公的資金による株価浮揚政策を、平和維持活動PKOをもじって株価PKO(プライス・キーピング・オペレーション;株価維持対策)と呼んでいましたが、これが失敗に終わるであろうことは第19回で予測して見せたとおりです。と、偉そうに解説するまでもなく、分かっていなかったのは政府だけでありました。
このとき動員されたのは郵貯・簡保の自主運用資金と年金資金とが中心だったと聞きますが、問題はその手法にあります。比較的株価が安い優良企業の指数関連銘柄を中心に買い上がって日経平均を引き上げるべきでしたが、指数先物買いを実施したのです。公的資金が買い上がっている銘柄が分散すると共に、その目的がはっきりとしていれば追従買いも入りますし、直接売り玉を叩きつけられることも少なかったはずですが、安直にも日経平均株価指数の買いに走りました。
理由の一つとして、少ない資金で買い上がることができることがあります。先物取引と指数売買については回を改めて述べますが、指数先物取引は建て玉の10%の証拠金で取り引きできます。したがって、公的資金の真水は1割でも実質的には十倍の導入効果があるということです。しかし、指数先物取引は野村証券を除いては外資金融機関の独断場です。対する外資が買い上がる理由はなく、彼らは一斉に売り浴びせに回りました。4月になれば指数の下落が確実であり、外資が揃って売るのは当然のことと言えました。結局は提灯買いを期待した政府筋の期待は裏切られ、18,000Pどころか17,000Pにも届かなかったのであります。
次の理由として、銀行が日経平均株価指数(日経225指数)に基づく含み経営を未だに続けている問題があります。確かに横浜銀行など手持ち株式の大幅売却に乗り出した銀行はあるものの、大多数の銀行は土地と株式と債券に集中投資している現状があります。しかも彼らは調査能力も分析能力も予測能力も持たないため、指数関連銘柄や01銘柄(各業種を代表する銘柄。銘柄コードの末尾が01であるもの)、そしてグループ関連銘柄を中心に投資しているのです。バブル前までは額面50円が簿価である銘柄が多かったために含み益が多かったのですが、相次ぐ不良債権処理のために売れるものは売り、売れないものは時価に株価を洗い直した結果、含み益は消滅してしまいました。さらに1996年頃に簿価を洗い直したものは含み損が大幅に発生しており、低価法を原価法に改めざるを得なくなりました。富士銀行は18,000Pを回復できなかった時点で巨額の含み損が出ましたが、原価法に改めたので隠蔽されたままです。
こうした理由を背景に、公的資金を導入してまで株価指数を引き上げねばなりませんでした。しかしその安直な市場介入と不透明な介入理由が海外投資家から日本市場が見放されたことに気付かねばなりません。3月の最終週に毎日16,500P〜17,000Pでの指数先物買いが行われましたが、厚い売り物に押されて公約の18,000Pに迫ることもできませんでした。5月13日現在の日経平均株価指数は15,300Pであり約10%の損失が発生しています。市場の推測によれば、株価PKOに投じられた資金は、建て玉ベースで12〜13兆円だそうですので、都合1兆円の含み損を抱いている計算になります。外資が口を揃える14,500Pの水準になれば損失は1.5兆円にも拡大します。
この巨額な損失は、無能な政治家たちが招いたことでありますが、その尻拭いは赤字国債の乱発と年金掛金の引き上げにより補填されるのですから、納得のいかない話です。国民の税金を使う以上は国民の理解が得られる金の使い方をして欲しいものです。
98.05.13
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