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経済の研究No.41
素人泣かせの商品先物取引

 近頃のシーズン、先物取引の勧誘がきませんか? 電話であったり、郵便であったり、訪問であったり、あの手この手で売り込みに来るでしょう。でも素人の方は手を出さない方が無難です。玄人を自称される方もお止めになることをお薦めします。所詮は個人資金で太刀打ちできる相場ではありませんから。とくに穀物先物は、ハイリスクです。

 まず、商品先物取引の歴史を振り返ってみましょう。ヨーロッパ大航海時代、インドから香辛料を輸入すれば一財産できる時代がありました。そもそも十字軍遠征は、東西交易を狙ったヨーロッパ諸国がイスラム勢力圏に阻まれたために起こりました。やむを得ず海路でインドを目指すことにし、ある者は喜望峰を回り、ある者は大西洋を横断しました。当時のアフリカは、未開の地です。航海の途中で補給が切れて餓死したり、土民に殺されたり、嵐に巻き込まれて船が沈没したり、インドで騙されて金品を奪われたり、しました。数々の苦難を乗り越えて獲得した香辛料は極めて高価なモノでした。しかし、イスラム圏経由の香辛料よりも格安だったそうです。それでも同重量の金貨よりも価値があったそうですが。
 ところで、当時の香辛料にも市場原理が働いていました。市場に香辛料が溢れれば価格は暴落しますし、香辛料が欠乏すると価格は高騰しました。せっかく命がけで香辛料を持ち帰っても、そのとき市場で香辛料がダブ付けば航海費用さえ出ません。できれば出航前に数量と価格を決めておきたいのが船主の本音です。香辛料の船が帰ってきても、相場が高騰していると商人は欲しいだけの商品を手に入れられません。したがって、航海前に荷物の数量と価格を決めておきたいです。商人と船主の双方の希望により航海前に数量と価格を決める先物相場が成立しました。

 しかし船が無事に帰ってくる保証はありませんし、航海の途中で船荷の一部を流してしまうこともあります。したがって、予め代金を払うわけにいきませんが、船主としては手付け金を貰わないと不安です。何と言っても数か月先の話なのです。そこで取引市場が所定の預かり証拠金を取ることにしました。商人が違約した場合は証拠金は没収になりますので、商人もイカサマはできません。また海難事故による損失に備えて保険制度も始まりました。現在のロイズ保険組合の発祥です。
 その後、植民地が世界各地に広がるにつれて、穀物や鉱産物も取引の対象となりました。あくまでリスク回避が目的で始まった取引ですが、やがて山師が出現して、相場で儲けるための市場が立つようになりました。それでも取引業者にとってみれば、市場が拡大することはリスク分散になるため好ましいこととしてきました。現在、我が国で発展している商品先物はその歴史の延長線上にあります。

 大豆・小豆・トウモロコシ・白金・プルトニウム、最近ではコーヒー豆など扱われる商品は多彩です。株式や為替金融にも先物取引がありますが、市場で動く資金量が膨大なので、個人の思惑ではどちらとも予測できません。これに対して商品先物取引は事情が違います。取扱商品の動向をいち早く把握した者が勝つのです。例えば、トウモロコシですが、穫れるシーズンはおよそ決まっています。需要もその時期に重なっていますから、概ね出荷開始直前が高値になります。もちろん不作であれば、需要が本格化する時期が高値になります。
 したがって、作柄状況を恒に把握し、豊作であれば暴落しますので売り抜けをし、不作であれば買い集めなくてはいけません。さてさて、この情報化社会で一人だけ世界中のトウモロコシの作柄状況を把握することは不可能です。となれば、誰もが同時期に売買を始めることになります。それでは利幅が小さく、出遅れると損失も出てしまいます。いわゆる先物取引業者は自己で売買もしていますが、こういう状況ですので、同業者には自分の建て玉を押しつけることができません。

