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経済の研究No.147 |
商工ローンだけが悪者か? |
ついに「商工ローン」に捜査のメスが入りました。商工ローン最大手日栄の東京支店ほか3カ所に対して、警視庁が強制捜査を行い、関連書類を大量に押収したものです。強制捜査の根拠は、千葉市内の男性が日栄の元社員を恐喝未遂容疑で告訴したためですが、男性が元社員と日栄の両方を告訴対象としたことを受けて、着手された捜査です。
しかし、上場企業を相手にして、企業イメージを大きく傷つけかねない強制捜査に、安易に着手していないでしょうか。本来なら元社員の事情聴取を終えて、企業幹部を呼んで任意の事情聴取をして、それから家宅捜索だと思うのですけれど、別件捜査ではないかという疑念が残ります。「商工ローンは社会問題化しているから」というのは説明になりません。
本当に、商工ローンだけが悪者なのでしょうか?
■ 組織的犯行かどうか
脅迫まがいの取り立ては、貸金業法が禁じているところです。サラ金による強引な取り立てが目に余ったことが原因でした。サラ金業者の多くは消費者金融業者に衣替えし、表面上は強引な取り立てを行わなくなりました。今回の容疑が、元社員が個人の判断で行っていたか、企業として元社員に指示を与えていたか、で事件の様相が変わってくると思います。
日栄と業界二番手商工ファンドは、高利で貸し付けた資金を、連帯保証人から巻き上げる手法に長けていると言われています。事前に公正証書を作成するなどし、強制執行も辞さない姿勢で迫ってくると言うことですが、むしろ合法の枠内ギリギリで営業している印象が流布されていますので、今回の脅迫まがいのトークは少し意外な感じがしています。連帯保証人の担保能力が見込み違いだったのでしょうか。
元社員が債権回収担当として十分な成績を上げられず、すでに退社しているという状況下から見て、組織的犯行として立件できるかどうか、難しい感じがします。捜査の行方に注目したいと思います。業態としては若い部類に入るようなので、少しアナクロな取り立て手法が残っているのかも知れません。消費者金融が表向きは強引な取り立てを行わない成熟さを持っているのに対して、急拡大中の商工ローンでは未熟さが残っていると見るべきなのでしょうか。
いずれにせよ、元社員は自分のトークが脅迫容疑となるとの認識を持っていたことは間違いがありません。不成績を挽回するために脅迫的な行動に出たのか、常態的に脅迫まがいな債権回収をしていたのか、その辺りにも注意が必要ですね。
■ 「商工ローン」は悪者か?
まず、「商工ローンは悪者ではない」と始めなくてはダメですね。日栄と商工ファンドは大手ですが、商工ローン全体が同じ様な営業手法を採用しているのではありません。商工ローン業者は、あくまで商工業者を対象に事業資金を貸し出す金融機関であって、良心的な金利設定で立派に商工業者を助けているローン業者も沢山あるのです。
不況の影響で、銀行は中小の商工業者に貸し渋りを行ってきました。ただ貸さないばかりでなく、融資打ち切りや引き揚げを平気で行ってきました。その動きは都銀や地銀ほど顕著なものでした。資金繰りに困る商工業者は、ハイリスクでも資金を貸してくれる商工ローンを使わざるを得ません。システム金融などに填められる商工業者が多いことも同じことです。
しかしローン業者としても、銀行が全く相手にしなくなった商工業者に融資するのは、勇気の必要なことです。単なる繋ぎ融資で有れば良いのですが、融資資金が確実に運転資金に消えていくのでは、意味がありません。共倒れに成ります。そもそも健全な商工業者には銀行が融資するのですから、ローン業者の融資相手はハイリスクな相手に限られます。自ずと連帯保証人を要求しつつも高金利を提示せざるを得ません。
