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経済の研究No.144
プリンストン債の詐欺疑惑

 9月に唐突に降って湧いた「プリンストン債(以下、プ債)」事件は、未だに解明されていません。ただ漸く見え始めている輪郭は、日本企業を対象にして確信犯的に資金を集めた詐欺事件に発展しそうだと言うことです。断片的なニュースを集めて、少し整理してみたいと思います。

■ 私募債・・・始めは普通の金融商品
 事件の発端は、9月16日に償還される予定だったプ債が履行されなかったことです。この聞き慣れない金融商品は、私募債と呼ばれるもので、少数の投資家を対象にして販売される投資商品でした。日本では多くの商品が公募債ですが、投資顧問を称する怪しい集団が金満家を対象に発行していることはあるようです。いわゆるプライベート・ファンドです。
 プ債の発行人はプリンストン・エコノミック・インターナショナル社(以下、PEI)ですが、その支払いを保証していたのは、同社会長のアームストロング氏であったそうです。国内だけでも1,200億円以上も販売されたプ債を、一個人が保証できるはずもなく、現在50億円足らずといわれる残存資産を分け合って返済を受けるしかない状況です。
 日本でプ債を手掛けたのは、クレスベール証券東京支店(以下、ク証)です。1991年から販売を始めていましたが、本社が経営難に陥って1995年に支店だけPEIの傘下に入りました(補足1を参照)。その後はプ債のみの販売に特化していたそうです。単なる仲介というよりも、元売りだったということです。
 プ債は確定金利商品と投信類似(運用実績型)商品とがあったそうで、後者は年利30%を超える高配当を出していた時期もあったと言います。また1993年頃からアームストロング氏が派手に宣伝されるようになり、その正確な予測が評価されていたのだそうです。ただし、アームストロング氏は先物相場で巨額の損失を出した前科もあり、今回もレバレッジの高いデリバティブに手を染めていたようです。

■ 投信類似商品を「飛ばし」に売り込む
 一時期は好調だったアームストロング氏も、再び巨額の損失を出したようです。その時期は1998年8月の金融危機で、これまで分別管理がされていた顧客資産がアームストロング氏の運用口座へ移されたそうです。この時点で詐欺を働く意志を固めたものと思われます。
 プ債の先行きを見切った海外投資家はプ債から資金を引き揚げ始め、あわてたアームストロング氏は日本企業への売り込み攻勢を強化したようです。引き揚げられた資金は最低でも700億円以上で、金融危機は脱出しても挽回の機会が得られなかったということです。
 プ債を保有していた企業は75社を超えるということですが、その保有金額もマチマチながら、確定金利商品を保有しているのか、投信類似商品を保有しているのか、まだ明らかになっていません。前者を保有しているのは、以前からプ債を保有していた企業が多いようで、元利保証の利回りは2.5〜5.0%水準だったそうです。問題が大きいのは後者の保有でしょう。
 後者は極めて博打的投機商品です。普通の経営者なら二の足を踏むところですが、「資金の公正な運用、顧客資産の管理について監査法人の監査を受けている」「日銀・大蔵省の許可も取っており、公認会計士も認めている」「利回りは30%のときもあれば70%もある」など虚偽のセールストークで安心させた上、企業が抱える含み損失の飛ばしに使えることを言葉巧みに誘い、さらに財務担当者に高率のバックマージンを提示していたことなどが明らかになっています。
 結局のところ、私募債という元本保証など不可能な商品を、無邪気に信じて購入した日本企業の甘さが指摘されます。加えてバックマージンなどに吊られて犯罪に荷担した財務担当者などに対して注意監督を怠った責任も指摘されます。今回200億円以上も保有していたアルプス電気グループの場合、長期保有だったと言いますが、リスク分散に対する配慮も無かったという素人さが指摘されます。

