前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.157
エコノミスト と アナリスト

 いつまで経ってもレポートが纏まらないので、繋ぎネタを書きます。経済の世界には、エコノミストと総称される専門家がいることに成っています。ところが、正式な定義があるでもなく、検定資格を伴うものでもないため、かなりいい加減な自称エコノミストが存在しているようです。同じく、アナリストと呼ばれる存在があります。正確には経済アナリストとか、株式アナリストとか呼び分けるようですが・・・まあ自称が多いですね(検定会員制度があります。補足3を参照)。

■ エコノミストとは、何者か?
 経済誌であります「週刊 エコノミスト」を手に取ってみれば、どういう人種がエコノミストと総称されているか分かります。第一に、大学教授。第二に、経済評論家。第三に、財界の大物。第四に、金融機関の地位ある人物。第五に、企業の財務担当者。という整理に成りますでしょうか。概ね経済誌は、こうしたエコノミストと呼ばれる人達の発言に一喜一憂しているのが現状です。
 往々にして、エコノミストは大掴みな話を好みます。「来年は、経済が回復しそうだ」「いや、秋口には大きな転換点が出るだろう」「いやいや、株価バブルはもうすぐ崩れるし、経済も鍋底のままだ」「本当は、もう経済も回復しているんだよ」なんて根拠のない話を延々と説いています。それでも、こうしたエコノミストの発言が経済に影響を与えるのですから、不思議ですね。
 当然と言えば当然ですが、エコノミストの意見が全く同じということはあり得ません。他人と違う意見を言うことで、自己のアイデンティティを確立するわけですから、勝手な理論を持ち出して、それらしい説明をするわけです。投資家や一般国民は、一番自分の考えに近いエコノミストの発言を信じれば良いわけです。
 一番のクセ者は、著名な経済評論家です。企業体に属していることがあったり、自ら○○研究所所長などと称したりする怪しい人々がありますが、過去に結構アタリがあったりして、カリスマを持っている人もいますね。

■ アナリストとは、何者か?
 エコノミストとの違いが明確でありませんが、アナリストはもう少し本当らしい数字を出して、何らかの解析データを示す人々です。
 経済アナリストなら、過去の数値の推移とか、それらに基づく将来予測とか、データを提示して経済を論じます。口八丁手八丁のエコノミストより説得力を出しますが、彼らのデータもまず結論ありきで数値を引用していますから、あまり信用は置けません。データの選択方法や加工方法で、株高を論じることも、株安を論じることも可能なのですから。エコノミストほどにカリスマや地位を持たず、データの裏付けを看板にして、箔付けしていると見て良いでしょう。
 株式アナリストなら、個別の銘柄分析などを手掛けます。企業についてのデータを提示し、これに脚色して望ましい結論を誘導しています。銘柄分析ならば、ほとんど同じ様なデータを提示するのだから、分析が信用できるだろうと思いますよね。でも、どの数字を強調するか、どの項目を小さく見せたり隠したりするか、類似銘柄との対照を使って明るい未来像を描くか、株式アナリストの主観が大きく入っています。
 概ねアナリストは、どこかの企業体に属しています。エコノミストと違って、アナリストとして1人喰っていけるほど、世の中は甘くありません。アナリストとしての声価を高めてから、駆け出しのエコノミストとしての途を模索するのが、精々でしょうか。

■ 成績は付けられない?
 エコノミストにせよ、アナリストにせよ、彼らの成績を付けることができれば、投資家も信用できるところです。しかし、彼らの分析は変幻自在です。先月のコメントが、今月に180度変わっていても、あまり指弾を受けません。ときには先週や昨日のコメントと今日のコメントが違っていることもありますが、あまり批判は聞こえてきません。彼らに言わせれば、経済は生き物なのだから、状況次第・情報次第でいくらでも結論は変わるのだ、ということです。
 それでも、景気の転換点を言い当てたエコノミストは、一躍有名になります。また1人だけ上げ相場の予測分析をした経済アナリストが、一気にエコノミストに昇格することもあります。どちらかと言えば、「当たるも八卦、当たらぬも八卦」のような彼らの予測でも、当たれば一攫千金というのですから、世の中は理解できません。
 ともかく株式アナリストだけは、成績を付けられそうです。比較的短期の予測になることと、個別の銘柄で勝ち負けが明確であることから、どれだけ精度良く分析して見せたかを評価することは可能でしょう。しかし、彼らの分析データは時間の経過と共に消えていき、溢れかえる情報の波に埋没していきます。本気で成績を付けるためには、大がかりなデータベースの構築が必要でしょうね。

