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経済の研究No.120 |
クレーム処理は難しい? |
お客様の満足を勝ち得る最短の方法は、お客様の意見を言いたいだけ言わせることなのだそうです。しかし、お客様は我が儘です。自分の価値評価が絶対だと信じるから意見を言うのであって、それが全てのお客様に適合する意見であるかどうかは忖度して下さいません。中でも、改善提案のように建設的な意見であれば助かりもしますが、いわゆるクレーム(苦情)であれば聞きたくないものです。
■ クレームを聞く立場の経験から
学生時代は数多くのアルバイトをこなしました。接客業であればクレームも自ずと聞く機会が多くなります。飲食店時代には、不味いと遅いのクレームが多かったのですが、概ね笑顔とお辞儀で乗り切れました。従業員がうっかりお客様の着衣などを汚した場合も、現金でなく食事券でお詫び申し上げれば、無事に済みました。総菜屋時代には当方の落ち度の有無を問わず、責任者同伴・手土産持参で、お客様のお宅訪問をしたこともありました。
経験的に言えば、金額的に小さいサービスや商品を提供した場合の対応は、誠意と見返り品で解決できました。しかし、パソコンや開発ソフトなど高額な商品では、なかなか大変です。お客様も高額の出費だったんだからと落胆が大きいですし、幾分か尊大な態度を示された場合もあります。こうした場合は、誠意や見返り品ではなかなか難しいものを感じました。
しかし多くの場合は、お客様の苦情をとことん聞くことと、その場で強引に解決させようとする姿勢を見せないことで、乗り切れたように思います。お客様も苦情を言いたいだけ言い、じっくりと検討時間を用意されると、比較的冷静になって常識的な線で解決できたように思います。これは某パソコンショップの店長の指導から学んだことですが・・。
お客様の苦情は、いかに自分は期待して(意気込んで)商品やサービスを買ったのか、それがどれ程深く裏切られたか、これからどのぐらいの対応を図ってくれるのか、に尽きます。お客様も自分の立場の弱さを補おうと精一杯の理論武装をされてきますし、虚勢も張られますが、落ち着けば普通の方であることが多いのです。
■ クレームを言う立場の経験から
自分の経験がありますから、普通に真面目に働いている従業員には寛大な姿勢で臨んでいるつもりです。レジ対応が遅かろうが、手続をミスして手間取ろうが、多少の接客の不都合を感じようが、ニッコリと笑って良心的なお客様を演じています。しかし、明らかにずぼらな従業員や、管理の行き届かない店の経営者には、厳しく辛く当たります。彼らは商売の大切さを理解していないわけで、それなら早いうちに気付かせて上げる方が親切だと思っているからです。多分に偏見ではありますけどね。
4月に大手有名企業のA社と155万円のローン契約を結びましたが、翌日にクーリングオフ(お客様の一方的な都合により行われる契約破棄)をしました。一つは月々購入すれば良いはずの消耗品を一括で買わせる上に値引きもなかったこと、二つは個別のサービスの価格明細や料金表を提示されなかったこと、三つは契約書の裏面の隅っこに書かれるだけでクーリングオフの説明がなかったこと、です。
翌日にはFAXでクリーングオフをする旨を伝え、簡易書留で正式な書面を送付しましたが、後日担当者から来店の上解約手続きを踏んで欲しいと電話が来ました。ノルマのために無理な契約を押し付けたのかと理解をし、本社サービスセンターへ電話で経緯を説明すると、完璧なクーリングオフの手続を取ってくれたようです。クレーム担当がしっかりしていると気持ちが良いものです。
ところが翌月、ローン契約を結んだCファイナンスから利用明細書と引き落とし通知が送られてきました。念のためにファイナンス会社にもクーリングオフの旨を簡易書留で通知した(しろと契約書に書いてあった)のですが、どうも行き違いだったようです。すでに午後7時でしたのでサービスセンターは受付終了しており、残高確認の部署へ電話すると「平日の営業時間内に電話をせよ」と応えます。
残高確認の部署のはずなら契約内容も確認できるはずと問答しましたら、上司に電話が変わって、即座にクーリングオフの手続完了と行き違いのお詫びがありました。とはいえ、押し問答しなかったら、やはり平日に電話しないといけないものなのか、と考えると理不尽な対応に感じました。
■ とあるクレーム事件
すでに有名になっていますが、「東芝クレーム問題」というのをご存じでしょうか。ある東芝商品のユーザーが、カスタマーサービスの応対に腹を立てて本社にねじ込んだら、本社の怖いオッサンが電話に出てユーザーを恫喝したという事件です。背景がウェブサイトで公開されている上に、動かぬ証拠として恫喝された内容の録音データを公開しています。
