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経済の研究No.114 |
「総合」からの撤退 |
昨年、第51回「「総合」の限界」を書きました。それより9ヶ月余りで「総合」は大きく様変わりしました。自力再生を目指していたはずの総合金融は、国有化や公的資本注入による半国営化に転じました。総合電機は未曾有の大幅赤字を計上して失速し、不得意分野から大胆な撤退を始めています。総合ゼネコンは債務免除という非常識な手段に活路を求めて、不得意事業からの撤退を決めています。総合証券も野村証券が大コケしたせいで、大変な状況です。
ここへ来ても強気の姿勢を弱めない「総合」企業は多いですね、事業特化をせず、合併による企業規模拡大を繰り返している企業が多々見られます。そんな中で、積極的な撤退を強いられているのは総合商社です。相次いで株価を下げて身動きの取れなくなった商社が相次ぎました。
■ 総合商社の名誉ない撤退
総合商社の機能は、高度成長期を経て大きく様変わりしたようです。商品やサービスを動かして日銭を稼ぐ時代から、自ら事業を立ち上げてキャピタルゲインやインカムゲインを吸い上げる方向へシフトしています。しかし、採算を度外視して事業を拡げすぎて資金や人材が分散し、事業の多くが赤字を垂れ流しています。各事業に功労のあった重役達の意向でリストラが進まず、一向に業績が回復しませんでした。
大手の一角では、日商岩井や伊藤忠が事業整理に乗り出すと発表していますが、まだまだ「総合」の看板に拘りを見せており、新規事業に色目も使っています。そろそろ専門分野に特化し、どの部門でも利益を稼ぎ出せるよう足腰を鍛えるべきでしょう。
いつの間にか総合商社は、韓国財閥と同じ途を辿ってしまったようです。いずれも小さすぎて採算の合わない事業を、競合各社で鎬を削る構図がそっくりです。事業拡大の原資を莫大な借入金に依存し、その利払いにさえ汲々としているのですから。とするなら、処方箋は韓国財閥と同じものが必要です。事業売却や事業交換による事業特化とシェア拡大です。手元資金を積み上げて不採算事業に始末をつけ、資金と人材を特化分野に集中投入することです。
しかし依然として面子に拘っています。面子が利益を生まないことは承知の上で、事業提携によって一時凌ぎを図ろうというのです。たしかに系列を越えた画期的提携も見られますが、主導権や戦略展開で物別れに終わるであろうことは明白ですから、もう少し抜本的な事業整理に取り組んで欲しいものです。実を取るための「名誉ない撤退」を望みます。
■ 撤退を強制された、兼松
旧東京銀行系の総合商社兼松は、事業規模と人員を3分の1にまで削減する大胆なリストラを発表しました。その背景には、損失処理の先送りを進めようとする経営陣に、監査法人が3月期決算を承認しない旨を勧告したことにあったと報道されています。監査法人が「不適正」の烙印を捺してしまっては倒産だということで、急遽メインバンクの東京三菱銀行に支援を求めたのだという話です。
東京三菱銀は、大胆なリストラと債務免除を柱とした損失の一括処理を決意しました。安易にゼネコン他への債務免除に応じている他の大手銀行とは異なり、東京三菱銀は経営陣の一新と株主資本の取り崩しと新規増資の引受を発表しました。増資引受という冒険の代償として大幅な改革を迫るということです。
リストラ計画は全て銀行主導で行われ、記者会見した兼松の社長は新社長の人事さえ知らされていなかったそうです。著しい混乱の中で発表されたのは、「総合」の看板を下ろして専門商社へ特化することでした。本体は食糧・食品・電子・情報通信など主力事業に絞り、見込みのありそうな鉄鋼・機械・繊維などは分社化し、不動産・建設・羊毛などの不採算事業からは撤退するという計画です。
資本金を410億円から100億円へ、総資産を9,000億円から4,000億円へ、連結対象子会社を230社から70社へ、総人員を1,900人から660人へ、役員を19人から7人へ、それぞれ圧縮するのと引き替えに、銀行は1,700億円の債務免除と200億円の増資に応じるのだそうです。
■ 兼松は幸せだったかも
兼松はこれでも幸せだと思います。銀行主導でのリストラのため逃げ口上が手に入り、また最後まで面倒を見て貰える安心があります。当分は長引きそうな不景気の中で、重荷になるだけの「総合」の看板を下ろし始める企業は増えるかも知れません。しかし事業縮小や撤退には莫大な資金が必要です。そうした後向き処理のための資金を、果たして誰が融通してくれるでしょうか。じり貧のまま潰れてしまう総合企業がこれから増えるかも知れません。
資金がないからと言って問題を先送りするのは限界です。早い段階で事業売却や事業交換を強化して欲しいところです。場合によって収益事業と抱き合わせで処理する必要も生じるかも知れませんが、やらぬよりはやった方がマシです。得意分野に特化し、フットワークの活かせる適正規模にまで調整を図って欲しいです。同業同士の単純合併などという愚は重ねないで下さい。
兼松の場合、人員削減でも優遇されています。新卒の採用見送りによる自然減のほか、関連会社や取引会社への転籍等の手段を採り、積極的な解雇は行わないようです。これから行き詰まる総合企業の場合も同じ手法が採用できるかは疑問です。
経営者諸君、従業者を路頭に迷わせてはダメですよ。
従業者諸君、路頭に迷わせそうな経営者は叩き出しましょう。
名誉はなくとも、勇気ある事業整理の成されんことを!
