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経済の研究No.109
公開子会社の保有は許される?

 第99回ソニー・ショック」では、親会社が上場子会社を完全子会社化することに問題があると書きました。ソニーが決定した株式交換比率は、子会社の将来性を加味した株価から見ると妥当ではないと思います。とくにSMEとの合弁会社SCEは金を生む卵であり、その半分の株式を保有するSMEの評価が不当に安いものだからです。他の2子会社もこれから一層成長しそうなだけに、3子会社の株主は、ソニーによる完全子会社化を快く思っていないでしょう。

■ 富士通東和エレクトロンの場合
 東証1部上場だった富士通東和エレクトロン(以下、FTE)は、1998年10月、富士通に吸収合併されました。社史が調べられないので・・・そこは省略しますが、数度の第三者割当増資が成されていますので、途中から富士通が経営権を握ったのではないかと思います。1998年3月末の富士通の持株比率は38%でした。この会社は電解コンデンサが主力でしたが、需要落ち込みでやや低迷気味でした。このためハイブリッドICやパソコン用カードに主力をシフトさせ、3年間でコンデンサ依存率を47%から32%にシフトさせました。
#N6月4日、富士通はFTEの吸収合併を発表しました。5月の株価比率は富士通1に対してFTE0.15〜0.17でしたが、発表された合併比率は、富士通1に対してFTE0.11でした。このためFTEの株価は急落しました。その後のFTEですが、富士通に吸収された後、全業務を受け皿会社「富士通メディアデバイス」(富士通100%出資)に譲渡されました。結局は都合良く成長部門を100%子会社に移してしまったわけです。今年に入ってハイテク株人気が続いていますが、FTEが存続していれば高値更新中だったでしょうから、FTE株主の悔しさも一塩でしょう。

■ トーア・スチールの場合
 東証1部上場だったトーア・スチール(以下、トーア)は、NKK傘下の電炉大手でした。スクラップから鋼材を生産していましたが、鋼材需要低迷で毎期連続赤字でした。しかし51%の株式を握るNKKの戦略の一環として動いており、株価は低迷しているものの、まずまず安全と目されていました。ところが1998年9月、NKKはトーアの解散を発表しました。資産と負債を全て肩代わりするという大胆なものでしたが、解散に伴う特別損失計上でトーアは実質的に債務超過になると発表しました。80〜100円のレンジにあった株価は、1円まで急落しました。
 NKKとの連鎖倒産なら別ですが、NKK以外の株主には寝耳に水だったでしょう。過剰設備は廃棄した上で健全資産だけを受け皿会社「エヌケーケー条鋼」へ譲渡するというもので、主要株主は銀行や商社でしたから予め了解を取り付けていたかも知れませんが、一般株主は大損失を被りました。全事業を1999年3月に受け皿会社譲渡して解散しました。トーアの営業権などは考慮されませんでした。依然として赤字を垂れ流すこととは別問題のはずです。

■ バーミヤンの場合
 業績が低迷中だったファミレス大手のすかいらーくは、1997年7月に株式公開したばかりのバーミヤンを吸収合併すると発表しました。1999年7月1日付で吸収するため、実質2年間の株式公開だったわけです。すかいらーくは、低価格路線店ガストの低迷を始め既存店の売上げ低迷に喘ぎ、今年度は100店舗の新規出店で増収増益を狙うそうです。一方のバーミヤンは、旺盛な新規出店を繰り返して急成長中であります。1998年12月期の売上高1,624億円、経常赤字13億円だったすかいらーくは、バーミヤンを再吸収することで決算を繕うのです。1999年12月期の売上高を1,970億円(前年同期比346億円増)に、経常利益は72億円(同85億円増)に見込んでいます。
 バーミヤンは業績好調を背景に、1997年12月に1:1.3の株式分割、1998年12月に1:1.1の株式分割をするほど伸びを見せており、株主は大いに期待していたはずです。それが50.1%の株式を保有する親会社の意向で本体に吸収されるのですから、バーミヤン株主の失望は大きいことでしょう。