すでに週刊ダイヤモンドなどが取り上げていますが、事実関係はどうあれ、東芝が強硬な態度を示しているのが気になります。ウェブサイトの内容を名誉棄損だとして、東芝は法的措置を取ると息巻いているそうです。客観的に見て恫喝したのは間違い無いようであり、それを詫びるでもなく法的措置に訴えるのはいかがなものでしょうか。相手が個人なら裁判を長期化に持ち込んで葬れるとでも思っているのでしょうか。
さて件のユーザーは、自分が買って保証期間内に故障した東芝製品を完全修理してくれることだけを訴えています(少なくともサイト上では)。今では正式な詫びを入れてくれるだけも良いと言っています。東芝にとって、裁判に持ち込んでまで恥をさらすような事件でも無いと思うのです。ユーザーに恫喝を加えたオッサンは何者なのか、なぜそんな人物をクレーム処理担当に置いているのか、きちんと情報開示をしないと株主総会で株主に吊し上げられますぞ、経営陣諸君。
ちょっと話が逸れましたが、以上のようにお客様のクレーム処理は難しいものです。誠心誠意を忘れてはいけませんし、極力事例を収集して効率的で確実なクレーム対応の採れる体制作りを目指して欲しいと思います。とくに個人商店よりも大企業の場合、ちょっとした対応ミスが企業イメージを大きく下げることに成りかねません。昔と違って、お客様は知恵を持ちましたし、主張するノウハウも身につけました。企業もそれなりの努力をするべきではないでしょうか。
99.07.08
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補足1
東芝は全国紙が相次いでコメントを掲載したことから、慌ててマスコミ対策を立ち上げ、各紙の記事で東芝との温度差が分かる皮肉な展開となっています。さらに東芝側は自社ウェブ上で反論記事を掲載していますが、ユーザーは満足していたはずなどと一方的な主張で反論し、子供のケンカを見せています。自社に落ち度がないとしても、まず誠意を見せることが必要であるのに、高圧的な態度を示しています。非常に残念なことです。これでは、自らクレーム処理に難点があることを証明したようなものです。
99.07.15
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補足2
東芝は、ユーザーが抗議文を掲載しているホームページに対し、内容の一部削除を求める仮処分を福岡地裁に申請しました。法的手段に訴えるとしていたことを現実のものにしたようです。日本ではネット情報の削除を求める仮処分申請は例がなく、裁判の行方に注目されます。
このホームページはマスメディアが取り上げたことによってアクセス数が急増し、カウンターは400万アクセスを突破しています。これだけ多くの国民の関心を集める中で、訴訟提起という下策を採用した東芝経営陣は、世の中が見えていません。今回の仮処分が認められたとしても、東芝側が得るものは何もないでしょう。一体何を求めて無駄な訴訟費用まで使うのでしょうか。
99.07.15
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補足3
7月19日東芝は記者会見を開いて、ユーザーに対する全面謝罪を行いました。同時に補足2の仮処分申請も取り下げました。謝罪は町井副社長が行ったもので、「いかなる事情を考慮しても不適当なもので真摯に反省している」「心よりおわび申し上げる」などとコメントしました。
一方で、問題のやり取りは「担当者の問題で異常な対応だった」と述べたほか、ビデオデッキ自体には問題がなかったと重ねてコメントし、特異な事例であることを強調しました。また「一般論として、インターネットなら何をやってもいいというわけではない。一方的な自分の見方を公表することが許されるのか」とコメントし、今回の敗北宣言は依然として理不尽なものという主張も行った模様です。
今回の事例は、プライバシー問題と表現の自由とのキワドイ問題が絡んでおり、ネットでのフリーな活動に波紋を投げかけています。しかし東芝側も一方的な見解を述べ続けたという点は同様であり、むしろ大企業側の情報開示に遅れや不正確さが目立ったことが最終的な敗因と観られます。
いずれにしても、これ以上の恥を曝さずにすんだことは幸いで、ユーザーとの和解も含めて企業イメージ再構築に励んで貰いたいと思います。
99.07.19
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補足4
7月22日東芝の町井副社長はユーザーとホテルで会見し謝罪しました。しかし東芝側が暴言以外の一連の対応に誤りはなかったと強弁したらしく、80分間の会見は物別れに終わったそうです。ユーザーは「謝罪そのものは受け入れる」(時事通信報道)とコメントし、一応の誠意に理解を示しました。
