前頁へ  ホームへ  次頁へ
経済の研究No.14
B勘取引と利益付替操作

 新井将敬議員の株式不正取引問題でクローズアップされた利益付替操作とは何でしょうか。以前から総会屋問題ではいろいろ言われていましたが・・・

 ある特定の顧客に対しては、証券会社は絶対に損をさせない取引を保証してきました。その顧客とは、地方公共団体、国会議員、お得意の総会屋たちを指し、彼らのために用意した口座をVIP口座と呼んで特別待遇に置きました。このうち地方公共団体は一定金額を大口で預けていただく見返りに所定の利益を上げれば充分ですが、議員先生と総会屋には少ない運用資金で莫大な利益を提供しなくてはいけない義務があります。一般的にVIP口座の特徴は、口座は仮名口座でOKで、税申告も不要で、銘柄選定から売買時期の判断まで証券会社お任せの一任勘定取引(後の回で取り上げます)でありました。もちろん違法取引です。
 さて仮名口座は、犯罪が絡まない限り見過ごして貰えます。一任勘定取引も順調に利益が上がっていれば問題はありません。しかし当然ながら脱税の温床となって国税庁の監視は厳しく、證券プロの運用にも関わらず、莫大な損失が出てしまうのでありました。以前は損失補填という露骨なサポートもありましが、これは禁止されてしまいました。値上がり確実な社債を優先的に割り当てる手法も、バブル崩壊後は不可能になりました。つぎに始めたのが利益付替操作です。

 具体的に説明をしましょう。ある日一株100円だった株式100,000株を1,000万円で購入したとします。翌日に大きなニュースが出て一株110円になると、全体で1,100万円になります。源泉分離課税が適用され手数料も支払うと、差し引き60万円程度の利益になります。即日に一株100円の別銘柄106,000株を買って・・・を繰り返すと、一ヶ月20営業日として1,800万円程度の利益が出ます。元手1,000万円が1ヶ月で二倍三倍になるのです。ところが、こんなことはあり得ません。翌日に一割確実に上がる株式は毎日あるでしょうが、20営業日も連続でそれを予測することは不可能です。
 それを可能とする方法はいくつかあります。まず自己証券会社が翌日から買い付ける予定の銘柄を前日に買っておく方法です。翌日には確実に上がるから利益が出ます。ただし自己会社の得る利益は減ってしまいます。またクロス商いでは同一指値の商いは禁止されますから、売買のいずれかを成行取引とするのですが、これに紛れ込めば労せずして差益が得られます。例えば成行買いのときは前日に買っておいて自分は成行売りを建てます。成行売りの場合は信用取引で前日に空売りして、当日は買い埋めをすれば良いのです。これはインサイダー取引なのだが、小口ならば税務署にばれません。
 しかし簡単なのは、証券会社の自己取引で利益が出た取引だけ、VIP口座の注文で行った取引に付け替える方法です。証券会社の自己取引は利益もあれば損もあります。しかし動かす資金量が大きいからまずまず利益を出すことができます。その利益の一部を付け替えるのは大した問題でありません。これが利益付替操作です。いうまでもなく証券法違反です。

 大口売買と特定銘柄は市場の場立ちが売買しますが、一般の売買取引はコンピュータ売買です。そこに小細工する余地は少ないです。売買では顧客番号を入力するため、自己取引と顧客取引の付け替えは事実上できません。ここは少し自信がありませんが、正常取引であるA勘定取引に対して、B勘定取引(いわゆるB勘)というのがあります。例えば、電話で緊急を要する売買注文を受けた場合、出先で売買注文を受けた場合は、正規の伝票を書いてデータ入力をしている余裕はありません。やむなく顧客データなどをすっ飛ばして注文を出すことができます。この場合は正しい伝票を作成する必要がありますが、まず翌日作成で大丈夫です。あるいは手書きの仮伝票を作成することもあります。
 ここにミソがあるわけで、B勘定取引で買った(売った)株式を翌日に売った(買った)ときに利益が出れば顧客の取引として正規伝票を作成すれば、顧客は常に儲かるのです。ただし翌日に利益の出ない取引は、伝票の修正ができなくなりますから、全て自己取引とするのです。

 つまり利益付替操作とは、本来自己会社が得るはずの利益、すなわち株主の得るべき利益が、特定顧客の利益に化けていたのです。しかも短期売買で利益を狙った銘柄で、意に反して下がった株式は全て会社の損となりますから、明かな背任行為です。組織ぐるみでやっていたのだから個人の罪は問えませんが。
 山一證券が倒産して社員は悲哀に暮れていますが、そもそも営業特金や一任勘定を受けすぎた上に無理な損失補填を続けたことに原因があるのですから、自業自得の面はあります。株主も著しい迷惑を受けたのは間違いありませんが、(ポン太も含めて)充分なチェックを怠ったのは自分自身ですから、やはり自業自得と言わざるを得ません。

98.03.14
前頁へ  ホームへ  次頁へ