日栄と商工ファンドは、ローン業者の一員であったわけですが、より忠実に、より悪辣に活動することによって、他のローン業者よりも大きく成長したという分けです。商工ローン全体が、法外な金利・論外な回収手法で、巨利を稼いでいるのではないのです。最大の被害者は、日栄と商工ファンドによって業界全体を悪者にされてしまった、ローン業者でしょう。
■ 驚異的な成長を遂げた、大手二社
日栄は1970年創業、商工ローンは1978年創業で、新興のローン業者ではありません。日栄は1993年12月に大証へ上場し、現在は東証と京証にも上場しています。商工ファンドは1997年10月に東証二部へ上場しています。いずれも歴とした上場企業である点が注目されます。
また日栄は、松田社長・松田専務とファミリー企業で過半数の株式を抑えていますが、大株主にチェース=マンハッタン、ゴールドマンサックス、住友信託、ステートストリート&トラスト、第一勧銀・・・と大物金融機関が顔を並べています。同様に商工ファンドは、大島社長の個人会社が過半数の株式を抑えて、ステートストリート&トラスト、チェース=マンハッタン、ゴールドマンサックス、バンカートラスト、住友信託・・・と大物金融機関で固められています。
これは50円額面の株式のピーク株価は、日栄で16,200円・商工ファンドで47,300円を付けた高人気であり、日栄で年75円・商工ファンドで年100円(1997年と1998年は、それぞれ記念配込みで300円でした)の高配当であるだけではありません。その業績の著しい伸びが評価されてのことです。日本の機関投資家の場合、業種で銘柄を選別する傾向も示しますが、外国の機関投資家は「お金にきれいも汚いもない」として純粋に投資効率で選別しています。
日栄の業績は、1995年3月期の営業収益687億円・最終利益133億円から、1999年3月期は営業収益1,104億円・最終利益325億円となっており、最終利益では2.5倍に成長しています。商工ファンドは、1995年1月期の営業収益223億円・最終利益33億円から、1999年1月期の営業収益618億円・最終利益146億円となっており、最終利益では5倍近くに成長しています。わずか3年間での急成長が高く評価され、その評価が信用拡大に連動してきたのです。
■ 成長を遂げた理由は?
驚異的な成長を遂げた理由を考えてみます。一番目には、ノウハウを蓄積して高い回収率を誇るようになったことがあります。要するに債権回収をより効率的に行う工夫を開発したと言うことですね。債務者や連帯保証人からすれば、取り立てから逃れにくくなったということに成りますか。
二番目には、長引く不況で客が増えたということです。次々に新しい客を開拓し、融資額を増大させることが可能だったからこそ、営業収益が拡大したのです。多くの社員を採用し、営業手法を磨き、積極的なアプローチを行った成果ですね。
三番目には、イメージ戦略が図に当たったということです。日栄のウェブサイトをご覧になると分かりますが、非常に好印象を持たせる配慮がされています。また、報道番組を中心に高視聴率が稼げるTV番組で、CMスポンサーに成っていました。そのほか、株式上場していることや、外資の大株主が名を連ねていることも、企業の格式を高めていたようです。
しかしこれが、肝心です。四番目には、潤沢な資金が銀行から融資されていたことです。1999年7月現在のデータですが、日栄は3,510億円・商工ファンドは2,680億円の融資を金融機関ほかから受けています。そのうち、大手銀行(都銀と信託)が日栄に1,240億円(シェア35%)・商工ファンドに240億円(同8%)も融資しています。つぎに、外国金融機関が日栄に890億円(同25%)・商工ファンドに1,790億円(同67%)も融資していることが目立ちますが、これは大株主の筋から出ているのでしょうか。
■ 背後には、大手銀行の影が・・・
