企業側に弱みがあったのが主因です。また外国資本以上に、詐欺的な行為を平気で行っている内国資本が多々あります。「外国資本=悪者」というイメージは、改める時期に来ているのかも知れません。日本IBM、日本マクドナルド、日本マイクロソフトなど外国資本系会社でも、内国資本系会社以上に日本経済に貢献している企業はあります。全てを毛嫌いしても始まらないでしょう。
 必要なことは、その外国資本が何を目論んでいるかを知るです。彼らが破綻企業や破綻金融機関を買収して、どうしたいのかを見極める必要があります。その企業や金融機関を足がかりにして、日本市場への進出をするのなら、やはり歓迎するべきでしょう。短期間に荒稼ぎするだけを狙っているのなら、それを排除するだけです。内国の金融機関以上に、内国経済に貢献してくれるのなら、腐りかけた内国資本に拘る必要も無いのでしょう。

■ むすび
 少なくとも、私は外国資本に否定的でした。しかし内国資本を活用すべき内国金融機関のあり方を見ていると、外国資本を積極的に受け入れた方が良いのかも知れないと思い始めています。外国資本の会社が増えてくれば、確かに日本ローカルが成り立たなくなりますが、政官財の問題などとも合わせて、内国経済は病因を一掃できるかも知れないとも思っています。皆様は、どうお考えになるでしょうか?

00.10.29

補足1
 ベンチャー企業が国内で成長するかどうかが、今後の日本経済発展の鍵になります。金融機関は不良債権処理で手一杯の状況にあり、余剰資金を国債に回して新規の不良債権が発生しないように消極投資中です。生保も、株式投資を拡大せず公社債や国債などリスクの低い投資を選択しています。昨年まで活気のあったベンチャーファンドも下火に成っています。
 ファンドの業績を示す指標に、内部収益率(IRR)というのがあります。日本経済新聞社は、米国728本と日本99本のベンチャーファンドを比較し、日本の収益率は米国の1/4であると発表しました。1988年以降で見ると、1994年の34%を除いて、IRRはほぼ0%という寂しい上jきょう。米国は年々上昇して、1996年には100%を越え、1999年でも70%近い水準とのことです。単純収益率でも、米国19.8%に対して日本は5.6%(1999年12月末)であるそうです。日本ファンドの投資下手が目立ちます。
 米国では、優秀な経営幹部をスカウトしたり提携先を紹介したりして、投資先の企業価値向上に手を尽くすそうです。日本では、株式公開に無理矢理こぎ着けて終わりというケースが多いのも現実で、専ら将来性を潰しているという批判もあるようです。とくに生保や銀行は広く薄い出資が目立ち、むしろ企業価値向上のノウハウも無いそうです。そういえば、上場企業に対しても同じ姿勢で臨んでいますね。

01.06.03

補足2
 補足1の補足です。米国では、IT企業の低迷の余波もあって、新規ベンチャーファンドの設立を見送るケースが増えています。株式市況の変調(低迷)で、積極路線を維持できないとの判断が働いているらしく、闇雲に設立する日本とは違っています。既設ファンドでも、新規企業より投資済み企業への投資へシフトしているそうで、新規企業にとっては寒い状況が続きそうです。
 設立の見送りには、投資家の不足で予定資金が集まらないという背景もあるそうです。

01.06.03
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