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経済の研究No.63
市場地合悪化の元凶

#N9月30日。日本の株式市場は、日経平均13,406Pという低水準で大引けを迎えました。国内の銀行からも機関投資家からも証券会社からも嘆き節が聞こえてきます。しかし、冷静に考えてみると、その元凶は、政府にも一般企業にも一般投資家にも外国人投資家にも無いはずです。むしろ彼らの無責任な体質にあるのではないでしょうか。

 まず銀行の責任です。いま銀行の貸し渋り、あるいは貸し絞りを招いているのは、銀行の体力不足です。それはバブル期に無制限に不動産や株式に投資を続け、しかも自己責任すら取り得ていない状態です。手詰まりとなれば行政の介入を求め、行政が貸し渋りの解消にと資本注入や低金利誘導をしても自己体力の強化に使うばかりで日本経済の担い手としての義務を果たしていません。義務を果たさないために取引先が破綻しているのに、その償却が体力的に負担だと言っては、さらなる支援を行政へ求めています。しかも自分達のリストラはお座なりで、人員削減と言えば子会社転出等での員数合わせ、本店売却と言えば子会社を使ったリースバック、人件費圧縮と言えば一時金のみの削減・・・そして今度は株式含み損の問題です。
 株式含み損が多い原因は、別に株式市場の地合が悪化していることと関係はありません。もともと銀行の保有株の取得価額は額面近かったはずで、それを使って益出しを繰り返してきたことに問題があるのです。本来の益出しであれば、保有株式を手放すことが必要ですが、彼らは愚かにも同値以上の高値で買い戻してきました。これは益出しではなく、単なる利益確定の帳簿操作に過ぎません。そこまでして保有しなければ成らない理由は、世間の理解が得られないことです。例えば、持合になっていて一方的な理由で売却できない、グループ戦略上売却せず自己の傘下に置いておきたい、貸し金が多額の中で緊密な関係を築いておきたい、といったところでしょうか。
 すでに指摘してきましたように持合のデメリットは、お互いに運用効率の悪い資金が張り付き資本運用効率が悪化すること(配当が5円として、簿価50円なら利回り10%ですが、簿価1,000円なら利回り0.5%。さらに無配なら利回り0%です)、互いに支払う株式配当は相殺できず課税の対象となること、安定株主であることで諸問題が表面化せず自己改革を遅らせてきたこと、などです。持合のメリットも市場流通性の改善などと言われてきましたが、もともと実力以上の発行株式残高で在った上に、この不景気で一層の増資を繰り返しているために全く意味を無くしています。

 つぎに機関投資家の責任です。機関投資家はいろいろありますが、とくに運用資産の大きい生保を考えてみましょう。機関投資家が株式を保有するのは、あくまで自己資産を効率よく運用するためです。したがって無配株式を保有することや、業績低迷中の企業に出資することは許されないはずです。またグループ会社とは言え、緊密金融機関という理由だけで増資を引き受けることや債権放棄することは、在っては行けないことです。まさに存在意義を問われる状況でしょう。仮に問題株式の保有を認めたとしましょう。その場合は生保の面子に賭けても株価を引き上げさせるための努力をするべきです。当該企業が赤字事業を継続していたり、高い給与を支給していたり、不明朗な決算報告書を作成したりしていれば、経営陣を更迭してでも経営効率の改善に努めさせなくてはいけません。いくつもの企業に出資している生保が、ノウハウに不足しているとは考えられず、積極的な経営介入を行うべきなのです。いまは傍観を続けてきたために評価損が拡大していますが、生保の体力も失われてきた以上、抜本的な対策を打たねば成りません。また無計画に保有株式を貸し株したことも反省をするべきで、貸し株でもしなければ資産価値のない株式は、どんどん売却を進めるべきです。クズ株式を保有する義務は生保にはありません。たとえ行政の要請があったとしてもです。

