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経済の研究No.123
証券取引所の再編

 日本には8つの証券取引所があります。商い規模が大きい順に、東京,大阪,名古屋,京都,札幌,福岡,広島,新潟となります。来年3月をめどに広島と新潟が東京に合併されると発表しています。合併と言えば聞こえは良いですが、商いシェアは広島も新潟も0.02%(1998年度、明記しない場合は以下同じ)と小さく、事実上はそれぞれに単独上場している計24社を東京二部へ上場移管させることのみが目的です(移管できなければ上場廃止になるため)。

■ 役割終わった地方取引所
 東京・大阪・名古屋の主要3市場でのシェアは99.8%以上で、残る5市場合わせても0.2%以下です。それでも地方取引所が存続してきた理由は、クロス取引という妙味でした。大口同士の商いを成立させる場合、東京や大阪に上場している銘柄でも、地方で取り引きする方が有利でした。他の投資家が参加する余地がなく、市場へのインパクトを最小限に留めて、思惑通りの値段で売買できたためです。
 クロス取引は、単に証券取引所を通して売買したという事実関係を残す意味しかありませんが、昨年の証券取引法改正(以下、法改正)まで立会外での売買が禁じられていたことから、アリバイ作りに地方が利用されたに過ぎません。法改正により立会外取引が緩和されたことを受け、クロス取引が減少し手数料を落としてくれなくなったという分けです。広島は改正前である1997年度のシェア1.0%でしたが、改正後の1998年度は5分の1に減少したことになります。
 証券取引所の収入は、会員証券会社が払う会費と、上場企業から受ける賦課金です。前者は、各証券会社が扱った売買高に応じて決まるので、商いが細ると会費も減少します。上場企業の多くは主要3市場のいずれかにも上場しており、クロス取引のニーズが無くなったことで、賦課金というコストの掛かる地方から撤退を始めています。
 本来の地方証券取引所の役割は、地場産業の育成でした。東京や大阪に上場できない地場企業に対して資金調達の場を与えるため、緩い基準での上場を認めてきました。しかし、東京や大阪が二部市場を創設したり、手数料の安い店頭市場が形成されると、地方の役割は失われました。単独上場企業のために踏ん張ってきたとも言えそうですが、東京や大阪へ上場できる力のない企業が多く、取引所の活性化は見込めませんでした。役割はもう終わったのです。

■ 市場特化か、統廃合か
 東京と大阪は生き残るでしょうが、残る4取引所も統廃合の危機に晒されています。
 名古屋は、単独上場企業が119社ありますが、商いシェアは4.82%に過ぎません。大きい市場2つに挟まれて、独自性が打ち出せないためです。会費や賦課金の値下げ、開場時間の延長など特化して行かなくては、いずれ吸収の憂き目に合うでしょう。
 京都は、地場にハイテクの元気な企業を抱えていますが、単独上場はわずか2社、商いシェアは0.07%です。地域の特性を活かしたベンチャー中心の市場作りを目指すという声もある一方で、大阪との合併を模索中との声も聞かれます。
 札幌は、内外差別を撤廃して域外企業の上場基準を緩和しました。ベンチャー市場形成にも色気を出しています。しかし単独上場企業は16社、商いシェアは0.03%です。情報インフラが整備されたことにより、遠距離による不利は解消されたものの、逆に地場産業が店頭市場などへシフトする皮肉を生んでいます。
 福岡は、単独上場企業が35社もありますが、商いシェアは0.02%と低迷しています。地元企業や自治体を巻き込んで協議会を設立し、市場活性化に取り組み始めています。いささか出遅れの感は否めず、本来は広島との合併を模索する道もあったと思われますが、有効な手は出てきていません。
 ナスダックが上陸してくると、京都や札幌のベンチャー特化の先行きも怪しくなります。結局は統廃合が加速するのかも知れません。

