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経済の研究No.132 |
ナスダックがやって来る |
ナスダック・ジャパン構想を書こうと思ったのですが、ネタがネタだけに大量のレポートがネットに溢れています。ところがNASDAQ(通称、ナスダック)自身に関する情報が断片的にしか集まらないため、四苦八苦してしまいました。以下一応纏めてみましたが、ウソっぽい部分がありますので随時修正・補足を入れていきます。そのように読んでくださいね。
■ NASDAQとは
NASDAQとは「National Association of Securities Dealers' Automated Quotation」の略称で、NASDの自動通報システムという程度の意味になります。そのNASDには、全米証券業協会という邦訳が宛てられていますが、約500社ある協会加盟のディーラー(証券会社)の集合体です。システム本体はNASDの完全子会社が運用していますが、あらゆる取引仲介とデータ更新をディーラー(証券会社)が行うのがユニークな点です。
いわゆる株式公開は、システムに登録され所定の略号を付与されることによって始まります。登録された株式は、いずれのディーラーを介しても売買可能であり、その気配値と売買実績がリアルタイムでシステムに反映されます。投資家は精度の高い気配値情報を参考にして取引値を決め、売買に参加することになります。
#N末現在公開されているのは、内国企業4,627社・外国企業441社の合計5,068社に達しています。株式公開の条件は、大まかに説明すると、純資産200万ドル以上,公開株式数10万株以上かつ流通価値100万ドル以上,株主数300人以上,マーケットメーカー2社以上とされています。ここでマーケットメーカー(値付け業者)とは、売買価格を摺り合わせるマーケットメーク(値付け)や、気配値や売買実績の入力を担当するよう公開企業と契約を結んだ特定ディーラーのことです。
また株式公開に際して厳密な情報開示を課していることも特長です。「成長企業が始めから黒字であるはずが無い」という性善説に基づいて、リスクに関する情報も幅広く開示させることと引き替えに、株式公開へのハードルを低めに設定しています。投資家は開示情報からリスクを読みとった上で投資するため、厳格な投資家責任を問われる代償として、取引の透明性が補償されます。
このため、ある日突然に業績が好転して株価上昇する銘柄もありますが、突然破綻して紙屑になる銘柄もあります。年間700銘柄以上が公開されますが、ほぼ同数の銘柄が非公開(廃止)に成っているという現実もあります。ただし、300銘柄ほどは公開条件を満たさなくなってピンクシートに降格される銘柄に当たっています。
■ JASDAQとの比較
日本でもNASDAQを真似た店頭市場が形成されています。1991年10月に稼働されたJASDAQと呼んでいるシステムです。NASDに対応するのが日本店頭証券株式会社ですが、そのシステム面での不利は目を覆うばかりです。マーケットメイクが制度として確立されていない(現在のところ試行錯誤的に導入中です)こともあり、気配値が正確に反映されない、取引価格が実勢に合いにくいなどの批判があるところです。
また公開基準の厳しさも指摘されています。JASDAQでは形式基準は純資産2億円以上,経常利益2,000万円以上ということですが、NASDAQと違い公開会社の安易な破綻を回避することを目的として、実質基準は純資産10億円以上,経常利益2億円以上という高いハードルが設定されています。このためNASDAQでは平均5年で公開される株式が、JASDAQでは17年という統計データがあります。
JASDAQでの情報開示は、不透明な水準に留まっているにも関わらず、公認会計士による監査と証券会社による審査を義務づけており、株式公開に伴う費用が2,000万円以上も掛かるなどと批判されています。形式に拘る日本式証券行政の悪弊だと言えるでしょう。また公開に伴う公募増資にも制約が大きく、本来資金調達のために行うはずの株式公開で、資金調達の道が阻まれると言う不満も聞かれます。
一方で高すぎるハードルを越えるために、無理な益出しや粉飾まがいの決算を行う例もあり、情報開示が不透明である現状とも重なって、投資家責任が問われるべきでない管理市場だと言われています。またJASDAQの位置づけが証券取引所上場への通過点というものであり、NASDAQのように時価総額でNY市場を圧倒するような大型銘柄が存在しないことも指摘されています。あるいは公開株式数に下限がなく、例えば流通量を絞り込んで株価を高止まりさせている銘柄の存在も指摘されています。
