経済の研究No.51
「総合」の限界
バブル以降、企業の
総合化
、多角化、グローバル化、全方位化、フルラインナップ化・・・言葉は違っても「
総合
」の看板に拘った企業は多数有りました。一例を挙げますと、総合金融、総合電機、総合流通、総合商社、総合ゼネコン、総合リースがあります。企業業務の相互補完やスケールメリットなどを考慮することなく、あらゆるジャンルを取り込んでの規模拡大を競ってきました。
しかし総合化に成功した企業が一社もないことは歴史が証明しています。経営資源(人、モノ、カネ)のいずれも共用できない事業が増え、組織が肥大化し、せっかく利益の出る部門を抱えながら、それを打ち消す以上の赤字垂れ流し部門が存在します。これまでも事業のリストラと云われながら、なかなか赤字部門の切り離しができていません。
金融機関による貸し渋りが続く中、将来的に利益の出せる部門であっても切り捨てざるを得ない現状があります。当然ながら赤字垂れ流し部門は、即刻リストラしなくてはいけません。そこで生じる余剰経営資源をいかに利益の出る部門に振替られるかが、経営者の手腕が問われているところです。
先頃、大倉商事が破綻しました。同社は
総合
商社の看板に拘って経営の舵取りを誤ってしまいました。同社の得意分野は食料事業と航空宇宙関連事業と云われ、自己破産を申請した現状で両事業のみ引き取り手があるそうです。破綻前に両事業に経営資源を集約するか、せめて再建計画でそのような計画を立案すればメインバンクの富士銀の協力を得られたかも知れません。しかし最後まで総合に拘ったことが再建の途を閉ざしてしまったようです。皮肉にも、利益が薄いながら売上高が稼げ、昔から上得意客だった鉄鋼企業に逃げられたことが資金繰りを急速に悪化させたのでした。取引先の鉄鋼企業の方が時代を見通す目を持っていたことになります。
また昨年に破綻した三洋証券も、得意分野の商品開発に重点を置かず、
総合
証券に拘ったことが破綻を招きました。黒字支店、黒字部門での自主再建を模索したものの、結局は自己破産を決めました。現在は本店を除く全支店を閉鎖し、売却可能な部門の売却を進めています。
あるいは、総合ゼネコンがあります。建築か、土木か、特殊技術かいずれかに得意分野を抱えてきたはずのゼネコンが、
総合
に拘って得意でもない工事を受注し赤字を垂れ流しています。また相互補完が可能だと説明して建築主体のゼネコンと土木主体のゼネコンが合併したりもしています。たしかに好況不況のいずれでも利益が得られる体制かも知れませんが、常に一方が他方のお荷物になる構造であり、管理部門のスリム化も難しい状況に陥っています。
最後に、低迷を続けている金融機関でも同様の現象があります。もともと都銀はグループ内に証券会社、信託銀行を抱えていながら、100%出資の金融子会社の設立に踏み切りました。
総合
金融化を大義名分とするものの、横並びの悪弊が出たわけです。グループ企業は持株比率を5%以下に制限されることもあり、業際問題での不利を覚悟して新規設立しました。現在のところほとんどの金融子会社は実質赤字経営です。仮に利益を計上している金融子会社でもグループの業務を一手に引き受けてかろうじて黒字化している状況です。一般競争に曝されて生き残れる子会社はほとんどありません。
また生損保の問題もあります。生保が損保子会社を、損保が生保子会社をそれぞれ設立したことは、互いの体力を消耗するだけの結果に終わり、外資のシェア拡大に貢献しました。国内生保が相互会社であるという特殊性はあるものの、互いの業務提携よりも互いの過当競争に動いたのは残念でなりません。業界の見栄が保険加入者の得るべき利益を失わせてしまったのです。生保、損保のいずれも厳密には得手不得手の商品ジャンルがあるはずですが、フルラインナップに拘って、業績に伸びが見られません。
以上のように、現在の経済低迷は、個々の企業が実力を過信し、
総合化という錦の御旗
に縋ったことが原因だと思います。当初から暴走であるとの声もありましたが、結局は、株主や取引先、融資先が充分なチェック機能を果たさなかったことが原因であると考えます。総合化のほかに、国際化と称して無計画な海外進出、海外シフトを進めた企業もあります。不況が叫ばれる今こそ、自分の実力相応となるよう経営規模の適正化を図って欲しいものです。
98.08.28
補足1
半導体不況やパソコン事業の過当競争など個別の理由はありますが、そうした個別部門の赤字を全体として吸収できない状況が1999年3月決算の総合電機各社で顕在化しそうです。連結純損益で見ると、日立製作所は1,300億円の赤字、三菱電機は300億円の赤字、東芝は250億円の赤字、日本電気は200億円の赤字となると発表されています。富士通だけは50億円の黒字を見込んでいますが、これはパソコン事業での一人勝ちを反映したものです(したがって、下期の売上げが予測を下回れば赤字転落の可能性もあります)。