■ 難しい舵取り
 東京も大阪も見通しは明るくありません。ともに立会場が廃止となり、証券取引所そのものの存立が危ぶまれています。オンラインによる仮想取引所が存在可能となり、ナスダック・ジャパンがその先陣を切りそうです。このままでは高成長企業が次々に新市場へ流れ出しそうです。当面は店頭市場が喰われるでしょうが、店頭を経て二部・一部へ昇格するというストーリーが崩れるキッカケに繋がります。
 東京は、赤字でも株主資本が小さくても上場できる新市場を創設するそうです。しかし、あまり魅力ある市場とは言えず、今後一層の条件改善が求められます。情報開示基準を不十分なまま放置してきたツケが回り始め、透明な市場を望む声も高まっているようです。ニューヨーク証券取引所も東京進出を目論んでおり、自己改革が求められそうです。
 大阪も必死です。1949年当時60.2%だった東京の売買代金シェアは現在78.5%です。大阪は28.1%から16.5%へ減少しています。東京にも上場する企業が増え、市場規模の大きい東京で商う銘柄が増えたためです。もはや同じ条件なら東京単独上場という声も高いようです。立会場を東京に先んじて廃止し、国内最大のデリバティブ商品である日経平均先物の立会外取引を認めるなど積極的な戦略に転じています。ベンチャーのための新市場も8月に立ち上げ、独自性を強調するそうです。
 名古屋は、大阪・東京のいずれとの合併に動くかが注目されます。店頭市場も第二号基準などでシェア拡大を目指しており、激しいつばぜり合いが起きそうです。

 ただし、健全な市場形成こそが取引所の信認条件です。上場基準を緩和するのは世の流れですが、情報開示などが徹底されない場合、上場直後に倒産という企業が現れかねません。投資家責任を問うにしても、粉飾などを行う企業の上場を認める取引所の責任が問われるでしょう。透明度の高い確実な情報を提供し、投資家や上場企業の信認を得られる市場作りに邁進して欲しいと思います。さて、残る地方はどう動くでしょうか。

99.08.02

補足1
 証券取引所の統廃合が可能になったのは、法改正のお陰です。ナスダックやニューヨーク証取が進出を目論んでいるのも、法改正による規制緩和のお陰です。規制緩和は取引所ばかりでなく、会員証券会社にも及んでいます。東証は閉鎖性の象徴とされた会員枠を撤廃する意向であると言い、外資を含む多くの証券会社が弱肉強食の争いを始める模様です。現在メインバンクを中心に統廃合が進んでいる系列証券の動向とも関連してくるのでしょう。

99.08.02

補足2
 証券取引所が株式上場する時代がやってきました。世界最大のニューヨーク証券取引所が上場方針を打ち出したのに続き、ナスダックを運営する全米証券業協会、ロンドン証券取引所も上場を表明しているそうです。
 主要国の証券取引所は、相次いで株式会社へ改組を始めています。しかし、東京はじめ日本の証券取引所は株式会社化さえ検討段階だという話です。株式会社化・上場は情報開示の第一歩です。自ら情報開示の範を垂れるために上場促進に期待します。

99.08.02

補足3
 賦課金の話です。東京では最低ランクで100万円、地方では6万円だそうです。賦課金は発行株式数に比例しますから、大手上場企業にとって地方の賦課金でも莫迦になりません。一方で、地方から東京へ移管される企業は同規模のままなのに賦課金が大きく跳ね上がる危惧があります。本来上場申請をする場合に比べ基準が甘く、かつ東京上場の宣伝効果は大きいと言っているようですが・・・そんなアナクロを言っている証券取引所の方が問題かも知れません。
 地方市場での単独上場企業名については、週刊東洋経済99/08/07を参照してください。

99.08.04

補足4
 新市場創設で大証と東証の対決が顕著に成ってきました。大証はソフトバンクと提携してナスダックジャパン構想に相乗りを決め、東証はマザーズ立ち上げで独自路線を維持するようです。地方証取は完全に取り残されていますね。
#N問題が懸案として残っている新年1月の対応でも、東証は大事を取って大発会見送りを表明しましたが、大証は例年通りの開催を発表しています。ここにも対抗意識が見せますが、どちらが投資家配慮だったか、遠からず結論が出ます。
 大証の対抗意識増加で、東証も攻めを意識し始めています。12月21日、新規上場企業を東京周辺地区に限定している地域制限制を2000年7月に撤廃すると発表しました。これまで関東・東北地域以外の企業は地場証取との重複上場を求めていたそうですが、これにより上場希望企業の東京志向は強まるものと見られます。地方はもちろん名証や大証へのダメージも大きくなりそうです。
#Nの東証1部2部の新規上場企業数は73社だったそうです。加えてマザーズ上場が2社の計75社は史上最高だとか(1998年54社、1997年50社、1996年59社)。また今年上場基準を緩和した結果、マツモトキヨシなど1部直接上場が10社に達したことも特徴的です。ベンチャー市場も含めて、これからの動向に注目が必要ですね。