ハイリスク・ハイリターンを知っている外国金融機関が多額の融資を行うことは理解できますが、ローリスク・ハイリターンを求める大手銀行が多額の融資を行うことは理解できません。そもそも自分たちではリスクが大きくて融資できない商工業者だけを相手にしているローン業者に、大手銀行が融資を行うとは何事でしょうか。ハイリターンを得るためには、ハイリスクを自ら冒すべきなのです。
本来、大手銀行が商工業者に健全な融資を続けていれば良いのです。自らリスクを冒すことになりますが、商工業者の各々への融資額は小さいため、融資先を上手に組み合わせてリスク分散を図っていけば、統計的に十分なリターンが得られるのです。現実に日栄と商工ファンドは多額のリターンを得ており、ノウハウで及ばない大手銀行でも高いリターンは確保できます。間接融資よりも高いリターンが期待できる以上、リスクを冒す価値はあるでしょう。
大手銀行は自らリスクを冒さない手法が大好きです。消費者金融にはサラ金時代から融資していましたし、住専や系列ノンバンクも身代わりでリスクを被らせるために利用しました。自らは、消費者金融・住専・ノンバンク・商工ローンを介して間接融資を行い、それぞれが転んだら慌てて資金を回収するという愚を繰り返しています。自らリスクも犯さない限り高いリターンを得ることはできない、ことを学習していません。未だに安い預金金利・安い融資金利でアップアップしているのが実状です。
前途のある商工業者は、(1)銀行に融資を絞られる、(2)商工ローンに追いやられる、(3)身動き取れず破綻する、の構図です。銀行には日本の産業を支えていく気概があるのかどうか、非常に疑わしいです。その気概がないので有れば、銀行はたかだか一事業会社であって、公的資金注入やペイオフ凍結や国有化など公的保護を与える必要は全く無いことになります。
■ 一番の悪者は、金融当局
しかし一番の悪者は、当然ながら金融業界を監督する立場にあった、金融当局です。現在大手二社が荒稼ぎしている問題には、早くからメスを入れるべきでした。どう計算してみても、法定金利では貸していません(融資総額を年利何%で回せば、発表されている営業収益が得られるでしょう?)。その融資先で倒産しているケースが多いことや、連帯保証人に返済を迫っている事例が際立って多いことは、統計処理すれば一目瞭然です。高い債権回収率を誇っていることに強引な手法が使われていることも、容易に推測できることです。
日栄や商工ファンドは、金融当局が注意を与えないから、安心して営業してきたのです。おそらく弁護士や会計士とも相談して、どこまでは合法か、どこまでは当局が大目に見るか、を検討してきたはずです。言わば「ローン業者に、法解釈上の落ち度はない」はずです。社会問題化してから、高い金利はダメだ、連帯保証人を追いつめてはいけない、などと法理に合わない指導を口にしても始まりません。
日栄や商工ファンドは、連帯保証人を欺瞞していたと伝え聞きます。おそらく事実でしょう。しかし、何と説得して連帯保証人としたか、は実のところグレーゾーンです。そもそも連帯保証人を説得するのは債務者本人であって、ローン業者ではありません。連帯保証人が付かなければローン業者は貸さないだけです。要するに、欺瞞したのは債務者です。債務者は結局借りたいだけ借りてパンクするのですから、貸すローン業者よりも、借りる債務者の方が悪いのです。
金融当局は、そうした不透明な連帯保証人の設定などについて、十分なチェックを行うべきだったでしょう。欺瞞によって連帯保証人を確保させていたとすれば、それは立派な詐欺です。詐欺罪として立件するのは困難ですが、詐欺の疑いで調査すると宣言すれば、ローン業者はより合法的な方向へ舵を取ったでしょう。
たしかに、日栄や商工ファンドは悪者です。でも、商工ローンを選択せざるを得ないほど貸し渋っておきながらも、裏では利益を掠めている銀行の方が悪者です。そして悪者達を跳梁跋扈させながら、惰眠を貪ってきた金融当局の方が大悪党です。銀行救済に手が一杯だった・・・なんて理屈は通りませんよ。
■ 本当の悪者は、債務者?
