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経済の研究No.113
封じられた迂回増資

 国民銀行、幸福銀行に続いて東京相和銀行(以下、東相銀)が破綻しました。東相銀は預金量21,253億円・貸出金19,067億円であり、第二地銀第5位の規模を誇っていました。しかし先の二行同様に、金融監督庁による早期是正措置発動に応えることができず、自主再建を断念しました。東相銀は第三者割当増資による自己資本増強へ望みを繋ぎましたが、株式市場に見放された結果で株価は急落し、増資引受先を見つけることができなかったのです。
 東相銀は24時間バンキングなどで東京都内の顧客を開拓し、一時の経営不安説を払拭するかに見えました。数度の第三者割当増資も成功し、多額の預金量を活かして踏ん張るかとも思えました。しかし、いくつかの誤算が破綻を招いてしまったようです。

■ 東京相和銀行の誤算
 誤算の原因は、金融監督庁の目こぼしを期待していたことでしょう。都銀はひとまず公的資金が注入されました。地銀も第二地銀も多少のリストラは求められるものの、同じように救済されると踏んでいたフシがあります。
 昨年から住宅ローンの証券化に取り組み、米国系金融機関の協力を得て国内第一号となることを目指していたそうです。結局は格付け会社が格付けを降りたことでご破算になったそうですが、証券化による資産圧縮よりも第一号の名分に拘っただけだったのが失敗の原因だそうです。名分を争って鷹揚に構えていたことから見て、破綻処理はないと信じていたのでしょう。
 また自行よりも規模の小さい国民銀は破綻処理が始まりましたが、一種の見せしめと考えていたようでもあります。少し前から外資による資本参加を模索していたそうですが、そのピッチを早める様子が見られなかったからです。
 何よりも昨年9月末の金融監督庁検査は分かっており、債務超過を承知の監督庁が目立った動きを示していないことに油断を持っていたと思います。また従来から関係会社に第三者割当を依頼しては自己資本を積み上げており、いつでも増資できると見てもいたようです。

■ 迂回融資による自己増資だった
 自己資金で自己の増資株式を買うことは全く意味がありません。タコが自分の足を食って命を長らえようとすることと同じです。銀行の場合は潤沢な資金が手元にあり、これを使って増資をしたい誘惑に駆られるでしょう。もちろん自己増資は、違法行為です。
 そこで融資関係にある関連会社に増資を引き受けさせる形を採用しました。第1回の増資引受は東総開発の370億円、第2回・第3回の増資引受は東総ビルサービスの73億円と49億円などです。また日立信販も49億円、新洋信販も8億円の増資を引き受けています。以上の4社はいずれも東相銀から多額の融資を受けています。純粋な投資で増資を引き受ける余裕など無く、融資資金の一部が増資引受の原資となっていることは明かです。結局は融資継続の見返りに関係会社に増資を引き受けさせていたわけで、資金だけは他行から調達させる形を取りながら、実質的には迂回増資(迂回融資による自己増資)でした。
 同じ構図は先に破綻した幸福銀でも明らかになっています。幸福銀は系列4信用組合、12関連会社に増資引受を要請しました。関連会社にはもちろん多額の融資を行っており、明かな迂回増資だったことになります。なお増資に当たって関連会社が調達した資金は第二地銀系の資金と言われ、専ら東相銀と後述のなみはや銀行の資金と見られています。

■ 複雑な支え合い関係
 幸福銀と東相銀は融資先が重複するなどで密接な関係にありました。その上に1998年10月に福徳銀行となにわ銀行が合併して成立したばかりのなみはや銀も一枚噛んでいます。なみはや銀は東総開発に直接・間接を併せて増資引受資金109億円を融資しています。東総開発が保有している東相銀の株式は価値0ですから、この融資は間違いなく焦げ付きます。先述の新洋信販にも融資していますし、幸福銀系のハッピークレジットなどにも多額の融資をしています。
 関連会社による迂回融資のほか3行の相互扶助によって資本増強を図ってきた以上、行き詰まるのは当然のことです。増資引受企業名と引受額のデータは「金融ビジネス6月号」に紹介された公知のデータであり、金融監督庁も当然把握していた事実です。
 今回の破綻劇は、こうした持たれ合いを知っていた監督庁が、債務超過額の公表・早期是正措置発動を以て手足を封じたことによって成立しました。幸福銀から着手したのは、同行が株式未上場で混乱が少ないと踏んだからでしょう。再出発を始めたばかりのなみはや銀行も早晩、追いつめられるかも知れません。

 東相銀の債務超過額は、1999年3月期末で1,022億円(修正公表値)です。皮算用では税効果会計で440億円埋め、さらに1,000億円以上の追加増資で乗り切る算段でした。その上で公的資金の注入を申請するつもりだったのでしょう。しかし創業者一族によるオーナー支配が強く、暴力団が絡んだ巨額の不動産融資案件なども抱えていたそうで、いずれ破綻は避けられなかったのでしょう。
 金融監督庁は、すでに3行に対して死亡宣告を下しました。正式発表先だって監督庁の検査結果や、3行の動向を報じていた日本経済新聞の活躍もありました。いずれ破綻させなければならない銀行をペイオフ解禁前に破綻させるスタンスは正しいとしても、いささかやり過ぎではなかったか、という懸念が残ります。

99.06.14

補足1
 迂回融資を利用した自己資本強化は、本文中の第二地銀ばかりではないようです。保険会社各社は運用難から支払い余力を示すソルベンシーマージンを嵩上げするため、生保間・損保間で劣後債や劣後ローンの引受を行っているようです。すでに何例か明るみに出ていますが、金融監督庁は1999年4月から、意図的な持合については自己資本から除外することを明文化しました。今後は関係会社を挟んだ複雑な迂回融資が横行するかも知れません。

99.06.14

補足2
 金融監督庁が東相銀の自己資本比率4%割れを公表したのは5月14日でした。それから破綻に至るまでの1か月足らずで、預金2,200億円が流出しました。この流出額は全預金量の1割に当たり、短資市場での有担保借入や有価証券売却で資金繰りを凌いでいたようです。株価急落ばかりでなく、こうした台所事情も自主再建断念の理由のようです。
 金融監督庁が死亡宣告に至るまでの経緯は、内部関係者でなくては知り得ないデータを含めて日本経済新聞が逐次公開しており、これを公開処刑と呼んでいたメディアがありました。

99.06.14

補足3
 金融監督庁は北海道銀行と新潟中央銀行にも早期是正処理を発動したことを公式発表しました。発動=破綻のイメージが定着しつつあり、新潟中央銀行の株価急落も凄まじいものです。公にすることで、もはや自主再建の途を封じているもので、まさに公開処刑であると言えましょう。また一方的な厳格査定の押しつけにより、いくら自己資本を積み上げても追いつかないという不信もあります。
%、柳澤金融担当相は「自己資本比率が4%を割り込んでいる銀行はもう一行あり、何らかの手当をしなければいけない」とコメントをしました。まだまだ公開処刑を続けると言うことなのでしょうか。はっきり名前を出さないのも憶測を呼ぶだけで危険なことです。

99.06.15

補足4
 粉飾決算事件の捜査が本格化している日債銀で、1996年10月に実施した510億円の第三者割当増資が迂回増資だった疑いが濃厚になっています。増資を引受けたのは主に投資事業組合という事業組合でしたが、その資金の出し手が関連ノンバンクの日債銀キャピタルや不良債権受け皿会社だっということで、事実なら迂回増資どころか自己増資です。この増資は優先株によりましたが、日債銀破綻により完全な紙屑になりました。

99.07.26
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