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経済の研究No.149
マネー・ロンダリング

 マネロンなどと業界では呼ぶそうですが、直訳すれば資金洗浄です。不公正な手段で手に入れた資金を、公正に得た資金に見せかけるために、過去を洗ってしまうことです。不公正な手段で手に入れた資金とは、麻薬や恐喝で稼ぐマフィアや暴力団の資金である印象が強いですが、金額的には脱税資金、海外不正送金資金などの方が多いと聞きます(摘発されるのは氷山の一角だからです)。

■ アングラマネー
 麻薬や恐喝で稼いだ資金は、その出所が明らかになると犯罪摘発に直結します。そのため厳重に洗う必要があります。脱税資金は、発覚すると所得税や法人税の追徴を受けるほか、悪質であるとして重加算税が適用されます。海外不正送金資金は、日本では入金よりも出金の方が多いようです。不正送金は個別では企業絡みが大きいですが、全体では諸税を収めない不法就労賃金などが大きいと言われています。最近も不正送金を非合法に請け負う地下銀行が摘発されました。
 これら不公正な手段で手に入れた資金は、アングラマネーなどと総称されます。つまりアンダーグラウンドマネー(地下資金)ですが、本当の地下ではなくウラ経済へ潜ってしまったという程度の意味ですね。オモテ経済のマネーは、一応ノーマルマネーと呼んでおきましょうか。
 アングラマネーは、そのまま死蔵されて使う機会を待っている場合と、相場などに投入されて運用される場合と、小口に分けて使われてしまう場合とがあります。死蔵は銀行強盗や身代金誘拐で紙幣番号から犯罪が発覚する危険の高いものが中心で、あるいは純金・無記名債券などに変えて非常時に備える場合もあるようです。相場、小口については後述します。
 しかし、アングラマネーが経済を支えている点は見過ごせません。あの手この手で表に出てこようと掻くこともありますが、とくに相場に流入しているアングラマネーは、直接間接に相場を流動させ、ハイリスクな部分で経済を支えることが多いところです。当局はアングラマネーへの監視を強める傾向にありますが、実際のところ監視を強化すると、死蔵される割合が増えたり、海外へ運ばれて流出したり、国内市場の受けるべき利益を逸失してしまうこともあります。

■ 資金の洗い方1
 まず小口の場合は、企業活動に誤魔化す方法が一般的です。バーやスナックを経営し、そこで飲食させたことにして店の収入に見せかけます。誰が使った金かは記録に残らないので、非合法な金が合法な売上げに化けます。利益が出れば法人税ですが、組織のメンバーの給与ほか人件費に紛らせてしまう方法が有効です。警察当局の知るところですが、税務署が監査に入りにくいとして、法人税や所得税のチェックもお座なりであることが、近頃公表されました。マルサは違いますが、一般の税務署員には無理な相談でしょう。
 もう少し大がかりに成れば、企業舎弟(組織のメンバーで、企業を事実上運営)を使った商業活動があります。架空の商品や無価値の商品を右から左へ動かしたことにして利益を計上し、資金を洗います。これも法人税の対象になりますが、貸倒れなどを上手に演出して、組織に洗われた資金が環流するようにしています。これらの資金は非合法を合法に変えただけで、依然としてアングラマネーですが、企業を通して資金を使う限りにおいては表のノーマルマネーですし、あの手この手で法人資産を個人資産に振り向ける手法が駆使されていると言います。給与や配当の形を取ってしまえば、完璧です。

■ 資金の洗い方2
 大口になると相場ですね。相場で儲けた金であれば、元金の出所がはっきりしている限り安泰です。まず手持ちの資金でタネとなる株式や商品を仕込みます。つぎにアングラマネーで買い上がって、ピークで売り抜けます。その後相場は崩れてアングラマネーは大損ですが、税務署や金融当局の目は儲けにしか向かないので、合法的にアングラマネーがノーマルマネーに化けます。
 従来はシテ相場が中心で、普通○○系の資金が入っていると言われますが、それでも中小証券の外務員などを通して注文が分散されるため、実際のところは分かりません。洗う上で重要なポイントは、その相場に外部の介入を最小限とすることです。たとえば、発行株式数や浮動株式数が少ない企業株式や、参加者の少ない先物商品を選ぶのが有効です。
 しかし最近では、もっと簡単な方法があります。2年前から上場企業の破綻が相次ぎましたが、その屑株が毎日のように物色されて、結構大きな取引になっています。もちろん興味本位で参加する投資家も加わっていますが、そこへかなりのアングラマネーが流入しているようです。昨今の例から見て、破綻企業の株式に価値が残った例はありません。ですから最低価格の1円前後であるはずですが、なぜか数十円まで値上がりしたりします。1円になる時点でほとんどの株式は売却されてきますから、それを全部タネで仕込んで、その後は高値で売ればよいのです。1円が2円になるだけで資金は2倍です。証券会社を小口で複数に分ければ、現在のところ掴む手だてがありません。