しかし繰り返しますが、本当に悪いのは債務者です。債務者は、どうしても事業を続けたくて商工ローンやシステム金融に手を染めます。しかし高利の資金を借りて返済計画が立つはずがないのです。目先の資金欲しさに高利のローンに手を出す債務者の責任は重大です。しかも、連帯保証人に隠れて債務額を膨らませて、最後にはパンクしてしまうのが、一番の悪事です。連帯保証人は債務者を信用して保証人に成るのですから、無断で債務額を膨らませたり、夜逃げなどをするのは論外です。
そして、ようやく被害者として認知され始めた連帯保証人の皆さん。あなた方も本当は悪いのですよ。まず、影で債務保証額を膨らませたり、債務保証額が膨らんでも事実を告げに来ない債務者を、どう思われますか? そういう債務者を信用してしまった自分に問題を感じませんか? 情に絆されて保証人になった自分に問題を感じませんか? 結局あなた方を騙したのは、債務者本人です。ローン業者の責任を追及されることは、社会的には良いことですが、それは連帯保証人に成られた皆さんの反省もあってのことです。
昔から言うではありませんか、「どんなことがあっても、他人の保証人に成るな!」と。個人ローンの保証なら保証額は知れていますが、法人ローンの保証なら青天井ですから、そこのところは債務者にも連帯保証人にも油断がありすぎます。日栄や商工ファンドは、その油断に付け入っただけに過ぎません。
99.11.02
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補足1
今回は超長文で申し訳ありません。前半を削ろうかとも思いましたが、そのまま掲載しました。
商工ローンの定義が見つけられていませんが、「中小の商工業者を相手に資金を融通する金融機関であって、ノンバンクであるもの」という定義になるでしょうか。伝統のある手形金融、法人向け証券金融、システム金融、悪徳街金(いわゆるトイチ金融など)も含まれるという認識でいます。厳格な定義をご存じの方がありましたら、ご指導をお願いします。
99.11.02
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補足2
日栄と商工ファンドへの大手銀行の融資額は膨らんでいますが、大手銀行が国民に公約した中小企業への融資はサッパリ進んでいないそうです。1999年3月までの計画を達成しなかったのは、大手13行中8行にも上っていますし、13行合計でも計画を下回っているそうです。アリバイ作りに中小企業への融資額を増やしてはいるようですが、やはりリスクを取りたくないと言う意識が先行しているようですね。だいたいノルマを課して融資を増やさせるという金融当局の考えが甘いのですが、緩めに設定されたノルマさえ果たさなかった大手銀行の責任は指弾されるべきですね。
そもそも注入して貰った公的資金で、せっせと国債を買っていたのですが・・・今でも国債のままで持っているのでしょうか。低利長期で借りられた資金なのですから、少しはリスクアップ・リターンアップの融資に振り向けてはいかがでしょう?
99.11.02
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補足3
金融監督庁が摘発を横目で見ながら、ようやく監督業務に向かい始めたそうです。日栄と商工ファンドに融資している金融機関13行の担当者を呼んで、詳細な報告を求めたということです。国内では、日栄のメーンである第一勧業銀行、三菱信託銀行、大和銀行、東海銀行、東洋信託銀行、富士銀行、さくら銀行、安田信託銀行の8行で、信託銀行が多いのが目を引きます。外資では、商工ファンドのメーンシティバンク、メリルリンチ、パリバ、ING、UBSの5行で、シティバンクは両社に1,200億円もの融資をしているそうです(本文中に挙げた大株主とは別の外資であるようですね)。また第一火災海上保険も対象となっているそうです。しかし、各行には各行なりの投資スタンスがある上に違法行為ではないので、適切な処置かどうか不明です。
また日栄に対して、債権回収マニュアル、回収実態報告書、元社員の恐喝容疑に関する報告書の3点の提出を求めたと言うことです。とくにマニュアルは、警察の強制捜査で存在が確認された後での話になります。マニュアルは警察が押収したもののほか、新入社員の研修用に作成したセールストーク集などもあるそうです。
さらに監督庁に「中小企業向け貸金業者問題対策室」を設置し、参事官以下27名という大人数を配置して、組織的な貸金業法違反行為を監督させるようです。同室は違反行為を摘発して、業務改善命令や業務停止命令を発することとされますが、遅きに逸した感があります。
99.11.05
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補足4
