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K君の私的曲紹介(第4回)
コンチェルト・グロッソとシンフォニア
■作 曲 家 W.Boyce (1711-1779)
■作品番号 Op.3
■作 曲 年 1739?
■作 品 名 シンフォニア(全8曲)Op.2の第8曲
■編  成 交響曲、オーボエ・ファゴット、弦5部、通奏低音
■演奏時間 10分

 この文章を書くにあたって、まず音楽中辞典でウィリアム・ボイスの項を引いてみた。ところがないのである、ボイスの名が。驚きましたね、そこまでマイナーな作曲家だったとは。まあ彼の生涯はあまり劇的ではなかったようなので、しようがないのかも。しかし一方では輸入楽譜屋に彼の作品の在庫がちゃんとあったりするから面白い。
 ではここで改めて質問。「古典期以前の、パーセル以外のイギリス人作曲家を挙げよ」。
 ヘンデル、ジェミニアーニ、クリスティアン・バッハなどが挙がりそうだが、これらはいずれも移住者たち。残念ながら生粋のイギリス人ではないのである。このうちヘンデルはイギリスに帰化しているのでイギリス人と言えないこともないが、実はヘンデルがイギリスに移住した年の翌年にロンドンで生まれ、王室音楽家などで活躍し、ロンドンで没した生粋のイギリス人作曲家がいるのである。それがウィリアム・ボイス。
 彼にとって不幸だったのはヘンデルの存在である。ヘンデルは1759年に没しているから、生まれたときから実に48歳のときまで、ボイスはヘンデルという大先輩の存在を常に意識し続けなければならなかった。また周囲もやはりヘンデルとの比較をしてしまい、ヘンデルの影響を云々し、ひどいものになるとヘンデルの焼き直しとまで言いかねない評すらある。悲しいかな、ボイスはヘンデルの影に隠れてしまっているのである。
 しかしボイスの生涯がそれほど惨めなものであったとは伝えられておらず、また後世の我々がヘンデルとの関連を必要以上にとやかく言う必要もないのであって(学問上必要な場合は別として)、要はボイスの作品を聞いて個々人がどう感じるか、というのみである。そういう観点で、私はボイスの作品を高く評価したい。ここでは全くの個人的、趣味的見地から、コンチェルト・グロッソのロ短調、ホ短調、そしてニ短調のシンフォニア(シンフォニア集 第8番)の3曲を挙げる。
 いずれも緩−急−緩−急の4楽章形式で、第2楽章はフーガ形式となっている。曲の構成、作曲法、使用されているリズムは3曲ともほぼ同様で、幾分変化に乏しい感はある。やはりこのあたりに作曲家としての評価を下げてしまうところがあるかもしれないが、それぞれに聴いていくと相当深みのある、なかなかの曲である。
 なんと言っても3曲ともフーガが良い。コンチェルト ホ短調では冒頭いきなりホ短調の主和音を、2分音符を4つ並べて(上行するミ、ソ、シ、ミ)大胆に提示する。モーツァルトがセレナード ハ短調K.388 《ナハトムジーク》で同様の試みを行っているが、案外ボイスのこの作品などが参考にされたのかもしれない。またコンチェルト ロ短調と、シンフォニアのフーガも深みがある。これらについてはうまい解説の言葉が見つからず、はっきり言って「はまった」という感じ。
 その他コンチェルト ホ短調の第3楽章シチリアーナのたゆたうような曲想、それと対照的な第4楽章の快速感(そういえばこの楽章は某音楽事務所に電話したときにバックで流れていた。なかなかセンスのある事務所である)、シンフォニアの第1楽章のフランス風序曲による導入、最終楽章の変奏曲・・・等々、魅力的なところを挙げればきりがない(と筆者は思っている)。
 ボイスの作品はあまり強烈な個性・癖がないのでぜひお試しあれ。ヘンデルのお好きな方は亜流ヘンデルとして楽しめるし、そうでない方は正当派バロックとして楽しめる(癖がなく、正当派なのはやはりイギリス人だからか?!)。
 なお今回はコンチェルト ホ短調の第2楽章フーガのMIDIデータ(音符を並べたのみ。強弱等は適当にアレンジしてくださってかまいません)をおまけに付けました。

classic4.mid 
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