■ 看板を背負うアナリスト
 しかしエコノミストやアナリストへの情報依存が強まっていることは、事実です。近頃は小口投資家でさえ、経済誌を読み流しています。経済誌で大きく取り上げられたコメントやデータがあれば、それが投資家の意識に跳ね返って、経済に大きな影響を与え始めています。たった一つのコメントが、株式市場や為替市場にインパクトを与えることが少なくありません。
 従来のアナリストといえば、証券会社や金融機関の研究所に所属するケースが一番多かったでしょう。現在でも多数派を占めていると思いますが、その重要度が高まっていることは、間違いありません。かつて証券会社が打ち出す推奨銘柄や、金融機関が開発する新しい金融商品を、理論的にサポートするのがアナリストの役目でした。まず経営方針があり、その意を汲んだ形でのデータを出すのが仕事でした。
 これからのアナリストは、業界をリードする役割を担うでしょう。現状でも、証券会社がアナリストの分析を顧客に提示して、投資の参考情報にしています。そこに推奨云々というバイヤーの意志はなく、アナリストの自主性と正確性が求められています。証券会社の自己売買部門もアナリストの評価を重要視し、金融機関の運用部門もアナリストを戦略的に活用し始めています。
 加えて手数料自由化などで、顧客に提供できる情報の質が要求され始めています。そこでもアナリストの分析やデータの中身が勝負に変わってきています。抽象的な物や不正確な物は排除され、具体的かつ正確な物が求められています。彼らが看板を背負うことに成る以上、内部的にはアナリストの成績付けやランク付けが進んでくるでしょう。

■ むすび
 エコノミストやアナリストのコメントやデータを鵜呑みにするのは、危険です。彼らも自分たちのコメントやデータの精度を意識するように変わってきますが、所詮は主観的に物を言う立場です。どんなに客観的に示されてあっても、恣意性を排除することは不可能です。やはり投資家自身が、コメントやデータの中身を検討して、どこまで信用するか、どう使うか、を判断していかなくてはダメです。
 ときには、役に立たないエコノミストやアナリストを叩いていくことも必要です。健全な市場は、健全な投資家の目によって成り立ちます。あくまでエコノミストやアナリストは、投資家の手足として使われる存在、市場の代弁者としての役割、にしておく必要がありますね。

00.02.06

補足1
 近頃、IR活動(投資家向けの広報)に熱心な企業が増えています。店頭企業など株式アナリスト達のコメント一つで株価や資金調達に影響が出ることを怖れて、著名なアナリストを集めては、事前に説明会と称する情報リークを公然と行っているのだそうです。アナリスト達の反応を伺いつつ、特定のアナリストだけを優遇して自尊心をくすぐりつつ、良いコメントを得られるように運動しているようです。
 株式アナリストは、ほぼ証券会社や金融機関と繋がっています。事前にリークされた情報を活用して、アナリストが社内にまずリークすることもあります。その後、正式発表がありアナリスト達は好意的なコメントを寄せ、当該銘柄の上昇などで自社利益に貢献し、企業からも感謝されると言う構図です。
 米国でも同様の傾向が問題化しているとのことです。事前説明会や懇親会によるアナリストと企業の癒着には厳しい枷を填める意向だと聞こえてきます。一般投資家が求めているのは、公正かつ正確な情報です。一部投資家やアナリスト自身を利するだけの情報なら、そもそも必要ありません。

00.02.12

補足2
 年金の運用難が語られていますが、年金基金などはコンサルタントの採用を積極的に進めているはずで、コンサルタントの存在が問われています。コンサルタントの多くは、エコノミストやアナリストの転身組が多いとのことで、商売熱心な上に知識を総動員して基金の気を引くような言動が多々見られるとのことです。口が上手いだけに仕方がありません。
 とはいえコンサルタントの重要性は高まっており、その運用実績を客観的に評価して上手に活用していく必要はあります。年金基金は国民の生活を左右する重要な存在であるだけに、半端な人材による運営によって基金を目減りさせることは回避する必要があります。「コンサルタントのアドバイスに従ったら大幅赤字だった」という言い訳は赦されないでしょう。
 というわけで、日本経済新聞の2001/04/14朝刊の「年金コンサルタントの功罪」という素晴らしいコラム(大機小機)があります。是非是非ご一読を。