さて本文を読み返していただければ、どうでしょうか。東芝はメディアの集中砲火と衆人環視を交わすためだけに謝罪を演出したに過ぎません。あくまで自説を曲げずユーザーを突き放しました。結局はお互いに大きなシコリを残し、大人げない行動を一般誌などから批判される形になりました。イメージ回復にも貢献せず、いやな後味を残しました。
謝罪の場で愚痴を言い募るのは大手企業として恥ずかしいと感じます。自社ビデオに欠陥はない、自社のアフターサービスに不備はない、と主張したいのは理解できます。しかし現実にトラブルが起きました。個別の問題にせよ欠陥はあり不備はあったのです。不本意でもまず全面的に認めて謝罪し、今後の在り方についてコメントを求め、綺麗に会見を纏める度量が欲しかったと思います。
このコラムも2週間で5,700アクセスを戴きました。果たして読者の方々がビデオの欠陥やアフターサービスの不備を信じているとは思いません。東芝の大人げない対応、理不尽な言い訳、そうしたものに疑問を感じているのだと思います。
99.07.22
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補足5
補足3,4のような指摘について、リスク・ヘッジ社長の田中辰巳氏が週刊文春に寄稿しています。7月29日号の「インターネット「企業テロ」にどう対抗する」という表題で、今回の東芝の対応のまずさを指摘すると同時に、他の企業も同様の危機に晒されないよう防護すべきと警鐘を鳴らしています。一読の価値有りです。
99.07.23
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補足6
週刊文春の8月26日号が「東芝に謝罪させた男は、名うての苦情屋だった」というもの凄い中傷記事を掲載しています。おそらく東芝に好意的な編集部が掲載したものと見られますが、あまりに中身のない記事ですので、政治の研究第94回「週刊文春のWHY?」で批判文そを掲載しました。こちらも是非、一読して下さい。
99.08.18
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補足7
東芝クレーム事件の発覚から一年以上が過ぎました。すっかり世間では忘れ去られた様子です。週刊文春に対しては、今年に入って名誉棄損訴訟が提起されたと新聞の小見出しが伝えていました。東芝も詳細については口を拭ったまま、です。
この不況のなか、業績低迷中のスーパーなどは付加価値サービスを付け、売り上げ拡大に繋げようと必死です。かつて西武百貨店がある種常識的な顧客サービスをポスターで訴えかけるイメージ戦術で成功しましたが、近頃は西友も倣っているようです。「交換・返品はよろこんでお受けします」というキャッチが上々です。本当かどうかは実証していませんが・・。
00.08.23
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補足8
クレームHP事件も、ほぼ沈静化したようです。一連の事件が貢献したことは、企業に聞く姿勢を持たせたこと、ネット世論の強さを見せつけたこと、にあると思います。
4月に住友海上火災保険が、東京都内男性のHPに抗議をし、ネットでの公開禁止を勝ち取る事例が出ました。このサイトの場合は、「総額1億円の保険金着服」などと題して、事実証拠に基づかない中傷文を公開したとし、住友海上が公開差し止めの仮処分を求めていたものです。プロバイダーがコンテンツを削除したところ、別プロバイダーに切り換えるなどがあり、東京地裁はインターネット上でのHP公開禁止という「包括的な」禁止処分を出したということです。
これまで民事裁判で、名誉棄損に当たるとして損害賠償が命じられた例はあるものの、刑事裁判で仮処分が出たのは初の事例であるそうです。初の事例だけに、包括的な禁止処分というのはいかがなものかと思いますが、件の男性が仮処分に従うかどうかは不透明とのことです。本訴訟となれば、仮処分の内容の妥当性も争われると思いますが、どうなりますでしょうか。
これは極端な事例であると思いますが、これに倣って個人HPのコンテンツ削除を求める企業が増えてきそうです。あくまでも、「HPコンテンツが事実でないという挙証責任」を企業側が負うべきです。情報の真偽を争うに当たっては、情報を秘匿・隠滅できる企業側に有利であることを、配慮して欲しいところです。そもそもクレームHPを書かれるような、不透明な経営をしないことが重要ですが。
01.05.04
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