■ 洗浄は規制できない
 一応、日本ではマネロンを規制する施策があります。銀行口座や証券口座の開設には身分証明書の提示を求めていますし、所定金額や所定取引量を上回る取引でも、本人の確認をすることを義務づけています。しかしこれらの規制は有効に機能していません。株式でも商品でも業者に出入りしている外務員や契約社員がありまして、彼らは表向き代理人となって取り引きするために、本当の出資者を確認する手法がありません。あるいはプライベートファンドが介在していて、出資者の顔が見えないというのも仕手系では多い話です。
 また銀行口座の開設制限は、不正送金を防止することや脱税を摘発する意味しか無く、厳密なマネロン監視には役立っていません。専ら架空の家族名義で口座を開設する顧客を排除する程度の役割しか果たせていないようです。
 海外ではスイスの銀行が大きな壁です。彼らの運用する資金の多くには、アングラマネーが混在していると見るべきですが、守秘義務を楯にして明らかに成りません。またオイルマネー(アラブの王族、石油成金などの資金)や華僑マネー(金持ち中国人の資金)、ノーブルマネー(英国の公侯爵などの資金)などと言われている資金でも、彼らが仲介手数料を取ってトンネルしている可能性は否定できません。彼らの資金が麻薬などハイリターン取引に使われている場合もありますので。極端なところではヘッジファンドがあり、これはプライベートファンドですから、その出資者が明かでありません。仮に明らかになっても、タックスヘイブン(有名なのはケイマン島)に名目の本社があるペーパーカンパニーであったりして、実体が掴めないことが多いです。
 結果として、資金が大きくなればなるほどに、アングラマネーを監視すること、マネロンを防止することは不可能になるということですね。

■ 規制強化は経済に波及
 韓国は一時期マネロンがやり放題でした。巨大財閥の跳梁跋扈、大物軍人や政治家の暗躍など、アングラマネーがノーマルマネーを喰いかねない勢いであったということです。しかし、アングラマネーの存在が韓国経済を大きく押し上げたことも事実で、規制を強めたことが韓国への投資意欲を減退させる一因に成りました。表向きは高賃金不況などと言われていますが、アングラマネーの撤退&流出が引き金に成ったようです。
 日本も規制強化に乗り出しています。とくに麻薬資金など海外の非合法資金が直接流入することへ監視を強めています。これは米国の要請が強いこともありますが、実際のところ、米国当局は国内でのマネロンやアングラマネー流入を黙認している様子です。それでなくとも国際的に流通するドル紙幣は動かし易いです。規制が絡まなくとも面倒な日本市場より、簡単な米国市場でアングラマネーが活況を呈しているようです。
 米国でもアングラマネーの跳梁跋扈は規制したいでしょうが、その流出による市場崩壊が一番怖いところです。ヘッジファンドに対する規制の声が強い反面で、どうも手心が加えられているように見えるのは、その背後にある雑多なマネーへの配慮があるようなのです。諸外国にアングラマネー規制強化をさせることによって、一人勝ちした側面も見逃せません。

■ むすび
 結論として。マネロンは、やはり認めるべきでないでしょう。規制を緩和して市場に積極的に取り込んでも、健全な市場形成には役立たないので、隣の芝生が青かろうが、規制強化は好ましいことです。日本の金融当局が取り組むべきは、その根元にあるアングラマネーの発生を抑制することであり、治安当局との連携による非合法資金の摘発、税務当局との連携による脱税資金の摘発、税関当局との連携による不正資金移動の監視強化、など頑張って欲しいです。
 しかし、電子マネーの時代がやってきます。どこかでアングラマネーを電子マネーに変える組織が混じってしまうと、もはやマネロンも何も無くなってしまいます。電子マネーには色が付けられないですし、実体のないデジタル情報なので、金融当局には頭の痛い問題となるでしょうか。

99.11.20

補足1
 マネー・ロンダリングを防止するためと称して、これまで厳格な運用が進められてきた本人確認が、緩和されるそうです。具体的には、口座開設のために提示させている運転免許証などを、現物提示でなくコピーの送付で代えられるようにする緩和です。銀行や証券会社で実施している本人確認は業界の自主ルールであるため緩和でなく規制導入ですが、現物提示を求める根拠が損なわれるため緩和になります。
 コピー送付で代えられるようにすれば、仮名口座や借名口座が再び増えるのは自明の理。アングラ・マネーに手を染める連中ほど、コピーの偽造は得意技です。金融庁は、虚偽の申し出などに罰金等で応える意向ですが、効果については疑問とする声も強いようです。

 なお、上記自主ルールは徹底されていないこともあり、すでにネット系銀行などでは現在もコピー送付で代用されています。必要なのは入口監視よりも出口監視であり、不自然な送金や入金が発生している口座を監視する手段を設けることが先決です。まずタックスヘイブンなど国際的に解決すべき問題に着手してみてはどうでしょうか。

02.05.19
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