 そこで素人さん登場となります。まだ最高値を付ける前に、素人に建て玉を買わせます。その後高値が来れば儲かった素人さんはもっと買おうとします(もちろんセールスマンが煽りますが)。そして無事に自己の建て玉を押しつけ終わったら、相場は予定通り下落します。そうすると素人さんは巨大な損失を被ります。業者はさらに空売りを仕掛ることで、一層利益を吸い上げることができます。ですから市場に素人さんを呼び寄せる必要があるのです。場合によっては、害虫の発生や治安悪化でトウモロコシが急騰することもありますが、そんな幸運は万に一つもありません。一度引っ張り込んだ素人さんを二度填め込むのは無理なので、次々に素人さんを呼び込むために、毎シーズンになると熱心に勧誘するわけです。
 すべての業者がそうである訳はありません。商社や法人を相手に真っ当な相場を張っている業者もあります。あるいは他を圧倒するほどの資金量を活かして独自の相場を建てる業者もあります。しかしそうした業者は的確に情報を把握し、素人に押しつけなくても、市場で売買して利益を上げています。要するに情報収集力のない中小業者が素人をカモにするのです。先物取引は現物取引とは違って、わずかの証拠金で始めることができます。例えば白金では、50万円の投資で800万円相当まで買えるそうです。約16倍です。売買には最低取引単位(1枚、2枚と数えます)があって少額の投資はできません。そして相場が下がると、証拠金を捨てることで本来は手を引くことができますが、そこは業者のこと、追加の証拠金を払わせて足が抜けなくしてしまいます。50万円の投資のはずが数百万円の損失に膨らんでしまうのです。

 勧誘では口頭で儲かると言いますが、書面では絶対に書いてありません。上がれば利益が数倍という売り文句ですが、下がったら・・・の話は巧妙に避けます。なかには先物取引だと言わないセールスマンもいます。甘い投資話には、くれぐれもご用心を。うるさいセールスマンには「儲かるんだったら、金貸して上げるからアンタが買いなさいよ。金利は年20%でいいよ」と言って上げましょう。

98.08.02

補足1
 貴金属はどうかという話があります。現在、金や白金(プラチナのことです。念のため)相場はやや回復している様子ですが、大きな不安材料があることを言っておきます。保有高も生産高もロシアが最大です。経済が不安定になるとどんどん放出してくるので、一歩間違うと暴落します。もちろんロシアも相場を下げてまで売る気はないでしょうが、時と場合に依るでしょう。また貴金属は半導体チップなどハイテク製品に欠かせませんが、米国の景気が下降線を描き始めると軒並み需要が無くなるリスクがあります。これらは先読みが難しい点で穀物以上です。市場では実態のない噂で相場が荒れることもあるので注意しましょう。

補足2
 そう言えば先日、大雄社という商品先物会社からプラチナ投資の電話がありました。しばらく遊んで上げましたが、最後まで先物取引だとも、下がるリスクがあって危険な取引だとも説明しませんでした。きっとあやしい会社なんだろうと思っていましたら、日本経済新聞の8月10日夕刊に万成証券買収の話が出ていました。大雄社は1950年設立、1995年にマルゴ商事、1996年に山大商事を買収し、個人投資家主体の積極的な営業活動で急成長中とあります。営業収益136億円、経常利益は51億円で商品先物取引ではトップにのし上がっているとか。そんな会社が詐欺まがいの社員を使っていて大丈夫なのかなぁ、と心配してしまいます。成功報酬制の外務員かも知れませんが・・・紹介してくれた大学OB会があるとかいっぱいウソを吐くのですよね。

補足3
 読者の方から商品先物ファンド(のようなもの)をご紹介いただきました。HPがありますが、今回はご紹介しません。ここでは昨年の年間収益率が35%であったと報告されています。6月に25%程度、7月と10月に17%前後の収益が出ていますが、11月期に22%の減益となっています。つまり11月から参加した人は1か月で22%も元本を減らしたわけです。他の参加者も損が先に来ていたら大変になったはずです。このHPでは今年度の目標を遠慮がちに10%台確保と謳っております。
 と思ったら、知人も年利16%の商品先物ファンドを電話で勧誘されたそうです。最近は先物市場も低迷していますし、業界スラングの填め殺しも使えなくなったので苦肉の策ですね。しかし誰が損を被るのでしょうか? おかしいなぁ、と思います。1998年6〜8月期の商品取引市況は低迷しているそうです。デフレの影響が明確になり始めているようですが、商品市場も従来通りの相場感覚が通じなく成っていると言うことですね。みなさんも気を付けましょう。
 ちなみに一世風靡して株式上場までした老舗先物業者は、相次いで業績を落としているそうです。不透明な営業活動を封じられる形になり、新興勢力に押されているのが原因のようです。

