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政治の研究No.37
問われる政権担当能力

 いわゆる55年体制下では、圧倒的多数の自民党に、野党第一党の社会党が対抗し、その隙間に中道三党(民社党、公明党、社民連)が横たわり、埒外に共産党・・・という構図がありました。自民党が衆参で圧倒的過半数を固めたときは政権が安定しましたが、その時代は意外にわずかな期間でした。過半数ぎりぎりで常設委員会で委員長を選出すると、自民党委員が過半数割れを起こす問題がありました。あるいは党内の小派閥が戦術上野党側に味方して予算や法案成立を妨害したりするトラブルも何度となくありました。また新自由クラブや新進党の結党に際して党内議員の離脱で過半数割れを起こしたこともありました。しかし終戦直後の一時期と野党連立政権時代(正確には一時的な与野党逆転ですが)とを除いては、戦後は一貫した自民党政権でありました。

 二大政党待望論は、我が国でも何度となく議論されてきましたが、一方の自民党に対抗しうる他方の政党がなかなか成長してきませんでした。自民党が政官財のトリニティを確立してしまい、他政党の成長を抑圧してきた背景はあるものの、対する野党側に明確な政策ビジョンがなく、政権担当能力の無さを度々にさらけ出した結果、野党への失望感が拡がって支持が集まらなかったということが背景にあります。
 まず社会党ですが、戦後一時は右派・左派に分裂したものの党勢の弱体化は否めず、再び合同して野党第一党の地位を占めてきました。しかし思想的に矛盾点の多い右派・左派は常に党内党として機能し、たえず対立を繰り返してきました。執行部は両派の意見を取り込んだ玉虫色の決着を目指し、外部から観れば自己矛盾の多いおかしな政策がいくつも出されました。いわゆる「影の内閣(シャドー・キャビネット)」を気取った時代もありましたが、ままごとの域を脱することができませんでした。何度かは自民党の失策でポイントを稼ぎ、地滑り的に議席数を増やしたこともありましたが、「ダメなものはダメ」などと原理原則論に拘る姿勢がとくに中年・若年層の支持を失わせ、支持基盤の労組の失望を生んで、現在は崩壊状態にあります。皮肉なことに連立政権下で首相を出したことが、社会党が抵抗・批判政党でありつづけることを否定され、現実路線へ引き戻された結果・・・社会党らしさを失って空中分解していまいました。
 次に中道三党ですが、少数派野党ではあるものの、自民党が過半数ぎりぎりである場合に、何度か檜舞台に昇りました。三党の特色は、政策的には自民党に近いものが多く、その政策を実現するには自民党と連携することも必要であることを良く知ってたことです。それだけ社会党よりも現実路線を歩んでおり、しかも単に協力するのではなく自ら主導権を発揮することでポイントを稼いできました。しかし、その地位は社会党という抵抗・批判政党が存在してこそ価値がありました。これら三党が新進党、民主党へと第二極作りの核になっていったことは、当然の流れといえます。
 そして新進党ですが、日本新党の大躍進にあやかり、自民党からの大量脱党者と中道三党が合流する形で成立しました。党内に3人の首相経験者がおり、自民党の元大物幹事長も居たことで政権担当能力は十分にありました。事実一度は政権を握ったわけですが、不幸なことに、上記4人の大物たちが権力闘争に明け暮れた結果として組織は空中分解しました。彼らに第二極を造るという高邁な思想があれば良かったのですが、自分達の権力欲に溺れた結果、大した成果を収めることができませんでした。ただし自民党に万年与党体制はいつでも崩れることを知らしめた点で大きな価値がありました。また新進党の分裂が新しい政治潮流を生んだのは間違いありません。

