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弁理士報酬制度に関する調査と考
まとめ

 従来の弁理士報酬制度は,特許事務標準額表を基礎とした定額料金制で推移してきた.弁理士の多くが労働量に見合う報酬を提示するための手段を持たなかったことが原因である.昨今の出願減少傾向と,技術の高度化・複雑化に伴う出願内容の増大傾向とを考慮すれば,今後は適正な利潤を追求する手段を持たなければ事務所の運営ができなくなる可能性が高いと考えられる.
 弁理士会は,新しい報酬制度として従量又は時間チャージ料金制の導入を検討している.これにより労働量に見合う報酬が得られる可能性は高くなるが,自ら報酬単価を提示できない弁理士事務所は生き残ることができない.
 しかしながら,割高な報酬単価の提示は,業務を他の事務所に奪われるだけでなく,大手企業の内製出願の割合を高めることにつながる.したがって,安い報酬単価で事務所が運営できる体力を養うことが必要である.一例として,人件費と諸経費を削減すること,報酬単価に割安感を与えること,他の収益源を確保することが必要である.
 これを援助するための対応が弁理士会並びに行政側に求められる.一例として,弁理士の法律・制度及び技術に関する知識を充実させること,弁理士の受任件数の適正化を図ること,あるいは個人発明家等に対する援助を行い弁理士業務を拡大することが望まれる.
 以上のように,適正な弁理士報酬を確保し,質の高い弁理士の育成することは,弁理士業界全体の質を高め,完成度の高い明細書が作成されることとなるから,行政側が受ける利益も大きなものとなることが期待される.

参考文献
  1. 弁理士会広報委員会編,「知的所有権と弁理士」,弁理士会刊行(1994年9月).
  2. 弁理士会編,「アイデアを活かす弁理士ガイド」,弁理士会刊行(1996年7月).
  3. 弁理士会編,「会令第7号 特許事務標準額表 国文を以て依頼を受ける事件」,弁理士会刊行(1996年4月).
  4. 野村総合研究所編,「弁理士業務の将来分析のための実態調査報告書」,弁理士会21世紀対応第1委員会刊行(1993年3月).
  5. グレゴリー・J・マイヤー,森昌康,「米国における仮出願制度」,知財管理Vol.46 No.3,知的財産協会刊行(1996年3月).
  6. 藤芳寛治,「日本における発明日が米国特許出願で立証可能になる米国への仮出願について」,パテントVol.49 No.1,弁理士会刊行(1996年1月).
インタビュー
  1. O氏  (弁理士会広報課所属),1996/11/11・1996/11/25取材
  2. A弁理士(電気系,単独弁理士),1996/11/22・1996/12/10取材
  3. S氏  (弁理士会業務課所属),1996/11/25取材
  4. B弁理士(電気・機械系,単独弁理士),1996/11/28取材
  5. C弁理士(機械系,代表者共同経営弁理士),1996/12/05取材
  6. D弁理士(電気・情報系,非代表者共同経営弁理士),1996/12/05取材
  7. E弁理士(電気系,弁理士事務所雇用弁理士),1996/12/08取材
  8. F弁理士(電気系,単独弁理士),1996/12/10取材
  9. G弁理士(機械系,所長経営弁理士),1996/12/11取材
*外部発表の関係で,取材に応じて頂いた弁理士の先生方の名前は仮名とした
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