補足4
 オリックスの商品先物(ただし海外投資)ファンドでトレンド・ファンド2という商品があるそうです。この広告は汚いです「円建85%元本確保型商品ファンド」だそうで、一見「元本保証」と読み違えそうですね。しかも昨年実績はオリックスが募集した全ての商品ファンドの加重平均値だそうで、当該商品が同じ利回りを出すことを保証するものではないと、小さく書いてあります。書いていないよりは良いのですが、大手金融でもこうなのか。ちなみに運用実績は6.01%です。

補足5
 これまで沈黙を守っていた経済誌が、ついに特集記事を掲載しました。金融ビジネスの1999年10月号で「商品先物市場のお寒い現実」と題して紹介しています。高知県庁の幹部職員が高知商銀から5億円以上もの不正融資を受けてまで商品先物に手を出して逮捕されましたが、それを仕組んだのは補足2で紹介した業者です。今では業界最大手になり、社名も換え、旧山一證券本社ビルの最上階に陣取っています。
 委託証拠金5,000億円、委託者10万人という証券市場よりもはるかに規模が小さい市場で、取引員112社(うち専業81社)、実働外務員1万人が食っていくためには、手数料だけでは無理です。荒っぽい勧誘と運用もさせるそうです。
 下げ相場を前に顧客に買いを建てさせて、取引員が逆に売りを建てるのも一般的な手法であるそうで、これを「向かい玉」と呼んでいます。つまり顧客には誤った情報を提供して自社が利益を吸い上げる構図です。依然として熱心な勧誘を勧めていますので、読者の皆さんはご注意を!

99.08.26

補足6
 補足2で紹介した内容と同じ勧誘の電話がまた掛かってきました。今回は高校OBのご推薦ということでしたが、要するに名簿業者から学校の名簿を入手して暗躍しています。補足5には書きませんでしたが、旧「大雄社」の新社名というのは傘下に収めた老舗業者「山大商事」です。HPを開設していますが、社史ほかに大雄社という社名は一切書かれていません。昔のことは口を拭って、でも使い古された手口を使うという感じでしょうか。業界トップとしての倫理観は無いのでしょうか。

99.09.08

補足7
 商品先物業者は、コロコロと看板を掛け替えている場合が多いので注意が必要です。例えば、受託業務のあり方に問題があると改善勧告を受けた光陽トラストは旧五菱商事、分離保管義務違反を問われたゼネコムは旧ワールド交易、日本アクロスは旧パシフィックといった感じです。また外務員の大量移動を行い衣替えした西友商事は、実質的にコーワの看板替えですが、無登録の外務行為と委託証拠金返還の遅延とで過怠金を課せられるなどしています。

99.09.08

補足8
 商工ローン問題で日栄と商工ファンドのバッシングが続いています。合法スレスレを建前にして、素人を食い物にする商法が、世論で吊し上げられる現実が露わになりました。商品先物業者でも、一部の悪徳大手が依然として暗躍しています。これが社会問題に発展しないのは不思議なのですが、実のところ政財官の各界に付け届けが行き届いているのかも知れませんね。
 とするならば、ある事件が引き金となって、厳しい業界規制が入る可能性があります。そろそろ企業規模も拡大して最大手にも成ったことですし、少しは行儀良くなって欲しいと思います。外務員の駆使や、ノルマの強制の実態が、脆くも企業生命にトドメを指しかねない現実を見たでしょう? 他山の石として、善良な素人巻き込むことを止めておきなさいよ。悪徳業者さん。

99.11.12

補足9
 商品先物最大手の萬成プライムキャピタルフューチャーズ(萬成PCF。つまり、旧大雄社)は、2000年3月を目途に全国8支店を全廃し、電子取引を活用した営業体制に移行すると発表しています。商品先物で人海戦術に頼っていた営業を改め、手数料自由化を睨んでの薄利多売に耐えられる体力作りに励むのだそうです。
 ただし営業マンは全て関連会社に移籍させ、相変わらずの人海戦術は続けていく模様です。本体は社員数の大幅削減と法人重視路線に転換するのだとか。発表は11月18日でしたが、最近でも電話が掛かってくるぞ〜、いい加減にしろ!

