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経済の研究No.131
生保の株式会社化について

 日本の生保各社が相互会社から株式会社への移行を検討しています。保険会社には営利を目的とする営利保険会社(または営業保険会社)と、相互扶助を目的とした相互保険会社があります。株式会社は前者で、相互会社は後者ということになります。
 もともとは生命保険制度そのものが人道性を目的とし、保険を必要とする人々が集まって設立してきたという経緯がありますが、現在ではそれぞれの相互保険会社が巨大化し、しかも営利追求と相互扶助の境目が明確でなくなってきたという背景があります。また我が国では、旧財閥系の相互会社が多く、必ずしも保険加入者のための経営をしていると言い難い現状もあり、いっそ営利会社である株式会社に転じてはどうかという議論のようです。

■ 相互会社のメリット・デメリット
 相互会社における社員(株主に相当)とは、保険契約者を指します。相互会社の資産は、全て社員の所有物であり、あまり線引きが明確ではありませんが、社員は一定の持ち分を所有しています。したがって、予定以上の収益が上がれば配当金の配分に預かることができますし、必要に応じて社員としての権利行使を行えるメリットがあります。
 しかし、社員は総代会という代議(意志決定)機関を介してしか権利を行使できず、その総代会のメンバーに不信任を突きつけることは可能ですが、現実に自分の要求を伝える方法が与えられていません(本来は社員総会が最高意志決定機関ですが、召集は現実的でないので総代会で代えると定款に定められています)。また総代会のメンバーは会社側が指名する社会的に地位のある人々で、会社側に都合のいい人物が選ばれているという問題があります。
 すなわち会社経営の中身が見えにくいと言うことがデメリットです。また総代会を会社側がコントロールしていると言っても、例えば他社との提携や合併には総代会の開催が必要であり、フリーハンドが許されていません。それがセーフティの役割を果たす一方で、激動する金融再編に乗り遅れるという危険も内包しています。最大のデメリットは動きが取りにくいと言うことでしょうか。
 現在、日本の生命保険会社で相互会社であるのは、大手・中堅16社中の14社です。契約カバー率では90%以上に達しており、ほぼ業界全体の問題です。株式会社であるのは協栄生命と日本団体生命の2社です。

■ 株式会社化すれば
 株式会社化すれば、社員はそのまま株主に移行します。会社の資産は社員の持ち分に応じて株式の形で割り当てられますが、その後の資産蓄積については配当を除いて会社の持ち資産に変わります。意志決定機関は総代会という不透明な存在から、株主総会という透明な存在に変わります。株主総会で一任を取り付ければ、経営陣による経営判断で概ね機動的な行動を取ることが可能になります。
 また株式交換制度などを使った合併や、分社化などを伴う業務分割、あるいは部門売却といった経営手法も採用し易くなります。社債発行などで資金を調達してインフラ整備を行ったり、第三者や政府に増資を仰いで信用補完を受けることも簡単になります。何より株式会社化すれば、相互会社以上の情報開示が求められるため、経営の透明性が高まることが期待されます。
 ただ問題は株式の交付方法です。現在発行できるのは、1株額面5万円以上です。生保の契約者で持ち分が額面以上になるのは養老保険や終身保険の加入者ぐらいです。定期保険の場合、満期近い契約者でなければ株式を受ける権利を持てません。このため、現在は総代を選出する権利を持つ社員が、株主に成れないという矛盾を生じます(相互会社では1社員1議決権で、契約の多寡は関係がありません)。
 単位未満株式については、登録株扱いにするか買い取りに応じる方法があります。問題は、全て株式を支給した後の問題です。保険契約数は多く、数百万のオーダーです。それが全て株主となると株主総会に要する手間とコストが膨大です。また大株主が存在しませんから、経営陣の打ち出した議案が了承されるかどうか恒に微妙になります。

■ 株式会社化するには
 小口株主による不安定な株主構成を回避するためには、まず公開買付制度(TOB)の導入があるかも知れません(株式公開した場合の話です)。いずれかの金融機関が社員の持ち株を納得の上で買い付ける形にし、安定株主となるか、あるいは経営権を握る大株主となる方法があります。三井生命や安田生命はグループの金融会社と連携するための株式会社化を志向しており、グループの金融機関でTOBを仕掛ける選択肢があります。
 あるいは、株式会社形態の新会社を設立する方法があります。社員を含んだ一般投資家の出資を受け入れて新会社を設立し、その新会社が相互会社の資産・人員・営業権(契約を含む)を一括購入するというスタイルです。これらを売却した相互会社は、売却代金を持ち分に応じて社員に分配することができます。TOBよりも簡単且つ安価に移行できますが、それだけに売却額の妥当性を問われるでしょう。時価会計の導入、第三者機関による厳密な査定などが求められます。
 相互会社として唯一の自己資本増強策である劣後ローンの借入があります。この劣後ローンを株式に転換させて大株主を形成させる方法もあるかも知れません。この場合、その劣後ローンが経営に必要な額であることを明示しなくてはならず、ただ会社支配のために大口ローンを引き受けるというのでは筋が通りません。現在の生保は大型機関投資家としての影響力を保持しており、恣意的に何処かの支配を受けることは好ましくないからです。