日栄の社員数は、1999年3月現在で2,245名だそうです。1999年の採用数は500人だという話で、業容拡大中ながら少しばかり異様な大人数です。かなり厳しい貸出ノルマと回収ノルマを課している様子が読みとれます。成績の悪い社員は、社長自ら叱責を加えたとの話もあり、長く務まらない社員が多かったようです。一方で、採用後短期間で支店長など幹部への抜擢もあり、ノルマさえクリアしていけば地位と収入が保証される勢いもあるようです。
ノルマが厳しくなれば、のんびり顧客を捜したり説得したりしていられないのかも知れませんね。日栄では、電話だけでセールスを行っていた社員がいるといい、当然ながら対面しない不利を恫喝や脅迫で埋めていた可能性があります。
あるいは福岡地裁で争われた事件で、一社に対して、6年間で融資と返済を70回も繰り返して、実質的に法定金利を大幅に上回る利息を得ていたそうです。地裁は70回の取引は1回の取引であると認定し、日栄側が主張した未払い利息は存在しないとの判決を下しました。
余資ができた債務者が、前倒し返済を要求しても応じなかった例も報告されており、自らが強い立場にあることを利用して、やりたい放題を尽くした社員もあるようです。ただし組織的犯罪かどうかは、疑問を感じます。あくまで各自に手法を編み出していったのではないでしょうか。
99.11.05
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補足5
日栄は、取引金融機関へ取引継続を求める文書を配布し、つなぎ止めに必死であるそうです。取引金融機関の実名が公表されてイメージダウンに巻き込まれたほか、金融監督庁ほかからプレッシャーが高まっていることが原因であるようです。すでに新規融資を中止する動きも出ていることから、資金ショートによる破綻回避に全力を挙げたいということでしょう。
これまで日栄と商工ファンドは、直接金融への途も模索しており、手形金融部門では債権の証券化に取り組み始めています。間接金融の大部分を占める金融機関からの融資が早晩細くなることを見越していたわけですが、有効に機能する前に著しいイメージダウンと経営危機が訪れたことで、取引金融機関にお願いを続けるしか方法がないようです。
しかしノンバンク・住専のときと同様ですが、金融機関の逃げ足は素早いですね。本来であれば、商工ローンの健全化に手を貸すべく助言を与えるべき立場にありながら、火の粉が富んでこないウチに撤収とは虫の良い話です。すでに大きく成りすぎた日栄と商工ファンドは、できれば規模を縮小しつつ堅実な営業に切り替わって欲しいところです。大手商工ローンの消滅は、業界全体に波紋を拡大して、商工業者への資金提供者が不在になる可能性もあります。
また稲葉・日商会頭は商工ローン問題が「どこが法律に触れるのか冷静に吟味しなければいけない。銀行から低い金利で借りて高い金利で貸すことは違法ではないが、資金繰りに困った人から見れば異様な姿と映る実態を(金融機関は)認識していないのではないか」とコメントしたそうです(毎日新聞99/11/05朝刊)。
99.11.06
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補足6
東京国税局は商工ファンドに税務調査に入り、11億円の申告漏れを指摘したそうです。これは債務者や連帯保証人が不動産などを保有し、債権の一部回収が見込まれるものについても貸倒損失を計上していたもので、貸倒損失を不当に膨らませることで損金計上を行い法人税を小さくしていたというものです。修正後の貸倒損失を見る限り、商工ファンドでの貸倒は1%未満にあるようで、消費者金融を上回る高い回収率を誇っているようです。
ちなみに消費者金融の貸倒率は、武富士1.35%、アコム1.30%(ともに1999年9月決算)であるそうです。2000年3月期は大手各社が増収増益の見込みを発表しており、個人向けローン37兆円市場でも、相変わらず美味しい営業が続けられているようです。
99.11.06
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補足7
日栄の松田社長には、野村銀行(現在の大和銀行)で勤務していた経歴があるそうです。その後退職して大卒の学位を取り、北陸銀行へ入行。その後独立して貸金業を始めたということです。「300万円というのは、顧客が何とか返せる額や。ウチは広く浅くいくんや」(週刊朝日99/11/19)というのがモットーで、始めは小口(でもありませんが)に専念したそうです。
途中から金の魔力に取り付かれたのでしょうね。貸出残高と利益を膨らますには沢山貸すのが早道というわけで、根保証や連帯保証人担保など悪徳への途を邁進したと言うことでしょうか。その松田社長は、参議院の参考人招致でも堂々と自らの哲学を披露したと言うことです。現在のところ厳しいバッシングを受けていますが、株価は一進一退、意外に市場は社長のしぶとさに賭けているようです。