■ 公開子会社の保有は許される?
 以上ソニーを含めて4例を紹介しました。親会社が公開子会社の生殺与奪権をいつまでも握ることは望ましくないことがお分かりでしょう。かつて富士通は富士電機の子会社でしたが、そのクビキから解き放たれて、今では規模で親会社を凌いでいます(現在、富士電機の持株比率は13.3%)。そもそも株式公開は、子会社に自力で資金を稼がせるために行うのですから、いつまでも過半の株式を握っていたり、経営権を掌握することなどは好ましくありません。あくまで自主性に委ねるべきなのです。投資家が賢くなって、公開子会社の場合は将来性を織り込まないで買えば済むことなのですが、なかなか無理な相談ですね。
 ソフトバンクは子会社を次々に株式公開・上場させて資金を調達しています。さらに子会社株式の流通量を極端に絞り込み、株価を高止まりさせて架空の含み資産を膨らませています。こうした手法が、本来の株式公開制度の趣旨に適合していないことは明らかでしょう。一方、同様の手法を採用して失敗した企業にはダイエーがあります。ダイエーはグループ企業間で複雑な株式持合を行い、流通株式量を絞り込み、多額の有価証券含み益を計上してきました。しかし本業低迷から含み益は大幅な含み損に転じ、身動きが取れなくなっています。ソフトバンクは純粋持株会社制に移行するため同じ轍は踏まないでしょうが、イメージ先行で株価が上昇していますから、危険であることに変わりはありません(第88回ソフトバンクドリーム」を参照)。
 理想的なのはセゾングループです。西武百貨店、西友、パルコ、クレディセゾンなど中核企業は、お互いに株式持合をしているものの、身内で過半数を抑えていません(西武百貨店は未上場のため実体不明)。親密企業としての関係を保つ連邦経営であると褒められています。西友は、急成長中の子会社の持株比率を、良品計画は20%まで、ファミリーマートは1.7%まで引き下げました。西友の場合、子会社特損を吸収するため売却を迫られたという背景がありますが、他の資産よりも先に成長子会社の株式を売却する大胆さには感服します。いまだに大胆な資産売却に踏み切れないダイエーとは違っています。

 子会社の株式を公開するのであれば、持株比率を少なくとも30%以下まで引き下げる覚悟でするべきです。そこまで関係を薄めると子会社が立ち行かないのであれば、株式公開が時期尚早ということです。子会社株価を制御して架空の含み益経営に邁進することは許されないことです。そして本体の業績がどんなに悪化しても子会社を道連れにしないことです。それが子会社に将来性を見て協力した投資家を裏切らないために、唯一できることです。
 いつまでも公開子会社を自己の所有物としてはいけない、というのが今回の結論です。上記4社ほかからの反論をお待ちしています。

99.05.05

補足1
 富士通の公開子会社は結構あります。売上規模順に並べてみると、富士通ゼネラル(大証1部上場,持株比率47.1%,99年3月期1株益17円,同期0〜3円配)、富士通電装(東証1部,50.0%,11円,10円配)、富士通機電(東証2部,53.2%,8円,8円配)、富士通ビジネスシステム(東証2部,52.6%,52円,12円配)、富士通デバイス(東証2部,66.8%,80円,22円記念配)、富士通サポートアンドサービス(東証2部,56.1%,140円,12円配)、富士通システムコンストラクション(東証2部,66.8%,93円,14円記念配)などと成ります。
 デバイス,サポートアンドサービス,システムコンストラクションの3子会社は、上場基準を満たすために大幅な持株放出をしたものです。富士通の戦略として積極的に子会社を上場させていく戦略が見えてきます。しかしゼネラルを除いて、いずれも過半数の株式を依然として握っています。FTEと同様の手段を採用することは、まだまだ可能であります。

