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経済の研究No.110 |
日銀特融は焦げ付いた(改題) |
山一證券が唐突な自主廃業を宣言したのは、1997年11月のことです。あれから18か月の歳月を費やして、増えたのは莫大な損失だけでした。会社更生法適用申請でもなく、自己破産申請でもなく、異例の自主廃業という手法を選択した山一證券は、ついに5月中に自己破産を申請すると言います。一体誰のための自主廃業だったのでしょうか・・・?
■ 勧告したのは大蔵省
誰が見ても債務超過だった山一證券は、私的整理のようで公的整理のような「自主廃業」という選択肢を選びました。巨額の飛ばしを行い、損失を国内外のペーパーカンパニーに付け替えていたことが表面化しても、何か黒字を生み出すような仕掛けを持っているのかと注目されました。まさか、それが大蔵官僚と山一経営陣の保身のためだけだったとは・・・呆れます。
山一證券に関するレポートは、第24回〜第27回に書きましたので、必要な方は参照して下さい。重複は最小限にさせていただきます。山一證券が破綻したのは、長年君臨した行平氏のエゴに尽きます。積極的な海外展開、拘った法人取引、切り捨てたメーンバンク、好んで隠蔽化した巨額損失でした。大手上場企業でありながら、たった一人の人物の顔色を窺い続けてチェック機能が欠如していたのでした。
その経営戦略は全くの臨機応変(行き当たりばったりとも言いますね)で、首尾一貫しませんでした。一貫していたのは失敗を隠し続けることだけでした。天下の山一證券のこと、本気でリストラに取り組めば廃業する必要はありませんでした。しかし大蔵省の証券局長が自主廃業を勧告、ここへ来てもプライドを捨てられなかった新経営陣は密室の勧告に従ってしまいました。結果、証券不況を誘導し、引いては金融システム全体に巨大なインパクトを加えました。そして多くの株主に負担を強い、従業員を路頭に迷わせました。当事者達は多額の退職金を手にしながら。
■ 債務超過が1,000億円!
自主廃業を決めた当時、資本超過は1,000億円あるとの発表でした。数日の会計操作で経営陣は主張し、大蔵省も追認して、粛々と清算作業に入ったはずでした。法的整理なら満額支給されない退職金を満額支給、その総額は500億円以上・・・退職金積立金まで投機に注ぎ込んでいたため、ほとんど持ち出しでした。また本来はデフォルト対象の転換社債2,000億円を前倒し償還しました。法的整理なら凍結できる債務を、整理が終わらぬウチに嬉々として支払いました。名門のプライドをちらつかせながら・・・。
やがて雲行きが怪しくなります。資産内容を精査したはずの大蔵省は、その中身を一切公開しませんでした。1998年6月の解散総会を目前にして200億円程度の債務超過だと公表、総会の席上ではまだまだ損失が増える見込みと言いながらの他人事でした。資本超過を前提に融資された日銀特融も、機関投資家から集めた劣後ローン430億円をデフォルトすれば返済できると豪語しました。
ところが資産を片っ端からディスカウントし、賃貸先には収入保証として多額の積み増し家賃を支給、役員には破綻前の給与を支給、など大盤振る舞い。どう見ても債務超過は拡がりそうな雰囲気でした。まだまだ持ち上がる飛ばし取引、相次いで訴訟を提起されました。また機関投資家も偽った情報開示で拠出(正確には債券の一部を山一の要請でローンに転換)させられたた劣後ローンのデフォルトは違法である、と全額返済の訴訟提起しています。現状では1,000億円以上の債務超過です。
■ 日銀特融は焦げ付いた
日銀特融の残高は5,000億円だそうです。この1年で全く圧縮されていません。一日1億円と言われたコストを使いながら、1年間何もしなかったことになります。会社を食い物にした退職役員の訴訟提起も今年に入ってからで行方は定まりません。仮に分捕っても1か月分のコスト代にも成らない計算です。これから残った資産を投げ売りすれば、債務超過が2,000億円を超える可能性もありそうです。どうやって特別融資を返済するのでしょうか?
引き取り手の決まらない顧客資産が50億円近く残っていますが、これは供託される予定で使えません。劣後ローンも行方が定まらなければ取り崩せませんし、下手をすると返還義務を生じます。とすれば日銀特融の半分近くがデフォルトに成ります。日銀特融が焦げ付くのは前代未聞のことです。日銀が大蔵省と山一證券に誑かされたのです。日銀は証券業界の基金から穴埋めされることを望んでいますが、大蔵省と金融監督庁は「特融は日銀の判断だったはず」と基金からの肩代わりを否定しています。
このままでは日銀が全額損失を被ることになりますが、他に選択肢が無い以上はやむを得ないでしょう。これによって、今後の日銀特融は発動できなくなります。ペイオフ解禁以降の取り付け騒ぎでも発動されないのではないか、と思います。
■ 戦犯は誰だ?