さて週刊誌が相次いで紹介しているのは、政財官の各界にばらまかれていた付け届けです。当然と言えば当然ですが、ここまで政財官が大目に見ていたのも当然といえましょう。ここへ来て政界や官界が制裁を口にして、金融機関が資金回収へ向かっている背景には、世論が乗っているウチにトドメを指したいというのが本音ではないでしょうか。松田社長のこと、雑誌のインタビューで付け届けの金額や相手先を喋りかねません。早いウチに社長退任など寄り切って仕舞わないと、火の粉が飛びかかってくると怖れるかのように迅速な対応です。
世論を背景に沢山の訴訟が提起されています。ややブームのきらいがありますが、判決が出てくるのは当分に先です。果たしてバッシングの勢いを借りて、勝訴が相次ぐでしょうか。高利資金の借り手、保証人のなり手が一方的に被害者だと言い張ることができるかどうか、難しいところです。個別の事例では行きすぎの社員も多いようですが、組織的犯罪と認定できるかどうかは当局次第ですし、そこに政治的要素を持ち込んで欲しくはありません。
99.11.12
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補足8
日栄の松田社長は、世論の突き上げによって、業界団体「全国貸金業協会連合会」の会長職の辞任を申し出て、承認されました。連合会は、出資法と貸金業規制法の改正案原案を自ら纏めて発表し、政府・与党にたたき台を提供しました。詳細は、第4回「街金の金利は高すぎる」の補足を参照して下さい。業態別、融資額別に上限金利を段階設定するという斬新なものです。加えて、貸金業規制法に違反した場合の行政処分を盛り込み、抑止力を働かせるものに成りそうです。
99.11.16
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補足9
大阪高裁が、日栄を巡る民事訴訟で、相次いで和解勧告を出している事実が明るみに出ました。これまでの地裁レベルでは、書類の様式が整っているとして、商工ローン側に有利な判決が相次いでいましたが、このところの風当たりを受け、判決ではなく和解によって早期解決を求めていると言います。もちろんながら、債務者側に有利な和解条件と見られます。正式な裁判を経ることなく、圧力によって問題の封じ込めを進める高裁のあり方には疑問もあります。自ら明瞭に判決文を書いて欲しいところですが・・・。
しかし最近では、債務者側が勝訴するケースが増えているのも事実で、債務不存在や慰謝料請求などで商工ローン側が敗訴するケースが多いようです。明日18日には高松地裁で債務不存在の係る事件の控訴審判決が下ります(一審では日栄が敗訴)。
99.11.17
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補足10
月刊「金融ビジネス」2000年1月号には、商工ローン問題取材班による素晴らしいレポートが掲載されました。外資の問題、保証人の問題、融資契約の問題、貸倒率の問題などデータも交えて分析・報告されています。とくに債務者が悪者であることを指摘している貴重なレポートです。
記事の中で興味深いのは、外資の融資シェア拡大の様子が1992年から1年ごとに纏められている表です。これによれば、今吊し上げられている国内銀行のうち、第一勧業銀行・三菱信託銀行・さくら銀行・大和銀行は、いずれも融資総額を膨らませていないのが見て取れます。むしろ外資系の融資シェアが2〜3年で急増しているのが目立ちます。
商工ファンドの場合、多額の融資をしていたシティバンクは、1997年1月に71億円、1998年1月に284億円、1999年1月に965億円、1999年7月に1,238億円と大きな伸びを見せています。商工ファンドの資金増大をシティバンク1行で支えていた構図です。1999年7月のシェアは、単独で40%です。外資全体では1997年1月の12.3%から1999年7月の66.6%へと5倍以上の伸びに成っています。
日栄の場合、それほど極端でないものの、外資系のシェアは1997年3月の16.9%から1999年9月の30.52%へ2倍近い伸びです。金額ベースでは、537億円から996億円へと大幅増です。国内大手銀行の融資残高はほぼ横並びで、お互いに牽制し在った結果か、日栄の側から遠慮したのか分かりませんが、新規の資金需要は外資系によって充たされたのですね。
また別の表では、商工ファンドと日栄の貸倒率が比較されています。商工ファンドは、1995年以降概ね1.5〜2.5%の貸倒率で、1999年7月はなんと0.6%という好業績です。日栄は3.8〜4.0%の貸倒率でしたが、訴訟多発の影響もあってか1999年3月は6.0%という高い貸倒率です。子会社の日本信用保証に貸倒案件を貯め込んでいたとも紹介されていて、商工ファンドよりも若干回収下手だということでしょうか。これが回収ノルマに拍車を掛けてきたのかも知れません。
99.11.25
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補足11
日栄の金利の実体が、日栄幹部から報告されました。表面金利は20%を切るものの、別途契約手数料と日本信用保証の保証料を上乗せして、実質金利は年30%に達していたそうです。手数料や保証料を抑えた上に連帯保証人を取るとは、悪辣です。