■ おそらく回収はおぼつかない
 プ債を保有していた企業は、相次いで今期決算での損失計上を発表しています。回収見込みが立たないことから全額償却する意向を表明している企業がほとんどで、中電工130億円、ヤクルト本社70億円、丸善56億円など巨額の赤字で無配転落なども続出しています。
 問題は、これから多少なりとも資金回収が可能かどうかです。FBIはアームストロング氏の身柄を一時拘束し、PEIが多額の海外送金を行った事実を掴んでいるそうです。1998年3月以降に送金をク証から送金を受けた787億円を含めて、世界各国の口座に971億円を送金しているそうです。大部分は海外顧客への返金と見られますが、一部はアームストロング氏の隠し資産に化けていると見ているようです。
 隠し資産が発見されれば救いがありますが、一部がブラックマーケットへ流れたという見方もあり、そもそもアームストロング氏は相場に失敗したのでなくアングラ市場へ資金を横流ししたという穿った見方もあります。いずれにせよ、回収原資は簡単に得られません。ク証は、自身も3億円程度のプ債を抱えている上に、販売資金をほぼ全額送金しているようで、資産を全く持っていません。
 あとは財務担当者にばらまかれたというバックリベートでしょうか。なかでも、ヤクルト本社の財務担当者だった熊谷元副社長は、1,057億円の財テク失敗の責任を取って辞任しましたが、自身は巨額の個人資金を運用して利益を上げていたと言われてきました。今回、その個人資金の元手がク証の支払った5億円以上のバックリベートだったそうです。

■ むすび
 今回の事件では、被害が法人に留まったことが救いでしょうか。それにしても、バブルが弾けた今になっても財テクに巨額の資金をプールしていた企業の経営責任が問われそうです。とくに私募債に数十億円を超える資金を注ぎ込んでいた感覚は理解できません。「巧みなセールストークに騙された」で済む規模の話ではないので、株主代表訴訟などで経営者の責任追及を行って欲しいと考えています。

99.10.16

補足1
 クレスベール証券東京支店は、名前こそ支店ですが、すでに世界中探しても東京支店しかない奇異な法人です。ク証はロンドンを発祥としていましたが、親会社の経営破綻で行き詰まり、PEIが東京支店と香港支店に資本参加して経営を引き継いだそうです。その後、香港支店も金融規制に耐えかねて廃業し、東京支店のみになったそうです。
 大蔵省は1988年12月に免許一号と免許二号を与え、1992年に免許三号、免許四号を与えており、ク証は歴とした国内証券会社となっています。PEIが資本参加した1995年にチェックは入らず、今回の破綻に至りました。しかし営業実態はプ債の販売に特化していたそうで、金融監督庁の監督責任問題に発展しそうだとのことです(出典:週刊エコノミスト99/10/05)。

99.10.16

補足2
 ヤクルト本社の熊谷元副社長は、バックリベートの受取を否認しています。しかし国税庁が税務調査を実施した結果、個人的な財テクで得た1億6,000万円の所得申告漏れが見つかるなど、巨額の個人資金を保有することが明らかになっています。ヤクルト本社には巨額の損失を与えながら自身は資産形成に余念がなく、その一部に損失を与えた見返りに得たバックリベートだとすると・・・刑事責任も含めて厳しい追及が求められるでしょう。熊谷氏の辞任に当たって、厳しい追及を避けた当時の経営陣の責任も再び俎上に上がってくるかも知れません。

99.10.16

補足3
 プ債の販売はク証がほぼ一手に引き受けていましたが、ワールド日栄証券や勧角証券、和光証券など数社も販売していたそうです。中電工の130億円分はワールド日栄が販売した分で、こちらは「リスクや商品説明が不十分」だとして販売責任を問われることもありそうです。中堅証券にとっては経営破綻しかねない巨額のため、動向が注目されます。
 PEIは国内で複数の証券会社に販売委託を打診したそうですが、その中身が不透明で多くの賛同は得られなかったようです。そうした中で扱ってしまった中堅証券の判断というものが問われるのではないでしょうか。高額の手数料を提示されたものと見られますが、そこまでして資金を集めたがっているファンドを疑わないというのでは、素人だと言われても仕方がありません。

99.10.16

補足4
 プ債の運用実績は、毎月1度レポートされていたそうです。レポートでは順調に実績が積み上がっていて、粉飾だと気付かなかったと被害企業は釈明をしています。たしかに監査がない商品であれば粉飾も簡単ですし、本来は分別管理されているはずの顧客資産が勝手に移動されていても気付かないですね。
 しかしそこを深読みして投資をするか、あるいは相当のリスクは覚悟して集中投資を避けるか、独自の調査や情報交換を徹底するなどして常にプ債やク証に関するウォッチングをするべきではなかったでしょうか。

