土地が下がった、株も下がった、貸出先が倒産した、などなどバブル崩壊後7〜8年も経って、何故今頃・・・というのが正直な感想ですよね。どう考えても普通でないでしょう。大蔵省の検査もあったはずだし、金融機関には本部直属の検査部があるはずです。今頃さわがないといけない理由がよく分からないです。と思ったら良い本がありました。「港のみえる丘銀行(たぶん横銀のことですね)」に勤務していた横田濱夫氏(PNも横○濱○でしょう)の著作「はみ出し銀行マンの悪徳日記」(角川文庫、平成10年7月25日刊行、550円)です。シリーズ本がたくさん出ていますが、本書が一番楽しい内容のようです。
本書の176頁に不良債権隠しの手口が暴露されています。「1.追い貸し」「2.新規決済」「3.短期資金の長期資金への借り換え」「4.ノンバンクへの押しつけ」「5.自己取得」だそうです。以下ポン太の言葉で言い換えて説明します。
1.追い貸し
これは何度かご説明しましたね。金利も払えない貸出先に金利相当分貸し出して、見掛け上金利を払ってもらう方法です。不良債権がひたすら膨らむだけで、担当者が当座を乗り切る意味しかありません。追い貸しした分が運転資金に使われてしまって大変なことになることもあるようです。本当はさっさと破綻させれば引当金を積まずに償却できるのですが、担当者のマイナス評価になるので、問題を先送りしてきました。ここへ来て貸出資産の圧縮に取り組むことになり、相次いで問題が表面化しました。
2.新規決済
手形の引き落としを新しい手形でしてしまうことです。こんな手続は認められていないので、新規の手形を受け入れたことにして資金を引き出し、その金で期限の来た手形を返済させます。これも問題の先送りでしかありません。帳簿上日付の操作がされていますが、取引先別の帳簿を調べれば一発で発覚することです。ちなみに自己の資金融通のために切る手形を融通手形といいます。こんな会社は既に破綻しています。
3.短期資金の長期資金への借り換え
短期資金は当座の運転資金で、用が済めばすぐに返金される金です。これに対して長期資金は計画的な投資を行うために借り入れる資金です。資金の性格が違いますので、運転資金への流用は認められません。これを担当者が口実を設けて切り替えてしまいます。正確には長期資金を借り出してから短期資金の返済に充てるわけです。さらに当座の運転資金を上乗せしたり、金利相当分まで貸してしまうこともあるそうです。追い貸しに比べると問題が表面化するのに時間が掛かりますから、担当者には格好の時間稼ぎになります。
4.ノンバンクへの押しつけ
もともとリスクの大きい融資案件はノンバンク経由で融資してきました。したがって業績の悪い企業ほどノンバンクの手数料分だけ高い金利を払わされていましたし、ノンバンクの融資先には始めから破綻企業が多かったのです。そこへ業績の悪化した企業の融資分まで押しつけるわけです。表向きは新規融資案件を装い、担保は後日差し入れにして融資を引き出します。その金で自己の融資案件は完済させ、担保設定を外した上でノンバンクの担保に差し入れるのです。その担保はすでに担保割れしていますが、母行の紹介案件ということで処理してしまいます。いま長銀などの系列ノンバンクが不調なのはノンバンクの責任ではないということです。母行が被るべき損失をノンバンクに転嫁していただけなのです。もちろん早いうちに破綻処理をしなかった担当者の責任です。
5.自己取得
本当は額面割れを起こしている担保を額面で買ってしまうことです。不動産の競売で子会社に簿価相当で買わせる自己競落も同じ話です。買ったとたんに含み損が出ますが、実際に売却するまで表沙汰にならないメリットがあります。もちろん問題の融資案件は返済済みになります。
こんなおかしな延命策、すり替え策が使われたのは、銀行の減点評価主義が原因であるそうです。例え前任者が焦げ付かせた案件でも、自分が顕在化させれば自分の責任になります。それは即、出世に響くということです。そして前任者は責任を遡って問わない、とする不文律があるそうです。一般の企業では考えられない話だと思いますが、銀行って異世界なんですね。誤魔化しとウソが上手な人物が出世をして取締役になるから、銀行の経営者はウソつきばっかりだと言われるようになるのでしょうか。
98.08.02
|