加えて補足4にあるように、同じ一本貸しなのに、担保手形を差し替える都度、元本に金利を上乗せした金額を新たな元本に切り替えており、数か月単位での差し替えで雪だるま式に元本が増え続けていたことも指摘されています。数か月複利のため実質年利は40%を超えていたりもしたようです。
99.11.25
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補足12
本文中とは別の日栄元社員が脅迫的な取立行為を行っていたとして逮捕されました。容疑は恐喝と貸金業規制法違反(取立行為の規制)です。警視庁生活経済課は、貸金業規制法の両罰規定を適用して、使用者の管理責任を持つ日栄を立件する方向で、本社や社長宅の家宅捜査を11月26日に実施しました。これまで噂の域に留まっていた、全部又は一部の営業停止処分がありそうです。金融業の登録取消という厳しい意見もあるようですが・・・。
また債務不存在など次々に訴訟が提起され始めています。一種のブームとも言え、世論がバックにあるウチに、いくらかでも被害を回収しようという動きが見えます。いろいろ背景が異なるはずでもあり、原告側の主張ばかりを採用せず、公正な裁判が続けられることを願います。
99.11.29
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補足13
大阪地裁が、手形小切手での取立禁止を求めた仮処分申請を認め、禁止決定を行いました。原告は13年間も法定金利を上回る利息を払い続けたと主張し、不当利得金返還訴訟を起こす予定で、訴訟中に不渡りが発生することを回避する目的です。地裁は原告の主張を正当なものと認めた格好になった。
原告は極めて長期間取引関係にあったわけだが、13年前に日栄から50万円を借りたのが発端で、その後年間400〜500万円を支払うまでになり、現在も借入金残高が1,400万円あり、法定利息を大幅に上回る金利を支払い続けたのだということです。債務者がパンクまで至らず、債務者自身で訴えている点で、新しいケースです。
99.11.30
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補足14
読者の方から、「商工ローン」の定義を教えていただきました。商工ローンはあくまで俗語で、法律上は貸金業者です。生みの親は、日栄・松田社長説と、地方の零細企業説があるそうです。以下非公式の定義によれば、
●中小零細企業の短期運転資金を
●手形で貸し付ける
(日栄は手形貸付、商工ファンドは金銭消費貸借契約で手形は取る)
●システム金融や、日賦業者、マチ金などは含まないようだ
●専業は日栄、商工ファンドの大手二社(とはいえ手形割引もしている)
シンキやイッコーなどが準大手
●新規参入のアイフルは「事業者ローン」に改称
●東京都民銀行やアメックスの「商工ローン」は上記分類と中身が異なる
ということです。ご丁寧にありがとうございます。
また「法務リスク管理が徹底していた商工ファンドにとって(アンチ商工ローンの判決方向は)痛いのではないか」とのコメントも頂戴しました。このテーマも含めて、商工ローン第2弾を執筆中です。
99.12.12
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補足15
かなり外堀を埋められてしまった日栄は、過酷な取立を行っていた日本信用保証が別会社であることを口実にして、防戦に出るようです。日本信用保証は実質的には日栄と一体ですが、表向きは別法人です。日栄の債権を日本信用保証へ移転し、回収も日本信用保証が行っていたというのがその理由です。今回逮捕者を出したのも、正確には日本信用保証の社員であるとして、貸金業法の両罰規定を適用されても日栄本体は生かす戦略と見えます。
しかし事実上日栄本体の社員が回収に乗り出していたほか、返済金の振込口座に日栄の口座を指定していた社員もあったそうで、一体性の認否は不透明です。加えて日栄本体に、他の貸金業者から借りた資金で返済させた社員があるなど、別の貸金業法違反の問題も浮上しており、結局は日栄の業者登録取消は避けられないかも知れません。
少し遅れていますが、この現状で商工ローンそのものが縮小することは好ましくないため、コラム「商工ローンを潰すな!」を執筆中です。
99.12.21
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補足16
合わせまして、第154回「商工ローンを潰すな!」もお読み下さい。このまま金融当局や銀行、政治家の意向に委ねていると、零細な商工業者は全て潰されてしまいます。必要なことは懲罰ではなく、商工ローン業界の健全化と、商工ローンに変わる受け皿の設立です。ご意見、ご感想もお待ちしています。
99.12.26
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