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雑記帳No.178
まわれ〜、みぎ!

 軍隊は、規律を大切にします。統一されて、乱れのない行動を要求します。入隊すると、まず基本動作を学び、敬礼や姿勢転換、隊列変更や行進、規律暗唱や点呼当直などの基礎から学びます。民間人から見れば一種異様でしょうが、これが軍人となるためのイロハなので仕方ありません。

 海軍式の「敬礼」はご存じですか? 右腕を曲げて帽子の庇に運ぶ、アレです。第一に、右上を真横の肩の高さに運びます(手の甲が真上に)。第二に、そのまま右前方45度へ水平移動させます。第三に、そのまま肘を曲げ、中指が右眉の前ほどに来るようにします。縁ありの帽子なら、その縁の右前45度あたりに持ってきます。縁なしでも同じぐらいの位置です。その際、手のひらを前に見せてはダメです。
 先輩や上官に対しては自分から敬礼し、相手が敬礼を返し終わるまで待ちます。相手よりも先に敬礼を止めては、ダメです。号令があるときは、号令に合わせて敬礼をします。自分の判断で止めては、ダメです。部下に対するときは、その逆。配慮が必要です。また、非常に偉い相手には、脱帽で敬礼します。この場合は、原則として御辞儀です。相手が脱帽している場合も同様です。細かい話なので、面倒ですね。

 方向転換するときも厳格です。例えば、右折。「右向け、右」をします。第一に、右足は踵てら着けたまま爪先を上げ、左足は爪先を着けたまま踵を浮かせます。第二に、右足の踵と左足の爪先を軸にして、右に回転します。第三に、左足を半歩踏み出して、両足の踵の位置を揃えます。「左向け、左」は、その逆です。簡単ですか・・? 両手は真横にピチッと付けたままで、軸心をブレさせないことが必要です。目を瞑って、繰り返してみましょう。最初の位置のまま動いていなければ、プロ級です。
 これらは90度ずつの方向転換に使います。「半ば右向け、右」もありますが、これは省略しましょう。180度の方向転換には、「回れ、右」があります。第一に右足を半歩引きます。第二に、両足の踵を着けたままで、爪先を浮かせます。第三に、両足の踵を軸にして180度回転します。第四に、右足を半歩引いて、両足の踵の位置を合わせます。組み合わせて練習してみましょう。踵がブレない限り、軸足は動きません。

 これらの動作は、素早く行う必要があります。また、複数人で行うためには、テンポを合わせる必要もあります。入隊後は、何日でも同じ訓練をします。敬礼と方向転換を憶えれば、隊列形成・変更・行進を練習します。少しずつ着実に、基本行動を身につけつつ、統一行動を身につけさせます。とくに行進では、足並みが揃うと気持ちよいものです。土を踏む音がリズム良く、一体感を伝えてくれます。高揚感が連帯感に繋がり、絶対命令に服従するように・・・変えられていきます。
 確かに統一された組織は、美しいです。極めて効率的です。しかし、個々人が考えを持たず、誤った方向への直進する危険を孕みます。それを回避する責任は、指揮官にあります。しかし指揮官も、軍人です。そう多くのノウハウを持ちきれません。太平洋戦争では、玉砕という愚かな行動がありました。虐殺という蛮行もありました。それは指揮官がバカで、それに支配された軍隊がバカだったからです。

 正しいと信じるだけでなく、常に正しさを疑う心。正しくないことを批判し、正そうとする心。突き進むばかりでなく、退くことを弁える心。そこに深く関係があるのは、「回れ、右」だと思います。命令がない限り回れないのは、ロボットです。時には自分の意志で回ることも必要です。我々はロボットではない、画一的な行動に酔いしれ、それ意外の行動を選択できないことは、是非避けたいと思います。いや、避けて欲しいとも思います。

01.06.17
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