経済の研究No.112
リスク管理は自己責任
変額保険で損失を被った人たちが、もう何年間も、デモやピケを続けています。しかし大蔵省前に何度日参しようが、銀行本店前で何万枚のビラを配ろうが、失われた虎の子は帰ってきません。変額保険とは元来そういう商品でしたし、契約書や設計書にも小さな字でリスクがある点を明記していたはずですから。
■ 本当に騙されたの?
変額保険は問題のある商品だったでしょう。景気がいつまでも右肩上がりを続けることを前提にし、銀行から高利資金を借り入れて運用しても儲かると、設計されていたのですから。自信を持って売り歩いた生保や銀行の職員にも問題がありますが、借金をしても儲かるというセールストークを疑いもせず、商品を買ってしまった人たちの責任の方が大きいのです。
変額保険はリスクの大きい商品でした。今だから言えると指摘されそうですが、商品の中身を吟味すれば初心者にも分かるほどのバクチ商品だったです。ポン太の知人にも何人か勧誘を断った人がいます。断った人の言い分は、やはり胡散臭いの一言に尽きます。さらにセールスに来た人間が商品の原理を充分に理解していなかったとも言っています。
騙されたと主張する人たちは、大きなリターンに目が向いて注意が足りなかったか、リスクに気付きながらも金儲けの魔力から逃れられなかったか、したのでしょう。今でも詐欺に騙されただけで自分に落ち度はない、と信じたい気持ちは分かりますが、現実に目を向けて欲しいです。
■ ノーリスク・ノーリターン
大きな儲け(リターン)があるところには、必ず大きな危険(リスク)が存在します。つまり
ハイリスク・ハイリターン
ですね。銀行預金でも不払いというリスクがあるからこそ、金利が貰えるのです。リスク無くしてリターンを得ようとすると必ず大きな失敗に出会います。
リスクある商品のリスクを強調したのでは販売できません。如何にしてリスクを小さく見せるか、如何にしてリスクへの関心を薄れさせるか、に売り手は腐心します。買い手は常にリスクを意識して、どの程度のリスクを覚悟すれば期待できるリターンが得られるかを真剣に吟味しなくてはダメです。そうでなくては、必ず後悔することになります。
ハイリターンを売り物にした詐欺事件としては、投資ジャーナル事件・豊田商事事件・原野商法事件・オレンジ共済事件・経済革命倶楽部(KKC)事件などが名高いですね。詐欺ではないものの必ず儲からないと断定できる、マルチまがい商法・商品先物取引などもあります。また結果として騙す形になった、上述の変額保険・拓銀や山一の抵当証券・一部の投信商品もありますね。
リスクを回避したいと思うなら、リスクヘッジという保険を利かせれば良いのですし、あるいは分散投資という手段もあります。始めから堅実路線の
ローリスク・ローリターン
を狙うのも良いでしょう。最悪なのはハイリスク・ローリターンですから、とにかくリスクを見極める目を持ちましょう。
■ リスク管理は自己責任
かつて株式投資というハイリスクなはずの投資商品に、損失補填というリスク軽減サービスがありました(もちろん違法でしたけど)。銀行預金にも元本保証という建前がありました(2001年3月まで保証されていますけど)。これらは証券会社や銀行がリスクの肩代わりをしてくれたから可能なことでした。
しかし、これからは違います。リスクは常に自分自身が管理しなくてはダメです。銀行預金も銀行の無担保債券を買うのだという感覚が必要です。普通社債さえも元本は帰ってこない可能性を念頭に置くべきです。近い将来には日本国債さえも紙切れになる時代が来るかも知れません。自分自身でリスクを負わないでリターンだけ得られる商品は、世間から一切無くなります。そこのところだけは意識改革をしてくださいね。
自分は素人だから・・・という言い訳は通用しない時代になります。リスク管理のできない人間は、資金運用など考えてはいけないのです。これからの時代、まだまだ投資家には冬の時代が続くでしょう。今の時点でわずかな金利差に釣られてアレコレ投資をするよりも、じっくり情報を集めて勉強してみて下さい。そしてリスク管理のできる賢い投資家に成りましょう。
99.06.08
補足1
変額保険については不十分な点があるので補足します。変額保険でも契約時に年利10%を保証するかのような設計書を渡していたり、リスクについて書かれた契約書を渡していなかった場合は、違法性が認められて勝訴しています。
大同生命が被告の事例では、担当者の説明不足が認められたものの、安易な契約を行った責任で契約金のうち2割ほど過失相殺されました。明治生命の事例では年利9%保証の設計書を渡していたため銀行へ支払う金利相当を含む全額の返還が命ぜられています。しかし原告が被告の悪意を立証できた希有なケースで、敗訴のケースの方が多いようです。
当然ながら生命保険会社が説明を尽くし、契約者が納得の上契約したことを立証されると勝訴の可能性は全くありません。本文で扱っているのは、こうしたケースに該当される方々の話です。
99.06.09
補足2
いくつか本文中の事例を紹介しましょう。投資ジャーナル事件は、値上がり確実な株を安く入手するという触れ込みで出資を募り、8,000人近くから580億円を詐取した事件。豊田商事事件は、金地金の売買契約の証として預かり証券を手渡しながら、契約金の大半が金買付に回らず消滅した事件。原野商法は値上がり確実と買わされた土地が無価値の原野だったという事件、その後副次的犯罪が発生した事件でもあります。オレンジ共済事件はT参院議員の政治団体が年利7%を謳って90億円を集めながら、大半を議員周辺で使ってしまっていた事件。KKC事件は、年利400%にもなるという未常識経済理論とやらを信用させて360億円を集めた事件。
いずれの事件も出資法違反で強制捜査、立件に及んでいます。かなり巧妙な事件ばかりですが、そのリターンの大きさが明らかに異常でした。
99.06.09