99.10.16

補足5
 補足2について補足しますが、少しソースが確かでないので、注釈として書きます。熊谷氏はバックリベートの受取は否定していますが、5億円の提供を受けたことは認めているとのことです。この5億円はケイマン島(タックス・ヘイブン)に設立した熊谷氏のペーパーカンパニーに入金されているそうですが、氏はコンサルタント料として受け取ったと主張しているとのこと。
 ちなみにバックリベートの相場は1%だったそうで、氏の取り分は若干多いです。一番大口ということもありますが、彼が日本企業への食い込み方を指南した可能性があります。外資にしては日本企業への食いつき方が上手ですから・・・。また氏は国税庁OBですから、さまざまな財務操作にも詳しかったのではないかとの指摘もされています。でも脱税はバレたのですね。
 また氏の個人蓄財は13億円に上っているそうですが、これには上記5億円は含まれていないとのこと。現在確認中ですが、もしそうなら財テクの原資は他にもあったということなんでしょうか。
 また、1,000億円の損失が明るみに出た当時のプ債は、収支トントンであったそうで、今回の70億円が丸損だとのことです。損失が出た時点でプ債の処理をしておけば、ヤクルト本社も二次損失を出さなかったはずですが、なぜ残したままだったのか疑問に感じます。

99.10.17

補足6
 リベートに関して、色々な傍証が出てきています。
 ク証がヤクルト本社に販売したプ債代金のうち、3%がアームストロング氏、1.25%がク証の瀬戸川会長、0.75%が熊谷元副社長に支払われていたという証言があるようです(月刊「金融ビジネス」12月号)。事実だとするとク証も共犯だと言うことになります。この旨味があったからこそ、ク証がプ債販売に特化したと言うことなのでしょう。
 また財務担当者へのバックリべートは、現在のところアルプス電気、カシオ計算機、SMC、キッセイ薬品工業でも確認されたそうです。いずれも現金500万〜6,000万円という水準ですが、まだ他にも発見されそうです。

99.10.21

補足7
 リパブリック・ニューヨーク証券(以下、リ証)の関与疑惑も持ち上がっています。分別管理されていたリ証預かりの顧客資産が、運用者のアームストロング氏の口座に移転していたことは、不自然です。私募債とはいえ、資産管理と運用管理を別々に行うことによって私募債のセーフティが担保されるのですから、そのセーフティをリ証自ら放棄したことは、顧客から見て契約違反あるいは業務上横領に認定されるかも知れません。
 リ証のPEI担当者が、アームストロング氏の古くからの友人だったという噂も流れておりますが、事実だとするとリ証の責任も問われることに成りそうです。その場合、リ証が損害賠償を被って経営破綻の可能性がありますが・・・どう反論して責任回避に出てくるのか興味を感じます。

99.10.21

補足8
 証券取引等監視委員会は、クレスベール証券東京支店に対して行政処分を行うよう金融再生委員会と金融監督庁に勧告しました。監視委員会は(1)特別の利益を提供することを約束して勧誘する行為、(2)有価証券の売買その他の取引に関する虚偽表示、(3)虚偽の記載をした取引報告書の交付、(4)有価証券を売却する場合における引受人の信用供与、に問題があったとしています(ロイター報道)。
 勧告を受けて金融監督庁は、ク証に対して業務停止処分を行う方針を固めたと報道されています。期間は2〜3か月とされていますが、事実上プ債しか扱っていなかった同証券には意味のない処分かも知れません。少なくとも現在の社名のままでは、相手にしてくれる法人や個人があるとも思えません。あくまで形式的処分ということに成るのでしょう。

99.10.22

補足9
 補足8の行政処分ですが、金融監督庁はリベートが証券取引法違反に抵触するとして、ク証に対して2か月半の業務停止を命じたそうです。合わせてリベート販売の事実上の指揮を取っていた瀬戸川会長と他1名の取締役に対する解職を命じたと発表されました。瀬戸川会長は、これまでに受け取っていた3億円近い「隠れボーナス」が指摘され、所得税の追徴を課せられるのだそうです。

