前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.52
ヘッジファンド

 米国ではヘッジファンドが急速に増加していると云います。ヘッジファンドを「市場動向に関係なく絶対的なリターンを追求し成功報酬を貰うファンド」(日経新聞朝刊98/04/09)とするなら、数にして3,000〜5,000ファンド、運用資産総額1,700億ドル(24兆円)となるそうです。ヘッジファンドと言えばジョージ・ソロス氏のクォンタム・ファンドが名高いですが、これはむしろ亜流ですので、回を改めて取り上げます。ヘッジファンドの起こりは、1949年に米国のアルフレッド・ジョーンズ博士が作ったものが最初で、株式の空売りを利用して絶対利益を追求したファンドであったそうです。これを真似て1950年代以降数々のファンドが出現しましたが、その多くは消滅し、現在のファンドの多くは新たに勃興してきたものです。

 ヘッジファンドは相場変動の危機を回避ヘッジ)することを目的としています。当然ながら、その手口はいくつかあります。
 第一に、信用取引の空売りを利用する手口があります。ある株式を1ドルで10株買ったとして、この株式の株価が2ドルになったとしましょう。そのまま売却すれば10ドルの利益が得られますが、株価は2ドル以上に上昇するかも知れません。そこで2ドルで5株の空売りをしておきます。空売りは手持ち株式を担保に建てられますから、新たな資金は必要ありません。そして株価が3ドルに上昇しました。現物は20ドルの利益、空売りは5ドルの損失で差し引き15ドルの利益で、5ドルの利益が上乗せされます。逆に1ドルに下落したとして現物は0ドルの利益、空売りは5ドルの利益で、差し引き5ドルの利益です。手数料や税金は加味していませんが、株価が上昇しても下落しても5ドルの利益は保証されます。これが基本です。
 応用として3ドルの株価が下降すると予測できると、現物は全て売り払って相場の下落を待ちます。20ドルの利益は確保しますから、空売りで20ドルの損を出すまで、株価の動向を注視することができます。株価が加熱しているのが明かで有れば、適当な株価で新たな空売りを建てればよいでしょう。株価が下落して下値を付けたときは、空売りを手仕舞いして現物を買い直せば良いことになります。
 第二に、先物指数売りを利用する手口があります。株式銘柄と先物指数とに相関関係がある場合は、ある程度の水準で先物指数の買い又は売りを仕掛けることで信用取引のリスクを回避できます。先物取引は信用取引の数倍建てることができますから、ハイリスクポジション(後述)のファンドでは多用されます。
 第三に、為替予約を併用する手口があります。外国の株式に対して投資する場合、株価変動以上に為替変動があって利益予測が難しい場合があります。その場合は為替予約をすることでリスクをヘッジできます。あるいは当該国の債券等を購入する方法もあります。逆に為替そのものの変動を利用して利益を上げるファンドがあります。
 第四に、商品相場を併用する手口があります。これは上記のクォンタム・ファンドなどが多用していますが、純粋にリスクをヘッジする目的では、インフレの影響を受けにくい貴金属への投資に限定されているようです。

 ヘッジファンドの魅力は相場が上がっても下がっても利益が確保できる点にあります。上記のヘッジ手段はテクニカルな話ですが、よりリスクを軽減するためには、株式・債券(国債、地方債、公社債、社債など)・商品など幅広いジャンルに分散投資をすることです。場合によっては一部を別の有力ファンドに投資することも可能でしょう。次に世界規模での投資を行うことです。北米・南米・日本・アジア・ヨーロッパ・アフリカ・・・と各国に分散すれば、短期的には一斉に損失を生じることがあっても、長期的には必ず利益を出すことができます。要するにポジションをどこに設定しているかが重要になります。北米重視か、日本重視か、株式重視か、債券重視か・・・などなど、またヘッジを仕掛けるタイミングや割合はどれくらいか、その運用のポジションがファンドの上げる収益に直接影響を与えます。ハイリスクポジション(上記クォンタム・ファンドがこれです。ヘッジは最小限に留めて、ハイリターンが見込める投資先に集中投資します)であるか、ローリスクポジション(いろいろありますが、かなり弱気な投資をしつつ安全確実な利回り確保に動きます)であるかも重要な点です。
 日本ではヘッジファンドはまだまだ成長していません。個人グループの域に留まるでしょう。日本の資金が海外のヘッジファンドに出資するケースもありますが、まだまだ及び腰のようです。米国には100%ヘッジファンドに投資する年金もあるそうです。日本ではこれから成長・成熟していくことでしょう。そのためには有能で多額の資金を集めることができるタレントの出現が待たれます。

98.08.28

補足1
 ヘッジファンドの本来の位置づけからは外れながらも、その市場影響力ゆえに注目を集めてきましたハイリスクポジションのファンドが相次いで破綻しました。昨年のLTCMに続き、タイガー・ファンドが破綻・清算となり、最大規模を誇ったソロス・ファンドもローリスクポジションへの移項を宣言しました。
 かつては国際市場を相手に派手な動きを見せたヘッジファンドですが、その手法が裸にされたことや、公にされることを嫌った投資家の資金引き揚げ、ハイテク企業の激しい値動きなどに翻弄されて、結局は運用資産を大きく削ってしまいました。結局は一点集中型で大きなレバレッジを利かせる手法は、長く通用するシロモノでは無かったと言うことでしょうか。
 「グローバル・マクロ」という手法は破綻しましたが、この手法に対抗する形で世界市場の効率化が進んだ点も見逃せません。ただ表向きはいずれも破綻したヘッジファンドですが、実態が公になっていないファンドもいくつかあり、それらの動向には引き続き注意が必要だと思われます。

00.05.05

補足2
 本流としてのヘッジファンドは、ますます日本への投資を拡大しているそうです。色々と制度上の不備を抱えており、政治的に市場が支えられている現状では、彼らに格好の活躍の場を与えているということなのでしょう。
 野村証券金融研究所の調べでは、日本株式に対するヘッジファンドの運用総額は、2001年に成ってからも増加傾向が続き、4月末で1兆円を超えたそうです。これは2000年4月末から倍増の勢いで、最近の外国人投資家の手口の2〜3割を占めていると言われています。最大の特徴は、その資金の回転率が高いことで、短期に相場を動かして利益を得ているようだと言われています。政府の経済対策の発表などで一喜一憂する国内投資家を操って、上手に稼いでいるパターンが続いているようです。
 また生保各社は、自分たちの体力消耗の一因となっている貸し株を依然続けているそうです。逆ざやに喘いでいるのは分かりますが、愚かなことです。自分たちも機関投資家であるという立場を意識して欲しいです。

01.06.30
前頁へ  ホームへ  次頁へ