99.12.21

補足5
 補足4の補足です。75社の内訳は、直接上場が8社、他市場経由が15社、店頭市場経由が50社、マザーズ直接上場が2社です。上場のピークは1999年12月で、計25社にも上りました。業種別では、商業が25社、製造業が21社、サービス業が16社、その他が13社だそうです。
 相変わらず店頭市場は上場への通過点と捕らえる企業が多いようです。店頭公開から5年以内にスピード上場したのは、50社中36社にもなります(とくに99年公開から1社、98年公開から5社)。店頭市場に流入する資金量が増加すれば、米国のナスダックのように店頭市場に居座り続ける公開企業も増えてくるかも知れません。1999年の店頭市場公開企業は73社に達しました。
 東証の売買高シェアはついに90%を超えたそうで、大証・名証は当然のこと、地方証にも頑張って欲しいと思います。競争のないところに発展はありません。大証には24社が、名証には10社が新規上場しました。海外との競争だから国内は統合されていいとも言えますが・・・。

本補足の数値は、日経流通新聞99/12/25の東証広告から引用
00.01.01

補足6
 補足2の補足です。
 ナスダックは全米証券業協会から分離して株式会社化することを表明しました。もともとNASDがナスダックの全株式を保有する形式になっていますが、現在は一体不可分です。この株式をNASDの会員や登録企業などに私募形式で販売し、NASDの出資比率を22%に引き下げる形で、株式会社化する。販売額は10億ドルに上る見通しです。
 その後ナスダックの株式を公開し、積極的に資金調達する計画だとのことです。ナスダックの株式もナスダックに公開するのでしょうか?

00.01.08

補足7
 週刊東洋経済2000/05/27号によれば、戦前は東証・大証を含む13の株式・先物取引所が上場していたそうです。とくに東証は、その株価が市場指数として扱われており、ずいぶんと仕手筋に振り回されたそうです。現状では、日経平均ほか多数の株式指数があるため一概には言えないものの、東証株が業績と関係のないところで物色される可能性が高そうです。
 証券取引所が自ら上場するメリットはどこにあるのでしょうか。資金調達をしてシステム投資などに振り向けるというのは納得できそうな気もしますが、それは現在の「非営利の会員組織」でもできることです。むしろ営利化したり特定企業の傘下入りする方が危険な気がします。証券取引法の改正で東証の株式会社化の途が拓かれますが、それがそのままメリットになるのかどうか、疑問があります。
 また株式会社化するに当たっての株式は、とりあえず会員証券各社に配分されます。それは会員権という味方で行けば、大も小も同権利ですが、利益貢献度(過去の物も含めて)を主張するようになると、どう配分するかでも揉めそうです。結局のところ株式会社化は絵に描いた餅でしょうか。しかし他市場との合併なども、株主が増えすぎて決まらないという話にも成りかねませんが・・・、

00.05.20

補足8
 欧州市場でのロンドン証取とドイツ(フランクフルトほか)証取の統合は、規定の路線と見られてきました。しかしスウェーデン証取の運営会社であるOMグループがロンドン証取の敵対的買収を発表しました。証取の上場性を生かした提案で、買収見込額は1,250億円ということになります。今回の買収は、水面下での交渉が不首尾に終わったためですが、OMグループの参入により、年内に完了する予定であった合併作業は停止されるそうです。
 英国金融街ではフェア性が重要視されるため、ロンドン証取の株主がOMグループに軍配を挙げれば、一転して勢力地図が塗り変わる可能性もあります。日本の証取はどこまで買収の危険にさらされるところまで危機意識を持っているでしょうか? 市場で資金を集めたいという安直な発想だけでは、市場を外資に乗っ取られる危険さえあるわけですね。ロンドン証取は未公開ながら、英国証券会社を通じて場外売買が可能となっています。
 ちなみにOMグループは、ロンドンでデリバティブ商品の取引所を運営しており、証取システムの開発・外販を手がけるなど有力な企業グループだそうです。ストックホルム証取を1992年に傘下に収め、いち早く証取の株式会社化を行った実績を持ちます。証取は上場済みでドイツ証取と単純な買収合戦を仕掛けた場合、資金調達力では優位に立つと見られています。

00.09.10

補足9
 今年の動向では、パリ・アムステルダム・ブリュッセルの3証取の合併が決まっており、新市場「ユーロネクスト」が設立される予定です。また、ロンドンとドイツの合併は、将来的にナスダックとの合併も示唆されており、OMグループの介入では市場バランスが崩れる可能性が高いです。