99.06.15
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補足1
#N3月期単体で21億円の最終黒字、連結で340億円の最終赤字を計上した伊藤忠商事では、47年ぶりの無配に転落しています。今後2年間で連結子会社1,000社を3分の2に圧縮するリストラ計画を発表し、役員報酬を最大5割削減することも公表されました。従業員の年俸も98年度比で7%、97年度比で12%の削減になることを労使間で決定し、一体となって再建に尽くす姿勢を明確にしているそうです。
99.06.16
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補足2
総合商社は、メーカーや小売りによる商社外しである「中抜き」への対応として、積極的なリストラによる筋肉質リストラを進めているようです。一方で、メーカーや小売りへの出資を行うことで、中抜き防止に着手している模様ですが、大量取得したコンビニ株式の株価下落に見舞われて大幅赤字を計上するなど苦戦も見られます。
総合商社では、取引仲介による口銭(手数料)稼ぎからの脱却を目指し、事業投資による配当(インカムゲイン)や株式上場益(キャピタルゲイン)へのシフトも進めているといいます。ただし自己資金の不足という課題が多く、事業売却や不採算部門の閉鎖、人員削減にも乗り出しています。いかに優良企業を発掘して育成するか、あるいは買収企業の付加価値を高めるか、投資銀行的な能力を問われています。
また従来型事業の商社間提携も進んでいます。鋼材や繊維などの一次製品、プラントや建設など二次製品などを商社間で事業提携や統合を進め、あるいは旧態部門の子会社化などにも取り組んでおり、総合商社という印象は大きく様変わりしつつあるようです。
01.04.21
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補足3
総合スーパーの低迷ぶりが顕著です。「何でもあるが魅力ある商品が無い」と言われ始めた総合スーパーが、曲がり角を迎えているようです。総合スーパーで全店売上高でトップだったダイエーは、2000年度で初めてセブン=イレブンに流通首位の座を奪われてしまいました。また営業利益がトップだったイトーヨーカ堂は、ピークの1/5まで落ち込んでしまい、首位をジャスコに奪われました。営業利益だけの比較では、イトーヨーカ堂はセブンイレブンの1/9以下の水準です。ピークの1993年にはイトーヨーカ堂の方が大きかったのですから、完全な親子逆転です。
大店法の改正を視野に、大量出店を重ねてきたジャスコとイトーヨーカ堂ですが、ともに消費者に飽きられつつある総合スーパーをどうするのか、を問われています。このまま魅力のない業態に転落してしまった場合は、積極的に不採算店舗の閉鎖を進めているダイエーやマイカルの復権に足を掬われるかも知れません。
01.04.21
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補足4
補足3の補足です。2001年2月決算での営業利益は、イトーヨーカ堂が163億円で、ジャスコは236億円でした。ジャスコが急上昇した分けでなく、イトーヨーカ堂が急落したというのが本当です。ただし、ジャスコは地域子会社の合併効果も加わっていますし、イトーヨーカ堂はセブンイレブンの配当金が最終利益に加算されるため、一概には比較できません。
営業利益でイトーヨーカ堂が首位に立ったのは1985年2月期で、それまではダイエーが16年間首位でした。イトーヨーカ堂は新規出店を9店舗に抑えたものの既存店の大幅減収が続き、経費増がそのまま営業利益を削ったようです。
イトーヨーカ堂の子会社であるセブン=イレブン・ジャパンは、チェーン全店売上高が2兆円を初めて越え、2兆円を割り込んだダイエーに逆転した模様です。小売業売上高の首位をダイエーから奪う形になりました。ダイエーは不採算店の閉鎖が続いていることに加えて、既存店の低迷も続いており、1972年に三越を追い越して以来の首位を明け渡してしまいました。
01.04.22
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補足5
補足2の補足です。商社のコンビニ株式の含み損の数値を書きます。2001年3月の時点で、三菱商事が保有するローソン株式は840億円(投資額2,100億円)の含み損、伊藤忠商事はファミリーマート株で830億円(同1,350億円)の含み損であるそうです。マルエツの筆頭株主となった丸紅商事も、大きな含み損を被った模様です。いずれも投資からのリターンは今後十分に期待できるとして評価損を計上しない方針であるようです。果たして、無事にリターンが得られますでしょうか?
01.04.22
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補足6
補足5の補足です。大手商社と大手流通の提携がさらに進んでいます。丸紅は、マルエツ・ローソン・ダイエーなどダイエーグループに出資し、三菱商事はローソンの筆頭株主に就任し、伊藤忠商事は西武百貨店・ファミリーマートほかに出資しています。さらに住友商事は西友に出資していますが、三井物産だけが別路線でした。
三井物産は、資本出資無しにイトーヨーカ堂・セブン=イレブン・ジャパンとの業務提携を発表しました。経営権を握るなどでなく、実質的な協力関係を構築することを優先したといい、補足5のような株式含み損に悩まされるリスクもありません。三井物産は、ローソンや吉野家D&Cなどの出資要請も見送っており、資本参加なしでの対等パートナーを捜していた模様です。提携の中身は、商品の共同企画・海外調達・物流効率化などであるそうです。
資本参加を伴わないだけに、その提携は実績重視のシビアなものに成ると思われますが、それほどの覚悟がなければ商社と流通が提携するメリットも無いでしょう。
01.05.04
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