01.04.21

補足3
 日本証券アナリスト協会によれば、同協会の検定会員数は年々増加し、1990年3月に2千人だったものが、1999年3月には12万人強に達しているそうです。アナリスト検定会員の所属を業態別に見ると、証券23.1%、銀行17.1%、投資信託・投資顧問12.7%、生保・損保10.5%、信託銀行8.6%、その他(フリー含む)28.0%となるそうです。各業界に万遍なく行き渡っているようです。
 アナリスト全てが検定会員である必要はありませんが、現実には最低限のハードルと成っているそうです。投資家の信用獲得にも欠かせないそうです。それだけに、アナリストとしてのリサーチ力よりも営業力を問われるそうで、決して質の良くないアナリストが蔓延る原因になっているそうです。今後は改善されていくのでしょうか。

01.06.03

補足4
 アナリスト等のみを集めて未公開情報を事前リークする会合を、スモール・ミーティングと呼ぶそうです。アナリストの反応を事前に探ったり、下工作を依頼したり、有利なレポート作成を依頼したり、という下心があった開かれます。米国SECでは、選別的情報開示の温床だとして牽制しています。優遇は特権意識をくすぐることに成りますので、公平なレポートがされないという理由です。
 日本では、機関投資家優遇の姿勢が抜けきれないため、機関投資家に近いアナリスト・エコノミストに情報をリークすることが多いようです。少しずつ改善されてきていますが、まだ不十分な点が目立ちます。証券系アナリストらにとっては、その情報が会社に利益をもたらし、自分たちを潤しますから、尚更熱心です。今後は改善していく必要が高いと言えます。

01.06.03

補足5
 米国の証券取引委員会では、エンロン事件などを反省点として、アナリストの中立的立場を強めるための規制を導入するそうです。証券部門に所属するアナリストに対し、投資銀行(法人)部門からの働きかけを排除したり、アナリスト個人が収益分配を受けたりできない仕組みを作るのが狙いです。
 これまでは逆説的に、調査部門に属するアナリストが、投資部門の意向を強く受け、成果としての利益分配を受けていたということになります。大手証券では「すでに利益分配を止めている」と明言しており、規制は中小証券や大手金融グループを含めた周知徹底になる模様です。業界としては、アナリスト業務の透明化に必死ですが、それがアナリストとしての自由闊達な分析を妨げつつあるという批判もあるようです。

02.06.15

補足6
 補足1の関連です。米国証券取引委員会(SEC)は、証券アナリストへの優先的な情報提供を禁じるSEC規則レギュレーションFD、2000年10月導入)に違反したとして、初の摘発を行ったそうです。同規則は、一般投資家とアナリストとの間で情報格差が拡大し不利益を生じることを防ぐことを目的としています。これまで企業寄りの業績予想を公表するなどし、一般投資家を錯誤させるなどし、これの是正を目指しているとのことです。
 日本では上記のような規則が未導入のため、精彩を与えるには風説の流布で対抗するしかありませんが、アナリスト自身がその銘柄を売買して利益を得なければ、摘発の対象となりません。米国の今回の摘発では、優先的な情報提供を行った企業側に民事制裁金が課せられました。摘発された三社の一つであるシーベル社の制裁金は25万ドルとのこと。

02.11.30

補足7
 日本で中立のアナリストやエコノミストが育たない理由は、フリーでは食えない業種だからだそうです。どれだけ精緻に事実を分析する能力があったとしても、それに対価を払うユーザーが居ないとのことです。証券会社や雑誌会社などスポンサーの意向に従う人々は食えますが、それに逆らえばレポートを公表できず食えなくなる、ということらしいです。
 投資コンサルタントなどで食える人もありますが、あくまで特定の会員もしくは知人に対するサービスに限定されます。中には私益を追求してしまう人もあり、せっかくの能力が無駄に浪費されているようです。まず、良質で正確な情報に相応しい対価を払うことから、我々が取り組んでいかなくてはダメなのでしょうね。

