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経済の研究No.169
強まる、ネット風聞への監視

 風説の流布については、政治の研究第30回怪文書と風説の流布」を書きましたが、昨今のネット利用の拡大に伴って、インターネットで撒かれる怪情報について、注意が必要になっています。いわゆるネット風聞ですが、その速報性や同時アクセス性を利用して、悪質な風聞が撒かれています。

■ 事実か? 風聞か?
 アッという間に株価が急落し、ついに7,500円まで株価が低迷した光通信は、ネット風聞に反して踏みとどまりました。ネット風聞によれば、近いうちに会社更生法の適用申請が行われるといった内容のものが、まことしやかに流されました。これを一部の新聞が後追い報道したこともあって、市場で混乱を拡大させました。ネットを背景に成長した企業が、ネットに足を掬われる格好に成りました。
 また、ネットニュースが多数のサイトから発するようになり、そのニュースで誤報が流された場合の影響も、計り知れない物があります。悪意がなくとも、裏付けのないニュースソース、ほんの少しの誤認や誤解、笑えない誤植など・・・簡単に報道できるツールである故に、新聞やTVよりも甘いチェック体制が問題になっています。あくまで情報の受け手の自主責任としていますが、何らかのセーフティネットの確立が必要です。
 あるいは経済や株式をテーマにした掲示板の存在もあり、不特定多数の人間が有名掲示板に風聞を流すことで、ほんの短時間の掲載であっても多数のネット利用者に風聞を撒くことができます。ネット利用者は、悪意の有無に関わらず、二次情報発信者として風聞を別の掲示板等へ発信してしまい、一層風聞が拡大してしまう危険もあります。
 とはいえ、事実で有れば早期に撒かれる必要があります。企業側は事実無根の風聞と斬って捨てても、破綻してみれば事実だったと言うこともあり、風聞ばかりを責められないという現実もあります。

■ ネットトレーディングの拡大
 手数料自由化を背景に爆発的に拡がったネットトレーディングは、その売買シェアも順調に拡大して、立派に市民権を得はじめています。証券会社の窓口に足を運ばなくて良いこと、他人に取引内容を察知されないこと、同時に情報がオンラインで取得できること、などの利点がヘビーユーザーにも受けているそうです。
 雨後の竹の子のごとく設立されたネット証券各社も、サービス内容や知名度により整理・淘汰される段階に入っており、勝ち組と負け組の格差も広がってきています。ネット証券の売り物は、手数料の安さも当然ながら、情報提供の速さや正確さでもシノギを削っており、顧客ポートフォリオをベースにした積極的な情報提案などにも着手しています。しかし一歩間違うと、無用な情報を撒き、利用者に大きな損失を与えかねません。
 またハッカーやウィルスの問題もあり、あるいは管理者等の不正により、誤った情報が顧客に伝達される危険があります。あるネット証券で顧客情報が盗まれたり、あるネット証券ではメーリングリストが開放されて各会員から全会員へ同報メールが発信できる不手際があったり、セキュリティの甘さを指摘されています。また、相場急変時の対処能力も問われるなど、解決すべき問題は多々あります。
 今後もネットトレーディングは拡大する方向にあると思われますが、ネット証券側には顧客資産の安全管理の問題があり、利用者側には成りすましや鉄砲の問題があります。設備投資と手数料の整合、新規サービスの開発など負担も多いことがあって、本格シフトはこれからでしょうか。

■ 強まる、ネット風聞への監視
 海外企業の場合は、ネット風聞に対して概ね寛容であると言われています。自社が積極的に情報開示を進めているという自負があるため、多少の風聞に振り回されない自信があるようです。むしろネットで風聞を撒かれることを誇りに感じるとコメントする企業トップさえあります。しかし国内企業は、不味い情報を隠す体質が抜けておらず、相変わらずスキャンダルなどにも備えが薄いです。風聞が事実である例も少なくなく、ニュースソースが身内であることも少なくありません。
 こうした背景もあって、ネット風聞への監視は強まる方向にあります。あるセキュリティ会社は、顧客企業に関する情報をネット上で蒐集して毎日報告するサービスを提供すると発表しています。サーチエンジンやアクセス頻度の高いサイトを定期巡回し、当該企業に関するあらゆるネット情報を速報するそうです。インターネットの主旨を歪めるビジネスですが、企業側にネット風聞に対抗するノウハウが無いこともあるため、需要の増えそうなサービスといえます。
 そして、風説の流布への監視を強める機関があります。証券取引等監視委員会は、昨今のネット風聞の拡大を憂えて、コンピュータを使ったネット風聞の収集に乗り出すそうです。これまで紙媒体を中心に監視を行ってきた委員会が、株式市場で不審な動きを示す銘柄があったり、外部からの情報提供があると即時に調査を行う体制を作り上げる模様です。また定期的にアクセスが多いサイトを巡回して更新情報を取得し、順次蓄積も行う模様です。
 米国SECが整備した、サーバー・フォースと呼ぶネット専門監視チーム(人員は200人!)にも触発されているようです。しかし公的機関による積極的な検閲と見る向きもあり、委員会自らが情報収集を進めることの必要性について論議が必要かも知れません。

■ むすび
 ネットは便利だからこそ利用者が増えます。利用者が増えれば、悪用したくなるのも人情でしょうか。投資家としての自衛手段は、ネットで撒かれる風聞を選別する目を養うことでしょうか。たとえネットを悪用する人間があったとしても、自分自身が振り回されなければ、悪影響は最小化できます。これまでも有形無形の怪情報に曝されてきたのですから、広く情報を集めて正しく分析する能力さえ身につければ、怖いものは何もありません。風聞との接触を怖れて情報収集を怠る方が、大きな失敗に繋がる可能性が高いです。

00.05.20

補足1
 ヤフー・ファイナンスでは、銘柄別の掲示板を設置しています。サービス拡充の一貫でしょうが、この掲示板には随分と怪しげな書き込みが多いようです。一般的な株式情報の掲示板でも影響が大きいところですが、ファイナンス情報を提供する大手が、それに連動する形で掲示板を不特定多数に利用させる現状は、きわめて危険です。ネット風聞と認定されかねない書き込みがされた際に、それを選別する術のない運用形態では、多大な損失をユーザに与えかねません。目に余る利用があれば、閉鎖等も考慮される方が好ましいと思いますが・・すでに、当局にはマークされているのでしょう。

00.11.05

補足2
 米国の通信機器最大手のルーセントで、4月4日の株価が前日終値比で30%急落する事件がありました。資金繰り難から連邦破産法第11条の適用を申請したという内容で、株式公開時の価格を割り込むことに成ったそうです。ルーセントは根拠のない噂として声明文を発表しましたが、株価は14%で取引を終えたそうです。
 こういうケースでは、悪意ある投資家の仕掛けた噂である可能性が高いと思います。しかし、情報錯綜による事実誤認による誤報なども多いようです。企業の死命を制しかねないだけに、情報開示は欠かせませんね。しかし、日本では企業側が結託して意図的な相場崩れを目論むことがあるので、「悪材料=外部の犯行」という構図で全てを判断するのは、リスクがあります。

01.04.22

補足3
 欧州連合(EU)の財務相理事会は、加盟国共通の証券取引ルールを決める「欧州証券委員会」の創設で大筋合意したそうです。株式の投資・運用・上場・会計などの統一基準を作成するとともに、閣僚理事会や欧州議会に代わって証券法令を定める権限を持たせるということです。流動的な要素が強いものの、欧州版SECに成りそうだということです。

01.04.22
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