99.10.28

補足10
′�29日、27億2,100万円分のプリンストン債を購入していた北兵庫信組が経営破綻しました。資本金4億円弱、預金高447億円の小規模金融機関には致命的だったようです。同信組は1998年3月に22億円分購入し、1999年4月に5億円分追加購入していたそうです。おそらく1年分の架空実績に満足して追加したものだと思いますが、金融機関として怪しげな金融商品を鵜呑みにした責任を問われそうです。
 これまで事業会社を中心に注目されていましたが、金融機関でも保有している実体が明らかになりました。10億円強もの投資資金が棄損することは、中小の金融機関にとっては致命的で、そうした金融商品を多額に保有している危険を指摘しなかった兵庫県の責任も問われるかも知れません。北兵庫信組は兵庫県に経営破綻を届け出て、金融管財人の選任を受けました。

99.10.29

補足11
 ヤクルト本社のプリンストンに絡む損失が、さらに23億円増加すると発表されました。すでに売却していたファンドの清算金を受け取っていなかったことが理由で、合わせて93億7,300万円という巨額の損失に上っています。ヤクルトグループは、本社と香港子会社で計406億1,000万円分の購入実績があることも明らかにされました。経営陣はこの異様さに配慮していなかったことに成ります。

99.10.29

補足12
 補足1の一部を訂正します。ク証は東京支店のみと書きましたが、一応本社があるそうです。ただしケイマン島に本籍のあるペーパーカンパニーです。事実上PEIですので、やはり東京支店そのものがPEIの実質子会社というスタイルは変わりません。
 またアームストロング氏の経歴ですが、国内で当初紹介されたのはプリンストン経済研究所の会長で、「経済危機を度々予言してきたカリスマ的ディーラー」(月刊テーミス11月号)との触れ込みだったと言うことです。海外では怪しい投機家との評判の方が妥当であったようですが、国内ではその事実は誰も書かなかったようです。少し情報収集をすれば手に入る情報であったそうですのにね。
 「飛ばし」についても補足すると、10億円の金銭信託が実質的に3億円まで目減りしていた場合でも、10億円額面のプリンストン債と交換することは、法律上合法であったとのことです。償還時に高利回りで10億円以上を返すという証拠の債権ですが、表向きは10億円で評価できたというので、法律には盲点が多いようです。

99.11.01

補足13
 アームストロング氏の前科というのは、1989年に無登録で商品取引顧問業を手掛けて米国商品先物取引委員会から制裁を受けたとするものです。投資顧問業は米国証券取引委員会に登録が必要でしたが、アームストロング氏も当時からあったPEIも無登録で営業していたそうです。
 アームストロング氏は、若い頃から相場観があり、商品市場予測は高き確率で当たっていたと言うことです。日本のメスメディアはその商品市場予測の精度だけを宣伝して、制裁を受けた事実は報道していなかった(あるいは要請に基づいて隠蔽した)のかも知れません。ある種の詐欺師の片棒を担いでしまった責任は、問われるのでしょうか。

99.11.02

補足14
 詐欺の線が濃くなったことを受けて、最近は「証券投資者保護基金」の問題が注目されなくなりました。同基金は1998年12月に国内証券会社とは袂を分かって設立されたばかりです。その会員は外国証券会社ほか54社であって、ク証も加盟しています。ク証が被害者で、かつ投資家への瑕疵も無いことが証明できれば、プ債保有企業は基金から損失補填を受けることが可能なのだろうと思いますが、現実にはク証も加害者である様子なので、一部で報道があるように基金による補填はないのでしょうか。
 今回のプ債被害に関しては、財務担当者がリベートを受けて結託していた場合と、損失隠しのために運用実績型に手を出した場合と、元利保証を無邪気に信じて騙された場合とに分類できると思います。それぞれに応じて基金の保護対象とするか否かを議論するべきであり、無邪気に騙された層は一応損失補填を受けても良いのではないかと思います。もちろん事件の全てが解明されたあとでのことですが・・・。