02.11.30

補足8
 補足6の続きです。米国の証券取引委員会(SEC)やNY州・NY証取等の規制当局は、SEC規則違反として摘発した「証券アナリストの中立性問題」に関して、大手証券各社と和解したと発表しました。

 証券各社の調査部門に属するアナリストが、投資銀行部門での債券引受や企業買収を円滑に行わせるために、投資判断を甘くするレポートを書いていたというものです。ハイテクバブル期以降、個人投資家を軽視する風潮が広まり、アナリストを使った投資誘導を行っていたもので、結果的に個人投資家に損失を与えていたものを規制当局側が明らかにしたもの。
 証券各社は、アナリストの中立化(投資銀行業務からの切り離し)を徹底するほか、政府向け和解金(9億ドル)、第三者機関からの分析レポート購入費(4.5億ドル)等の合計14億ドル強を負担するそうです。また、これとは別に、新規公開株式を特定顧客に配分していた慣行も廃止されるそうです。営業部門等からの圧力については規程がないので、不利益なレポートを意図的に出させないなどの可能性は残ります。

 和解の対象となった大手証券10社は、ソロモン・スミス・バーニー、クレディ・スイス・ファースト・ボストン、メリルリンチ、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックス、ベア・スターズ、ドイツ銀行、JPモルガン・チェース、リーマン・ブラザーズ、UBSウォーバーグ。負担額はソロモンの4億ドルを筆頭に、UBSの8,000ドルまで各社各様。
 なお、ソロモンの親会社シティグループは、「和解は、不正や責任の証拠にも、それを認めたことにも成らない」との声明を出し、現在投資家からの訴訟が相次いでいることについて牽制したそうです。

02.12.31

補足9
 補足8の「証券アナリストの中立性問題」について、日本経済新聞2002/12/21朝刊に事例が紹介されていましたので引用します。
(1)ソロモンのアナリストが、実態にそぐわない投資判断を投資家に抱かせるレポートを出した。
(2)メリルリンチのアナリストが買い推奨している銘柄が、社内では「クズ」呼ばわりされていた。
(3)米国モトローラ社が特定のアナリストに極秘情報を優先提供していた。
いずれも日本国内でも同様の事例や疑惑がありますので、日本でも米国のレギュレーションFDと同様の規制が必要かと思います。

02.12.31

補足10
 補足9の補足になります。日本証券業協会は、アナリストの独立性確保の規制を整備するそうです。1月の理事会決定を経て、4月から適用する予定と報道されています。見直し案の骨子は、以下のとおり。なお、赤字は勝手に補足したものなので、認識が違っている可能性があります。

(1)社内審査担当者の審査項目として、レーティングの定義や目標株価の根拠などを明確化させる(根拠無いレポートの作成抑止)。
(2)アナリストレポートや社内審査の記録を3年間保存する(不正判明時の証拠保全)。
(3)レーティング対象企業と、証券会社やアナリストの利益が相反する場合は、その旨をレポートに表記(利益相反リスクの開示)。
(4)増資などの主幹事を1年以内に務めた場合は、その旨をレポートに表記(利害関係人リスクの開示)。
(5)上場主幹事となった企業のレポートを上場後10日以内に公表する場合は、レーティングと目標株価を表示できない(上場後の株価操作の禁止)。
(6)アナリストを投資銀行業務から分離し、適切な報酬体系を整備する(アナリストの地位・報酬の独立化
(7)主幹事等の引受部門の役職員は顧客企業にレポートの作成を約束できない(引受業務とレポートの独立化)。
(8)公表前のレポートを対象企業に通知できない(対象企業によるレポート検閲の禁止)。

 上記(1)〜(8)導入が実現すると、かなりアナリストレポートの独立性が担保できると思いますが、証券会社としては独自にアナリストを抱える必然性が薄れるように思います。なお、米国ではTV出演等をする際に、評価先企業との関係など個人情報を開示するそうですが、今回の見直し案では導入を見送るそうです。

03.01.03
前頁へ  ホームへ  次頁へ