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経済の研究No.155 |
新規公開株の渡り鳥 |
2年ほど前から散見されたのですが、新規公開株に群がって、公開と同時に売り抜けてしまう投機家が増えているようです。とはいえ、2年前の段階では、どの銘柄でもというのは難しく、店頭公開銘柄では初値が公募価格を下回るというケースも多かったようです。しかし1999年は、奇妙な店頭市場ブームがあって、ほとんどの銘柄で初値が公募価格を大幅に上回り、活況を呈しました。
■ 新規公開株のバブル相場
#Nの新規公開銘柄は、東証で10社(マザーズを含む)、大証で24社、名証で10社、店頭で73社でした。合計すると117社ですね。当然ながら、店頭市場での新規公開が目立って多いです。統計データは、どこかの経済誌さんが集計して下さるのを待つとして、そのまま進めます。
店頭市場ブームの牽引役は、インターネット関連を代表格とするハイテク銘柄でした。売上高の何倍もの時価総額を生み出す奇妙な相場は、利益が利益を生み出して、個人投資家を呼び戻すパワフルな相場に成っていました。実際のところ、店頭銘柄で時価総額云々を議論するのが誤りなのですが、それなりにパワーを生んでいます。
人気が集まれば、公募価格も初値も高くなります。公募価格は機関投資家に対するヒアリングで決めるブックビルディング方式が基本に成っています。機関投資家がイクラなら買うか、という目安なので概ね安く決まっています。かつてのように幹事証券が高値誘導するような入札方式で無くなったことは、新規公開株の信用回復に一役買っています。一応は同業他社の株価なども調整の材料に含まれているようですが。
ところが初値は、バリバリに上がります。その理由は、煽られ過ぎる人気です。公募価格が高く決まれば、優良企業だと提灯が点きます。安く決まれば、旨味が大きいとして同じく提灯が点きます。要するに公募価格はどうであっても、初値は公募価格以上になる神話ができてしまっています。公募価格の1.5倍・2倍が当たり前のバブル相場であります。
■ 新規公開株の渡り鳥
#Nに関して見れば、神話は崩れていません。公募価格以下で初値を付けた銘柄は数えるほどだと思います(下期はほとんど無いはずです。調べてません)。また店頭市場に流入している資金が膨大に膨らんでいるため、初値を付けた後も、もう一段高する銘柄も多かったのが特徴的です。従来は初値が高値で、あとは崩れるものも多かったので。
理由の一つ目には、不景気の最中ということもあって、対象が優良企業に限定されていることです。一昔前のように、証券会社に唆されて試みに店頭公開するという企業が減り、成長性の高い企業が増えています。二つ目には、公募株数や売出株数を絞り込んで、人気を大きく煽るケースも目立つことです。公募で入手できなかった機関投資家や取引先が、慌てて高値で買い求めようとするケースです。三つ目には、渡り鳥の存在があります。
渡り鳥は、公募には必ず応募し、手に入ったらすぐに初値で売り抜けます。投資価格の2倍以上に成るものが多く、高倍率の公募株を争って買う価値があります。投資リスクは考慮に入れず、手当たり次第に群がることになります。また初値で売り抜けなくても、数日は高値相場が続くことも多く、様子を見ながら売り抜けています。主に個人投資家ですが、経済誌でも取り上げ始めています。
渡り鳥は供給株の少ない中、公募で株を手に入れられなかった機関投資家が買い気配を切り上げてくるのを待つだけです。予め成り行き売りを指している渡り鳥もあるようです。自ずと短期で高値で売却でき、次の得物を物色することが可能になります。
■ マザーズの上場第1号
その典型的な例が、東証の新市場マザーズです。上場とは名ばかりの大甘な上場基準で、公募は1,000株以上であれば良いことになっています。上場第1号は、インターネット総合研究所(以下、IRI)とリキッドオーディオ・ジャパン(LAJ)の2社です。その公募価格は、1,170万円と300万円に決まりました。ともにネット関連という特殊性があるものの、額面5万円の株式に高い価値が付きました。
上場日の24日は、共に値が付きませんでした。売り物が殆どない状態で、買いは機関投資家と、追随する個人投資家で、圧倒的な成り行き買いでした。東証は「初値が付くまで値幅制限を緩和する」と発表し、早急に値合わせを行うと表明しました。
LAJは、翌27日に699万円(公募価格の2.3倍)で寄り付きましたが、その日のウチに599万円まで売り込まれ、そのままストップ安売り気配。翌々28日も続けて売られ、499万円ストップ安の比例配分でした。個人投資家の利益確定売りと報じられ、要するに渡り鳥の仕業ですが、大納会は649万円まで切り返しました。