なぜ日銀が損失を被るのでしょうか? 発動を決定したのは日銀であっても、指示したのは大蔵省の誰かでしょう。行政機構の人間がその権限を持って指示したのなら、大蔵省が被る必要があります。当時の証券局が消滅して金融監督庁に移管されたこととは別問題です。
また山一の新旧役員を糾弾する必要があります。転換社債の全額償還を指示した人物、資本超過などと大ウソを報告した財務担当役員、資産の投げ売りほかを指示・実行した役員、未だに退職金の自主返還を検討中などと戯けている旧役員たち・・・。しかし失われた損失は帰ってきません。
しかし日銀も呑気者です。少なくとも昨年6月の時点で債務超過が明らかになったのですから、最大債権者として破産申請をするべきだったでしょう。そうすれば、ここ1年分のコストも不要でしたし、新旧役員を告訴することも間に合ったはずです。資産を全て取り上げて有効な資産運用を考える余地もあったはずです。その判断を誤った責任と言うことで損失を全て被らざるを得ないのでしょうか。
99.05.09
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補足1
山一證券は5月31日に自己破産を申請する予定です。当初から自己破産しておけばデフォルトが出来た転換社債や劣後ローンも、自主廃業というあいまいな処理を行ったために返還の義務を負うことになりました。その責任は明確にする必要があります。
また山一證券の債務超過額は日を追うごとに膨らんでいます。5月始めまで1,000億円という発表であったものが、1,500億円といい、2,000億円と言っています。いままでも保身のために数字を誤魔化していたことを認め始めています。たしかに自己破産を申請すれば、これまでフローで誤魔化してきた債務超過額が明るみに出ます。18か月もの期間、一体何をしてきたのでしょうね。
99.05.26
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補足2
虚偽の報告を信じて債務の一部を劣後ローンに転換することに応じた生命保険会社各社は、全額デフォルトを回避するために訴訟を提起していました。結局は和解となりました。和解条件は発表されていませんが、半額返還であろうとの新聞報道です。責任の所在を明確にせず民事上の問題も、刑事上の問題も闇に葬ってしまうことになりました。
さて半額の損失で済ますことが可能となる生命保険会社各社ですが、すでに運用利回りの切り下げなどを断行している折でもあり、安易に和解した責任を何らかの形で問われることに成るでしょう。相互会社の場合は、一般の株式会社とは違い株主代表訴訟は提起されずに済みますし、株主総会に代わる総代会は翼賛会ですので安心ですが、やはり解約の増加などという形で表面化するでしょうか。
99.05.26
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補足3
山一證券の自主廃業は明らかに大蔵省の指導によるものです。この当時はハードランディング路線、といいますか金融危機の引き金になると考えていなかったので、経営責任を厳しく問いすぎたという形になったようです。金融危機への応急処置だけでも数十兆円もの巨額資金を必要とした一因となってしまいました。
問題は誰の責任を問うかということです。現状では、今回の特融焦げ付きの責任を取って宮澤蔵相が辞任する説が濃厚ですが、蔵相は当時の責任者でありません。直接自主廃業を勧告した長野・元証券局長は現在浪人中(正しくは、司法修士生として研修中)ですから、やはり責任を問うことはできません。山一の旧経営陣ももはや形ばかりの責任しか問えません。
99.05.30
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補足4
山一證券は6月1日に東京地裁へ自己破産を申請しました。負債総額は4,960億円で債権者は日銀です。見込み通り、債務超過額は2,000億円を超えており、さらなる資産処分損が出るとも言われています。もっと早い段階での自己破産申請が必要でした。償還してしまった転換社債は回収できませんしね。
99.06.01
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補足5
6月2日に破産宣告が出されたことを受け、野沢・前社長は5月21日現在の債務超過額が1,602億円だと発表しました。
日銀の小幡理事は「山一向け特融が棄損されることになれば、日銀や日本の通貨に対する信認に傷が付く」とコメントし、証券業界または財政による補填を求めました。
しかし日銀は最大債権者として、成すべきことがあるはずです。まず資産を投げ売りした責任を問い、担当役員に報酬と退職金を返却させること、個別の事案について責任者の氏名を公表すること、義務果たさずして権利なし。
99.06.02
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補足6
山一證券の破綻が破産が確定したことで、ようやく第1回債権者集会が12月15日に開かれました。届け出のあった債権は4,499件、総額4,369億円に上り、日銀特融の残額は3,303億円であるそうです。山一證券の資産は、1,926億円で、債務超過額は1,518億円の計算です。6月の公表数値より圧縮されていますが、厳しい数字であることに変わりはないようです。
99.12.17
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補足7
山一證券の破綻から5年が経過しました。日銀特融の返済不能額は約1,100億円であるそうです。海外訴訟案件は片づいたものの、国内訴訟案件が残っており、未処分の資産も若干残っているとのことです。現在の業界に肩代わりできる能力はなく、日銀の貸し倒れになるのではないでしょうか。
日銀による株式購入が始まったばかりです。優良な企業を選別して株式を取得する方針ですが、雪印乳業や日本ハムのような事例もあって、大幅に値下がりしたりする銘柄も買ってしまうことがあるでしょう。つまり投資の自己責任ということですが、特融は国の機関としての施策です。日銀が自ら臨んで行った特融でないため、本来は国税で負担すべきなのでしょうか。
本文にも書いたとおり、無担保の転換社債2,000億円の償還を勝手に行わなければ、特融を全額返還してもお釣りが来ます。そのお釣りから社債購入者(機関投資家)や株主に配当するのが本来であったのではないでしょうか。償還の判断について、現在でも不明な点が多々あります。
02.11.30
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