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経済の研究No.17
自己取引って何だろう

#Nの総会屋問題に絡み、野村証券に取引停止処分が下されましたが、顧客株式の売却、顧客の信用取引の建て玉清算は認められていました。委託手数料は減少したものの皆無ではなく、むしろ自己売買部門が大きな痛手を被りました。自己売買とは自社資産と預かり資産を使い、証券会社自身が取引主体となることを言います。総称して自己取引と呼んでいます。第14回で書いた利益付替も自己取引の範囲内で行われていました。以下、自己取引について述べてみます。

 例えばA社の業績が上がりそうだと思ったら、A社の株式を買います。これは個人投資家と同じですが、投入する金額が桁違いに大きく、市場への影響力も極めて大きいです。しかし短期投資は自己取引部門のディーラーの直感に追うところが大きいです。その直感が当たれば利益が大きく、外れれば損失も莫大です。儲かると思えば資金を集中的に投入し、自社顧客にも購入を推奨して、一気に買い進みます。そして自己の資金だけで株価を上げ、限界が見えたら売り抜けて勝ち逃げをします。あるいは一定割合以上下がれば、気前よく投げ売りして撤退します。
 しかし、おかしな話です。証券会社は投資家にとっては専門知識を持ったエージェントであり、大手証券会社に至っては相撲の行司役のような存在であります。そのエージェントや行司が自分の利益確保のために形振り構わず市場介入をするのです。推奨株を買わされた顧客は売り時を逃して大損します。また証券会社の投げ売りに巻き込まれて大損する投資家も出てしまいます。

 そもそも証券会社の自己取引は、株式市場の調整役としての機能を期待されて許されるです。新規上場の場合、上場手続は幹事証券会社が代行し、一定株数の保有を引き受けます。そして引受株入札などにより株式を投資家へ分配すると同時に、上場日の寄付値が常識的な範囲に収まるように調整します。人気が沸騰して高値を付けるような場合は、手持ち株の一部を売却する「冷やし玉」を放出し、上場後に持株を放出する場合も放出量を調整しながら市場に悪影響を与えない配慮をしなければなりません。幹事証券会社が最高値で売り抜けて大きな利益を得ることは許されないのです。ただし、引受株に含み損が出るリスクがありますので、一定利益を得ることは許されます。
 また、株式市場の市況「地合い」が悪化する場合は、下値で株価を買い支えるなどの機能も期待されます。その後地合いが安定すれば、市場に悪影響を与えることなく持株を放出します。バブル以前はその機能を十全に果たしてきており、その際の適正な利潤を得てきました。

 しかし証券会社も悠長なことを言えなくなりました。バブル崩壊後、大口投資家は消滅し、個人投資家の多くも株式市場から撤退を強いられました。バブル期に雨後の竹の子のごとく増加した支店網は、必要経費以上の委託手数料を稼げません。リストラに着手したものの、利益の貢献には程遠いです。そこで始めたのが店頭公開企業を増やすことです。資本金5億円程度で黒字経営の株式会社を見つけては、口説き落として株式公開させます。社長にはキャピタルゲインが入り、証券会社も儲かる・・・はずでしたが、店頭公開企業が増えすぎてうま味が無くなりました。また店頭株取引の委託手数料が自由化されたため、証券会社の多くが推奨銘柄から店頭株を外すようになり、一層の低迷を招きました。無理矢理公開した企業は、株価が下がって取引先との関係が悪化し、思ったほどには直接金融のうま味もなくなりました・・・という問題を残しました。株主総会も煩雑で決算対策も面倒、などの課題も生んでいます。しかし信用への影響を考えると、今更廃止とすることはできません。
 仕方なく、自己取引で利益を出そうとしているのです。彼らの優位は株式手数料が不要なことと、譲渡益課税が掛からない(正しくは法人税が掛かる)ことです。一般投資家は約4%値上がりして利益が得られますが、証券会社は2%で利益が出ます。テクニカルな株価操作で結構な稼ぎができるのです。しかも情報はタダで手に入りますから、売り物が少ない銘柄では大きな買いを入れて値をつり上げ、買い物が少ない銘柄では大きな売りを叩きつけることが可能です(ディーラーの腕前次第ですが)。これでかなりの利益を生み出すことができます。その分の損失は個人投資家に跳ね返り、彼らは株式市場から撤退するから委託手数料はさらに減少する・・・という悪循環に填りつつあります。

 最近躍進している外資證券はさらに悪辣です。彼らはアナリストに情報を上手く流して株価操作をします。一例として、進出著しいM證券は、流通業D社を購入推奨銘柄に加えたと発表しながら、自身は手持ち株を売却して、一般投資家にはダメージを与えました。また格付け機関に格付け見直しを提言しつつ、市場に情報をリークして儲けるという荒技も見せました。踊らされたのは日本の素人投資家ばかりであります。

98.03.14
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