■ 勝ち組と負け組
 前述の三井生命や安田生命は、系列グループとしてのビジョンを持つだけに、株式会社化のメリットがあります。しかし日本生命や第一生命のように独立系である相互会社は、株式会社化を急ぐメリットがありません。系列グループを持ちながら経営の思わしくない相互会社と、中堅以下で方向の定まらない相互会社が問題になると思われます。
 すでに述べたように、相互会社では経営判断の速度に遅れが生じます。今後株式会社の割合が増えてくると、経営の不透明さを嫌う社員が契約解除に走る可能性があります。契約数が減少し資産が細るなかでも、他社との提携さえできないのですから、ジリ貧に陥る可能性が高くなります。自ずと劣後ローンを取り込むなどしてでも株式会社化に邁進する必要が生じそうです。
 株主会社になるから勝つ、相互会社だから負けるということはないのでしょうが、株式会社化できる体力の有無が、市場から選別の基準にされる可能性は大きいと思います。すでに提携関係を強化した大同生命と太陽生命は、株式会社化とその後の合併を目指しています。充分な資産と営業力を誇り、社員の信認を受けられることを自負しているからこそ可能なのでしょう。両社を合わせた実力は、総資産で第5位、保険料収入で第4位になります。明かな勝ち組の登場です。
 一方で、日産生命や東邦生命が株式会社であったとすると、社員は出資者責任を問われて大幅に契約額を削られることになります(そうでなくても削られましたが)。今後のペイオフ導入とも絡んで、体力のない生保が株式会社化することは二重に社員を痛めつけることに成りかねません。まずは体力回復が必要でしょう。

■ むすび
 気になるのは日本生命の動向です。巨額の逆ざやに喘いでいますが、いずれ生保業界の再編には中心的存在となるでしょう。その場合、株式会社化してあることが有利であるのは間違いありません。しかし2位以下を大きく引き離す巨額の資産と契約をどう整理するのかが気になります。週刊エコノミストは、保険口座の導入が名寄せを兼ねた株式会社化への布石だろうとのコメントを載せていますが・・。経営の透明性が高まるのは良いことですが、その過程で不透明な操作が行われないことを期待します。

99.08.15

補足1
 生保の株式会社化は、大蔵大臣の諮問機関である金融審議会で検討されています。すでに相互会社の株式会社化は改正保険業法で認められており、あとは手続の簡素化などの法制化なのだそうです。再改正保険業法がどう決まるのかウォッチしていきましょう。

99.08.15

補足2
 相互会社について説明が十分でないので補足をします。相互会社は相互扶助を目的に設立される会社形態で、相互保険会社=相互会社と見て良いかと思います。会社の経営は加入者である組合員の代表による「社員総代会」の総意によって決められます。
 相互会社の場合、資本調達が劣後ローン(返済順位が低い借入れ)や財務再保険(契約の一部を別の保険会社に期限付きで譲渡すること。東邦生命がエジソン生命に実施)など限定的です。権利関係が小口複雑化していることから、本文に書いたように合併や買収などの財務強化手段が打ちにくいという問題があります。
 株式会社になれば第三者割当増資や社債発行、一部契約の分社化・譲渡などが容易になるメリットがあります。ただし、その分だけ保険加入者のウェートは軽くなり、加入者の意志よりも企業利益が優先することになります。
 現在抜け落ちている議論として、果たして生命保険会社が規模の追究を行わねばならないか、ということがあります。小さくても充分な収益を上げてきた機関投資家は沢山あります。生保の財務体質悪化は、不効率な資産運用や過剰人員の整理を怠ってきたためだ、ということが落ちています。規模が足らないから財務体質が悪化したのではなく、悪化した財務体質を持ち直すには株式会社化が近道ということだけです。
 結局ワリを喰わされたのは契約者だけ、と言うことが無いようにして欲しいと思います。

