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経済の研究No.145
インパクト生む自虐的CM

 最近は自虐的CMというのが流行であるそうです。「ほのぼの」「豊かさ」「力強さ」「優しさ」など前向きなCMで良い企業イメージを定着させようという路線が多かった中で、自ら後ろ向きなCMで強烈な企業イメージを植え付けようという目的があるそうです。

■ 大阪では当たり前、ウケたら勝ち
 自虐を売り物にするのは、大阪芸人の専売特許(古い言い回しですね)です。芸人がCMに登場して、商品を貶す、会社を貶す・・・などで強烈なインパクトを生んできたりしました。あるいは社長や重役など素人がボケをかますようなCMも流行りました。「ウケたら勝ち」という大阪、あるいはその近郊では有効な宣伝方法であったでしょう。
 しかし多くの場合、マイナーな企業、マイナーなTV局のCMが中心でありまして、一流大手企業が全国区で自虐的CMを流すなど信じられない話でした。アレは大阪人あるいは関西人だけに通じるもので、東京人はじめ全国区では通用しないと考えられてきたはずです。つまり、広告のタブーであったということです。

■ セガの自虐的CM・・・
 過去にもあったかも知れませんが・・・全国区の自虐的CMで話題をさらったのは、セガのドリームキャストでした。「セガなんて、ダッセーよな〜」と本物の重役が登場して扱き下ろすユニークなシリーズCMでした。やはり保守的な大人達には抵抗を持たれたようですが、ファミコン世代の子供達には大ウケし、CMだけは大ヒットを飛ばしました。
 どちらかと言えば(CSKに買収されてからと言う意味で)新興の元気あふれるセガならではの大勝負で、登場した重役氏も大人気を博しました。その後、商品の出荷が遅れると土下座をしたり、ネタ振りだけかと思わせながら本当に重役氏を降格して見せたり、とCMを仮想世界に終わらせなかったところも見事でした。現在も国内市場では苦戦していますが、子供達に与えたインパクト、その影響で大人達が受けたインパクトは大きなものだったようです。

■ セガに続け・・・?
 その後もサントリー,東総信,エア・ドゥなどで自虐的CMが続いているようです。サントリーは、人気タレントに自社ビールを「不味い」と言わせています。企業イメージアップのために人気タレントを抜擢し「美味い」と語らせてきた従来路線から、方向転換ですね。東総信は社名変更を周知させるために、そのお通夜を演出してみせるCMだとか。東総信は以前から一風変わったCMで、社名の印象付けを狙ってきた企業でしたが、合併を機にあっさりと社名を捨ててしまいました。
 エア・ドゥは少し路線が違っているようです。駅構内に「AIR DOをつぶせ!」という大きなポスターを掲示して目を引きました。このポスターはインパクトがあります。横240cm×縦75cm程度の大判広告で、左方にエア・ドゥが登場した当時の新聞の見出し、右方に最近の新聞の見出しを映し込んでいます。要するにマスコミの烈しいバッシングを跳ね返そうという決意を示したもののようです。
 エアドゥは続編を出し同サイズのポスターに「AIR DOはこのままで委員会?」と題して、これまで貢献してきたと自負している項目を掲載しています。シリーズものでインパクトを得て、顧客の支持を引き戻そうという算段でしょうか。残念ながら繁忙期の料金引き上げを発表することに成りましたが、それほどまでに大手三社とマスコミの攻勢に曝された厳しさを訴え掛けるようなインパクトを持っています。

■ 今後の展望
 当面は自虐的CMを作る企業が増えるかも知れません。CMそのものの印象が強烈であることは証明されており、消費者間で口コミの宣伝効果も生んでくれるでしょうから、それを期待した作品が楽しめると思います。しかし、陳腐化を避けようとするとエスカレートもするでしょうし、一部にウケたとしても消費者の大多数を敵に回してしまったのでは、意味が無くなる恐れがあります。コピーライターの腕前が試されるでしょう。
 自虐的CMに限らず、奇抜なアイデアというのは冴えるものですね。その企業の事業内容や商品内容とかけ離れたものであっても、アイデア次第で強く印象づけることが可能です。インターネットという媒体も増えたことですし、それなりにアイデア勝負という面は強まってきているようです。一流大手企業も、これまでの好感度重視路線を転換する必要があるでしょう。
 相変わらず人気タレントや人気キャラクターを起用している旧態然な宣伝方法は、金融機関に多いですね。タレントやキャラクターの影響でイメージアップに成功したものの、自らの不祥事や金融危機でイメージを崩してしまった金融機関が多かったように思います。しかし、企業が本来の自分と違うところでイメージのアップダウンを生じるのは奇異なことです。本当は中味で勝負して欲しいと思います。

■ むすび
 一流大手は一流なりの中味で勝負するべきではないでしょうか。そろそろ宣伝広告費の多寡だけで、現実に則さないイメージ戦略だけで、消費者を誤魔化すようなCMは見直す時期に来ていると考えます。中味に膿が溜まっているのだとすれば、奇抜さを求めない限りにおいて本物を表現できるのだとすれば、あるいは自虐的CMで「観せる」のもいい方法かも知れませんが・・・。

99.10.25

補足1
 本稿の元ネタは、月刊「金融ビジネス」12月号の「金融CMランキング」から頂戴しました。書き落としましたので、補足とさせていただきます。
 自虐的CMはインパクトはあるものの、企業イメージに対してはマイナス面の方が大きいというのが定説です。それなりに知名度が上がっている企業については、必ずしも自虐的CMでウケを取る必要はないかも知れません。ただ、インパクトを社内に加えるのが目的であれば、やはり必要かと思います。ぬるま湯体質など弛みがちの社風に成っているのであれば、社員に喝を入れる意味合いで有効かも知れません。

99.10.28
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