99.05.05

補足2
 オリックスは、1999年3月末に子会社で大阪2部上場のオリックス・インテリアを吸収合併しました。オリックスは同社の58.1%の株式を引き受けて再建中でしたが、業績に大きな伸びが見られず無配に転落したことから、全額出資子会社に経営譲渡を行った後で本体に吸収したものです。オリックス・インテリアの株主には、1株当たりオリックス株0.02株の割当を行ったとのことです。複雑な形を取ったのは株式交換制度が認められていなかった為です。
 そして2000年3月末には、同じく子会社のオリックス・キャピタルとオリックス・エステートを株式交換で買収すると発表しています。交換比率はオリックス1株に対して、キャピタルが33.13株、エステートが0.22株。両社は株式未公開ですが、積極的に本体に取り込んでいる様が見られます。。

00.01.02

補足2
 日本アムウェイは、アムウェイグループの総利益の1/3を叩き出す超優良子会社でした。これまでは店頭公開という看板が業績拡大の手法に使われてきましたが、マスコミによるバッシングなどもあって株価が大幅に下落し、オーナーによって市場流通株式のTOB(公開買付)が行われました。4月1日に店頭公開廃止となる旨をちらつかせて一般株主にTOB応募を促す強引なレターを配布したそうです。過半数の株式を抑えているオーナーに抗する術はなく、一般株主は泣く泣く応募したそうです。発表時点の株価は1,000円を割り込んでおり、提示価格はその5割増だったそうですが、1991年の公募価格の1/3という水準で手放さざるを得なかった投資家には不幸でした。

00.01.02

補足3
 欧米では、子会社の上場に投資家が難色を示すそうです。日本国内では当たり前ですが、得てして親会社と子会社の利益が相反することが理由だそうです。子会社の成果物を親会社が購入するとか、親会社の成果物を子会社が購入するとか、一方の利益拡大は他方の損失拡大を生むことは多々あり、投資家としては安心して株式を持てないということだそうです。
 米国企業の場合、企業価値があっても自社では使い切れない部門の売却を平気で行います。あるいは部門をスピンアウト(分離)して株式公開し、全株式を放出するなどということも行います。いつまでも支配権を握ったりするよりも、ゲインを受け取って再活用することが最大効果を生むことを知っているということに成ります。
 ましてや、一部株式のみを市場で流通させ、過半数の株式を握って人気を煽り、架空の時価総額を誇るようなことは健全な経営と呼べないようです。日本企業が海外マネー調達のために再び外国市場への上場を意図しています。しかし公開子会社を多数抱えるような企業には、大いに不満を抱いているそうで公開子会社を整理しない限り有利な条件は得られ無さそうです。
 これからは連結経営の時代です。事業再編にスピードが求められている現状で、公開子会社の絡む事業は総会を待たないと手を付けられないなどの問題も指摘されています。たしかに子会社を上場させれば大きなキャピタルゲインが入りますが、あくまでも目先の利益だけに目が向くと、大きなしっぺ返しを受けそうです。

00.05.05

補足4
 本業では巨額の赤字に喘ぎながら、子会社や関連会社の株式売却益で黒字に穴埋めしている光通信とソフトバンク。両社はキャピタルゲインで多額の利益を投資家から吸い上げるとともに、架空の時価総額を生み出して資金調達の武器に使ってきました。そのリスクに市場もようやく気づき始めていますが、まだまだ目眩ましは有効のようです。
 例えば完全子会社の株式を売却して売却益を計上しても、その利益は本来の株主の利益です。株主としては子会社の企業価値を切り売りして現金を手にしただけのことで、もしも子会社の将来成長性が見込めるのであれば、今株式を売却されること自信が不利益を被らされることになります。間違っても、これにより株価が上昇することは異常です。
 現状は実体価値以上の公募価格で株式が売り出せるから救いがあるものの、子会社株式の売却益で経営責任をうやむやにされるのでは、大変な迷惑です。本業で100億円以上の赤字を生じている企業の経営陣は、手腕を誇れる立場にありません。

