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経済の研究No.47
長銀の行く末(救済発表前夜)

 日本長期信用銀行(以下、長銀)の経営危機伝えられてもう何日が経ったことでしょうか。合併か破綻か、議論を幾度も繰り返し、住友信託銀行(以下、住信)との合併が伝えられた後も、何度も波乱がありました。もはや政治的救済しかあり得ないと言われています。果たして救済が可能であるのでしょうか。

 長銀の癌はセブン・シスターズと呼ばれる7つのノンバンクです。いわゆる関連ノンバンクとは、100%出資の子会社ノンバンクとは違って本来は一出資企業に過ぎない存在です。現実に長銀の出資割合は5%未満に過ぎませんが、残る株式もグループ関連会社で保有しているため実質的な子会社です。金融規制の関係で5%以下しか株式が持てないことが、関連ノンバンクを連結対象外企業として不良債権を隠蔽する材料とされてきました。セブン・シスターズの筆頭は日本リースです。長銀系のリース会社で業界第二位という触れ込みですが、そのシェアは5%に届かないと言います。リース業界はかなり激しい戦いが繰り広げられています。決して収益が効率よく上がる事業ではないのです。
 現在の日本リースの借入金は1.9兆円。長銀の2,556億円、住信の1,543億円のほか農協系統金融機関が3,501億円の融資をしています。これに対して営業貸付金(いわゆる事業金融)は日本リースレック872億円、銀座二丁目ビル626億円ほか3,101億円に及んでいますが、これが全て完全不良債権化していると言います。これら貸付先は日本リースの子会社で、その保有資産は全て日本リースからつけ回された不良債権であるからです。見掛け上別法人の子会社がせっせと簿価で不動産を引き取り、それに見合う融資を抱え込んだまま新しいバブルの日々を夢見てきたのです。しかし遂にバブルは訪れませんでした。仮に2割の残存価値が有ったとして、権利関係の問題が清算できて売却できるならば2,400億円の損失が出ます。日本リースの資本金は202億円(つまり自己資本比率は1%)ですから2,000億円以上の債務超過です。実際問題として固定化営業債権3,416億円の貸付先もほとんど不動産業でかなり不良化している可能性があります。つまり4,000億円程度の債務超過である可能性が高いわけです。
 これに対して本業のリース資産は7,380億円です。ほかに賃貸資産が800億円あります。合わせて8,000億円の資産を3%の利回りで回せても240億円の収益しか上げられません。ここから金利も支払うとなると4,000億円の債務超過の穴埋めは不可能です。それでもリース業は日銭商売ですから当座の資金には困りません。そのうち金利が上昇すれば8%利回りの640億円も夢ではありません。しかし政策上低金利が続きますからまず実現不可能でしょう。したがって債務放棄などの救済措置が求められるわけです。

#N4月1日、日債銀系のクラウン・リーシングが自己破産を申請しました。クラウン・リーシングは長銀の日本リースに相当しますが、日債銀は母体行責任を取ることなくあっさり清算してしまいました。社会的批判は少なくなかったものの、金融不安が顕在化する前でしたので何とか処理が進み、身軽になった日債銀は現在130円以上の株価水準を維持しています。当時600円株価だった長銀は対岸の火事のように眺めていました。日債銀のス−パー・プレミアムも他人事で、日債銀の破綻で金融債の解約が来ることだけを怖れていました。しかし当時から長銀にも同じか、それ以上の爆弾があったのです。ただ上手に隠蔽できていただけでした。この当時に同様の処理をしていれば、他の金融機関へはダブルパンチであったものの、今日の長銀危機は来なかっただろうと考えられます。しかしエリート達には耐え難い屈辱を受けたくないために、問題の先送りをしてしまいました。
 8月初旬、政府筋の話として恐ろしい噂がありました。いやその前に一言。日本政府は大手19行はいずれも債務超過にないとして、3月に各行に資本注入をしました。長銀へは1,300億円注入して7,871億円に資本増強されました。ですから日銀考査でも金融監督庁の検査でも債務超過とは言えません。正確に言えば1,300億円は最低残っていなくてはいけない計算なのです。ですが当時に日本リースの危機は表面化していませんでした。不良債権を押しつけていた母体行が知らないはずはないのですが、未だに健全貸出先です。これを母体行責任で清算すれば債務超過になっても仕方がない・・そんな噂でした。債務超過で有れば(正確には自己資本比率が4%を割り込めば)即座に公的資金を注入して救済する大義名分が出来るというものです。もちろん住信や農林系統金融機関は全額資金回収できる計算になります。ただし資本注入額は2兆円を超える(他のシスターズも含めて)と言われていましたが・・・。

