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経済の研究No.100
NYダウ、夢の1万ドル

 第100号となります。日本時間3月16日23時51分(現地時間15日09時51分)、ニューヨーク株式市場の株式指数の一つである「ダウ工業株30種平均株価(通称・NYダウ)」が10,001.78ドルを付け、夢の1万ドルを達成した。NYダウは市場で最も元気な30銘柄の株価を単純平均するもので、市場全体の動きを示す株式指数ではないものの、市場の勢いを示すバロメーターであります。株式指数に市場が振り回されるようになった昨今の動きは、先物取引という特異な経済行為が現物取引を振り回すと言うことであり、株式市場を単なる賭博の場に変えているのであります。この点は昨年8月に第53回株式指数に振り回されないで」の記事として書きましたので、重複は避けたいと思います。同様の傾向は東京株式市場でも顕著であり、日経平均株価と株式市場の地合とが連動しています。

■ 目的化した1万ドル
 NY市場の危機は繰り返し警告されてきました。米国全体の景気が減速しており、産業部門での凋落が何度も指摘されていました。その中で株式市場だけは元気で、一向に崩れる気配を見せてきませんでした。確かに個別の材料が出ては大崩するものの、数日経てばマイナス材料をもプラスに転じては不死鳥のごとく復活を遂げてきました。欧州市場の先行きが見えないこと、日本市場が低迷から抜け出せないこと、エマージング市場の幻想が崩れて回復の見込みがないこと、などNY市場以外に魅力的な投資先がないということが理由です。このため海外資金も大量に流れ込みました。米国国民も個人貯蓄を削ってまで株式市場に資金を注ぎ込んでいます。それ以外にNY市場には一つの目標があったということも一因だと思われます。
 NY市場が成長した過程は、ネット上でもいろいろ解説されていますので割愛します。しかし、確実なのは1998年前半には米国景気も大きく減速し始めていたということです。市場の牽引役であった情報・ハイテク・金融の3業種のうち、金融の多くはすでに脱落し、情報・ハイテクでも選別が始まっています。NY市場でもNYダウで見る限り、成長は衰えていないように見えますが、実際は市場で行き場を失った資金がNYダウの指数銘柄に集中していることに過ぎません。そして、わずかな好材料を発見しては買い上がり、多少の悪材料は吸収して上昇を続けてきました。
 昨年4月に9,000ドルを超えたNYダウは、景気の急激な減速のために10,000ドルに達することができず、何度もトライを続ける結果を生みました。10,000ドルを達成することは、当初、到達確実な目標でだったはずです。次いで到達可能な期待を生み、最期に到達することが目的化しました。

■ 1万ドルの達成後
 かなり以前から言われていたことですが、NY市場はこれから調整段階に入ると見られています。実力以上に評価されたハイテク銘柄が実力相応に調整を受けるであろうことや、情報・通信銘柄も実績に応じた価格の落ち着き先を探し始めると見られるためです。アナリストによって見解が分かれるようですが、NYダウに関しては約1割から3割の下落があると言われています。
 機関投資家は積極的に利食い売りに動いてくるものと見られますが、相対的に安値圏の銘柄を物色しているとも聞こえ、市場外への資金シフトはあまり生じない様子です。個人投資家は、NYダウ11,000ドルという強気の姿勢も見せていますが、10,000ドル達成による一服感から債券ほかへの資金シフトを進める動きも出て、二極分化するだろうとの声が大きいようです。市場の鍵はミューチャルファンドが握ることに成りそうです。
 NY市場が調整段階に入れば、日本をはじめアジア市場へ流入する資金が増加する可能性が高く、とくに3月期末を意識して高値を更新している東京株式市場への流入が期待されそうです。

