企業グループの規模を誇る割には、その実力がよく分からない企業が多いです。グループの実力は企業の数でも売上高でもなく、グループ全体で上げる収益力で測られるべきです。それに気付かない企業は未だに多く、とくに重厚長大産業の企業グループでは顕著です。グループ内で資材や資金を回転させて見せかけの実力を誇ってきたツケをそろそろ払わされ始めています。それを如何に評価するかの指標が連単倍率(本体企業の当期連結利益(親会社と子会社の当期利益の合計)を当期単独利益(親会社の当期利益の合計)で除した値)です。
当期連結利益は国際会計基準に基づいた連結決算により公表されます。連結決算の公表は強制されないので公表していない企業もありますが、国際化の波とディスクローズへの要求圧力とを受けて公表に踏み切る企業は増加しています。連結決算に組み入れる対象は連結子会社のみです。つまり、会計上の子会社の定義は親会社が50%以上出資している実質子会社であり、50%未満の関連子会社は含まれません(100%子会社についてはその実質孫会社と、親会社の持ち分を合わせて50%以上出資している孫会社とを含めることもあるようですが、詳しいことは知りません)。ただし20%以上出資している関連子会社は連結対象に含まれます。
連単倍率が高いと言うことは、本業と分業とが明確に機能分離されて利益を上げている証左であり、子会社が健全な利益を上げるとは親会社が利益操作や利益搾取をしていない証左でもあります。また多角化路線を展開している割に連単倍率が小さいグループでは、多角化が順調に進んでいないのか、親会社が本業以外の業務を抱え込んで非効率な経営をしている証左となります。また子会社がグループ外から多額の利益を上げているかどうかが本当のグループ力の実力を測る目安になります。子会社の利益の大半がグループ内から稼ぎ出されている場合は、単に少ない利益を分け合っているに過ぎないためです。またも流通系の比較で恐縮ですが、ダイエーの当期単独利益は11億円、当期連結利益は12億円(1998年2月期)です。連単倍率は1.1です。つまり子会社にめぼしい会社が無いことになります。対してイトーヨーカ堂は当期単独利益は413億円、当期連結利益は704億円です。連単倍率は1.70です。子会社が実に7割も利益を積み上げています。ただし売上高の連単倍率を見ますとダイエーは1.28、イトーヨーカ堂は2.00ですので、その差は多少小さめに見るべきです。
とはいえ、イトーヨーカ堂が単独で99.5円の一株利益を上げ、連結で172.8円の一株利益を上げている計算になります。一株配当は34円ですので、役員賞与は支払うとしても一株株主資本が実質100円(本体ではもちろん50円程度です)は積み上がる計算になります。ダイエーが一株利益1.5円に対して一株配当13.25円ですので、一株株主資本は減少してしまいます。どちらが堅実な経営か分かりますね。
ところが連単倍率は万能な指標ではありません。アスキーは一株資本がマイナス599円(1998年3月期。明かな債務超過)です。同社はこれまで単独利益は恒にプラスでした。連結決算を発表していませんが、これも恒にプラスであったはずです。なのにどこから巨額の損失が発生したのでしょうか。それは会計上の子会社の定義にカラクリがあります。同社の西前社長は、子会社の設立に際して意図的に親会社の出資比率を引き下げてきました。つまり連結対象から意図的に切り離してきたということです。これら関連子会社に莫大な赤字が蓄積され、親会社の債務保証が付けられていましたが、見掛け上破綻をしていなかったため、表向きは本体も子会社も健全だったのです。今回、CSKの傘下に加わるに際して問題子会社を整理した結果、巨額の損失が表面化したのです。同様の話は山一證券でもありました。連結対象外の海外子会社や関連子会社に損失飛ばしをして表向き健全を装ってきました。仮に連結の対象であっても原価法を採用する限り、連結対象外子会社の内実は不透明なままであったでしょう。
実はダイエーにも同様の話があります。同社は1997年12月に純粋持株会社を作るなどグループ企業の整理を行いましたが、上場企業のマルエツやOMCの株式の過半数をグループ各社で保有しています。これまでは互いの株価も高く含み資産経営が可能でしたが、相次ぐ業績悪化でいずれの株価も低下しています。現在のところグループ株式の含み損は互いに顕在化させないことを申し合わせています。マルエツ一社で400億円の含み損があると言われています。しかし互いに子会社ではないため連結対象になりません。またグループ各社が共同出資している実質子会社も連結対象外です。このため伏魔殿だとも言われています。ですが逆に含み益もあります。グループ内で唯一の好調企業ローソンは、やはりダイエーの子会社ではありません。しかしグループで100%保有していますから、グループ各社の持ち分を整理してダイエー本体の子会社にすれば、かなり連単倍率は向上すると言われています。
このようにグループ企業の思惑で連単倍率は化けたり化かされたりしますので注意は必要ですが、株式投資に際して目安にはなります。とりあえず当期連結利益と連結対象外の子会社に注視しましょう。
98.08.01
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