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経済の研究No.48
政治的決着の長銀救済へ

 明ける8月21日、首相の政治要請から長銀救済の可能性が高いと信じた株式市場は長銀株の買いに動きました。前日20日は額面を回復したばかりの終値56円でしたが、一貫した買い注文が入って株価は80円まで急進しました。何も決着を見ていない中で期待感だけの買い注文でした。その証拠に本来は付けるはずの特別買い気配は付けずに順当な売り物が放出され、さらに80円を付けた後は厚い売り物に押されて73円まで押し返されました。しかしマーケットは政府に本気を見いだしたと思われます。同時に玉虫色の解決を図ろうとすることも・・・。

 夕刊の初刷りはなんとか15時までに間に合うはず・・・これに期待を掛けて政府は21日夕方に決定するという長銀救済案を発表しました。株価が50円を割り込むと救済計画の是非を問われるからです。預かり資産23兆円の金融機関の破綻は維持でも回避しなくてはいけない、という悲壮感に遅蒔きながら満たされてきました。21日に発表された救済支援策の骨子は「自己資本充実(補填ではない)へ公的資金で資本注入」「日銀が資金繰りを支援」「金融当局が緊密に連絡をとり金融システム安定に万全を期す」の三つです。まず依然として債務超過ではないので体力増強のための資本注入であることを強調し、つぎに日銀は担保融資を優先するものの無担保の特別融資にも応じ(つまり預かり資産が日銀特融に置き換わる蓋然性が高いです)、最後に金融監督庁の直接管理下に置くということです。
 ただし支援策は長銀がリストラ策を満足できる形で実施することが前提になります。長銀サイドが提出したリストラ策は、代表取締役三人の退任と、海外事業の見直し縮小、本店ビルと社宅の売却であったそうです。破綻を前にのんきな話ですが、金融監督庁は不十分として7条項を迫ったと言われています。「不良債権約7,500億円の処理」「関連ノンバンク3社(日本リース、日本ランディック、エヌイーディー)向け債権約5,200億円の放棄」「海外事業からの全面撤退」「会長、頭取を含む役員の総退陣と退職金の支給取りやめ」「旧経営陣24人に退職金の自主返還要請」「98年度中に行員700人程度を削減」「本店ビルや社宅などを売却」の7つです。何故山一證券や北海道拓殖銀行でもここまで迫らなかったのか疑問ですが、今後の経営責任問題の良いお手本になりそうです。しかし退職金の自主返還要請はまだまだ甘いです。
 この処理で当期損失は6,100億円となり残存資本は1,000億円前後となります。ただし山一證券の例にもありますように、資産売却の過程で1,000億円の残存資本は吹き飛ぶ可能性が高いと考えられますので、現金で5,000億円程度注入する目論見となっています。大口問題債権を処理することで、とりあえずは灰色債権を抱いたまま住信との合併に持ち込むようです。マーケットの試算ではさらに7,000億円近い不良債権があるはずですから、事実だとすると住信はまだまだ二の足を踏むでしょう。事実、住信サイドは独自査定を行った上で引き取りを考えると言っており、合併の成否はまだまだ不明です。しかしここまで処理を付ければ(外資も含めて)他行が介入する可能性もあり、長銀自身は取り敢えず一息を付けそうです。

 総括しますと、経営者責任は退職金が貰えないだけで終わりそうです。前経営陣にも損害賠償を求めないので、いよいよ不明確でしょう。本来であれば懲罰的に経営者を痛めつけるべきではないかと思います。他行の経営者はこの甘い処理に満足してエリを正すことをしないと思います。ほとぼりが冷めたら関連会社で役員に収まっている可能性もあるに違いないのですから、きちんと管理しなくてはいけないでしょう。間違っても関連ノンバンクへの再就職など認めないで欲しいです。
 また株主責任は結局問われませんでした。本来は自己資本金1,000億円となる時点で減資を行い、改めて公的資金を注入すべきですが、その際には先の1,300億円も削減されるため、政府も先に資本注入することを決めた様子です。問題は5,000億円ほどの資本注入をどのように行うかです。劣後ローンなどの形態で有ればよいのですが、相変わらずの優先株形式ですと株価は100円台を回復してしまうでしょう。結局は経営者責任も株主責任もウヤムヤに成りそうです。

98.08.22

補足1
 結局は日本リースの主要取引先は、長銀が全額債権放棄することを決めたため、債権放棄に応じる模様だそうです。大口は三菱信託の1,462億円と農林中金の1,201億円です。そのほか生損保や都銀が20行近く対象になります。どうやら一律債権カットはしないそうで、一口200億円未満の地銀や信用農協連合会は免除される公算だと日本経済新聞8月23日の朝刊記事は書いています。何か片手落ちで納得がいかない話です。さらに住信は債権1,508億円はカットしないとか説明しています。本当なら全くケジメの付かない話です。

補足2
 日本リースが受ける債権放棄は一口100億円以上が対象で約1割の債権放棄と金利減免、100億円未満は金利減免で合計2,200億円という線で交渉するそうです。今後は国内リース業に専念し人件費削減、内部留保金取り崩しなどで1,200億円を取り崩し、長銀放棄の2,557億円と合わせて約6,000億円の不良債権処理を行う予定といいます。日本ランディックもエヌイーディも同様の債権放棄要請と本業専念を打ち出すそうです。

補足3
 長銀の杉浦元頭取は取締役歴34年、そのうち頭取7年、会長11年の実力派だったそうです。長期に渡り長銀グループの指揮を執った同氏の退職金は関連会社分を含めて9億4,000万円だったと発表されました。自主返還を要請していますが、1994年の退任で土地や株式に投資していればかなり目減りしている懸念もあり、また返還に応じて貰えるかどうかは疑問です。なにしろ今日の長銀の繁栄の基礎を築いた功労者ですから・・・。

補足4
 8月25日の情報では、杉浦元頭取以下退職役員は返還に応じる意向があると発表しました。その金額は今後詰めるそうですが、35人の元取締役で総額43億円とのことです。いくら回収できるかが焦点になります。なお、長銀の1998年3月期現在の第三分類債権(回収懸念債権)は4,444億円、第二分類債権(灰色債権)は2兆3,796億円、第一分類債権(正常債権)は15兆9,114億円と発表されました。灰色債権の比率が高く危険水域にあります。

補足5
 補足3の補足です。杉浦元頭取は退職金の全額返還に応じるのだそうです。ただし応じられるのは5億円だそうです。やっぱり目減りしていますね。これは私財全額なのでしょうか?でも無事に返還されれば長銀救済も早まるかも知れません。ところで日本リース他の退職者の退職金はどうなるのかな?

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