不良債権に対する引当金の引当率が100%を超えたと千代田生命が発表しました。一時は経営不安を言われた千代田が、なんとか盛り返したと評価できるでしょうか(不良債権額が公表通りの数字だとしての話ですが)。また住友生命が2,500億円に達する劣後ローンを調達し、広義の自己資本を7,000億円まで引き上げたと発表しました。経営基盤の強化に乗り出しています。住友の劣後ローンは当然に民間資金です。自己資本の充実では、朝日生命、三井生命も劣後ローンの導入を決めています。さらに日本生命は不動産投資を再開すると発表しました。地価下落で割安感が出ているという発表ですが、対内的には資金的余力が、対外的には銀行の損切り処分開始が、判断要因として働いているように見えます。
昨年は日産生命の破綻、外資の積極参入、損保との相互参入など激変がありましたが、世界最大の保険会社日本生命をはじめとして日本の生命保険業界は盤石のようです。ひとつには相互会社であるため社員総代会(株式会社の総会に相当)は安定しており、手持ち資金も豊富なことから、今後は銀行に変わって日本金融市場の軸を成していくかも知れません。自主運用の幅をもう少し拡大すれば、一層その余地は拡がると考えられます。
しかし、資金運用の技術は外資系生保に全く及びません。GEキャピタルによる東邦生命の救済は、表向き救済の形態を見せてはいますが、新規顧客を取ることができない東邦生命本体が巨額の負債を抱えたまま破産する可能性は否定できません。その場合でもGEキャピタルと共同で設立した子会社には債務肩代わりの義務がありませんから、その行き先が問題となります。その時点で公的資金の導入が検討されるのかも知れません。行政指導によりGEキャピタルに支払いを強要することも当然にできません。いずれにせよGEキャピタルは労せずして日本市場に進出してきたのです。実にしたたか者です。
日本の金融機関が資金運用する場合は、これまで国内が中心でした。一番安全な国債、ほぼ安全な地方債、大手企業の普通社債に始まり株式投資もしています。安定株主としてまとまった株式を保有している場合も少なくありません。バブル崩壊までは保有株式の含み益が業績の底上げに貢献しましたが、近頃では益出しをして簿価が高くなった株式も多く、株式の含み損が拡大しています。生命保険では低価法という株式評価方法を採用しているため、含み益がある場合は簿価のまま計上し、時価が簿価を下回り含み損が生じた場合は簿価を時価に改めるのです。ただし改めるに際してクロス取引などは必要なく帳簿操作で処理されます。このため本末転倒ですが、期末決算日の株価を高値に持ち上げるドレッシング買い(一種の粉飾だ)操作を行っています。近頃は政府が介入するので、格好良く株価PKO(プライス・キーピング・オペレーション)というのだそうです。しかしPKOと宣言して株式買いに入れば一方的に売り浴びせられるということには政府高官は気付かないようです。
現在の円安、株安、債券安をトリプル安とマーケットは呼んでいますが、これは生保業界にも大きな打撃を与えています。現在流通している国債の利率は高いものが多いですが、今後は低利の国債が占める割合が高くなり、結果運用利率が低くなります。債権も近頃発行される優良債権では金利が低すぎて魅力がありません。外国債券は高利率ですが、為替変動リスクが大きいです。結局はいろいろな投資先に分散投資をしてリスクを軽減しつつ、高利運用を目指さなくてはいけません。
話は少し逸れますが、近頃デリバティブ取引で損失を出している企業が多い模様です。わずかの資本で大きな取引ができるのが魅力ですが、その分リスクも高いことを意識せずデリバティブ取引にのめり込んでいます。先頃はヤクルトが700億円近い損失を表沙汰にしました。デリバティブは当初から危険な取引と言われていましたが、ヤクルトはデリバティブの素人4人が運用していたそうです。一人当たり175億円とは大きな損失を出したものです。生保がデリバティブに手を染めるとは考えられませんが、同じ轍を踏まないで欲しいものです。投資対象が拡がることは好ましいことですが、日本人は経験も研究意欲も低いように見受けられます。世界を相手に相場を踏むので有れば、なによりも充分に研究し尽くすこと、専門家の意見に耳を傾けることは必要ではないでしょうか。
98.03.26
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