前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.136
金が仇の世の中です

 近頃、通称「商工ローン」に関わるトラブルが続いています。すでに身動きのできない債務者に、返せないと分かって貸し出す商法は、法律スレスレながら合法なのだそうです。始めから連帯保証人からの取り立てを意図し、事実上債務者と結託して債務額を膨らませた上で回収するその手法は、非難の声を集めています。高利貸しを認めている出資法の存在と、罰則のない利息制限法の欠陥が原因だと言われていますが、現状では打つ手が無さそうです。
 今回は、個人の多重債務者をターゲットにして暴利を貪っている紹介屋を取り上げたいと思います。

■ 紹介屋という稼業
 駅構内などのトイレには、掃除をしても掃除をしてもチラシが張られています。業者の名前はいろいろですが、内容はほぼ同じで「来店不要。電話で200万円まで即日融資」「長期低利で債務を一本化します」「主婦、OL歓迎。他で借りられない方もご相談下さい」などと書かれています。一見サラ金の広告のようですが、これが紹介屋という稼業です。同様の広告はスポーツ新聞などにも掲載されていますね。
 普通こんなチラシに頼る債務者は、多重債務者です。銀行などの融資は受けられず、駅前の大手サラ金からも借りられない人が、最後のチャンスに賭けるわけです。まず紹介屋に電話を掛けると、現在の債務状況などを聞かれます。すでに多重債務者であることは分かっているので、根ほり葉ほり聞きだそうとします。
 さんざん聞いた挙げ句に、その金額やその状況では一本化は難しいとか、ウチ単独では難しい案件だとか、適当な理由を並べて債務者を突き放します。すでに差し迫っている債務者は、なんとか金を手に入れようと必死になります。そこで紹介屋は、知り合いのサラ金を紹介してあげましょう、と親切そうに持ち出します。多くの場合は一旦来店させて、債務者の真意を探ります。
 そこからが紹介屋の本領です。まずガードの甘い中小金融などを紹介するわけですが、そこで債務者に対して紹介手数料を要求します。紹介前に前払いをさせるケースと、従業員が同行して成功報酬の形で受けるケースとがあります。紹介手数料は10%〜20%という高率ですが、少しでも金の欲しい債務者は黙って手数料を払うので、紹介屋は濡れ手に泡で儲けられると言うシステムです。

■ なぜ成立する?
 サラ金業者は、ブラックリストに載った債務者には貸し出さない建前になっています。しかし、その手間を嫌ってブラックリストを照会しない業者が未だにあるという話です。一つは、そこに付け込むわけです。また独自のシステムで消費者金融に手を拡げている業者もあり、サラ金業者とはデータを共有していない業者もあります。消費者には分かりませんが、紹介屋は知っているのです。
 しかし現実には少し違うようです。都内では、上野駅周辺に紹介屋が多いのですが、ここには大手も含めてかなり多くの貸金業者が存在します。このため、いずれの業者も新規客の開拓に必死です。サラ金の顧客は、よほど少額でない限り短期取引で消えていきます。このため常に新規客を掴まなくては商売に成りません。やむなくブラックリストに目をつぶって貸してしまうこともあるのです。
 ブラックリストの顧客は、かなり高い割合で焦げ付くでしょう。しかしそれが全融資額の一定割合以下に留まるならば、業者としては損をしません。4〜5%で調達した資金を20%以上で貸し出すので当然ですね。また個店であれば別ですが、一支店であればノルマ消化のため多少の無理は目をつぶるわけです。その情報さえ掴んでいれば、紹介屋が成り立つ計算になります。
 一部の噂では、支店の責任者などが積極的に紹介屋にアプローチし、紹介屋の顧客に限って貸し出すこともあるようです。もちろんバックマージンを受け取っての話ですが、互いに持ちつ持たれつということなのでしょうか。結局責任者も困らず、会社としても一定の欠損金は見込んでいるので困らない、ということに成りそうです。馬鹿を見るのは真面目に返済する通常債務者ですね。

■ 金が仇の世の中です
 しかし、世の中いろいろな商売が成立するものですね。苦しい資金繰りに喘いでも誠実に返済しようとする人間がいる一方で、贅沢やギャンブルに多額の金をつぎ込み知人縁者から借金をしまくって平気な人間もいます。人それぞれですが、借金で他人に迷惑を掛けるのは止めて欲しいところです。他人の借金で自分の人生を狂わせられた人も大勢います。保証人にはなるな、と言われても義理人情が先立つと難しいですね。結局ババを引かされて初めて甘さに気付くことになるのでしょうが・・・金が仇の世の中です。
 もしも返せないほどの借金が出来てしまったら、とにかく弁護士に相談することです。商工ローンや紹介屋に手を出すのは最後で良い話です。たしかに弁護士には報酬を払う必要がありますし、その報酬を前払いしろとも言われるでしょう。その程度の資金は何とか手元に残すことも必要ですね。弁護士が付けば、サラ金の金利を法定金利以下に抑える交渉、一本化して長期返済に切り替える交渉、一部債務カットの交渉をしてくれたりもします(良い弁護士を弁護士会に紹介して貰いましょう。こちらは手数料無料です)。最悪の場合は自己破産の手続も取ってくれるでしょう、準禁治産者の認定と同時かも知れませんが・・・。
 紹介屋のビジネスは、たしかに債務者にとって有利な感じがします。しかし紹介される貸金業者によっては、脇が甘くとも取り立ての厳しい暴力団系業者もあります。こうした業者から借りてしまうと、その後の自己破産も有効に機能しません。知人縁者に一層の迷惑を掛ける上に、自身の生命を脅かされる可能性もあります。不況の世の中ではありますが、くれぐれも自重が必要です。