対するIRIは、翌々28日に5,300万円(公募価格の4.5倍)で寄り付きましたが、もう少し高値が付きそうな地合ながら、LAJの連想に押された印象でした。その後5,280万円で取引を終えました。まとまった個人投資家の売りは出ましたが、IRIの成長性に期待する機関投資家の買いで吸収したようです。大納会は5,521万円のストップ高でした。
■ 渡り鳥対策が必要
新規公開株を公募で買って、初値で売る。これで儲かるので、渡り鳥はどんどん増えます。ますます公募株は当たらなくなり、初値が割高に成ります。市場原理だといえばそれまでですが、高止まりする株価は大きなリスクです。またLAJは後で切り返しましたが、リバウンドが大きすぎると、優良な安定株主候補も逃げ出してしまいます。今後の資金調達を考えると、大きな痛手になります。
もともとマザーズ上場企業の発行株式数は少なく(IRI,LAJともに13,000株程度)、店頭公開企業でもベンチャー系で歴史の浅いものも株式数の少なさが問題です。また公募株式数がある程度多くとも、人気を煽られ過ぎて、必要以上の高値が付いてしまいます。オーナー株主として、キャピタルゲインの旨味は大きくなりますが、今後も同水準の株価を維持する自信がない限り、高値に運ばれない方が賢明です。簡単な方法は、初値を抑えるために一定の売出を掛けることです。いわゆる冷やし玉というもので、流通株数が増えれば自ずと株価は沈静化します。また冷やし玉が出るとなると、ある程度渡り鳥も追随してきます。
また店頭市場やマザーズ市場として、公募価格の設定方法をもう少し考えても良いかも知れません。渡り鳥が増えるのは、公募価格が低めに決まるブックビルディング方式にあるわけで、機関投資家のヒアリングだけでなく、株式数が少ない場合の人気の煽られ具合を盛り込む算定方法もあるはずです。また冷やし玉についてのアドバイスなどもあって良いでしょう。
■ むすび
市場は投資の場であって投機の場ではないはずです。公募の時点で、安定株主に株式が渡るような改善を求めます。そのためには市場や証券会社が連携し、同時に株式を新規公開するオーナー株主とも連携していくべきだと思います。
00.01.03
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補足1
今は順調に店頭市場に資金が流入しています。2年前の低迷がウソのように、物色が盛んです。手数料自由化とネット取引が追い風に成っていると思いますが、あくまで店頭バブルに大量の資金が流れ込んでいるだけです。バブルが崩壊すると、個人投資家の多くは逃げてしまい、再び沈んでしまう懸念があります。
必要なことはオーバーヒートさせないことだと思います。市場が冷え込んだときに、株価の暴落でダメージを喰うのはオーナー株主です。人気先行で異常な高値から始まると、適正な株価水準が定まりません。当然に崩れればノンストップです。また安定的な株価上昇と利益成長を伴っていかない限り、安定株主対策はできません。
個人株主は株価が下がり始めると、すぐさま売り逃げしてしまいます。渡り鳥は最初から利ざやを得ることしかアタマにないので、すでに公開してしまった企業の株式は興味の範囲外です。流入している資金は多いのに、全く市場として成長しないという現象が起きている今は、明らかに異常です。
00.01.03
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補足2
もともと新規公開株のバブルを手掛けたのは、米国系ヘッジファンドだと言われています。ブックビルディングで決まる公募価格と、人気を煽った場合の初値とのギャップを利ざやとして抜き始めたのだそうです。ところが、これが好サイクルであることに気付いた渡り鳥が群がった結果、公募価格での株式入手が困難になり、ヘッジファンドとして割を喰っているとのことです。情報源の豊富さを生かして、店頭公開から昇格上場する銘柄に絞って、利ざや抜きに専念しているとか聞きますが、本当のところはどうなのでしょうか。
00.01.03
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補足3
′�30日現在のLAJの時価総額は843億円、IRIの時価総額は7,300億円です。時価総額とは企業価値を決める判断指標ですが、有効に機能するのは本来過半数以上の株式がオーナー株主から機関投資家や個人投資家へ渡っての話です。10%ほどの株式を公開したところで、人気沸騰している株価から算定した時価総額は架空の数字に過ぎないです。現実に全株式を売却するとなれば、株価は大崩れてしまいます。