■ 日本市場への影響
 東京株式市場は、連日連騰を続けています。期末を意識したドレッシング買いが活発化したものと見られていましたが、次々に機関投資家が参入して大商いが続いています。これまでは上値を抑え続ける先物の利食い売りや、決算対策の持合解消売りなどがありましたが、これらがほぼ一巡したことや、売り物を消化できるだけの旺盛な買い意欲が支えています。信用取引を利用した空売りが踏み上がられて買い戻しに転じていることも加速度を上げている理由のようです。
 ここまで回復を見せ始めると、未だに割安感が出ている日本の株式は魅力が出るようです。大手銀行の不良債権問題も公的資金注入で圧縮の目処が立ち、市況回復で有価証券含み損が含み益に転じる結果、上場企業の財務体質が大幅に改善する余地が生まれているためです。とくにNY市場が調整局面になるのであれば、一時的にシフトしてくる資金が増えるのは間違いなく、すでにシフトが始まっているという観測も濃厚です。現在のところ外国人と見られる投資家の売買は大幅な買い越しで、4月以降も持続的に上げ相場が続くとの楽観姿勢が大勢を見せています。

 さて問題はこれからです。200円以下の低位株も積極的に買われていますが、買い材料が見当たらないものが多いです。建設業も債務免除のお陰で株価が急回復していますが、業績が好転しているわけではありません。あまりにもお祭り相場に発展するのは危険なことです。米国は1991年以前の不況を徹底した経営効率改善を実施して結果、足かけ9年間の繁栄を続けています。改善が不徹底で有れば、もっと短期間の繁栄で終わったことでしょう。
 日本は経営効率改善が始まったばかりです。今株式市場が急回復してしまうと改善が中途半端なまま放置される危険が大きいと思われます。これから金融機関を含む企業トップの責任が問われようかというところですが、株式市場の回復で一服感が出て反省を生まないのは危険ですね。長期的な展望を持って抜本的な改革を行うためにも、株式市場は取り敢えずの調整を始めて欲しいところです。

99.03.17

補足1
 本文を補足しておきます。株高による好景気(というよりもお祭りムード)は継続しており、とくに貯蓄を削ってまで株式投資と消費に回しています。企業の業種別営業利益で見れば、前年比30%以上増加しているハイテク、同20%以上増加している循環型消費は好調で、金融も全体では二桁成長です。しかし素材の凋落は著しく、金融も純粋な金融機関ではマイナスに転じています。株式市場が崩れれば、あっという間に全業種の落ち込みが始まります。ちなみに16日は9,930ドルで引け、17日は9,900ドルを再び割り込んでいます。一服感が説得力を持ち始めました。

99.03.18

補足2
 日本経済新聞は、NYダウが10,000ドルを達成したことを諸手をあげて歓迎しています(3月18日朝刊「NY株 未踏の領域に」の記事)。本気とは思えませんが・・・こんなコラムが一面を飾るとは大恥です。もう少しニューヨーク市場全体を捕らえたコメントを掲載して欲しかったのですが・・・。本場NYでさえ警鐘を鳴らしているのに、余りにも恥ずかしい記事です。そろそろ経済新聞の看板を下ろすべきなのかも知れませんね。

99.03.18

補足3
 NYダウの誕生は1896年5月26日。当日の終値は40ドル94セントだったそうです(補足1ご紹介のコラムから引用)。1987年10月のブラックマンデー以降、ジリジリと指数が上昇を続け、1993年のクリントン大統領就任頃から急騰、1996年10月6,000ドル、1997年2月7,000ドル、同7月8,000ドルとなり、上述の1998年4月9,000ドルを達成したものです。30銘柄で102年間続いているのはGEのみ。時価総額ではマイクロソフトに抜かれていますが、そのバックボーンは桁違いに大きいのです。

99.03.18

補足4
 一時は9,000ドルを割り込むところまで調整されたNYダウでしたが、その後は力強さを回復して終値ベースでも10,000ドルを突破しました。4月に入ってからは旧ユーゴスラビアの紛争の影響でユーロ資金がドルへシフトを始めていると言い、継続的に資金が流入している模様です。市場の牽引役だったハイテク産業も、コンパック、インテルが相次いで業績の下方修正を打ち出すなど不安定な状況にありますが、未だに強気の姿勢を崩していません。NYダウは4月14日、10,400ドルを上回っており、本文中では否定的見解を示した11,000ドルも達成しかねない状況です。反転した場合の反動の大きさが非常に心配されます。

99.04.14
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