99.12.31

補足10
 財界展望2000年1月号が萬成PCFの特集記事を載せています。同社の正式な社名の変遷は、入や商店→入や通商→大雄社先物→萬成PCFです。ほかに買収した、マルゴ商事や山大商事の名前も使っているようです。これらグループ間では外務員の激しい移動があり、実体としては同じだとあります。
 共通点はトークの中で、旧山一證券本社ビルの最上階に入っているという説明です。しかし現実には、最上階の16Fには萬成プライムキャピタル証券(買収した旧・萬成証券)が入っていて、あとは1Fに萬成PCFが入居しています。不思議なことに借りているのは1Fと16Fだそうです(いかにも自社ビルに見せかける工夫です)。
 また業界トップを唱っていたりしますが、預かり資産は119億円で専業84社中でも第8位。ただし、経常利益率・純利益・経常利益・営業利益は業界トップで看板に偽りはないのです。高い利益を生かして企業買収を繰り返し、現在は萬成プライムキャピタル証券と、キングコモディティ証券(買収した明倫社先物と大盛証券を合併)を持っています。

萬成PCFに限らず、悪徳な業者は数社あるようです。彼らのスタンスは顧客のためにありません。
 ●できるだけ多く手数料を稼ぎたい委託者の資産を根こそぎ奪いたい、と
  いう明確なコンセプト
 ●ひれ伏すようにして顧客を得て、手にした委託者は何としてでも手放して
  はならない、という百戦錬磨のテクニック
 ●資産を失った人に聞くと、損が丸々手数料だったりする転がし
 ●委託者をとにかく増やそうを合い言葉にして猛烈な営業
  普通の業者は資産家を狙うが、未開拓の庶民をターゲット

合わせて、お決まりの勧誘テクニックも紹介されています。
 (1)高校や大学の後輩をよそおった電話の勧誘
 (2)二人組がやってきての強引な勧誘(誘い出し)
 (3)最初は「約束通り」に利益の一部を振り込むなどして安心させる
 (4)購入枚数が次第に多くなり「追証を入れるように」という連絡が入る
 (5)部長クラスが登場し「全て任せろ」と胸を張る
 (6)両建てなどで凌いでいるとして、膨大な取引を繰り返して手数料徴収

などとあります。お心辺りのある方は、まず月刊誌「財界展望」2000年1月号を書店で取り寄せましょう

00.01.03

補足10
 先物取引業者の阿漕さは、相変わらずのようです。全国の消費生活センターが集計したところでは、1999年度の商品先物被害の「苦情・相談件数」は、3,021件の過去最悪に成ったそうです。全ての被害者が届けているわけではないので、実際の被害は、さらに膨らんでいると予想されます。母校の後輩を名乗る営業マンによる悪質な勧誘や、技術系の人間を狙いうちにするなどの手法も目立つそうです。萬成グループは、近頃派手な広告を打っていますが、相変わらずの営業スタイルです。
 先物業界には「日本商品先物取引協会」という業界団体があるものの、指導や勧告までしかできないため、事実上効力がありません。豊田商事事件等を担当した東京の弁護士らによる「先物取引被害全国研究会」がありますので、ここへ相談されることをお奨めします。事務局は、四谷の森法律事務所(Tel:)です。

本補足は、日本経済新聞2000/12/18夕刊を参照しました
01.02.17

補足11
 補足10とは、別の記事です。日刊工業新聞2000/11/22によれば、日本商品先物振興協会(上記取引協会とは別団体)が、取引員の信頼性向上策を検討し始めているそうです。他の金融業に比べて、業界の社会的信用が著しく悪いことを反省し、受託契約に伴う紛議の件数や、社員の業界他社間への移動が激しいことなど、問題点を洗い出すとしています。「契約を巡るトラブルの多発」を正すための小委員会を立ち上げるとのことです。

01.02.17
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