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経済の研究No.40
取締役に退職慰労金は要らない

 「社員は会社の所有物」です。その一部であると言っても良いでしょう。社員は会社に雇われるのであって、株主に雇われるわけではありません。しかし取締役は株主に雇われるのです。取締役を任免するのは株主であるからです。したがって取締役は社員ではありません。本来であれば取締役は経営のプロを外部から雇うべきでしょうが、日本企業では社内登用者が大多数です。社内のことに詳しい、と反駁される方は多いようですが、まず経営に向かない取締役が多すぎます。そもそも人数も多すぎて、個々の取締役がどんな仕事に従事しているのか分からない企業もあります。とくに建設・金融関係の企業では、経営の素人が企業運営の舵取りに奔走している格好です。かつては接待が本業と考えてこられた方も多かったようですが、いつまでもこんな取締役ばかりでよいのでしょうか?
 取締役の多くが社内登用のため、どうしても社内の年功序列を引きずってしまいます。トップが思いきった判断でもしないと若手は腐ってしまいますし、大した功績もなく這い上がった取締役の存在は社内のモラールを大きく引き下げてしまいます。経営学に門外漢な取締役、バランスシートも読めない監査役、そんな役員はさっさと外部に放り出さなければ発ガン物質になるだけです。そこで退職慰労金の問題になるのですが、ちょっと論理の飛躍があるのはご容赦ください。

 日本企業では永年取締役を勤めると退職慰労金が増えるシステムになっています。したがって、10年も取締役に居座り続ければ1億円も出る大手企業があり、代表取締役に10年も留まれば10億円も支給する大手金融機関があります。つまり後進に途を譲らず、居座り続けたものが利益を得、居座られて役員の椅子を貰えなかった者は安い退職金で放り出されるのです。自ずと役員や役員候補はトップにゴマを擂り、トップは気をよくして長年椅子を独占することになります。トップが有能であれば救いがありますが、権謀術策にだけ長じた人物であれば企業にとっても多大な損失です。企業業績を伸ばしうる有能な取締役候補は排斥され、業績は停滞してしまいます。そんな無能なトップやその取り巻きに多額の退職慰労金を支払うことは、まさに泥棒に追銭です。こんな状況は改めなくてはいけません。
 まず取締役への退職慰労金支給を止めることです。また役員報酬と役員賞与を個人別にガラス張りにすることです。日本企業では、役員報酬、役員賞与は総額で一括承認を受け、退職慰労金は内規に従って取締役会に一任となっています。つまりお手盛りです。承認は定期株主総会で行われますが安定株主で過半数を占めているために、まず承認されます。この甘えの構造をまず改めるべきです。退職慰労金相当の金額は役員賞与に含めてしまいます。永年勤めても毎年の苦労は同じであるはずですから、一定額を賞与に積み増せばよいでしょう。業績が低迷を続ければ賞与は自ずと小さくなりますから、取締役たちのインセンティブ高揚にもなります。また個々の取締役がどれだけ企業に利益を与えたかは、前回に提案した管理職達による成績評価をベースにすることにしましょう。末席の取締役でも利益に貢献すれば多額の賞与を支払い、代表取締役であっても利益に貢献しなければ賞与を削ります。現在は総額で決まる役員賞与の半分を社長が分捕り、副社長や専務で残りの半分の半分を分捕るような山分けが行われていると聞きます。ポストではなく、実績に応じた賞与支給に改めるべきででしょう。そして企業に損失を与えた取締役には、役員報酬を返還させてでもペナルティを課す厳格さも求めるべきす。馴れ合いではいけません。

 取締役の在籍年数と退職慰労金に相関関係があると、どうしても事勿れ主義に走る取締役が多くなります。完全な年俸制にしてしまえば毎期毎期全力を尽くすようになるでしょう。また定期株主総会では取締役会が推薦した取締役候補のみが列挙されていますが、取締役の他薦・立候補があっても良いのではないでしょうか。年俸要求額と社内実績と取締役としての抱負を語らせ、適任と思われれば株主総会で取締役に選任すれば良いと考えています。選任された取締役は1年間勤め上げたのちに来期総会で信を問うようにすれば取締役会も活性化するでしょう。もちろん選任された取締役を解任するのは株主総会のみにあって代表取締役には無いものとすべきです。
 退職慰労金を年俸に組み入れ、個々の取締役を正当に評価することが取締役会の近代化と、企業活力の向上とに必要なことだと考えています。