99.08.31

補足1
 紹介屋は、不動産や株式を抑えて債務の一本化をするグループに引き合わせたりして、それなりに大きな仕事をしていたようです。あるいは、経営不振な中小企業をサルベージ屋に紹介するなどして、稼ぎを得てもいました。債務一本化に協力するとして、他の債権者を全て泣かせて荒稼ぎするような紹介屋もあったようです。今はそういうオイシイ仕事が減っているため、本文で紹介したような地味な紹介業を手がける紹介屋が多いだけですが、もともとは羽振りの良かった仕事だそうです。債務整理には、法律的なノウハウも必要であるため、これに協力する弁護士等も相当数いると言われています。
 ちなみに、サルベージ屋とは、企業整理を専門とするプロ集団の俗称です。整理屋とも呼ばれます。経営不振の中小企業に乗り込んで、あの手この手で債権者を泣かせたり、手形や小切手を乱発させて取り込み詐欺を強いたり、計画倒産に追い込んだりと非合法的な手法を駆使して利潤を吸い上げる専門家です。廃船を処分して金に換えるサルベージ作業に似ていることから、呼ばれているようです。
 詳しくは、関東財務局のページを参照してください。
 (

01.06.02

補足2
 紹介屋の多くは、貸金業者として登録していて、免許番号を表示していることが多いです。免許自身は都道府県知事の許可制(複数都道府県を跨らない場合)でありますが、所定の手続きを行えば格別の資格もなく取得できますので、注意が必要です。「正規の登録業者なので・・」という説明に騙されないことも必要です。悪徳金融業者でさえ免許登録しているのは、無免許での貸金業務を禁じられているからです。免許取得時期の浅い業者は、業者として経験が少ないか、取り消されて再取得したかしているか、しているため注意が必要です。
 建設業者などと同様に、免許番号には「(1)」などの更新年数を示す番号が付記されています。実績のある業者は、「(4)(7)(10)・・」などと三年ごとに番号が更新されて行きますが、いつまでも「(1)」であれば、正規な業者でありません。貸金業者の任意団体である貸金業協会に入会しているかどうかでも分かります。協会に入っていない紹介屋は、ブラックリストの有無を照会することができないので、一目で分かります。
 こういう業者でまともな業者はありませんので、債務を整理しなくてはダメな状況では、まず悪徳でない弁護士にご相談下さい。紹介屋から債務整理を依頼されて暴利を貪っていた弁護士が、業務停止10カ月に追い込まれたそうですので、注意しましょう。良い弁護士は弁護士会などで紹介して貰うと良いでしょう。

01.06.03

補足3
 主題から外れますが、個人の自己破産申立の動向を書きます。長引く不況によって自己破産するケースが急増しています。リストラや倒産により収入が立たれた個人が多く含まれると見られます。ただ、商工ローンなどの保証人になった人が自己破産するケースも増えているそうです。
 個人の自己破産申立件数は、1996年に5万件を突破して以降急増を続けています。1998年には早くも10万件を超え、2000年には16万件を超えました。2002年は10月まで累計で前年を上回り、12月末までに20万件突破は確実と報道されています(集計値は、いずれも最高裁の公表値)。

 自己破産するには、債務返済が不可能であることを債務者が申し立て、裁判所による審理を経て破産宣告が出されれば確定します。給与の一部が差し押さえられることになっても、基本的に生活への影響は無いとされます(とくに免責の申し立てが認められれば、債務免除に加え職務資格上の制限も無くなります)。若者の安易な自己破産が続いてきたこれまでとは、いささか様相を変えてきているようです。
 一方で、個人をターゲットにした悪質な高利貸しも増えているそうです。携帯電話だけで融資する簡易さで勧誘し、親戚や会社への追い込みをチラつかせて強引な回収をする090金融なども社会問題化しています。知人や親類から目一杯借りた上にヤミ金融に手を染める人も後を絶たないそうです。高利金融に手を出す前に、自己破産を検討する方が良い場合もあります。弁護士に相談するのが確実ですが、手続は個人でも可能だそうです。

02.12.31
前頁へ  ホームへ  次頁へ