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弁理士報酬制度に関する調査と考

第1章 弁理士報酬制度とは
 弁理士は,工業所有権に関する事務を業として代理することができる唯一の国家資格保有者である.弁理士は代理業務を全うすることにより出願人から弁理士報酬を受けることができる.

1.1 弁理士報酬制度の歴史[1][2][A]
 弁理士の原型となった特許代理業者は明治23年に初めて登場した.同32年には「特許代理業者登録規制」が公布され,特許代理業者は登録制となった.同年中の登録業者は138人であった.同42年の「特許弁理士法」公布により,特許代理業者は特許弁理士と呼ばれることとなり,公認資格となった.大正10年には「弁理士法」が公布され,特許弁理士は弁理士となった.
 大正10年の弁理士法公布は弁理士制度の大きな節目であり,弁理士会の設置,弁理士会会則の制定,弁理士資格試験の導入などが規定された.翌11年には弁理士会会則が制定され,弁理士法の付託により,出願手数料が50円,成功報酬金が150円と定められた.ほぼ完全成功報酬であり,同制度は昭和17年頃まで続いた.
 第二次大戦後は弁理士の扱い業務が拡大し,従来は実費個別請求であった中間手続や周辺業務の手数料を規定する必要に迫られた.これに対応して,特許事務標準額表(以下「標準額表」とする;内国出願分は昭和23年から,外国分は同25年から施行)として会則に盛り込まれることとなり,個々の代理業務に対する報酬が詳細に規定されることとなった.当時は成功報酬金を廃止する議論もあったそうだが,大幅に減額された謝金として名残を留めることとなった.
 現在の弁理士報酬は,標準額表に規定された事務手数料と謝金である.

1.2 弁理士報酬はどのように決められるか[C]
 弁理士法第14条には「弁理士会ノ会則ヲ設ケ………謝金及手数料ニ関スル事項………ヲ規定スベシ」とする規定がある.これを基礎として,弁理士会会則には「報酬及ビ旅費ハ当事者ノ合意ヲ以テ定ム」(第3号第1条)とする規定が設けられている.このように弁理士報酬は元来自由料金制であるが,弁理士業務は主に知的労働であって労働量を客観的に金銭換算することは難しく,報酬が弁理士と出願人の力関係で決まることは業務が正当に報われない可能性が高いことから,標準額表を弁理士報酬の参考料金表として提示することが一般に行われている.

1.3 特許事務標準額表[3]別表1
 当初の標準額表は弁理士会会則において規定されたが,標準額表改訂の度に総会と通商産業大臣の認可を受ける必要があることから,現在は弁理士会会令により別途定めている.標準額表の見直し改訂は,物価上昇を勘案して2年ごとに行われている.平成8年4月施行の標準額表には,出願手数料・意見書補正書作成手数料・審判請求手数料等の120項目の事務手数料,翻訳料・印書代・調査料等の八項目の実費手数料及び55項目の謝金が規定されている.標準額表は前節で述べたように参考料金表ではあるが,標準額表に基づいて弁理士報酬を取り決めている弁理士は7〜8割に達している[C]
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