かつては入札で決められる割高な公開価格が問題として指摘されていましたが、これはブックビルディング方式の採用により緩和されました。一方でブックビルディング方式は安値で決まりすぎるという問題を生みつつあり、初値との乖離が拡がっているという新たな課題があります。
■ NASDAQがやって来る
JASDAQは、既存証券会社の思惑も働いていて、大幅な制度改革に踏み込めません。公開基準を緩和した第二店頭市場なども設けましたが、制度が複雑化しただけで使い勝手や情報開示の透明性が高まったわけではありません。
そこでNASDAQが日本への進出を目論んだのです。元来から弱体化した市場を呑み込んで規模を拡大してきたり、競合市場と激しい競りを繰り広げたりしたことが、自負心を高めています。自らに厳しい改革姿勢を課し、利用者の使い勝手を意識したシステム造りに励んできたようです。
そうした目で日本市場を捕らえるとき、制度的に出遅れていて旨味が大きいということです。当初はJASDAQとの提携を模索したそうですが、1998年12月の金融システム改革法により新市場創設が可能になったことから、ナスダック・ジャパンという新市場を創設する運びになりました。
6月にナスダック・ジャパン・プランニング社(ソフトバンク社と折半出資)を設立し、新市場の準備段階に入っています。新旧の証券会社を集めて新しい証券業協会を設立し、その証券会社にマーケットメーカーの役割を果たさせるシナリオです。ベンチャー企業を集めて説明会を開催したりと積極的ですが、既存証券会社の手応えは良くないようです。東証や大証も新市場設立を宣言しており、二足の草鞋が禁じられることを怖れているのだと伝えられています。
新市場ではNASDAQの米国銘柄を日本円で取引可能にするとともに、日本銘柄を米国で取引可能とすると宣言しています。米国銘柄の開示情報を全て日本語で提供する予定であるとも言っています。ただし開場時間が日米で昼夜逆転することや、為替リスクと翻訳コストがペイする市場に成らないのではないかとも言われ、実現するかどうかは微妙です。
■ むすび
それはともかく、NASDAQの日本上陸は「平成の黒船」と持てはやされています。その成否に関わらず、そのインパクトが日本の既存市場に改革を迫るとともに活性化を促すことが期待されています。外圧が無ければ自らを変えることができない日本の証券市場に、大きな風穴を空けてくれることを期待しましょう。
99.08.15
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補足1
本文中の「ピンクシート」を補足します。米国の未公開株を取り引きする市場で、銘柄ごとにディーラー情報,気配値情報,売買実績等が掲載された日刊の情報紙です。掲載銘柄数は15,000にも達し、その中からリアルタイム取引のNASDAQへ昇格する企業が生まれます。もちろん昇格基準を満たさなくなってピンクシートに降格されてくる銘柄もあります。この制度は1917年に導入されたもので、昔風の店頭市場とでも言えましょうか。
99.08.15
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補足2
本文中に1998年末現在の株式公開数を紹介しましたが、1997年末現在は内国企業4,987社、外国企業500社の5,487社でした。この1年間に726社が新規公開して1,145社が未公開(廃止)になった計算です。入れ替わりが激しいですね。
ちなみにナスダックに株式公開している日本企業は、キヤノン,CSK,ダイエー,富士写真フィルム,イトーヨーカ堂,JAL,NEC,日産自動車,三洋電機,トヨタ自動車,ワコールなどと成っていますが、何社か耳慣れない企業も公開しています。
また8月4日に公開したIIJは、老舗プロバイダー会社ですが、日本国内で株式を公開することなくナスダック公開に踏み切りました。初値は公開価格を上回り良い評価を受けているとのことです。ベンチャー企業を中心にIIJに倣う企業が増えるかも知れません。
99.08.15
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補足3