99.11.02

補足15
 補足10の補足です。プリンストン債を幸福銀行、なみはや銀行も購入していた事実が公表されました。合わせて50億円程度と報道されていますが、実損額は不明です。両行のバランスシートがさらに悪化することになりそうです。これから保有が公開される金融機関が続くかも知れません。
 補足9の補足です。行政処分にともなって、クレスベール証券の役員会は3日、瀬戸川会長と、販売担当取締役の解職を決定しました。これにより、次は背任容疑他でク証から訴訟を提起される可能性が発生します。

99.11.04

補足16
 補足7の補足です。リパブリック・ニューヨークが英国の大手銀行HSBCへ売却されるそうです。リパブリック株式を29%保有するサフラ名誉会長は、その売却益33億円のうち10億円をプリンストン債事件絡みの和解費用としてHSBCへ寄託するそうです。やはり運用管理上の問題で損害賠償を受けるものと判断している模様で、これがあれば絶望的と見られたプリンストン債の損失が半分以上補填される可能性が出てきました。
 問題は補足14に書きましたように、全ての企業が投資責任を問われることなしに救済される必要があるかどうかと言うことです。ヤクルト本社以下多額のリベートを受けていた企業は過失責任を問うのが相当であり、飛ばしのために目減りした資産と額面債権で帳尻を合わせていた企業も過失責任と実態損失の調整が必要であります。そうした調整を行った場合、10億ドルの和解費用というのは非常に現実的な数字ですが・・・その前にはアームストロング氏の資金の行方など十分な追跡調査を終えてからになりそうですね。でも、被害企業には福音です。

99.11.06

補足17
 週刊ダイヤモンド99/11/20号が「プリンストン債事件は氷山の一角」と題した精力取材を行っています。CSB、山一證券など飛ばし事件を絡めたレポートで一読の価値は高いです。また天野太球磨氏の「証券詐欺に騙されない投資運用「四つの大原則」」と題したレポートも掲載されています。企業の経営者の方々は、ぜひとも一読して下さい。今回のプリンストン債事件は、特殊な事例ではありません。

99.11.15

補足18
 プ債事件に巻き込まれた企業は、現在分かっているだけで41社、63ファンド(年金とかでしょうかね)とのことです(補足17の週刊ダイアモンド記事)。このうち東証上場企業が26社、44ファンドにも上り大部分を占めています。運用額も約1,000億円です。
 被害企業のうち16社が損害賠償訴訟を提起するそうです。額面総額350億円に達するこれらの会社は、リベートなどを受けていない(とされる)善良な被害企業が中心であるようです。被告はPEIとし、ニューヨーク連邦地裁を舞台に争われます。当然ながら、ク証やリ証の関与なども明るみに出てくるのでしょうが、問題は損害賠償でいくらの損失を取り戻せるかです。補足16の和解資金を当てにしているのかも知れませんが、訴訟費用まで損失計上とならぬことを願います。

99.11.15

補足19(私募債の定義について
 金融会社にお勤めの読者の方から、私募債についてご教授を戴きました。補足訂正します。
 私募は「特定少数の投資家(50名未満)、あるいは適格機関投資家を相手方とし、有価証券の取得の申込を勧誘すること」という定義であるそうです。したがって少数の投資家相手で足りる場合や、プロ投資家だけを相手にする場合、手続上簡易な私募形式が使われるそうです。私募というだけで、怪しい金融商品と決めつけるのは問題であるとのことです。対象とする投資家が不的確投資家を含んで50名以上となる場合は公募となり、証券登録している者が募集を行わねばならなくなります。
 最近流行の投資事業組合などは、ベンチャーキャピタルの一形態として採用されていますが、こちらも私募形式のものが多いそうです。親ファンドを作り、その下に49人未満の子ファンドをいくつもぶら下げることで、本来は公募とすべき多数の投資家を集めるにも関わらず、私募に誤魔化すスタイルが使われているとのことです。
 米国のヘッジファンドでも同様の仕組みが使われ、子ファンドの投資家を規程人数以下に抑制することで、私募を維持し、規制を受けにくくしてきた経緯があります。読者のご意見では、子ファンドを増やして多数の投資家を集めるのは「脱法行為ではないか」とのことで、私もそのように感じます。私募の定義は、もう少し厳格に適用するべきかも知れません。

