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経済の研究No.156
バルクセールが変わった

#N3月期と1998年3月期には、大手銀行だけで元本3兆円以上の不良債権が、外資に売却されました。回収が絶望的なもの、権利関係が複雑で回収が難しいもの、回収コストに採算が合わないもの、担保不動産の運用利回りが見合わないものをバルク(固まり)にして一括売却したことから、バルクセールともて囃されましたが・・・。

■ 外資は、都合のいい受け皿
 先鞭を付けたのは、東京三菱銀行が元本50億円の不良債権を売却した事案だったと思います。同じ1997年3月期の決算では、さくら(4,900億円)を筆頭に、三和(3,000億円)・三井信託(1,700億円)・住友(1,350億円)・東海(1,300億円)の順で、バルクセールが実施されました(括弧内は概算ベース)。
 翌1998年3月期では、4,000億円以上が第一勧業・住友・三井信託・三和の4行、2,900億円の東海、2,300億円のあさひ・・・と目白押しでした。その他清算されたクラウン・リーシングが2,800億円を実施しました。公表通りの売却が行われたかどうか資料がありませんが、大手8行とクラウン・リーシングで2兆5,000億円に迫りました。
 売却先は主に米国の投資会社で、売却額は概ね元本の5〜10%という水準でした。発表された当時は、外資のボロ儲けだと言われましたが、外資もかなり苦労させられているようです。なぜ外資ばかりだったかと言えば、金融当局が外資相手にはノーチェックだったのです。国内企業相手に破格値で売却すると、会計操作だの利益供与だとの厳しいチェックを受ける面倒があったと聞いています。

■ なぜ、バルクセールか
 銀行は、不良債権の回収リスクに応じた引当金を積んでいます。しかし、引当金を取り崩して相殺できるのは、融資先が破綻した場合に限られます。事実上回収不能でも、融資先が破綻するまで処理することができませんでした。不良債権にも担保不動産が抑えてあるので、不動産で回収しても良いのですが、大幅に額面割れしている現実では、売ろうにも売れません。
 不良債権を担保不動産付きで売却してしまえば、売却損の形で清算が可能で、貸出先との融資関係も消えて無くなります。時価で売却できれば十分で、無駄な時間やコストを掛けずに済むメリットがあります。当然ながら売却損は引当金を取り崩して処理できますし、有税の対象に掛かりません。バランスシートから不良債権は消滅し、財務内容が好転します。自己資本比率は上がり、債権回収に割いていた人員をカットできるなど、良いことづくめでした。
 不良債権を買い取った外資は、元本が安くなったので、担保不動産から上がる賃料や、将来的に地価が回復した場合の差益などが期待でき、大いにメリットのある取引だったはずです。相互にメリットのあるバルクセールに、多数の投資会社が進出してきたのですが・・・思ったほどに利益が上がっていないようです。

■ 普通の不良債権でなかった
 外資は購入の際に、十分な査定をしたはずです。一等地の貸しビルなど好物件もあり、かなりの旨味を予想していたはずです。争ってバルクセールに応じた様子から、その積極性が予想されます。回収ノウハウにも自信があったはずです。
 しかし暴力団が絡んでいたり、怪しい金融業者と複雑な権利関係になっていたり、と簡単には行きません。米国的スタンスでは、法的措置で立ち退かせられるはずが、日本では立ち退かせられないのですから。またテナントも一癖二癖あって、賃料さえ納めません。
 また、屑物件もたくさん紛れていました。ガケ地や冠水地、囲繞地など本来担保になりそうにない物件が入っていました。もともとこうした屑物件は承知の上で、名目1万円などで購入しています。貸しビルなどで十分に補いが着くと踏んだのですが、回収は思うに任せず、管理費ばかり掛かってしまいます。
 暴力団が絡んだものでなくても、ダーティな案件も多数含まれており、こうした案件も名目1万円などで購入した形になっています。大手銀行は、かなり都合良く問題案件を押しつけてしまったわけです。したたかな外資にしては、大きな誤算です。

■ 外資はもう不要?
#Nは少しスタイルが変わります。横断バルクと呼ばれた手法がそれで、すでに大口案件を処理し終えた大手銀行が、複数行で不良債権を持ち寄って、公開入札で売却するバルクセールです。共同債権買取機構(CCPC)が事務局となり、1999年7月に4行合計で元本1,246億円を入札しました。9つの投資家が応札した結果、比較的高値で売却できたと報じています。
 地方銀行は、1億円未満の小口の不良債権が多く、地域的偏りが大きいことで、リスク分散を重視する外資に敬遠されていたようです。そこで、地銀10行程度の横断バルクセールを実施するそうです。計画通りなら2000年度早々の予定です。軌道に乗るようなら、今後も都銀と地銀の横断バルクなどに、手を拡げて行くそうです。
 また1999年には、整理回収機構(RCC)が健全金融機関からの不良債権買い取りを始めました。9月に行われた第1弾では、35金融機関の持つ元本1,384億円の不良債権を66億円で買い取ることが決まりました(毎日新聞99/06/23の論調では、外資に簿価の1割程度に買い叩かれていたものの回収率が上がるというものでしたが、フタを開けるとRCCも5%に買い叩いた(?)のでした)。
 預金保険機構の買取価格審査会は、安値になったことについて「多くが闇の勢力に関連した債権だったため、ただ同然になった」とコメントしていました。金額的には小さくなっているものの、ダーティな融資先の不良債権処理が、まだまだ続きそうです。たしか善良な借り手を保護するための公的資金注入だったと記憶していたのですけれど。また住友銀行が、1999年1月に自らバルクセールの買い手となるというリーフレットを、地銀や大手企業に配布してPRしているそうです。体力のある銀行は、下位行から利益を捻出するということですか・・・。
 大手銀行は、地上げの失敗で生じた虫食い地などのバルクセールを外資に打診しているそうですが、あまり旨味がないということで、そろそろ外資は撤退を始めていると聞こえます。1997年度以降の購入債権はどの程度回収が進んでいるのか、興味があります(公表されないでしょうけれど)。1999年末には占有に関する判例が、最高裁大法廷で逆転したことですし、外資にとっても明るい材料に成るのではないでしょうか。

