前頁へ  ホームへ  次頁へ
雑記帳No.139
暗号ヲ解読セヨ!

 「おはよう、フェルプス君」「さて今回の指令だが・・」「当局は一切関知しないから、そのつもりで」「健闘を祈る」「このテープは自動的に消滅する」などなど一世を風靡したTVドラマ、スパイ大作戦。昔は何度も再放送を観たものです。映画版もビデオ撮りしましたし、ビデオ版をシリーズで揃えたりしました。夢のある面白い筋立てでしたし・・アクションも良かった。新シリーズもありましたが、フェルプス君も老いちゃったし・・。
 数あるスパイ物の中では、秀逸な作品でしょう。この中では、何度も暗号の話が出てきます。昨年頃に大ヒットした少年探偵コナンも、暗号では多種多彩ですが、いささか凝り固まりすぎで、ぜったい解読できないような複雑でやや無理のある話もあります。でも、ワクワクしますね(註:アニメは観てません。コミックだけ)。
 いつも唐突ながら、今回は暗号ネタ。

 太平洋戦争で日本軍が敗れた理由の一つに、海軍のミッドウェー敗戦を挙げる人が多いです。陸軍が無謀な拡大路線で突っ走る中、海軍は真珠湾攻撃の優勢を活かして健闘していました。当時の艦隊司令長官山本五十六は、終始開戦に反対だったと伝えられていますが、自ら組織した機動部隊には自信を示していました。
 すでに空母を使う戦術は知られていたものの、これを4〜6隻も組み合わせ、その護衛に戦艦や重巡洋艦を付ける機動部隊は、主従逆転の大胆な戦術だったとされます。真珠湾では技能の高さを示し、手痛いダメージを受けた珊瑚海海戦でも米軍の空母を機能麻痺に陥れる戦果を上げました。精緻で高機能な空母、開戦前から周到に育成した空軍兵、当時として優秀なゼロ戦。
 それをひっくり返されたのが、ミッドウェー海戦です。南雲忠一中将以下、4隻の大型空母を擁しての海戦は、全空母を喪失するという、手痛い敗北に終わりました。いろいろ戦術上のミスを重ねたことも理由ですが、最大の失敗は、事前にミッドウェー攻撃が知られていたことです。事実かどうか不明ですが、海戦前から飛び交う日本軍の暗号は、米軍に傍受されていました。米軍としては暗号解読に成功したものの、目的地のコードが指す場所が不明でした。ミッドウェーに水不足との誤報を流したところ、日本軍はこの情報に飛びつきました。米軍は突貫工事で破損空母を修理して、反撃に出られたワケです。
 日本軍は、開戦当初から暗号を変えておらず、日本語は米国人に分からないと信じて使い続けました。現実には、日系人を中心に解読が進められ、捕獲船から暗号解読の手引きを入手したこともあり、高い精度で解読作業されていました。通信技術でも劣り、米語は敵製語であるとして学ばなかった日本軍は、早くも敗れていました。海戦後しばらく経って、山本が搭乗する軍機が撃墜されたのも、傍受された暗号が解読されたためと言われています。

 時代は下って、コンピュータ時代。たしかに暗号技術は向上しましたが、それを運用する人間の質は向上していません。類推しやすい管理者IDやパスワードを付け、それを長年変えないという運用のために、ハッカーの攻撃に曝されています。ハッカーの解読ツールは年々向上し、マシンパワーの向上もあって、今では十数桁のパスワードが、力業で解読できます。
 ネットプライバシーの問題が議論されている折でもありますので、そろそろ暗号技術の利用やパスワードの管理も考えていきましょうか。でも、憶えやすくて長年使い続けるパスワードは、便利なのですよね、何かと。日本軍のミスは犯さず、フェルプス君達に干渉されないように、気を付けましょう。
 今回のミッション・インポッシブルは、「暗号ヲ解読サレルナ!」であります。健闘を祈る!

00.12.02

補足1
 日本軍の暗号を補足します。日本軍が暗号を全く変えなかったというのは、いささか誇張です。その暗号の基本技術は、全く進歩しなかったというのが正しいでしょう。米軍は、1940年に暗号自動解読機「パープル」を開発し、本土・ロンドン・フィリピンなどに設置していました。この解読機によって、海軍の暗号(通称、D暗号)も外務省の暗号も全て解読されていたのです。
 真珠湾攻撃の際にも、日本軍の来襲を政府は知っていました。また、外務省に即時開戦の腹が固まっていることも知っていました。両方を知った上で、国務大臣ハルは日本軍全面撤退の条件を突きつけて、日本を開戦に追い込みました。さて、なぜ政府は真珠湾の軍司令部へ一報をしなかったのか。今でも謎だとされます。対独・対日の開戦に慎重な議会や国民を誘導するためだったと言われていますが、3,000人以上の死者と引き替えにしたのは、どんな理由があったのでしょうか。
 しかし、真珠湾の奇襲に味を占めた日本軍が、猪突猛進を続けたのは間違いありません。東インド洋・珊瑚海など都合良く米英の艦隊が出撃してくることに、何の疑念を持たず、ミッドウェー海戦に打って出たのは、あまりに稚拙でした。

01.03.24
前頁へ  ホームへ  次頁へ