 最後に証券会社の責任です。国内証券会社は相次ぐ不祥事問題で一般投資家の信用を落としました。その結果、市場で流通する資金量が減少し仲介手数料が減少し経営難に陥っています。また大手の一画であった山一證券の消滅のダメージも大きいでしょう。それ以上の問題は、かつて扱い高シェアが85%以上と言われた国内証券が、いまでは外資系証券と同等程度、自己売買を除くと下回っているとまで言われる凋落ぶりです。外資系証券がシェアを延ばしている理由は、もちろん外国資本をバックとした資本力・・・ということもありますが、それ以上に情報分析の正確さと、私情を挟まない冷徹さです。未だに役にも立たない経済分析や景気見通しを出す国内証券会社のアナリスト達とは違い、外国証券のアナリストは詳細データに基づいた分かりやすい分析結果を出してきます。いささか作為も感じはしますが、いずれのアナリストの分析が的確であったかは一目瞭然です。
 さらに、国内証券の自己売買部門の運用下手と、節操の無さがあります。運用下手な理由は、資金量にものを物を言わせたアバウト運用では利益が出ないこと、自社アナリストやディーラーに人材を得ず、彼らに明確な哲学がないこと、外資の跳梁跋扈に自信を失っていること、などを挙げておきます。次に節操の無さですが、運用下手が拡大して運用に余裕を失っているため、わずかな株価の変動で同調してしまい粗い値動きを許しています。結果として後手後手に回る彼らの損失は膨らみ、膨大な玉の売り投げ、上昇基調の地合での売り浴びせをしてしまっています。これが一層の投資家離れを生んでいることに気付いていません。売買委託手数料が減少しているのであれば、合併他で経費を削減するか、投資顧問業務など別業務で利益を上げるべきですが、能力不足のまま自己売買部門への依存度を高めています。

 以上のように、それぞれが自分勝手な行動を起こしつつ、無責任であることが今回の市場地合悪化の元凶であると考えています。今後は銀行と機関投資家と証券会社とが互いの責任を自覚しあって欲しいと考えています。ただ日経平均の低迷も良いことをしました。実体は9,000円と云われていたものが株価PKO第23回を参照)で16,527Pまで吊り上げられたことが原因でしたので、より実体に近づいたことは市場内ストレスの解消に繋がることですから、歓迎するべきです。
 あとは保有株式の評価法を時価法に改めて、おかしな益出し等をする余地を無くせばよいだけです。3月期で原価法への移行を認めずに時価法の採用を義務づけていれば、9月期の凋落は生じなかったかも知れないだけに、行政の無為無策には残念さを感じます。今になっての時価法採用は無謀でしょうねぇ。

98.09.29

補足1
 現在のところ、9月期の株価低迷の原因とされているのは、一つに長銀危機を満足に処理できない政府・自民党が無能であったこと、二つに原理原則論に拘り結果的に処理を遅延させた民主党が経済音痴であったこと(政治の研究第37回第40回を参照)、三つに一向に解消しなかった貸し渋りで上場企業を含む大型倒産が相次いだこと、四つに総合電機や総合商社、総合流通などグローバル企業の凋落ぶりが目立ったこと、五つに日本で信仰を集めた格付け機関と外資アナリストが日本企業バッシングを行ったこと、六つにマスコミの総悲観論で国民の消費マインドが大幅に落ち込んだこと、などです。

補足2
 9月30日に銀行株が大きく崩れた原因は二つあるとされています。一つに大手商社の株式評価損が顕在化してそれが巨額に上ったことで商社株が暴落、結果として商社株を保有する銀行の株価が暴落するという悪循環に成りました。これは10月以降に発表されれば回避された問題でしたが、お互いにとって不幸でした。
 二つに米国証券のアナリストが書いたレポートが日本では9月30日に明らかになったものです。「不良債権公表額に75%の引き当てを行い、非公表額に40%の引き当てを行うと、大手19行中9行が実質債務超過になる」としたものです。日系の女性アナリストだと聞いていますが、わざわざ狙い澄まして発表してきました。しかし発表した証券は当然ながら売りを仕掛けているはずで、一種の風説の流布政治の研究第30回を参照)ではないのか(説得力はありますが、やや誇大していますよね)と思います。

補足3
 9月30日の大引け前に大量の売り浴びせが出て日経平均が200円以上下げたのは、国内証券会社の自己売買部門が、大量の持株を売却したことが理由だそうです。最後まで株価PKOによる株価上昇があると信じた彼らが、最後の最後に無いと判断して損切りの売りを仕掛けたもので、そういう分析能力の欠如と節操の無さが10月以降の地合を悪化させそうです。長銀を除く大手18行が株価を下げ、うち7行は年初来安値を更新しました。住友銀行の1,000円割れ、富士銀行の300円割れなどが続きます。

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