ソフトバンク主導のナスダック構想に批判的な声が聞かれます。一応持株会社化しましたが営利事業会社であること、海外でも類を見ない派手な親子上場が加速される恣意的市場になる危険があること、情報公開などで優位を占め公平性を欠く危険があること、米国で危険視され始めた利益の大幅先食いをしている企業が将来も安泰なのか不透明であること、などが指摘されています。まあ当たっていなくも無いですね。
99.08.15
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補足4
本文中で肝心なNASDAQ指数の説明がありませんでした。
今年3月の売買高で、NASDAQ市場がNY市場を抜くという快挙がありました。それだけNASDAQ市場のウェートが重くなっていると言えます。現在はハイテク銘柄やネット銘柄の下落で低迷していますが、その動向を示すNASDAQ指数の重要性は高まっています。
NASDAQが始まったのは1971年2月5日のことです。この日の株価指数を基準値の100ドルとしています。全公開銘柄の株価を時価総額の加重平均で調整して計算されていますが、8月13日現在の指数は2,637ドルとなっています。
米国の主要指標には、NY市場の主要30銘柄で算出するNYダウと、全公開株式のうち時価総額や売買高の大きい500銘柄から算出するS&P500種指数があります。これら3指標のうち、最も伸びが大きく元気が良いのはNASDAQ指数です。そのため、米国経済の健康バロメーターとも呼ばれているようです。
99.08.16
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補足5
NASDが日本証券業協会との提携交渉に入りました。株価や企業情報を相互に交換することが柱ですが、JASDAQでNASDAQ銘柄の一部を採用することも求めているそうです。どうやらナスダック・ジャパン構想をブチ上げたものの、その外圧を利用して日本証券業協会を交渉のテーブルに座らせる狙いがあったようです。もしかするとナスダック・ジャパン構想は構想だけで終わるかも知れませんね。
99.08.29
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補足6
ナスダック・ジャパンは具体化してきました。まず設立世話人に、樋口氏(アサヒビール名誉会長、経済戦略会議議長)、鈴木氏(イトーヨーカ堂社長)、宮内氏(オリックス社長)、日枝氏(フジテレビ社長)が就任すると発表しました(99/10/12)。ソフトバンクの私設市場との批判を回避する狙いで、財界の著名人を集めたようですが、すごい人脈ですね。
また大阪証券取引所へのアプローチを仕掛けているそうです。指数や先物では圧倒的な強さを見せる大証も、現物株では先細りが著しいため、水面下でナスダック・ジャパンと交渉を始めているようだとのことです。大証との提携が実現すれば、これまで指摘してきたような不安もかなり解消することになりますが・・・近頃は上がりすぎているソフトバンクとヤフーの株価が心配です。証券取引所のオーナーにとって、急激な信用の崩壊は禁物ですから。
99.11.01
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補足7
ナスダックが英国にも上陸するそうです。2000年後半を目処にロンドン子会社を設立して、欧州市場をカバーするそうです。またNASDはソフトバンクとの提携関係を強化し、メディア王マードック氏のグループ会社eパートナーズ、仏国コングロマリットのビベンディと企業連合を形成していくのだそうです。日米欧の証券市場を席巻して、一気にビジネスの中心部を掌握しようという壮大な構想ですが、NYSEや東京証取、ロンドン証取の巻き返しが待たれます。
健全な株式市場形成には独占の存在は認められません。最低でも2つ、好ましくは3つ程度の市場が競争することが望ましいのですが・・・。
99.11.06
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補足8
ナスダック・ジャパンの準備会社「ナスダック・ジャパン・プランニング」の社長には、日本IBMの佐伯副社長が就任することが決まったそうです(99/11/18発表)。補足6に挙げた設立世話人同様に、大物です。
また大証との提携も正式に発表されました。あとはどう具体的な形に仕上げていくかと言うことですが、近頃はナスダック・ジャパンのネタを取り上げる記事が少なくなりました。動向が気になります。
00.01.02