 政治的に考えれば二つの問題があります。一つは資本注入金額が過大すぎること。もう一つはBIS規制の関係で海外拠点の即時撤退の必要に迫られ、一層の混乱を生んでしまうことです。しかも日本リースが抱えている不良債権には政治案件も少なくないと言いますから穏当な処理を求める声も大きいようです。そして日本の金融機関が積極的に投資しているというデリバティブ投資です。この危機に際して含み益のある玉はないでしょうから、手持ち投資は全て含み損のある玉でしょう。経営破綻はデフォルト条項に触れるため即座に清算しなくては成りません。そうなれば一層の損失が表面化する上に、他行のデリバティブ投資にも悪影響を及ぼします。間接的に連鎖倒産を招く危険があります。したがって、追加資金の注入というソフトな対応で政治的に問題を解消することにしたのです。
 8月20日夜に住信の高橋社長(頭取じゃないのかしら)が首相官邸に呼び出されました。小渕首相は、野中官房長官、宮澤蔵相、日野監督庁長官が同席する場で合併に向けた進捗状況を質問したそうです。実質は合併要請・・民間企業の合併に首相が乗り出す異例の事態となりました。しかし高橋社長は最後まで健全債権のみの引き取りを主張し、合併に色好い返事をしなかったようです。偉い社長です。株主代表訴訟が怖いという名分を利用して上手に押し返した模様です。結果として、公的資金による救済しか長銀救済の選択肢は残らないことになりました・・・そして21日がやって来ます。

本文中の数値データは金融ビジネス10月号から引用しました
98.08.22

補足1
 金融監督庁は検査の経過を逐一、住信に見せていたそうです。反対に長銀には見せていなかったとか。それだけ信用がなかったのですね。しかし経営責任と株主責任はどうなるのでしょうか。

補足2
 住信にだけ見せていたというのは本当か、と8月24日の国会質疑があったそうです。その回答は、そのような事実はありません、とのことです。しかし正面から聞かれたら、たとえ事実でも、こう応えざるを得ないでしょうね。

補足3
 長銀が保有しているデリバティブ取引の推定元本は51兆円だそうです。大手19行が保有するデリバティブ取引の推定元本は2,200兆円にも上るといいます。長銀破綻の影響力の大きさが推測されるでしょう。

補足4
 デリバティブとは、「株式・債券・為替などから派生した金融取引の総称」(日本経済新聞朝刊8月28日)で、金利スワップや通貨スワップと呼ばれる交換取引が代表的な位置を占めます。想定元本とは金利などを弾くために計算上前提にした元本のことで、実際の資金のやり取りはスワップ差額や差益差損など元本の数分の一から数十分の一となります。本来は取引リスクをヘッジする目的で行われますが、これを投機に利用することもできます(大手19行は金利スワップを利ざや稼ぎの手段に使ってきました)から、意図しない巨額の損失が出ることがあると言います。銀行が保有するデリバティブの残高は主として取引企業のために確保しているもので、これがデフォルトされると取引企業にも多額の損害を与える可能性があります。現在のところ、経営危機の長銀を相手にスワップ等を受け入れる先はなく、取引は縮小方向に向かっていると報道されていますので、長銀が破綻した場合でも実際の影響力は小さいと言われ始めてきました。とはいえ、長銀が破綻すると邦銀全体の信用を落とすため、他の都銀が外貨調達面で一層の不利を生じる危険はあると言うことです。

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