99.11.28

補足20
 ヤクルト本社の熊谷・元副社長と、ク証の瀬戸川・前会長が逮捕されました。容疑は脱税ですが、熊谷氏はヤクルトにリベート分を上乗せした債券を購入させ、香港子会社の財テク運用益を私的流用したことについて、商法違反(特別背任)容疑も問われる模様だと報道されています。東京地検特捜部は、不正経理操作や、別の所得隠しがないかどうか、引き続き調査を続けるそうです。

99.11.29

補足21
 補足18のその後です。被害企業3社がPEI,リ証やその元役員を相手取って125億円の損害賠償を求めた訴訟を、ニューヨーク連邦地裁に提起しました。ようやく初提訴に成ります。どれだけ早い判決が出るかが注目されます。リ証はAAA格付けの米国債に投資すると虚偽の説明を受け、分別口座で管理するとの契約を怠ったとして、不実表示と違法行為の責任を問うそうです。

99.11.30

補足22
 ヤクルト本社の熊谷・元副社長は直接交渉でク証からリベートを引き出していたと発表されました。ケイマン島に振り込まれたリベートは、国内外に持つ多数の仮名口座間で複雑なキャッチボールを繰り返して、マネロンに奔走したようですが、結局当局に尻尾を掴まれました。現在15以上の口座が確認されているそうですが、ほかにも発見される可能性が高そうだと言うことです。
 一方のク証の瀬戸川・前会長も、ヤクルト本社の購入分から受けた手数料を、複雑な口座移転ののちにリベート資金として捻出しましたが、これも当局に探知されています。結局口座間で資金を回すだけでは、一向に資金は洗浄できないと言うことですね。洗浄には手間が掛かる、頑固な汚れですが・・・。

99.11.30

補足23
′�21日、クレスベール証券は東京地裁に破産を申し立てて、即日受理されました。地裁は保全管理人を選任し、これから資産の洗い出しが始まるとのことです。資産超過であった場合は破産申立を撤回することになりますが、現在の情勢では難しい模様です。依然として20数名の社員が残っており、訴訟からみの要因も大きいと見られます。
 また補足14に書いた保護基金の動向です。ク証が破綻したことで、顧客資産の返還能力があるかどうかで、基金の出動の可否が検討されます。基金は管財人と協議して方向性を打ち出すようですが、顧客の現預金と有価証券だけを保護することを表明したきりで、すでに紙切れとなっているプ債の保護は行わない様子です。基金が保護を行うことは投機の補填になるほか、ク証経由でプ債を購入した顧客だけを救済する片手落ちになる問題もあるためで、結論は2000年1月上旬に下すと発表されました。

99.12.21

補足24
 熊谷・ヤクルト元副社長が脱税容疑で逮捕されました。再逮捕の容疑も含めると、所得税法違反(脱税)、証券取引法違反(半期報告書の虚偽記載)、商法違反(特別背任)、(業務上横領)、(投機取引のための会社財産処分罪)の5つにもなっています。
 また内部調査期間を立ち上げながら十分な調査を行わなかったヤクルト本社に対して、役員も事実関係を知っていた疑いが濃厚であるとして、証券取引法違反で法人が起訴されました。これに伴って、東証はヤクルト本社を監理ポスト銘柄に移管し、場合によっては上場廃止も検討することを表明しました。ヤクルト本社にとっては、弱り目に祟り目です。
 ところで、経済誌は「(熊谷氏は)良いカモだった」とする金融機関の談話が載せるように成っています。社内では「財テクの神様」と信じられながら、熊谷氏本人は金融商品を読みとる目を持っていなかった可能性が濃厚です。バブル期に巨額の利益を生み出したのも時勢の流れに乗っただけで、その神話に乗ってしまったヤクルト本社の経営陣にも厳しい審判が下されるべきかも知れません。今後は当時の役員たちが、本当に無断資金運用や虚偽の財務諸表提出を知らなかったかどうかを問われます。
 しかしプ債事件がなければ、明るみに出なかった大事件だけに・・・衝撃的ですね。また現在ヤクルト本社は3件の株主代表訴訟を提起されているそうです。粉飾決算が明らかになったことで、今後の訴訟にも影響が及びそうだとのことです。