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補足9
ナスダック・ジャパンが始動しました。大証が牽引役を果たしたこともあって、当初上場企業は全て黒字企業であることなどが好感され、滑り出しも上々でした。一方で、ナスダック・ジャパンの出資者が全米証券業協会(NASD)とソフトバンクであることに、中立性の問題もクローズアップされてきました。
たしかにソフトバンクの意図した関連企業群の錬金術には使えないよう大証がリミットを填めましたが、外向けには十分でないとして、野村・大和・日興など日本を代表する証券各社にも出資を求める方向で話が進んでいるそうです。ソフトバンクとしても当初の目論見が崩れた以上、中立性を強調してささやかな実利を確保する戦術に切り替えたと伝えられています。
むしろ大混乱を生じているマザーズの方が、頭の痛い状況に成っているようですが・・・。
00.06.25
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補足10
ようやくJASDAQも独立した市場としての評価が出てきたようです。これまでは東証への登竜門という位置づけが強く、1999年に50社、2000年に64社あった移籍組が、2001年は42社に留まる見通しとのことです。中でも東証1部への移行が7社と急減し、東証の補完市場という位置づけを脱却しつつあるとのことです。
JASDAQ上場(店頭公開)企業が東証へ移行する企業が挙げる理由は、資金調達面での有利さと知名度アップ。JASDAQの知名度が向上してきたことと、東証の混迷も追い風になっているようです。
01.12.29
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補足11
米国の本家NASDAQは、大証との提携解消を通告したそうです。日米欧で同一システムの導入を目論んでいるNASDAQに対して、大証が慎重な姿勢を崩していないことが原因とされます。ナスダック・ジャパンは、2001年末で52億円の累積損失を抱え、システム開発費や大証への契約料が負担となっており、大証に主導権が移ったとはいえ、新システムの導入は困難な模様です。市場評価の低迷もその一因であるようです。
NASDAQとの提携解消となると、NASDAQ銘柄の取引や、指数先物の大証上場も全て解消されるため、大証新興市場としての生き残りを模索することになります。「黒船来襲」と騒がれた割には、冴えない結末を迎えそうです。ジャパンへの上場企業数は、2002年6月現在で95社、12月末までに130社程度を目処としています。しかし、上場企業の今後の去就についても不透明です。
02.06.15
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補足12
結局NASDAQは、日本市場から撤退しました。来襲時の勢いに較べると、あまりに呆気ない幕切れでした。
大阪証券取引所は、新興企業向け市場として存続させ、名称を「大証ヘラクレス」に改めました。12月16日から新名称で取引を開始しましたが、「ヘラクレス」が大和証券の登録商標とバッティングすることが後日に明らかになり、幸先悪いスタートとなりました。上場企業数は、新市場上場第1号の「フジオフードシステム」を含めて107社です。大証は、上場銘柄に対する年賦課金を軽減するなどして、上場企業を増やす考えだそうですが、市場参加する投資家数を増やすことが先決でしょう。
02.12.31
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補足13
米国NASDAQの不調も鮮明になってきました。ITバブル期には、NY市場と張り合った時代がありましたが、年平均400社上場であったものが2002年は50社止まりです。上場廃止が多くとも新規上場でカバーできていた元気な市場も、新規上場企業を欠くことで低迷が鮮明になっています。
#N初頭の上場社数5,000社超、時価総額6兆ドルの面影もなく、上場社数3,700社、時価総額2兆ドルにまで縮小しています。日々の売買高も減少しているため、NY市場へ鞍替えする企業も目立つそうです。日本・欧州市場を巻き込んで世界新興市場ネットワークを構築するという構想も夢で終わりました。
02.12.31
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