98.08.02

補足
 説明が落ちたので補足します。役員報酬とは役員の基本給に当たります。これは社内規定に沿って支払われています。役員には残業手当も、住宅手当も、家族手当もありませんから実質的な給与であるといえます。これに対して役員賞与はまあボーナスですね。これは社内に格段の規定はないと思いますが、税引後利益のうちから支払われますので、1株利益が1株配当よりも少なければ配当金が優先されますので、役員賞与は貰えないことになります。赤字であれば当然賞与は支払われませんが、短期的な赤字であれば利益準備金などを取り崩して支給することを認めています。そうでなければ問題は恒常的に先送りされ、抜本的な体質改善ができないためです。本来であれば赤字の元凶となった現役員・旧役員から役員賞与相当額を返還させて自分たちの賞与に充当すべきですが、将来自分たちも追い打ちを受けるのが嫌なので、準備金の取り崩しでお茶を濁しています。役員賞与の分け方は本文に記載のように行われていると聞いています。

補足2
 企業内において年功序列給与から成果主義給与へシフトする現象が多々見られます。支払給与の総額を圧縮したいというのが本音ですが、管理職に成果主義を導入することの成果は着実に上がっているようです。
 一方で、給与のみでなく退職金にも成果主義を導入する方向が強まっています。これまでは個人でなくチームでの成績を評価してきた分けですが、管理職も個人としての成果を求められるということでしょうか。日本電気は、他社に先駆け2002年度から管理職の資格区分を撤廃し、役割や成果を加味した年俸制度に切り換えると発表しました。この管理職には理事などの階級を含み、退職金の計算にも反映されるということです。
 確かに成果主義は必要ですが、すでに退職した人間と、今後まだまだ努める中堅・若手の人間とでは、処遇に大きな格差が付きそうです(実際のところ、生涯賃金格差は拡大する一方です。機会提供と評価が適正であれば仕方がありませんが)。年金支給額などを含めた公平性の担保が必要だと思います。しかし、退職した人間にとって隠退生活の人生設計が大きく狂うことも可哀想であります。ドラスティックな改革ばかりでなく、公平性のバランスが難しいでしょう。

01.04.22

補足3
 役員の退職金について、慰労金という位置づけが変わりつつあるようです。単に何年務めたから幾らではなく、どれだけの貢献(金額ベースで換算)をしたから幾らという制度に変えつつあります。しかし一方で、役員選出や報酬総額を決める株主総会において、それに意義を唱えて経営陣の提案を覆すという程にはなく、依然として株主が役員候補や報酬に興味を示していないと言われているようです。
 内規に基づいて支払われる退職金も同様で、個別の役員の実績を評価して妥当な退職金を決議するなどが必要かも知れません。もっともそれは株主総会の役割でないという人もあって、監査役や社外取締役を株主が送り込んで、彼らに適正な業務評価や報酬決定を行わせるべきと言う意見もあります。いずれにしても、まだまだ変わって行かなくてはダメなのでしょう。

01.06.30

補足4
 金融庁は、2004年3月期から有価証券報告書の開示すべき情報を大幅に拡充し、米国並みに近づける方針を打ち出しました。経営者による事業分析(事業戦略や設備投資計画)の具体的記載、報告書作成時点で認識しているリスクと成りうる事実(簿外取引等)の記載、経営者による正確性の証明(宣誓書等を添付)などです。
 なかでも特記すべきは、取締役報酬の記載を義務づけることです。とりあえずは、社内と社外の取締役に分けて総額を記載することを必須とするそうです。これまで株主総会などで議論になっても開示することは少なく、会社書類の閲覧請求をするなどが必要でした。これでは取締役が報酬に見合う以上の仕事をしているか監視できないため、有価証券報告書に記載させる趣旨だそうです。

 本来であれば、取締役毎に個別報酬額を明記すべきですが、とりあえず社内と社外に分けた上での総額記載とするようです。もちろん個別報酬額の開示を妨げるものでないので、個別報酬額を開示する企業が増えることを望みます。また、取締役毎に担当業務の事業分析・リスク開示・正確性の証明を行ってくれれば、よりベターです。
 株主総会に配布される営業報告書において、開示するのでも良いと思います。その場合は、株主質問がより具体的になり、健全な議論を行う基礎資料としての価値も出てくると思うのです。

02.12.31
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