00.09.10

補足10
 補足9の補足です。ユーロネクストは無事に誕生しましたが、ロンドンとドイツの合併は、見送られました。

00.12.09

補足11
 日本経済新聞の2000/12/07朝刊記事は、海外の主要取引所の動向を紹介しています。既に株式会社化を終えているのは、ロンドン(1986年)・ドイツ(1993年)・オーストラリア(1998年10月)・トロント(2000年4月)・香港(2000年6月)であり、ユーロネクストが2000年9月の合併と同時に株式会社に成りました。また、NY・NASDAQ・東証・ナスダック・ジャパンは株式会社化を検討中です。
 上記市場のうち、株式の上場を終えているのはオーストラリア・香港で、限定的な公開を終えているのがロンドンです。ユーロネクストも上場準備を進めているそうです。

 上場によって資金を調達して、証取機能の強化を図ることは欠かせませんが、同時にロンドンのように、買収の危機にも曝されます。株式会社としての情報開示も求められることですし、ブームだからと言って、株式会社化や株式上場を急ぐ必要性は無いかも知れません。
 東証の株式会社化の議論では、「規模を問わない一社一票制の取引運営の原則」があり、それを厭う大手証券は賛成、それを守る中堅証券は反対、という意見の対立があり、なかなか議論が進んでいないようです。ナスダック・ジャパンのように会員証券以外の企業が発言力を増すことを警戒する声も挙がっているそうです。

00.12.09

補足12
 本文中に書きましたが、大証と京証の合併が正式に発表されました。
#N3月1日を以て、両証券取引所は合併することで契約を調印したとのことです。京証は解散して事務所も置かず、会員の持ち分調整を実施(ただし、京証会員証券会社に特例は設けない)し、京証の上場有価証券は包括的に大証に移管し、京証の役員は退任・職員も全て解職とのことです。
 いよいよ東証と大証の二極化時代に成るのでしょうか。名証の動向に興味がありますが、その前に大証はナスダック・ジャパン問題があります。証券取引所に取っては、シェア云々の前に、市場活性化という課題がありますよね。

00.12.30

補足13
 東証が株式会社化を表明しています。諸外国の証券取引所が相次いで株式公開していることに触発されているようですが、国内での評判は芳しくありません。不正防止を始めとした取引所の公共性を担保しつつ利潤追求、国内シェアが90%以上もある独占市場の透明性、多すぎる株主(会員証券会社)らによる経営監視体制などの問題をどうクリアするかを問われています。
 ニューヨーク証券取引所(NYSE)に比肩されますが、NYSEはナスダック市場との競合で不正防止機能が強化されるなどしました。市場規模から見て特定企業による独占の懸念も薄いと言われています。しかし東証では、難しいでしょう。政府出資かなにかで公益性を担保することが前提に必要であるようです。

01.04.22

補足14
 補足13の補足です。証券取引所の株式会社化のメリットは、意志決定の早さにあります。他の株式会社市場との合併も可能(しかし日本には結婚相手がありません)になることや、システム開発等の資金調達が容易に成るなどもあります。しかし、それは取締役会が正しい経営判断をした場合に限られ、かつ株主による過剰な恣意的介入が無いことも必要です。
 9人の取締役を選任する意向であるそうですが、その内の過半数を社内取締役にしたい東証と、社外取締役にしたい有力会員との間で対立があるようです。現在の執行部への批判が大きいこともあって、社外取締役を多くすることに利益がありそうですが、意志決定が大幅に遅れる可能性も高く、調整が必要であるようです。現在のトラブルの責任を取って、東証の執行部を一新することが最短の決着であるかも知れませんが・・。

01.04.22

補足15
 東証への集中化が顕著になっています。売買代金で見た東証のシェアは、本文を書いた当時で78.5%でしたが、2002年1年間では92.4%に達しています。これに対する大証のシェアは、16.5%から7.0%へ減少しています。ちなみに名証が0.5%、福岡が0.03%、札幌が0.01%だそうです。
 東証は新規上場94社(前年92社)、上場廃止78社(同44社)で純増ですが、他取引所はいずれも純減です。インターネット取引が増加する中で、これらが東証を通じて売買されている影響も大きく、ますます地方証券取引所の必要性が薄れているようです。

 市場が寡占化されることは、手数料面などで不利益を生じる可能性が高いです。東証の経営努力を引出し健全な市場を維持するためには、国内市場間での競合が欠かせません。せめて大証との二極化が好ましいのですが、大証の退潮が気になります。大証では、ナスダック撤退を受けて、新市場ヘラクレスを始動させました。しかし、シェア回復の切り札には成らないようです。

02.12.31
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