99.12.31

補足25
 補足24の補足です。監理ポストは、上場企業が上場廃止基準に該当するかどうかを検討するために移されるポストです。上場廃止の可能性がある株式だ、と投資家に警告を与える意味合いがあります。
 虚偽記載問題で監理ポストに移されたウチで、不二サッシ工業・不二サッシ販売・大光相互銀行の三銘柄は上場廃止に、ウェストンは1か月後に通常に戻されました。ヤクルト本社も通常に戻される可能性はありますが、上場廃止となった場合のダメージは大きくなりそうです。12月28日には大証も監理ポストに移管しました。
 なお、事実上の倒産銘柄を移管する整理ポストとは別物です。

00.01.01

補足26
 プ債を購入した企業が相継いで米国で訴訟を提起しました。勝訴したとしてどこから救済を受けるのか、難しいところでしょうか。
 ところで、東京都でもプ債の償還不能による金融機関の破綻が明るみに出ました。八王子市に本店のある「振興信用組合」が多額のプ債を焦げ付かせ、1999年9月末時点で53億円の債務超過に成ったというものです。東京都は管財人を選定し、営業譲渡の受け皿探しに乗り出しました。公表は1月26日です。
 これで補足10に書いきました「北兵庫信用組合」に続き、2件目の破綻です。しかし、まだ数行の小規模金融機関が続く可能性があります。プ債の被害がいくらかでも圧縮されたところで、経営が立て直せるのかどうか疑問を感じますが、大きな事件に成りましたね。

00.02.12

補足27
 プ債の巨額詐欺事件で、証券詐欺罪などで民事起訴されているアームストロング氏は、私選弁護団を作っていますが、ニューヨーク連邦地裁が弁護団に対して「被告から受け取った弁護費用を返還するように」という異例の命令書を出していたそうです。その理由は、「証券市場の詐欺師が、被害者の資産で弁護費用を賄うことはできない」というもので、総額133.1万ドル(約1.4億円)に上るとのことです。
 弁護団に弁護士を派遣している事務所などは、すでに支出を行っているため返還に応じない意向だそうですが、被告が高額の弁護費用を支払えば被害者に戻る費用が少なくなるのは自明の理です。せめて弁護団を国選弁護人で補う必要があったでしょうか。新たに始まった刑事裁判では、国選弁護士を任命したそうです。
 我が国でも同様の問題が生じているだけに、詐欺事件に関わる場合は国選弁護人を以て裁判を行うなどの規定が必要かも知れません。

00.05.03

補足28
 ヤクルト本社の熊谷・元副社長に対する公判が始まりました。プリンストン債を巡る罪状は、債券購入の際のリベートを個人で受け取った商法違反(特別背任)、保有していない債券を半期決算報告書に記載した証券取引法違反(虚偽記載)、リベートなどの所得を隠した所得税法違反(脱税)の3つです。またデリバティブ取引を巡る不正の罪状は、会社保有の株式などを勝手に処分した商法違反(投機的取引のための会社財産処分)、海外子会社が得た利益を着服した業務上横領の2つもあります。
 熊谷氏は脱税を除く4罪については、会社の方針である財テクを行った結果であって「営業の範囲内の行為」であることを強調し、無罪を主張する模様です。本件では、ヤクルト本社の他の役員が口を拭っている現状もあり、1人に全ての罪状を着せるものかは分かりませんが、その元凶としての責任は公判で解明されていくようです。

00.05.20

補足29
 朗報です。
 補足16にありました英国銀行HSBCや、PEI社(残余資産)から、プ債を購入した日本の機関投資家(51社)に対して、合計6億7千万ドル(870億円相当)が返還されることになりました。証券取引法違反などに問われたヤクルト本社は除外され、和解に応じなかった丸善も対象外だそうです。それ以外の企業には、約8〜9割が返還される計算になるとのことです。123億円が返還される中電工、111億円が返還されるアマダグループ、98億円が返還される群栄化学工業、74億円が返還されるアルプス電気などは、業績の上方修正を行う見込みです。
 なお、含み損のある有価証券の飛ばしに利用した企業は、額面ではなく実損失に対して支払われるとのことで、高額の配当を受領していた場合はその差額を損失と認定されるとのことです。

日本経済新聞2001/12/19朝刊記事の数字を引用しました
01.12.29
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