 そうして民主党が登場しました。かつての日本新党旋風と同様に、自民党の在り方に失望感を抱いた国民が大量に民主党に票を投じました。その大躍進ぶりを目の当たりにした新進党の残党達が合流して再び第二極への期待が膨らんでいます。ただし成立当時の民主党に比べると、合流組が加わったことで党内体質が変貌しており、旗揚げ当時の純粋な思想は汚されているようですが、クリーンなイメージを勝ち得た菅直人代表を据えることで、国民の期待を集めています。世論調査による政党別支持率では度々自民党に逆転し、先の参議院選挙では自民党を過半数割れに追い込むなどの成果を上げています。この民主党が無事に第二極に成長し、政権を取りうるかどうかはこれからの話ですが、そこで充分な政権担当能力を示すことができなければ、期待が大きかっただけに国民の民主党離れは加速し、一気に党勢凋落の道を歩む可能性もあります。生き残るもう一つの途は、かつての社会党と同様に万年抵抗政党でありつづけることですが、それでは何の進展も得られないことは証明されたとおりです。

 さてさて菅代表必要なことは国民が望んでいることを望んだ形で実現することです。今、国民が一番望んでいることは何ですか、金融機関への公的資金投入の可否ではなく、この景気低迷からの脱出、不況対策、株安円安から来る負の連鎖の裁ち切り、社会不安の払拭、などなどです。こんなに懸案が積み上がっている現状で、公的資金投入反対だけを主張し続けて国会を空転させている責任を感じて下さい。いくらスタンドプレーを繰り返しても、決算を乗り切れないで倒産する金融機関や大手企業が相次いだら、その戦犯たる民主党もタダでは済みません。いまは合意できる内容のみ合意して、合意できない内容は改めて協議することにして、まず当面の問題を整理することから始めて下さい。大人としての行動が取れるかどうか、これが政権担当能力を知らしめる一つのファクターだと思います。

98.09.21

補足1
 9月22日夕刻に大きな動きがあったようです。民主党が一転して協議に応じる姿勢を示したそうです。一つの理由は自民党サイドが18日の合意を尊重すると宣言したこと、二つ目の理由は平和・改革が自民党の統一見解を受け入れる姿勢を示したこと、三つ目の理由は平和・改革の冬柴幹事長が民主党の羽田幹事長らを説得したこと、の三つだそうです。菅代表の一大決心により決まったのではないことが残念ですが、平和・改革が二大政党を結ぶ交渉役を果たしたと言うことで期待が持てます。これで民主党は財政・金融部門の分離を政府・自民党に呑ませる代わりに、長銀の救済スキームには協力することに決まりそうです。

補足2
 自由党は頑なに交渉のテーブルに着くことを拒否しているようで、もはや政権担当能力はないでしょう。17日・18日の徹夜折衝でも自由党の党首だけ自宅で寝ていたそうですが、事実なら新進党元党首も形無しですね。

補足3
 どこまで行っても政権抗争を繰り返すばかりの民主党は、党分裂の危機にあるそうです。寄合所帯で成立したのは仕方が無いにしても、何年経っても第二位政党としての自覚がありません。党首選挙にしても党運営にしても、揉めることだけは与党並みです。
 鳩山代表は自由党との合流を発表し、反対派の封じ込めを狙っています。自由党が合流すれば、わずかながら野党におけるシェアが増えますし、社民党をも取り込めば、夢の二大政党制に手が届きます。ところが、鳩山氏にポイントを稼がせたくない反対派は、民主党を割ってでも阻止しようと必死です。しかし、現実に割ってしまえば、弱小野党の分立時代が再び訪れ、有権者に相手にされなくなるのは、間違いありません。

 揉めている有力者の各位に問いたい。自分だけ議員であり続けられれば十分とお考えか? 弱小野党であっても、党代表に成れたら満足とお考えか? 二大政党制になると簡単に敵対政党に寝返られないことをご懸念か? 現党首を引きずり下ろしたとして、有効な代替施策はお持ちなのか?
 日本経済は危機的状況にあります。意味のない政権抗争を続けることは、衆愚政治の典型パターンです。与党の強大化を許し、その暴走を容認することになります。影ながら与党独裁を支援しておられるのならご自由ですが・・政党政治に大きな汚点を残すことでしょう。

02.11.30
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