一種の錬金術ですが、金に見せ掛けていられるのはバブルの間だけです。高株価をバックにして、企業業績をどんどん引き上げていく必要があります。巨額のキャピタルゲインに奢り、経営の本質を忘れてしまったなら、公開株を買わされた株主にも、社員にも、オーナー株主にも、みな不幸です。多額のキャピタルゲインを本業に再投資するのなら、それはそれで素晴らしいことですが・・・。
LAJの1999年6月期の業績は、売上高5,200万円、営業利益はマイナス2億6,200万円、最終利益はマイナス3億600万円です。将来性への期待感だけで時価総額843億円が妥当かどうか・・・。
IRIの1999年6月期の業績は、売上高7億2,500万円、営業利益は7,100万円、最終利益は1,700万円です。前期の1998年6月期は売上高4億900万円、営業利益1,300万円、当期利益が400万円です。たしかに成長はしていますが、時価総額7,300億円が妥当かどうか・・・考える必要がありそうです。
まず投機家(渡り鳥)を排除して、健全な株価形成システムを作らなくてはダメでしょう。
00.01.03
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補足4
マザーズがようやく上場基準を見直すようです。ナスダック・ジャパンがナスダックよりも上場基準を厳格にしたこと、上場第一号の8社(スタンダード新規上場が3社、グロース新規上場が1社、他市場から乗換が4社)が全て黒字化を実現した企業であること、ネットバブルが弾けたこと、などを受けて反省を踏まえた見直しに成りそうです。
日本最大手の東証が手を出したにしては、あまりにも投機的な市場は相次いで上場企業の株価が値崩れたという事もあって、投資家を育てたい新規上場企業には避けられかねないとの判断も働いているようです。本当に見直されるのなら、良い話なのですが・・・。
00.05.20
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補足5
これまでマザーズ上場の銘柄はいずれも流通株式数が少なく、異常な高値を支える渡り鳥の存在が許されました。しかし、マネックス証券では上場を前にして発行済み株式数を2万株から130万株にまで増資を実施し、不当に株価が高止まりしない仕掛けを実施するそうです。
ソニーなどが出資するネット証券のマネックス証券は、8月初旬にマザーズへの上場を行う予定です。上場と同時に個人投資家向けに売り出す新規公募株を、全てネットで販売する考えで、この点でも意表をついてくれます。マネックスがマザーズの健全化に一石を投じてくれることに期待します。
00.06.25
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補足6
東証の土田理事長は、マザーズの上場基準が緩いとの指摘に対して「上場前の設立経過年数や黒字会社の割合だけで論じるのは適当でない。早期の資金調達を可能とするマザーズが1部や2部と役割が違うのは当然で、今後の中長期的な企業業績も踏まえて健全性を論じるべきだ」とコメントをしたそうです。
確かに妥当なコメントですが、マザーズ設立当初の記念セレモニーのあり方や、その後の上場のゴタゴタ、株価の乱高下などを招いたことへの反省の弁はなかった模様です。また「中長期的な企業業績」について、必要十分な審査を行ったのかどうかも言及されていません。とりあえず設立後1年未満の企業の上場は認めないということに成りましたが・・・。
00.06.25
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補足7
黒字企業を中心に順調な滑り出しを見せたナスダック・ジャパンですが、新興銘柄への関心を失った投資家に見捨てられて、公募価格を下回る銘柄が相次いでいるようです。さすがにマザーズほどの過熱感はないようですが、それだけ投資家が賢くなったのでしょうか。
一方で、幹事証券会社が公募価格の引き下げに躍起であるとの話も出ています。出せば売れた時代が去り、割安感を打ち出さなくては売り切れないことに危機感を持っているためです。証券会社はオーナーを説得して公募価格の抑制を訴えたり、公募株式数の抑制を求めるものの、大きなキャピタルゲインを望むオーナーの抵抗もあり、なかなか大変であるそうです。安易な上場を許してきたツケですけれど・・。
00.06.25
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