■ むすび
 多くの融資資金が闇勢力に吸収されてしまったことは残念ですが、同じ過ちを繰り返さないで欲しいです。未だに相次いで破綻した地銀と闇勢力の癒着が指摘されていることですし、年末にはペイオフの1年延長が確認されたようですし、これからもバルクセールは必要なのでしょう。全ての尻拭いは公的資金という名の国税ですけれど・・・。
 不良債権に張り付いている不動産が、売却によって流通し始めるのは良い傾向です。一時的には相場を下げる要因として働くかも知れませんが、適正な価格に落ち着いた不動産から順に、市況回復へと動いていって欲しいものです。

本コラムの数値は、日本経済新聞ほかの記事から適宜引用しました
00.01.03
00.01.04(修正)

補足1
 バルクセールの発祥は、もちろん米国です。1990年代に米国で社会問題化した貯蓄金融機関(S&L)の担保不動産を売却する際に、整理信託公社(RTC)が導入した手法です。
 裁判所に競売を申し立てると、1〜2年の期間が必要なほか、安値で落札されやすいことや、コストが掛かりすぎる問題があります。銀行員が地道に債務者を回って回収する方法も闇勢力相手では難しいです。しかし未処理の不良債権である以上、回収の努力を怠るワケにも行かず、無駄なコストを生じていました。担保不動産の管理費もバカになりません。回収費や管理費を負担させる分だけ、売却価格は安く成りますが、早期に現金に変わるメリットもあって、積極的に取り組まれた様子です。
 ただバルクセールは、日本の銀行が自ら望んだのでも無いようです。米国の格付け会社が不良債権処理の進まない銀行の格付けを大幅に引き下げたことや、米国の金融当局からの働きかけもあったようです。外資としては、上手い商売に参入したつもりが、日本の闇勢力を甘く見てしまったということですね。

00.01.03

補足2
 なぜバルクセールで闇勢力に資金が流れるか、です。例えば、簿価1,000万円の不動産で5,000万円の融資をしたとします(本当は融資時から担保割れですが、相手が相手なので)。その後の地価下落で担保価値が時価500万円に半減したとしましょう。融資を受けた相手は担保を時価で処分された上で、4,500万円を返済する義務が残ります。
 ところが、これをバルクセールで名目1万円の売却価格にしてしまいます。外資は時価で転売して499万円の粗利益です。そして銀行と外資の間では、話が着いているので、融資を受けた相手は返済の義務無しです。4,500万円が丸々闇に消えてしまうわけです。
 バルクなので、外部から見ると5,000万円の債権が1万円で売られたことなど分かりません。外資は回収不能だったと言い張れば良く、口止め料499万円(手数料は必要だけど)で丸儲けです。銀行は闇勢力との関係を表沙汰にせず処理できるので、三者一両得ですね。政治家の紹介案件だったりすれば、政治家も首が繋がり、しかも感謝されるので、四者一両得・・・よく出来たシステムです。

00.01.03

補足3
 バルクセールで名前の出てきた外資は、メリルリンチ,ゴールドマン・サックス,バンカース・トラスト,ローンスター・オポチュミティ・ファンド,セキュリアード・キャピタル,ドイチェ・モルガン・グレンフェルほかです。

00.01.03

補足4
 日経ビジネス2000/01/24号が、少しだけバルクセールを取り上げていました。1998年3月期〜1999年9月期までの都銀9行が実施したバルクセール累計額は、4兆円に達するそうです。トップは三和銀行の7,000億円。第一勧業銀行、東京三菱銀行、さくら銀行、住友銀行が5,000億〜6,000億円台で続き、随分と大変なようです。
 ところで本文中に書きました屑物件ですが、整理回収機構は独自の回収が難しいとして都市基盤整備公団へ整理売却しているようです。公団では事実上塩漬けしコスト抑制と体の良い飛ばしに荷担していると言えましょう。誰が屑物件を担保に融資したのでしょうね。
 また暴力団絡みの物件ですが、整理回収機構は強気で臨んでいて何の見返りも払わないため、機構関連の物件での占有事件は減少しているとのことです。大手銀行はまだまだ弱腰でカモにされている様子ですが・・・。

00.02.11

補足5
 補足3で名前を挙げたローンスター(米国投資会社、ローンスター・ファンド)は、2月に日貿信から簿価ベース4,300億円の不良債権を購入し、残高が3兆円に迫っていると発表しました。残高を増やすことで回収効率を高めるのが狙いで、すでに手を引き始めている他の外資とは違って積極路線を展開するようです。今後は不動産鑑定などのノウハウを持つ日貿信の買収も視野に入れているそうです。

00.03.01

補足6
 経営再建中の商社・兼松は、簿価ベースで300億円の不良債権を海外の金融機関に一括売却したそうです。140件にも上る案件は、売掛金や受取手形などで、債務者のほとんどは倒産しているものだとのことです。こうした回収不能に近い案件を、バルクセールによって一括処理してしまうのが狙いであるそうで、売却金額は20億円程度と発表されています。
 購入する金融機関は積極的な回収を行わずとも、完全に清算された後の分配金で回収でき、通常10%前後と言われるリターンが見込めるようです。運用先が不足して資金が余っている海外金融機関にとって、待つだけでリターンの入ってくるバルクセールというのは買いやすい案件であると見えます。

00.05.05
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