99.10.09

補足3
 すでに株式会社であることがメリットと記した協栄生命は、米国大手生保プルデンシャルによる救済を望んでいましたが、10月に破綻してしまいました。当初45億円程度としていた債務超過額は、12月25日の関係人集会で1,858円と報告されました。これでは、相互会社であった東邦生命や日産生命と変わるところが無く、経営の透明性は株式会社云々と関係が無いようです。
 協栄生命では、破綻2日前に大口契約者である教員組合に対して、プルデンシャルとの提携実現間近と偽って解約延長を要請したことが明らかに成っており、大塚社長の経営姿勢を含めた役員責任を問うとしています。債務超過額はさらに膨らむ可能性もあると報告されており、プルデンシャルが支援を見送ったのも妥当な判断であったようです。

00.12.30

補足4
 世界最古の生命保険相互会社といわれる、英国大手生保のエクイタブルが契約管理会社への移行を表明したそうです(2000/12)。当初は、経営危機打開のために身売り交渉を進めていたそうですが、その交渉に失敗したため、新規契約をうち切り既存契約者との取引に専念するそうです。体力が残っているのであれば、契約管理会社として存続できる可能性が高いものの、その後の運用能力次第では、大手老舗といえども破綻する危険は残っています。
 ちなみに、エクイタブル生命保険の歴史は、240年。日本とはスケールが違いますが、世界最古の相互会社が、相互会社業界の最後を看取る可能性もあり得るかも知れません。

01.01.07

補足5
 三和銀行グループの大同生命は、2002年4月1日付けで株式会社化する方針を決めたようです。加入者個々人の加入年数や払込み済み保険料を勘案して、株式の割当を行うとのことですが、95万人の全加入者が株主に成れるわけでなく、現金での配分を受けることもあり、逆ざや加入者には配分されない場合もあるとのことです(株式会社化で逆ざや分のツケは回さないのですね)。契約内容は維持が前提で、契約者配当も継続するとのことで、株主となった契約者は株式配当と合わせて実入りが増えることになるようです。
 8月までに配分する株式や現金の割合を調整するようですが、純資産(内部留保)への貢献度の算定が難しく、透明性と公平性を担保しつつ、無用なコストを排除する努力を求められるでしょう。株式会社に移行した後は、株式公開によって資金調達を行い、インフラ整備に振り向けることに成ります。合併を模索している、同系列の太陽生命も株式会社化を試行しており、両社は2003年度を目処に共同持株会社の設立を目指しているそうです。健全生保の株式会社化のトップランナーとして、その手腕に期待しましょう。

 米国では、最大手生保のメトロポリタンが2000年4月に株式会社へ転換しました。同じく大手のプルデンシャルも株式会社に転換する準備を進めているそうです。国内生保では、逆ざやの影響が大きく株式会社化しても株価低迷に悩まされるだけとして、現段階での株式会社化には慎重な姿勢を示していると報道されています。

01.01.20

補足6
 経営者の乱脈経営で、2000年8月に破綻した大正生命の受け皿として、大和生命とソフトバンク・ファイナンスが名乗りを上げています。両社の共同出資により設立される受け皿会社は、株式会社として設立され、大正生命の契約を継承するとともに、大和生命の営業機能や保険契約も移行し、事実上の株式会社への転換を行う構想でもあるようです。大和生命は異業種と提携して財務体質を強化するとともに株式会社化を実現し、生き残りと規模拡大を目指す模様です。
 新会社への保険業免許が出されれば、新しい株式会社化のケースと成りそうです。大和生命の契約移行に際しての透明性と公平性がどう担保されるのかに注目されます。

01.01.27

補足7
 金融庁は、総代会のあり方を見直す方針であるそうです。総代会の意志決定機関としての重みを増し、現在有効に機能していない経営監視機能を強化する模様です。具体的には、議題提案要件の緩和(提案に必要な社員数の引き下げ)、総代選出過程の透明化・公正化などで、2002年度に保険業法の改正で対応するそうです。

01.06.03

補足8
 国内生保の株式上場第1号は、相互会社から株式会社への転換を果たした大同生命保険(東証1部上場、2002/04/01)となりました。売出価格27万円に対して、初値は32万円、終値30.6万円であり、売出価格を上回りました。これから上場企業が続くと思われますが、国内生保の指標銘柄として意義が出てくると思われます。
 大同生命保険は、すでに太陽生命保険と持株会社形式での経営統合を打ち出しています。太陽生命保険の上場を2003年4月に予定しており、持株会社の設立・統合は2004年4月を予定しているそうです。

 現在のところ、金融グループを中心に経営統合の話が出ている大手生保はありますが、株式会社化を本気で議論し始めているのは、まだ少ない模様です。

02.04.13
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