00.05.05

補足5
 また新しい事例がありました。キャノンは店頭公開の子会社であるキャノン化成を株式交換方式で完全子会社化すると発表しました。現在キャノンは67.23%と2/3以上の持株比率を維持しており、完全子会社化への障害はありません。交換比率はキャノン化成株1株に対してキャノン株0.25株とするそうです。
 しかし上記交換比率は、発表直前までの株価比率とは大きく乖離しており、キャノン化成の株価が大幅に下落し、化成の株主には大損を与える結果になりました。もともとキャノン化成は自社ででカートリッジを生産すると同時にグループ工場からの納品もコントロールする生産統括会社もありました。現在の納入先の大部分はグループであるため、公開企業では生産調整などが株主の反対で実現できないと判断したそうです。
 つまるところ、公開に伴う資金調達では投資家大事でしたが、本音はお家大事の投資家無用という形に成りました。化成の1999年12月期の売上高は1,720億円、経常利益60億円の優良子会社の将来性に賭けた投資家の意図は、踏みにじられてしまったようです。もう少し合併比率で、投資家に配慮すべきで無かったでしょうか?

00.09.10

補足6
 キャノン化成株は、8月9日値幅制限一杯の200円安でした。8日の終値が1,360円でしたが、キャノンの4,560円から計算した1,140円より220円も高かったためです。キャノンは「現時点でこれ以上、株式公開したグループ外社の完全子会社を進める計画はない」と発表しましたが、市場の憶測でキャノンアプテックス社の株価も急落に見舞われました。株式公開を単なる資金調達手段とせず、公開することのグループ内でのメリット・デメリットも十分な検証を進め、原則公開したものは独自路線を貫かせるぐらいの覚悟が必要でしょう。

00.09.10

補足7
 日本経済新聞01/01/27朝刊で「株式会社を考える 〜 子会社はだれのもの」と題した特集を掲載しています。新しい視点で分析しているので、ご一読ください。

 ソニーコミュニケーションネットワーク(SCN)が発行する予定の「連動株」が紹介されています。連動株の株主は、SCNに対して議決権を持たない頼りない立場で、配当はSCNの業績に連動して支払われるものの、自身の出資金がSCN以外に流用されても異議を唱えることができないとあります。親会社のソニーは、SCNの100%支配権を握り続けるため、極めて弱い株主地位であるとあります。
 日立製作所は、グループ内の事業を一元化して競争力強化を目指しているものの、国内企業で最多の22社という上場子会社を持っていますが、子会社の日立電線に反旗を翻され、一元化の目論見が崩れたと紹介されています。上場子会社と利益の反する局面では、親会社が良いように利用することにも限界があるということでしょう。
 日産自動車系の物流会社バンテックは、MBOにより日産自動車との資本関係を解消したそうです。親会社であった日産自動車は、人材の受け入れの強請、物流費削減名目での利益吸い上げを行ったため、独立を決意したとあります。子会社の成長を考えない親会社を棄てる、そんな時代が来たのですね。

01.01.28

補足8
 松下電器産業は、連結対象の子会社5社を株式交換方式で完全子会社化すると発表しました。対象となるのは、松下通信工業(出資比率56.3%、2002年3月期売上見込み8440億円)、九州松下電器(51.5%、3800億円)、松下寿電子工業(57.6%、3850億円)、松下精工(57.6%、820億円)、松下電送システム(67.5%、未公開)であり、松下電送システムを除く4社は上場企業です。
 デジタル家電など成長分野に経営資源を集中させるには完全子会社化が近道ということですが、これまでの連邦経営を改め、電器産業主体の意志決定システムへ移行する模様です。事業再編後に部門分割も行う模様ですが、従来の株主に対する説明は不十分であるようです。交換比率等も未定で、投資家の理解が得られる対応を取るのかどうかは不透明です。さらに日本ビクターなども候補に挙がっているようです。

01.12.29
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